暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

俺も忘れないよ。ありがとう、銀魂【銀魂THE FINAL】感想

銀魂 THE FINAL

 
95点
 
 
 2003年から連載が始まり、2回の最終回延期の果てにようやく完結した「銀魂」。TVアニメも度重なる終わる終わる詐欺を繰り返し、終いには『完結篇』(大傑作!)が公開されても誰1人完結などとは思っていない始末でした。そして案の定2年くらいで復活した。最終章である「白銀の魂篇」も原作の最終回延長のあおりを受け、2期放送されるもやっぱり完結できず、2期最終話などはそれまでの伏線をぶん投げてそういった経緯全てを説明するという暴挙に出ました。
 
 本作は、こういった経緯の果てに公開できた正真正銘、本当の最終回です。私は「銀魂」は2007年からずっとアニメで見ていて、原作も29巻までは買ってました。数えると14年の付き合いなので、その完結となれば観ないわけにはいかず、鑑賞した次第です。

 

銀魂 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

 

 本作は正直に言ってしまうと、1本のアニメーション映画としては文句を言いたくなる箇所がいくつもあります。先に気になった点を書いておきます。まず、作画がよろしくない箇所が多々ある。特に乱闘シーンなどは酷く、崩れが目に見えて気になってしまいました。作監が補佐含めて26人いるという事態で、予告の「間に合ってません!」はギャグじゃなかったんだ・・・と思いました。新型コロナウイルスの影響もあるのでしょうけど、もうちょっと頑張ってほしかったかなぁ。
 
 さらに、アクションが単調。動きとかは結構頑張っているし、特に銀さんVS虚のラストバトルはかなり気合が入っていたと思います。しかし、止め絵を繋いでカロリーの消費を抑えていたり、攻撃方法も単調だし(まぁこの辺は原作によるところが大きいけど)、何か色々と物理法則おかしいしで、ちょっとつまらないなと思いました。しかも、アクションの展開も一本調子で、基本「爆発→足場が崩れる→ぶら下がり→味方の助けからの反撃」が何回も続きます。これもつまらなさに拍車をかけています。
 
 演出もちょっと単調じゃないかと思う箇所があって、盛り上げようとするシーンではとにかくDOESとSPY AIRを流す。まぁ観客としては上がるんですけど、これを3回くらい繰り返すので、SPY AIRが流れたときには、「またかよ」と思いながらテンション上げてました。演出に関しては良い箇所もあるんですけど、それは後ほど。
 以上が気になった点です。これらを要約すると、本作は良くも悪くも「TVアニメの劇場版」であり、TVアニメに毛が生えたくらいのクオリティであるということです。だから1アニメーション映画としては辛い評価にならざるを得ません。
 
 しかし、本作は「銀魂」であり、本作は「ファンに向けて作られた」最後のバカ騒ぎなのです。例えアニメーション映画としてクオリティが低くても、この点さえ押さえてくれればオールオッケー。そして本作はこの点を完璧に押さえてくれています。だから高評価。
 
 「銀魂」という作品には、銀さんと高杉という2人の関係が縦軸としてありました。彼らの中心に松陽がいて、高杉は松陽を奪ったこの世界を憎み、「全て壊す」ことを目的とし、銀さんは松陽との約束である「仲間を護る」ためにこの世界を護ろうとします。高杉は自分が原因とはいえ、松陽に直接手をかけた銀さんに対し、非常に複雑な感情を抱いています。それは後悔や同胞意識、様々なものがこちゃまぜになっています。2人はお互いに表裏一体である存在なのです。
 
 本作では2人の因縁に決着がつきます。そしてそれを虚とのラストバトルで重ねているのが非常にスマートだなと思いました。ぶっちゃけ理屈は意味不明なんですけど、これによって、高杉の想いと銀さんの想いを見事に清算させ、尚且つラスボスを倒してしまっているのです。終盤の2人の過去のカットバックからヤバかったんですけど、最後の会話には感極まるものがありました。
 
 そして、「銀さんの物語」も完結を迎えます。銀さんは松陽との別れの後に得た、万事屋や他の皆との絆、そして高杉と共に勝利を収めます。本作は「坂田銀時」という、戦場で松陽に拾われた少年が仲間を得、それらを一旦失いながらも、また新しく仲間を得る物語です。それを松陽に伝えるシーンは、彼の中には、もう仲間がいるんだと、そういう「ザ・ジャンプ」的なものがあったと思います。マジで「友情・努力・勝利」のうち2つは満たしているからね。

 

 

 そして、「ファンへの感謝とメッセージ」も良くて、終盤のたまです。たまを通して「その後の世界」の話になるのですが、序盤は「最終回っぽいモノローグ」大喜利が始まって面白いのですけど、最後は結局、「この同じ空の下に、みんな一緒にいるよ」というメッセージになり、ちょっとしんみりしたところに間違った最終回をちいさなたまに教えたマダオへのツッコミが入り、万事屋3人が出てきます。その時の銀さんの台詞とか完全に我々観客に向けて言ってるんですよね。で、最後に万事屋3人+1匹の姿が冒頭の松下村塾時代の銀さん、高杉、桂と被って、銀さんが得た物、護ったものを示して終わりです。これは、「坂田銀時の物語」としてこれ以上ないものだったと思います。
 
 ここまでなら感慨深いくらいだったのですが、完全にやられたのがED。「轍」の歌詞が完璧に本編と合ってるんですけど、特に「涙していたって/苦しくたって/離れていたって/忘れないで」のところは、「銀魂」から我々へのメッセージですよ。要は「銀魂は不滅」ってことなんですけど、「ファンの中にいるよ」ってことだと思えて、ここで感動しちゃったんですよね。本当に「銀魂」って、アニメ化に恵まれたし、ファンも大事にしてくれたなぁって思うのです。
 
 他にも、冒頭、いきなりの「ドラゴンボール」パロとか最後の「3年Z組 銀八先生」の下りは面白く、爆笑させてもらいました。本当、アニメスタッフの皆様、声優の皆様、ゴリ・・・空知先生、お疲れさまでした。私も忘れないよ、銀魂、ありがとうきびうんこー!
 

2020年秋アニメ感想②【体操ザムライ】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 当初ノーマークだった作品。TL上で話題になっていたので、ネットフリックスにて視聴しました。制作はMAPPAで、監督は本作が初となる清水久敏さん。オリジナルアニメーションであり、キービジュアル見てもそこまで期待できそうな内容ではないなと思ったので、視聴リストから外したのですが、視聴してみると、非常に丁寧に作られている作品で、今期の中でもかなり面白い作品でした。
 
 1話を見た時の印象は「凄く変なアニメだな」でした。全盛期を過ぎた体操選手・城太郎が引退を撤回するまでの話なのですが、妙に話のトーンが緩くて、しかも江戸村で自称「ニンジャ」のイギリス人・レオナルドが出てきて共同生活をするというもの。このあまりに突飛な展開から、始めは「サムライフラメンコ」枠かと思っていました。あれも超変な作品だったからね。しかし、話が進むにつれ、城太郎の人間として、選手としての成長や、レオナルド、鉄男の心情を丁寧に描き、同時に玲のジュブナイルものとしてもしっかりと作っているという、「ちゃんとした」ヒューマン・コメディでした。

 

 

 感心したのが作中の体操シーン。これまでMAPPAが培ってきた作画力と3DCGの力をフルに発揮させていて、画的に違和感のないものしていましたし、同時に、着地の間の取り方とか、競技中の時間の使い方とかが、本物の体操を見ているような気にさせられます。これは私が素人だからというのもあると思うのですけどね。
 
 ただ、これらはアニメーションであり、「技の優劣」まではアニメーションにすることは難しいと思います(着地失敗とかはできると思うけど)。それを実況とかキャラの解説で上手い・下手を印象付けるというのが王道ですけど、本作で感心したのが、技の練習や課程をしっかりと描き、それによって技の上手さや優劣を印象付けていることです。城太郎を例に出すと、彼はまずこれまでの自分が如何に周りの人間が見えていなかったに気付き、そして天草の指導をしっかりと受け、「技を丁寧にする」ことを目標にしてトレーニングしている姿をしっかり映しているんですね。だから技にも説得力が生まれるし、「しっかりトレーニングしてきた」城太郎が足元にも及ばない鉄男がどれほど上手いのかが分かるようになっています。これには感心しました。一番良かったのは10話で、鉄男から城太郎へ観客の意識が向かっていく様を描いているものでした。
 
 全体的なストーリーも、才能と挫折、怯えを描いているもので、レオナルドと玲が互いを助け合う関係性(レオは玲と友達になり、玲はレオを精神的に救う)だったことも良かったなぁと思います。唯一不満点があるとしたら、尺の問題。ある程度まではしっかりと描けているのですが、やはり11話では作中で出てきた全てが網羅できておらず、ブツ切り感があるんですよね。もう1クールあれば、もっといろいろなものが描けたと思うんだよね。
 

2020年秋アニメ感想①【魔女の旅々】

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☆☆★(2.8/5)
 
 
 GAノベルから出版されている原作を基にした作品。元々はAmazon Kindle自費出版作品を基にし、大幅加筆の上で出版されているそうです。自費と無料公開という違いはありますが、なろう系と似たようなルートを辿っている作品と言えます。監督はガイナックスに在籍していたこともあり、『ベルセルク』三部作や「はるかなレシーブ」を監督した窪岡俊明さん。制作は「はるかなレシーブ」と同じくC2C。シリーズ構成を筆安一幸さんが務めます。
 
 私が視聴を決めたのは、本作の題材にあります。本作の主人公は魔女であり、舞台も中世なのですが、題材が短編連作で、しかも「旅」とくれば、何を連想するでしょう?そう、「キノの旅」ですよ。タイトルも似ているし、これは「キノの旅」の一ファンとしては両作品がどう違うのかを見極めなければならないなと思い、視聴した次第です。後、「はるかなレシーブ」も好きだったしね。

 

Harukana Receive: The Complete Series [Blu-ray]

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 アニメの放送中から、散々「ジェネリックキノの旅」という非常に失礼極まりない呼ばれ方をされていた本作ですけど、「キノの旅」とは結構差別化もされていて、そんなに「ジェネリック」でも「劣化版」でもないなと思った次第です。そもそも、「キノの旅」だって言ってしまえば「銀河鉄道999」とか、星新一作品の影響を受けてますしね。
 
 本作は短編連作という形態をとっています。話のバリエーションは寓話的なものから、訪れた国の事件や問題に首を突っ込んでいく流れ者的なものまであり、物語の結末もハッピーエンドからバッドエンドまで多岐にわたります。この話の中には、後味は悪いものもありますけど、「キノの旅」のようにえげつない結末を迎える話は少なく、それが「ジェネリック」と言われてしまった理由だと思います。さらに、物事の結末を台詞で全て説明してしまっている点も、その印象に輪をかけているのだと思います。

 

キノの旅XXIII the Beautiful World (電撃文庫)
 

 

 本作で面白かったのは、タイトルです。「魔女の旅々」なんですよね。「イレイナの旅」ではない。作中ではイレイナ視点で話が進むことがほとんどで、しかもナレーションから考えるに、これは「イレイナが書いた本」が元になっているフシがあります。この語りの多重構造も興味深いのですけど、注目すべきはイレイナが影響を受けたという「ニケの冒険譚」です。あの本は、話が進むにつれて実はイレイナの師匠・フランの師匠・ヴィクトリカが書いたものだと判明します。そして、フランの物語も、別の場所で本になって読まれているそうです(これはフラン的には黒歴史だそうですが)。つまり、本作には様々な「魔女の旅」があるわけです。そして、それらが紡がれていって、またイレイナのように旅に出ている魔女もいます。だからこそ、タイトルが「旅々」なのだと思います。そしてこの点が、「キノの旅」と違う点でもあります。
 
 「キノの旅」は星新一的であり、メインは「国」なんですよね。しかし、本作のメインはイレイナを始めとする「魔女」です。本作は「キノの旅」的な短編連作でありながら、フォーカスされているのが「キャラ」なのです。だから最終話では「16人のイレイナ(本渡楓さんの演じ分けが圧巻)」という超展開が始まり、「あり得た自分」を救済する話になります。こちらでも、「魔女の旅々」であるといえます。つまり本作は、色々な国や人に会う連作短編でありながら、最終的には「魔女」イレイナ個人の物語としてそれらが昇華されるのです。これは2回のTVアニメが「世界」そのものについての話になった「キノの旅」とは真逆だなと思います。
 

 

散々比べられた作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 「旅」という点では同じか。

inosuken.hatenablog.com

 

2021年冬アニメ視聴予定作品一覧

 2020年はとんでもない年でした。正直、コロナ禍は収束するどころか感染者数が増える一方なので、まだこの1年も苦しくなるんだろうなと思う今日この頃です。考えると暗い気持ちになりますが、まだ俺には新作アニメがある。冬アニメは例年通り大量の新作が放送開始になります。その中から、視聴予定作品を発表したいと思います。後、今回から期待度を記号で簡単に表したいと思います。

◎=期待大。○=楽しみ。△=とりあえず見る。です。

 

2020年秋アニメ(視聴継続作品)

「呪術廻戦」

ひぐらしのなく頃に業」

おそ松さん(第3期)」

 

2021年冬アニメ

「SK ∞ エスケーエイト」○

蜘蛛ですが、なにか?」△

弱キャラ友崎くん」△

「天空侵犯」△

天地創造デザイン部」△

「2.43 清陰高校男子バレー部」△

のんのんびより のんすとっぷ」◎

はたらく細胞!!」△

「バック・アロウ」◎

BEASTARS(2期)」○

無職転生異世界行ったら本気出す~」○

ゆるキャン△ SEASON2」◎

「Re;ゼロから始める異世界生活 2nd Season 後半」△

ワンダーエッグ・プライオリティ」○

ホリミヤ」△

「怪物事変」○

「ぶらどらぶ」◎

 

 以上、15作品が視聴予定の作品になります。この中で一番期待しているのは、何といっても「のんのんびより」ですよ。1期、2期、映画が最高のアニメだったので、ずっと3期を待ってましたよ。待望の続篇ということで、まだまだ私は生きていけると思います。

 他には、続編モノの「ゆるキャン△」、押井守の最新作「ぶらどらぶ」、野島伸司、まさかのアニメ作品「ワンダードッグ・プライオリティ」、谷口吾朗×中島かずきという絶対に面白い「バック・アロウ」などが期待作品です。

 「リゼロ」、「はたらく細胞!!」、「BEASTARS」は付き合いで見ます。また、「無職転生」はPVが何か凄かったのでとりあえず視聴しようと思います。

 2021年冬アニメは以上です。これらを基本として、話題次第で見る作品を加えていきたいです。

世界は開けている【はちどり】感想

はちどり

 
97点
 
 
 緊急事態宣言が明けた後の映画界において、映画ファンの中で大きな話題となった本作。監督は何とこれが長篇初となるキム・ボラさん。私も本作については話題を聞いていましたので、7月にできたばかりのTOHOシネマズ池袋にて鑑賞してきました。ちなみに映画館はジブリ作品のリバイバル上映&『カリオストロの城』を上映していた関係で大勢のお客さんで賑わっていましたね。もう半年前のことですが。
 
 鑑賞してみて、とにかく驚かされました。これが長篇を初めて撮った人間の作品なのかと。ショットとか画面の人物配置の素晴らしさとか、映像面はとにかく完璧だったからです。ちょっと上映時間が長いという欠点がありますが、話の内容も世の中に何となく絶望しているウニが希望を見つけるまでの話で、非常に現代的で、良い話でした。

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 

 

 本作はウニという14歳の女の子の物語です。本作では彼女視点で物語が進むのですが、とにかくこの娘が素晴らしいんですね。登場してから中盤までブスッとしててめったに笑わない。世の中とか周囲の大人に対して、何にも期待していない感じが伝わってきます。それは何故かというと、男尊女卑社会というものを何となく分かってしまっているからだと思います。高校受験に失敗した姉は終始父親からダメ人間扱いをされ、長男は社会でのし上がるために本当に苦労をしている&普通に暴力をふるう。母親は昔は優秀だったそうですが兄を大学に行かせるために自身は大学を諦め、「餅屋の嫁」という役割を押し付けられているのです。で、父親も父親で時々泣き出したりして、本当に辛そうなんですよね。しかも友達も兄から暴力を振るわれても何も言えない。このような、本当に辛そうな人間ばかり見てきているため、ウニは世の中に希望を持てないのです。
 
  キム・ボラ監督のインタビューによると、ウニの14歳という年齢は、韓国では「誰からも相手にされない年齢」だそうです。実際、本作の中で、ウニは大人からはあまり相手にされず、ただただ日常を過ごしているだけです。だから「世界は自分に興味が無いんだな」と思ってしまっていて、ブスッとしている。そんなウニの表情に笑顔が現れるのが中盤、ヨンジ先生に出会ってからです。ヨンジ先生はこれまで出てきたどの大人とも違います。タバコは吸うし(韓国ではタバコを吸う女性は結構珍しいらしい)、大人の暴力に対しても「声を上げなきゃ」と言い、ウニに献身的に寄り添ってくれます。ここでウニは、生まれて初めてただ辛そうではない大人、そして、自分に本気で向き合ってくれる大人に出会うわけです。これはつまり、ウニにとって、初めての前向きな将来像でした。そして同時に、「自分に興味がある人間もいるんだ」と思えた瞬間だったわけです。そりゃ笑顔にもなりますよ。

 

 

 本作はウニの物語ですが、それは個人的なものに収斂してはいません。この物語は、非常に普遍的なものだと思います。監督もそれは意図的に作っていると思っていて、よく分かるのが冒頭の団地を引いて撮ったショットですよね。あのシーンでは無数の「扉」が映されていて、そこには、「ウニと同じような人の物語」があるという隠喩になっていたと思います。誰もが社会に興味を失くしてしまうこともあるし、希望を持てなくなることもある。それでも本作は、ヨンジ先生というウニにとっての新しいロールモデルを出して、「そうではない。世界はきっとあなたに興味があるんだよ」と言ってくれます。それに気付けたウニは、いつもの家族や学校の女子達を、いつもとは違う見方で見ることができたと思います。ラストシーンにいた女の子たちは「別のウニ」であり、様々な人生があるのだということを示したシーンでした。本作は、全てのウニのような人間に対し、上述のような言葉をかけてくれる作品で、そういう意味では、本作は素晴らしい作品であると同時に、ちょっとした優しさも兼ねた作品だなと思いました。

2020年新作映画ベスト10&ワースト

 皆様、あけましておめでとうございます。いーちゃんです。昨年は皆様に拙記事を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。後半は更新頻度がかなり少なくなってしまい、まだ書けていない感想記事が数十本あります。今年は何とかこれらを消化しつつ、更新していきたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

 

 さて、今回は毎年恒例の新作映画のベスト記事になります。昨年は新型コロナウイルスで散々な年だったんですけど、それでも映画館で映画を観ることができました。厳しい状況の中、映画館で映画を観ることができるということには感謝しかありません。昨年は映画界隈(というか日本全体的に)は『鬼滅の刃』一強状態であり、この作品のおかげ(それ以外にも頑張ってきた作品はあります)で映画館が救われたりしました。そしてディズニーを始めとして海外の映画界は映画の公開を配信に移行しようとしています。映画にとって激動の時代はまだ始まったばかりでしょう。そんなことを考えつつ、まずは昨年の振り返りとして、ベスト10を発表したいと思います。

 

 今年は87本新作映画を観ました。少ないって言うな。対象の作品は例年通り「2020年以内に観た新作映画」とします。映画館、配信は問いません。そして今年からはベスト10として、10本のみとします。これまでは30位まで選んできたのですけど、やっぱり「10本選ぶベスト10」と「30本選んだ結果の上位10本」は違うと思うんですよね。だから今回は思い切って「2020年のベスト10」を選ぼうと思いました。では、行ってみよう。

 

 ベスト作品

10位『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

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  「2020年の10位」を選ぶとしたら間違いなく本作です。TVシリーズから続く物語を綺麗に終わらせたことももちろん素晴らしいのですが、それ以上に、私の中では本作にはもはや特別な意味合いが付加されてしまっているからです(これ以上は語りませんが)。その圧倒的なまでの美しい物語に10位です。

 

9位『ストレイ・ドッグ』

 すみません。本作はまだ感想書けてません。早急に感想書きます。

 本作に関しては、映画館で観て、本当に素晴らしいと感じたからです。復讐モノかなと思って観始めたら、完全に騙されました。全編に亘って緊張感があり、また、ミステリ作品として、ミスリードの仕方が上手いのです。しかも全てが判明してから分かる物語には、「フィルム・ノワールにおけるファム・ファタル」の描き直しという側面が見えてくる構造にも痺れました。

 

8位『ウルフウォーカー』

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  カートゥーンサルーンの作品が8位。本作に関しては、とにかく、映像が最高でした。画面全体の躍動感が素晴らしく、中盤の「解放」のシーンでは本当に鳥肌が立った。内容も非常に政治的であり、現代の我々へ向けられたメッセージには感動させられました。主人公2人のシスターフッドぶりも最高過ぎでした。

 

7位『ミッドサマー』

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  激ヤバセラピー痛快サイコ映画。とにかく最高の映画でした。ゆったりと流れる時間、じわじわとヤバい状況に追い込まれる登場人物達。そして最終的にマチズモ男性への「性的搾取」を行うという痛快な逆転劇となる作品。私はラストシーンで本当に笑顔になるくらいには好きなんで入れました。

 

6位『TENET テネット』

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  コロナ禍にもかかわらず公開されたビッグバジェット映画。話の中身は正直言って空っぽだし、斬新な設定を活かしきれていないいつものノーランだし、劇中の理論もさっぱり分からず、「感じろ」としか言えない作品なんです。でも、私は好きなんですよ。理由は、観ている間、とにかく楽しかったからです。時間の逆行も、IMAXの大画面も、ノーランの狂気も。それ以上でも以下でもありません。

 

5位『透明人間』

 21世紀の透明人間です。「透明人間」という題材を、DV夫への恐怖に置き換え、現代的にバージョンアップさせてみせた手腕にまず脱帽。そして「サプライズ」を欠かさないエンタメ精神にまたまた脱帽。総じて欠点がない傑作でした。観終わってから今まで、ずっと心に残っていました。感想は後で上げます。

 

4位『ジョジョ・ラビット』

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  不寛容と分断が蔓延っている現在、重要な映画。子どもが世界を知って、家=自分の殻から出るまでの物語。観てて普通に感動したんですよね。コメディなんですけど、その裏には確かなメッセージがあって、それを押しつけがましくなく伝えてくる。素晴らしい作品でした。

 

3位『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』

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  アガサ・クリスティー作品のような古典的なミステリ作品のルックと、ミステリ作品を映画として見せてしまった脚本力に大いに楽しませてもらいました。ぶっちゃけ、犯人はよく考えなくても分かるんですけど、ミスリードの仕方とジャンルを横断していく市川崑メソッドが見事で、とにかく楽しい作品でした。

 

2位『はちどり』

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 感想は明日上げます(※上げました)。1人の少女の心の機微を、丁寧に映しとった驚異の長編デビュー作。恥ずかしながら、子ども時代ではなくて、今の私にちょっと刺さってしまった作品でした。

 

1位『パラサイト 半地下の家族』

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  1位はこちら。格差社会という社会問題をあくまでもコミカルに、しかし圧倒的なエンタメ精神で描いた傑作。こちらを1位に選ぶのは安易な気がしますが、この1年を振り返ったときに、どの作品が一番記憶に残ったかを考えたら、やっぱりこの作品になりましたので、1位にしました。置いてみると違和感もないし。

 

ワースト作品

『Fukushima50』

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  純粋な出来で言えば、実はワースト感は無いのですけど、企画の時点で中々腐ってるなと思ったのでワーストです。いちばん「フクシマ50」を軽んじてたのはこの作品を企画した人だと思います。

 

 

終わりに

 以上が1位から10位までと、ワーストの作品でした。10位以下でも、『彼らは生きていた』『サーホー』『劇場版SHIROBAKO』『レ・ミゼラブル』『幸福路のチー』『スパイの妻』『ブルータル・ジャスティス』『his』などはもうベスト10に入っても全くおかしくない作品でした。

 新型コロナウイルスのせいで映画界はかなり厳しい道のりを歩むのでしょうが、また今年も、良い映画を観られることを願いたいと思います。

居場所と価値観は、自分で決める【ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒】感想

ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒

 

65点

 

 

 『クボ 二本の弦の秘密』、『コララインとボタンの魔女』などの傑作で知られるスタジオライカの最新作。ライカが作り出す作品はもはや芸術なので、映像面だけでも元がとれることは明白であり、であるならば鑑賞しない理由はないということで鑑賞してきました。

 

 感想を書いてしまえば、映像面はやはり素晴らしく、ストップ・モーションアニメで動くキャラクター、そして背景美術や小道具など全てが美しく、楽しく、これだけでも眼福ものでした。これだけのものを作り出したこと、ただそれだけに敬意を持ちます。しかし、ストーリーそのものが弱く、やや退屈さを感じてしまったことも事実です。

 

 本作のストーリーは言ってしまえば『インディ・ジョーンズ』のような秘境アドベンチャーです。時代と雰囲気は「シャーロック・ホームズ」。伝説の生物を見つけ、クラブに入れてもらいたいライオネルと、人類の進化の過程を繋ぐ「ミッシング・リンク」であるビッグ・フッド、Mr.リンクの2人(?)が主人公で、この2人のバディものとしての側面もあります。このリンクの仲間を見つけるため、2人は途中でアデリーナを加え、珍獣殺しのウィラードの手をかいくぐりつつ、冒険していきます。

 

 

 このように本作はかなり古典的なアドベンチャーなのですが、感心したのが、「価値観のアップデート」こそが本当のメイン・テーマだということです。本作のライオネルは「クラブの連中を見返すため」にリンクと行動を共にします。しかしそれは、既存の権威に認めてもらうということです。そしてその権威であるクラブは所謂価値観のアップデートが出来ていない残念な老人集団で、リンクが発見されてしまえば、自分たちの既得権益が守れなくなるから、リンクを排除にかかっているのです。これはどう考えても現実世界で起きていることそのものです。

 

 ライオネル自身も、この権威に認めてもらいたくて仕方がない。だから途中までは価値観のアップデートを意図的に拒んでいます。そこでそれを諭してくれるのがアデリーナなわけです。彼女に諭され、目の前の氷に映った自分の姿を見て、自身を鑑み、反省し、見事に古い価値観からの脱却を決意します。対照的に、既存の価値観に凝り固まった敵は「自滅」していきます。ここには制作者の皮肉が多分に入っていると思います。

 

 本作のメイン・テーマはもう1つあって、それは「自分の居場所」を見つける話だということです。ライオネルは既存の価値観に囚われたクラブに居場所を求めていた人間でしたが、そこからの脱却を果たし、個人としてのアイデンティティを確立します。そしてもう1人、リンクも同様です。彼はただ1人のビッグ・フッドでありながら、旅の中で自分の名前をつけ、「スーザン」という自己を確立させます。そしてライオネルと同じように、「自分の居場所」を自分で定め、ライオネルと真の意味での相棒になっていきます。

 

 この2つのメイン・テーマは非常に現代的で、素晴らしいと思います。しかし、本作はとにかく脚本が弱い。何というか、全ての要素と展開が、「テーマありき」で揃っているんですよね。先にテーマを定め、そのために脚本を書いたのが見え見えなのです。そしてそれ故に、全ての展開が要素の処理に費やされてしまっていて、若干の事務感すら感じてしまい、映像が素晴らしいにもかかわらず、どこか乗り切れない自分がいました。なので、総じて感想としては「微妙」というところに落ち着きます。

 

 

イカ作品。こっちは傑作。

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 ストップ・モーションアニメ。

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