暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

この社会からの解放の物語【ウルフウォーカー】感想

ウルフウォーカー

 
91点
 
 
 『ブレッドウィナー』、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』などのアニメーション作品群で、世界トップレベルのアニメーションスタジオとなったカートゥーンサルーン制作の作品。本作は『ブレンダンとケルズの秘密』から始まる「ケルト三部作」の最終作となります。アニメーションとして素晴らしいものを送り出してくれているカートゥーンサルーンの最新作となれば観ないという理由はなく、鑑賞してきました。
 
 本作の中心は、「解放」だと思います。本作に登場する人間は、人間が生み出した社会に囚われています。ロビンは人間社会の中にある抑圧に囚われ、その父親のグッドフェローもそうです。
 
 #MeToo運動以降、フェミニズム的な視点をより強く持った作品が多く登場してきました。本作にもその視点はあります。本作はボーイ・ミーツ・ガールではなく、ガール・ミーツ・ガールのシスターフッドものだということです。ロビンとメーヴという正反対の2人が出会い、友情を深め、相対していた自然と人間の壁を乗り越える物語です。その過程で、人間社会の閉塞感や、自然と人間の対立が描かれます。要はシスターフッド版『もののけ姫』なわけですけど、イングランドアイルランドの関係を考えると、その隠喩でもあるのかなと深読みします。
 
 本作の素晴らしい点は、人間社会の抑圧が、「女性にとって生きにくい」だけではなく、男性にとっても生きにくい社会であると描いている点です。それを体現してくれる存在が2人いて、先述のグッドフェローと護国卿です。護国卿は狼を狩るために「強くあろう」とし、そこから疑心暗鬼が生まれて、「強い自分」を維持させるために抑圧的な政策を行います。そしてグッドフェローはその被害者となります。動機は「ロビンを護りたい」だけなのですが、だからこそ護国卿に逆らえない。男性も、自ら生み出した社会によって抑圧されているのです。
 
 翻って、狼たちや、彼ら彼女らの「森」は、「自由」な場所として描かれています。メーヴはロビンとは対照的な野生児ですし、この自由さはビジュアル的にもアニメーションの動き的にも表現されています。ビジュアル的には、自然と街との対比を、自然は色々な形の造形物を入れたのに対し、街は角ばったデザインのものを採用することで表現しています。また、動きに関しては全体的に素晴らしいのですけど、特に素晴らしかったのは中盤、ロビンがウルフウォーカーとなってメーヴと共に森の中を疾走するシーン。これまでロビンは、人間の街の中で非常に窮屈な想いをしていることを見せられていたため、あのシーンの開放感とカタルシスは最高でした。しかもこのシーンは映像的にも主観映像とか使ってて凝っていたのも良いのです。こうした閉塞した空間から、ラストで文字通り「脱出」したことは、「どこへでも生きていける」という非常に前向きなメッセージだと思いました。
 
 最後に、本作はアニメーションとしても素晴らしく、奥行きとか空間の使い方とか、『かぐや姫の物語』を彷彿とさせる船の使い方とか、感情表現が非常に豊かでした。後、画面が本当に眼福であったとも思います。エンタメ性も高く、本当に楽しんで観ることができましたね。
 

 

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