65点
『クボ 二本の弦の秘密』、『コララインとボタンの魔女』などの傑作で知られるスタジオライカの最新作。ライカが作り出す作品はもはや芸術なので、映像面だけでも元がとれることは明白であり、であるならば鑑賞しない理由はないということで鑑賞してきました。
感想を書いてしまえば、映像面はやはり素晴らしく、ストップ・モーションアニメで動くキャラクター、そして背景美術や小道具など全てが美しく、楽しく、これだけでも眼福ものでした。これだけのものを作り出したこと、ただそれだけに敬意を持ちます。しかし、ストーリーそのものが弱く、やや退屈さを感じてしまったことも事実です。
本作のストーリーは言ってしまえば『インディ・ジョーンズ』のような秘境アドベンチャーです。時代と雰囲気は「シャーロック・ホームズ」。伝説の生物を見つけ、クラブに入れてもらいたいライオネルと、人類の進化の過程を繋ぐ「ミッシング・リンク」であるビッグ・フッド、Mr.リンクの2人(?)が主人公で、この2人のバディものとしての側面もあります。このリンクの仲間を見つけるため、2人は途中でアデリーナを加え、珍獣殺しのウィラードの手をかいくぐりつつ、冒険していきます。
このように本作はかなり古典的なアドベンチャーなのですが、感心したのが、「価値観のアップデート」こそが本当のメイン・テーマだということです。本作のライオネルは「クラブの連中を見返すため」にリンクと行動を共にします。しかしそれは、既存の権威に認めてもらうということです。そしてその権威であるクラブは所謂価値観のアップデートが出来ていない残念な老人集団で、リンクが発見されてしまえば、自分たちの既得権益が守れなくなるから、リンクを排除にかかっているのです。これはどう考えても現実世界で起きていることそのものです。
ライオネル自身も、この権威に認めてもらいたくて仕方がない。だから途中までは価値観のアップデートを意図的に拒んでいます。そこでそれを諭してくれるのがアデリーナなわけです。彼女に諭され、目の前の氷に映った自分の姿を見て、自身を鑑み、反省し、見事に古い価値観からの脱却を決意します。対照的に、既存の価値観に凝り固まった敵は「自滅」していきます。ここには制作者の皮肉が多分に入っていると思います。
本作のメイン・テーマはもう1つあって、それは「自分の居場所」を見つける話だということです。ライオネルは既存の価値観に囚われたクラブに居場所を求めていた人間でしたが、そこからの脱却を果たし、個人としてのアイデンティティを確立します。そしてもう1人、リンクも同様です。彼はただ1人のビッグ・フッドでありながら、旅の中で自分の名前をつけ、「スーザン」という自己を確立させます。そしてライオネルと同じように、「自分の居場所」を自分で定め、ライオネルと真の意味での相棒になっていきます。
この2つのメイン・テーマは非常に現代的で、素晴らしいと思います。しかし、本作はとにかく脚本が弱い。何というか、全ての要素と展開が、「テーマありき」で揃っているんですよね。先にテーマを定め、そのために脚本を書いたのが見え見えなのです。そしてそれ故に、全ての展開が要素の処理に費やされてしまっていて、若干の事務感すら感じてしまい、映像が素晴らしいにもかかわらず、どこか乗り切れない自分がいました。なので、総じて感想としては「微妙」というところに落ち着きます。
ライカ作品。こっちは傑作。
ストップ・モーションアニメ。