暇人の感想日記

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古典的ミステリを現代にアップデートしてみせた娯楽傑作【ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密】感想 ※ネタバレあり

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94点

 

 

 監督前作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で全世界の『スター・ウォーズ』ファンを敵に回したライアン・ジョンソン。私自身も『最後のジェダイ』に関してはやろうとしていたことは別にいいのですけど、そこにディズニーの商業的な戦略を感じてしまって辟易していました(そしてその懸念は最悪の形で実現)。しかし、私自身は『スター・ウォーズ』そのものには大した思い入れが無く、ライアン・ジョンソンに対しては憎しみは抱いていないこと、そしてライアン・ジョンソン自身の腕は買っているので、オリジナル作品である本作自体は楽しみにしていました。

 

 鑑賞してみると、『最後のジェダイ』での脚本のグズグズぶりは一体何だったのかと言いたくなるほどの素晴らしい出来で、アガサ・クリスティー的な古典的ミステリとして、存分に楽しむことができました。

 

 

 豪邸で発見された大物ミステリー作家の遺体、一癖も二癖もある彼の子ども達、そして呼ばれた名探偵・・・。これらの言葉から連想されるように、本作はアガサ・クリスティー作品のような超王道なミステリ作品です。主題はもちろん、フーダニット(誰がやったのか)。ミステリ作品は「映画」という媒体にはそぐわないという問題がありますが、本作はライアン・ジョンソンの巧みな脚本と演出でその弱点を上手くカバーしています。

 

 まずは登場人物の整理。この手のミステリ映画では犯人を分からなくするために大御所、実力派の俳優を配置するのが常で、本作でもこの慣例に倣っています。しかも集められた俳優は、皆どことなく「濃い」のです。『ハロウィン』でブギーマンと死闘を繰り広げたジェイミー・リー・カーチス、『へレディタリー/継承』で圧巻の顔芸を見せたト二・コレット、いつもの「強い男性」の逆を行く珍しい配役、マイケル・シャノン、『キャプテン・アメリカ』そのものなナイス・ガイ、クリス・エヴァンス、『ブレード・ランナー2049』での印象が強いアナ・デ・アルマス、そしてその中心は『007』のダニエル・グレイグ。これだけのメンツが揃っているので、まずその顔だけで「誰がどの役なのか」を判別することができます。

 

 また、序盤で行われる、個々のキャラの尋問も非常に巧み。普通のミステリならば、ただの尋問になってしまってただ退屈なものになってしまうところを、そこで同時にキャラクターの紹介も行わせたり、キャラの返答の前に「本当の出来事」の映像を挿入することで「食い違い」を観客に把握させているのが凄く上手い。しかもそれが全てを繋ぎ合わせると事件の全容が見えてくるという作りになっている。つまり、序盤で「事件の全容」、「登場人物の紹介」を完璧にやってしまっているのです。このスマートさにはやられました。

 

 さて、ここから名探偵が謎を解き明かすのか、と思いきや、映画は急展開し、ミステリーの三大要素「フーダニット、ハウダニットホワイダニット」全てが解き明かされてしまうのです。そしてここからジャンルがミステリーではなく、「刑事コロンボ」「古畑任三郎」のようなサスペンスになってしまうのです。「相棒が犯人」という意味では、アガサ・クリスティー的には「アクロイド殺し」的と言えます。そしてここでのミソは、彼女が「嘘をつくと吐いてしまう」という奇抜な体質の持ち主である点です。なので、観客としては緊張感をずっと抱えてしまい、サスペンス性が増します。

 

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 さらにここにドラマを加えるのがお馴染みの遺産相続。家族があの手この手で遺産の相続権を奪い取ろうとするさまも描きます。しかもこの遺産相続が、真犯人の目くらましにもなっていると感じました。ランサムがマルタに近づいたのも、遺産目当てとして見ることができますしね。

 

 また、ミスリードと言えば、真犯人確定のヒントとなる箇所のミスリードも上手いなと感じています。あそこであの台詞を言うというのは、勘の良い人なら分かると思うのだけど、肝心なのがあのシーンが出てくるタイミング。あの時は上述の「真相」が判明している瞬間なのと、あのシーン自体をギャグとして処理しているため、気付きにくくなっているのです。でも、「相棒」とか見ている人なら分かると思う。右京さんなら気付いてる。更にダメ押しとばかりに中盤でマルタの血の付いた靴を見せてくるため、余計に混乱します。

 

 そして本作の素晴らしい点は、ただのミステリとして終わらない点。あの豪邸をアメリカ合衆国のメタファーとして描き、移民問題の縮図として描いているのです。こうしてみれば、遺産相続問題だって「アメリカの遺産」を自分たちのものとし、移民を邪魔者としてみる近年の排外思想のメタファーですし、そんな中で豪邸(=アメリカ)を手に入れ、「ルール」が記されたカップを飲むマルタの姿は痛快です。というか、演出の品が良い。途中に出てくる移民問題の議論とかも如何にもな感じでした。

 

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 最後に、本作を観ていて感じた、ライアン・ジョンソンの作家性について。彼はパンフレットで、「ジャンルと戯れるのが好き」と言っています。彼は『最後のジェダイ』で『スター・ウォーズ』の枠組みを解体しようとした人間ですが、このパンフの発言から読み取るに、この「既存のジャンルの解体」こそが彼の作家性なのではないかと思いました。こう考えれば、『LOOPER/ルーパー』だって既存のタイムスリップSFがどんどん違うジャンルになっていく作品でしたし、『最後のジェダイ』は言わずもがな。そして本作も、既存のフーダニットのミステリものを大きく逸脱していきます。そして配役に関しても、マイケル・シャノンクリス・エヴァンスのようにパブリックイメージとは違う役をやらせています。

 

 このように本作は、古典的なミステリでありながらも、ライアン・ジョンソンの作家性が見事に炸裂し、尚且つミステリとしてきちんと面白いという、観ていて本当に「楽しい」映画でした。

 

 

ライアン・ジョンソン監督作で、全世界のファンから批判された作品。

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 アガサ・クリスティーの原作の映画化。こちらは良くも悪くも「普通」のミステリ映画でした。

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