暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2023年9月に見た新作映画の感想①

 2023年の新作映画の感想です。『アステロイド・シティ』『春に散る』『アリストテレスまぼろし工場』『PATHAAN/パターン』『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)』の感想です。

 

No.83【アステロイド・シティ】 77点

 本作は、「アステロイド・シティ」という架空の舞台劇の製作舞台裏を取り扱ったドキュメンタリーという、前作『フレンチ・ディスパッチ』同様、非常に複雑な入れ子構造映画になってる。

 ウェス・アンダーソンの映画は、完璧な構図に拘った人工的なつくりの映画で、俳優の演技も非常に人工的。生々しさは排され、アンダーソンの好きな綺麗なものしかない。本作はそこに非常に自覚的な映画で、設定もそうだけど、役者が「演じる」ことに悩む映画でもある。ジェイソン・シュワルツマンスカーレット・ヨハンソンは悩み、シュワルツマンは「演技」について監督に質問をする。話自体はボンヤリとしていて、正直よく分からない点もあったけど、ウェス・アンダーソンが自分の作品の特異性に最近非常に自覚的になってきていて、本作はその最新版なのだという点で面白かった。

 余談。ジェフ・ゴールドブラム、どこに出てるのかわからなかったけど、パンフ見て大いに笑った。そこかよ!

 

No.84【春に散る】 76点

 瀬々敬久監督なので一応見た。脚本はオーソドックスなボクシング映画であり、老いた人間と若者の「生き方」の話で、正直新鮮味はない。ぶっちゃけ、ほとんど「あしたのジョー」。しかし、ひたすらに役者がいい。特に佐藤浩市が最高で、動きの切れや、佇まいが圧巻だった。横浜流星も相変わらず素晴らしい。2人が収まっているショットはどれもいい。弁当食ってるところとか最高だね。ボクシングの描写もかなり研究したんだろうと思える内容だったし、クロスカウンターが冒頭からキーになって、最後の決め技になるとか、ちゃんと作り込まれてる。

 

No.85【アリスとテレスのまぼろし工場】 82点

 岡田磨里の脚本&監督作2作目。制作は前作の『さよならの朝に約束の花をかざろう』から変更になりMAPPAとなったものの、基本的なスタッフは同じ。キャラクターデザインは石井百合子さんだし、美術は東地和生。そして副監督は平松禎史。見る気は最初から満々でしたが、予告から既に「岡田磨里」の成分がムンムンに感じられ、見逃せない作品と思っていました。そしたら予想通り、岡田磨理の成分が非常に濃い、岡田磨里200%映画だったから満足というか驚きですよ。「メジャー配給で作家性を爆発させた」という点では、彼女は宮崎・新海・細田に並びました。

 本作は、「同じ1日を繰り返さなくてはならない」閉鎖された街が舞台。そこでは「変化」することが禁忌とされ、「変化」したものは神機狼に飲み込まれる。これを今の日本の状況とリンクさせることは容易だと思いますが、同時に、この「閉塞感」というのは、岡田磨里作品の中で繰り返し描かれてきたモチーフです。岡田磨里は、閉鎖された舞台で少年少女の恋愛模様を描き、そこからの「脱出」を試みようとする姿を描いてきました。

 また、もう1つのモチーフとして、「異物」があります。岡田磨里の作品では、しばしば閉塞的空間に異物が入り込み、それによって物語が駆動していく、という構造が多い。本作では五実がそれに該当します。五実という異物によって正宗と睦美の関係、そして世界そのものが動いていきます。

 さらに重要なモチーフとして、「恋愛」があります。岡田磨里の作品では必ずと言っていいレベルで登場する要素であり、これがだいたい「痛み」を感じさせる、普通のアニメのそれより生々しいものになることがほとんどです。本作でもそれはもちろん健在です。

 本作は大きく3つの岡田磨里印のモチーフが出てきて、「何故、世界はこうなってしまったのか」という謎を解き明かしていきます。この世界の謎を解き明かす下りは興味が持続され、岡田磨里さんの強烈な台詞(「てめぇ、やっぱ雄かよ!!」など)とキャラの行動も相まって、前のめりになって見てしまいます。ここで、キャラデザや言動から気色悪さを感じる人がいるのもまぁ分かるのですが、本作は所謂「オタク的キモさ」みたいなものが客観的に描かれている点もあります。主に宗司ですね。そもそも、話の構造そのものが「少女を人柱に世界を存続させようとする男から(しかもそれは自身の承認欲求を満たすという利己的な目的のため)、その少女を救い出す」という話でもあるし。

 岡田磨里の作品では、キャラは閉塞的空間からの脱出を試みはしますが、最終的にはその空間に戻ることを選びます。しかしそれは諦めではなく、「生きる」ためです。岡田作品のキャラは、恋愛や不和を通し、「痛み」を知り、それでも、その場所で生きることを選びます。本作でも、正宗たちはあの空間に残ることを選びます。明日いなくなってしまうかもしれない。「変わる」ことで「痛み」があるかもしれない。しかし、その「痛み」があるから、人は生きているのだ、と、そういうことを岡田磨里さんは描いてきたと思うし、本作でも述べていると思います。

 

No.86【PATHAAN/パターン】 70点

 豪快なインド発のアクション映画。一応内容としては特殊工作員ものになるかと思うが、トンデモアクションが続く。『ミッション・インポッシブル』的なケイパーものを壮大なスケールでやったり、『サーホー』にも出てきたジェットウイング的なガジェットで空中戦、列車の中での乱闘からのVSヘリとてんこ盛り。更に、展開も二転三転し、敵との頭脳戦もあり、音楽も盛大になり響いたりと、とにかく観客を楽しませようという気概を感じる。

 しかし同時に、非常に愛国的な内容であり、そこに少しの危うさも感じる。せっかく敵の背景を「祖国に裏切られた」という設定にしているのに、国家の矛盾に切り込めていないのはもったいない。

 同じ監督の『ロボット』、そして同じ会社の『タイガー』と世界観を共有しており、それを知っていればガン上がりする展開がある。私は見ていなかったのだが、いきなりサルマーン・カーンが出てきたのには驚いた。また、ディーピカー・パードゥコさんがまた美人でね。大変よかったですね。

 

No.87【劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)】 70点

 『新宿プライベート・アイズ』で蘇った「シティーハンター」。本作は、アニメではほとんどその存在が無かったことにされていたユニオン・テオーペ及びエンジェル・ダストにフォーカスし、アニメ版「シティーハンター」の最終章の幕開けとされています。本作で初めて海原が登場。

 海原が登場はしますが、原作終盤のアニメ化、というわけではなく、あくまでもアニメオリジナル。なので、現状ではミックが未登場で、代わりに海原をはじめ、4名のゲストキャラが登場します。前作は「シティーハンター」の基本に非常に忠実な出来でしたが、本作では最終章ということもあり、基本は踏まえつつも、リョウの過去にかなり突っ込んでいきます。ついでに超人的なアクションもあります。基本的なところから少しだけずれた内容であるため、前作と比較して楽しむことができました。そしてGet Wildでガン上がり。

 本作はかなり思い切ったことをやっています。事情が事情とは言え、リョウが依頼人の美女を手にかける、という結末を迎えるのです。彼女の犠牲によって、海原との因縁が決定的になり、「最終章」への道が開けたと思います。とりあえず、「話をたたむ」意志は見えたので、最後まで突っ走ってほしいと思います。

 声優的に言えば、キツイところも結構ありました。いちばんキツかったのは香で、かなり無理してんな、と思いながら見てたし、神谷明さんも、ギャグパートの時は気にならなかったけど、意外にもシリアスな場面だと少し老いを感じる場面があった。後、「キャッツアイ」が出てくる割に、俊夫が全然出てこないのは何故なのだろうか・・・。