暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

麦わら帽子に受け継がれる意志【ONE PIECE FILM RED】感想

77点
 
 1997年より週刊少年ジャンプにて連載が開始され、今や国民的な漫画となった「ONEPIECE」。原作は今年で連載25周年を迎え、ジャンプ本誌の34号より「最終章」が始まり、売り上げは5億部を突破と、何度目かの盛り上がりを見せています。映画も好調であり、尾田っちが製作総指揮としてかかわるようになった『STRONG WORLD』以降、単独公開作としてはコンスタントに興収50億円を突破するメガヒットシリーズになりました。このように、ただでさえ大ヒットの兆しがある本作ですが、2020年の『鬼滅の刃』以降顕著となったアニメ映画の興収ブーストの機運、そしてちょっと引くくらいの大規模プロモーションも行った結果、公開2日で興行収入22億5423万7030円とかいうバカみたいな記録を叩き出しました。この勢いはお盆期間ということもあったのかウィークデイに入っても衰えず、公開10日で歴代最高成績を誇っていた『FILM Z』を抜く可能性が濃厚となっています。私も「ONEPIECE」に付き合ってもう20数年の男なので、当然鑑賞してきました。
 

あらすじ

 音楽の島「エレジア」。この島で、一人の歌手のライブが開催されようとしていた。その歌手の名前はウタ。彼女はこれまで素性を隠したまま歌を発信していたが、その類まれなる歌声は「別次元」と称され、世界中の人々を魅了していた。そのウタが初めて公の場に姿を見せてライブを行うということで、エレジアのライブ会場にはウタのファンの大観衆が集結し、ルフィ達麦わらの一味も来ていた。そして、遂にウタがステージに姿を現し、ライブが開幕する。

 1曲目の終了後、突如クラゲ海賊団がステージに降り立ち、ウタを誘拐しようとする。だが、その直後にルフィがステージに降り立ち、ウタに駆け寄り親しげに声をかけた。ウタはルフィに気付き、二人は再会を喜ぶ。ルフィとウタは、幼少期にフーシャ村で共に過ごした幼馴染みだったのだ。さらに、ウタがシャンクスの娘であることをルフィが話したことで、会場中が騒然となる。クラゲ海賊団はウタを誘拐しようとするが、ウタは2曲目を歌いながら不思議な能力を操り、瞬く間に海賊を拘束してしまう。その後、ウタはルフィと仲間達を歓迎し、その不思議な能力でもてなす。

 この時、世界中の人を幸せにするためのウタの大きな「計画」が既に始まっていた。そして同じ頃、世界政府や海軍がウタの能力を危険視し、彼女の討伐に動き始めていた・・・。

 
 
 本作は、ハッキリ言って、「ダメな映画」だと思います。エレジアで行われているウタのライブが舞台で、ウタのライブと同時進行で物語が進みます。にもかかわらず、事ある毎に回想や、テーマを盛り込もうとするための乱入があり、その度に説明台詞をまくしたてたりしてストーリーの進行を妨げています。つまりテンポが死ぬほど悪い。アクションはやたら派手だけどそれだけで、全く整理されておらずぐっちゃぐちゃで、他の静的なシーンはキャラが突っ立って状況説明をしているだけという力抜けた作画の連続。キャラも大量に登場する割には整理されずグチャグチャで、麦わら一味が若干埋もれてしまっている。だから純粋なクオリティとしては、『鬼滅の刃 無限列車編』、『呪術廻戦0』に遠く及ばず(まぁこの辺はufotableMAPPA東映アニメーションを比べるのが酷、という点があるかと思いますが・・・)、先日公開された『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の方が、トータルとしてはまだ出来が良いです。
 
 そんな本作ですが、特筆すべき点が3つあります。1つは「ライブ映画」である点です。前述のように、本作はウタのライブと並走して物語が進みますが、観客である我々にも「ライブに参加している感覚」を与える作品になっています。歌を担当しているAdoさんの歌唱力は流石ですが、映画そのものがライブの映像をそのまま流したり、ウタのパフォーマンスをじっくり映すシーンも多いのです。序盤は話が全く動かずに歌ばっかり歌っているので(一応、ノルマ的に麦わら一味の活躍を見せるためのシーンがある。テンポが断絶される点その1)、これにのれるかどうかが本作の評価ポイントの1つだと思います。更に、この作りは、「ライブに参加している感覚」以上にウタワールドに誘い込む、という「ウタウタの実」の能力とも深く連動しており、「観客」である我々もウタワールドに入り込んでいる、という構造を作り出そうとしています。つまり、本作は映画的では全くありませんが、「映画館」という特性をそれなりに活かした作りをしている作品だと言えます。
 
 また、このウタワールドという能力の考察もできます。冒頭のナレーションで言及されるとおり、「ONEPIECE」の世界は弱者には生きにくい世界です。基本的に描かれているのが「海賊」、「海軍」、「世界政府」であるためにこぼれがちですが、「一般庶民」は略奪や暴力に晒される存在だと言えます(一応、ちょいちょい描かれてはいるが)。ウタはこのような世界からの脱却を目指し、世界中の人を「ウタワールド」に引き入れ、暴力も差別も、醜いことがない世界へ行こうとしました。これは中々カルト的な思想です。しかし、最終的には観客自らが現実世界へ戻ることを決意し、ウタワールドから脱出します。我々はエンタメを楽しみますが、それはしばしば現実からの逃避として行うことがあります。しかし、現実に向き合わなければならないのが人生です。そこにどっぷり浸かるわけにはいかない。「夢」はいつか終わるのです。このメタファーと言えなくもないのかもしれない。まぁ、その割には最終的にウタ個人の話になるわけですが。正直、予告を観た段階では「私の歌が皆を幸せにする」という台詞から、カルト感を抱いており、某『二十世紀少年』みたいになったら嫌だな、と思っていたのですが、本作は寧ろそこを批評的に描いていたと思います。
 2つ目は、本作が麦わら帽子と「海賊王に、俺はなる!!」の台詞に新たな意味合いを付与した映画だという点です。劇中、麦わら帽子は一度、ウタによって破壊されます。それをもう一度ウタから託されたとき、麦わら帽子はシャンクスとの約束と意志の継承の証であると同時に、上述のような世界を目指す、ウタの意志継承と約束の証となりました。だからこそ、最後の「海賊王に、俺はなる!!」に新たな重みが付与されています。ちなみに私はこの辺少し泣きました。この点で、本作は原作においても重要な位置づけの作品と言えると思います。
 
 この点は、監督をした谷口吾朗さんの影響もあるかと思います。谷口監督は、個人的には「邪道で王道をやる」みたいな人だと思っていて、王道のプロットを持つ作品でも、一捻り加えてくるのです。そんな彼に監督を依頼したのは尾田っち本人とのこと。「ONEPIECE」の初アニメ化の監督だからという意味もあるとのことですが、彼が監督し、「既存の作品に一捻り加えた」ことで、作品を象徴する物と台詞に新たな意味を付与し、本作を「最終章」へ向けたスタート的な意味合いのある作品に仕上げてみせました。ルフィは10年周期でオリジンが追加されていく主人公ですが、本作でも追加がなされました。
 
 3つ目は、ルフィとシャンクスですね。25年連載している割に全く戦闘シーンが無かった彼ですが、本作では25年分以上のアクションを見せてくれます。赤髪海賊団もここにきてフルで大活躍します。しかも上手いのが、ウタワールドを上手く使い、「シャンクスとルフィは直接会わない」をちゃんとやっている点。トットムジカの下りはわけわかんなかったけど、物量でぶん殴ってきて、最後には割かし訳分からんのがどうでも良くなってました。ルフィもむやみに泣かなかったのは良かった。
 以上のように、本作は「ダメな映画」ではありますが、「麦わら帽子とあの台詞に新たな意味合いを付与してみせた」最終章へのスタート的な内容の作品にはなっています。また、「映画館」という空間を利用した構造にはなっており、「映画館で観る意味」はある作品です。私は楽しみましたよ。でも、初めて「ONEPIECE」を観る人には薦めません。『STRONG WORLD』観ればいいと思います。
 

 

前作。

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記録的大ヒットを成し遂げたジャンプアニメ映画。

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2022年夏アニメ視聴予定作品一覧

 もう7月の後半になってしまいましたが、毎期恒例ということで、「視聴予定作品一覧」を発表します。既に視聴を止めている作品もありますが、一応、発表したいと思います。

 

2022年春アニメ視聴完了作品

「阿波連さんははかれない」

「かぎなど シーズン2」

SPY×FAMILY」

TIGER&BUNNY2」

パリピ孔明

古見さんは、コミュ症です(第2期)」

 

視聴中作品

攻殻機動隊SAC 2045」

サマータイムレンダ」

「コタローは1人暮らし」

 

◎=期待大、〇=楽しみ、△=とりあえず見る

 

2022年夏アニメ視聴予定作品一覧

異世界おじさん」 〇

「Engage Kiss」 △

「KJファイル」 △

「最近雇ったメイドが怪しい」 △

「それでも歩は寄せてくる」 〇

「ちみも」 △

「てっぺん!!!!!!!!!!!!!!」 △

はたらく魔王さま!!」 〇

「風都探偵」 ◎

惑星のさみだれ」 △

メイドインアビス 烈日の黄金郷」 〇

「ユーレイデコ」 △

「よふかしのうた」 △

リコリス・リコイル」 〇

「咲うアルスノトリア すんっ!」 △

RWBY 氷雪帝国」 △

 

 夏アニメは16本ですが、見ればわかる通り、そこまで期待している作品はありません。楽しみと言えば、久方ぶりの続篇である「はたらく魔王さま!!」、足立慎吾監督のオリジナルアニメ「リコリス・リコイル」、原作が話題の「異世界おじさん」、湯浅政明が原作を務める「ユーレイデコ」あたりです。特に期待している作品としては、「メイドインアビス」と「風都探偵」ぐらいですかね。

 実はほとんど1話は視聴しており、「惑星のさみだれ」はあんまりな感じだったので、視聴を断念してしまいました。秋アニメがヤバいので、そこまで小休止かな。それでは。

トム・クルーズの心意気に痺れろ【トップガン マーヴェリック】感想

92点
 
 1986年に公開され、世界的な大ヒットを記録し、主演のトム・クルーズを一躍大スターにした『トップガン』の続篇。主演はもちろん、トム・クルーズ。監督は逝去したトニー・スコットに代わり、『オンリー・ザ・ブレイブ』やトム・クルーズとは『オブリビオン』でタッグを組んでいるジョセフ・コシンスキー。共演には、『オンリー・ザ・ブレイブ』にも出演しているマイルズ・テラージェニファー・コネリーらや、前作からはヴァル・キルマーが再びアイスマン役で出演しています。ちなみに、私は1986年の『トップガン』(以後、前作)には全く思い入れが無く、寧ろ本作の鑑賞前日に観たくらいです。そんな私ですが、本作は大変楽しめました。
 
 本作は前作の続篇であると同時に、現代版アップデートとも言える作品です。基本的な話の筋は前作を思いっきり踏襲しています。特に驚くのが冒頭で、何と前作と同じなのです。BGMからテロップやらショットやら全て同じ。前作は鑑賞済みでしたので、ここでズッコケました。ただ、ここから本作の「アップデート」は見ることができます。つまり、前作では雰囲気はあるけれど具体的に何をやっているのかよく分からなかった部分をちゃんとクリアにしているのです。この冒頭を始めとして、本作は話の筋は前作を踏襲しつつも、女性のパイロットが登場するなど現代的な価値観を取り入れたり、前作では雰囲気だけだった部分をよりアップグレードしています。
 最もアップグレードされている点としては、やはりドッグ・ファイトでしょう。パンフレットに記載のあったプロダクション・ノートによれば、前作では空中のアクションはスタントを立てたらしいのですが、本作はスタントは立てず、役者が本当に戦闘機を操縦し、そしてそれを極力CGIに頼らずに撮影しているという、頭がおかしいとしか思えないことをやっているのです。主演のトム・クルーズは『M:I』シリーズなどで生身のアクションに拘って映画を作っていますが、この延長と言えます。しかも、それをちゃんと観やすく撮っている。そして更にそれをIMAXカメラで撮影し、大迫力の映像という「映画館でしかできない体験」を我々に提供してくれているのです。これらの点で本作は、前作をより現代的にアップグレードした作品だと言えます。
 
 そしてもう1つ、前作と比べて重要な点は、本作ではトム・クルーズが還暦である、という点です。前作で一躍スターの仲間入りを果たしたトム・クルーズですが、以後、彼はずっとスターでした。一線で活躍を続け、生身の危険なアクションに手を出し、若手の役者や監督を見出したりしてきました。そんな彼の姿は、本作のマーヴェリックに重なります。マーヴェリックも現役で活躍を続け、今回、若手を育てる存在として戻ってきます。時代は変わりました。ドローンが活用され、もう戦闘機は使われなくなる未来がやってくる。そうなれば、自分のようなパイロットは用無し。ここには、トム・クルーズ自身が還暦を迎え、もう自分は「過去の人」なのではないのかという自身への問いかけがあると思います。しかし、それでもトム・クルーズは言います。「だが今じゃない」と。自分は還暦だし、若手も育てる。しかし、マーヴェリックが現役を退かないように、自分も「トム・クルーズであること」を降りるつもりはない。という宣言に聞こえました。
 
 こんなご時世にアメリカの戦闘機が大活躍し、あまつさえ攻撃されるかもしれないという理由だけで先制攻撃しちゃ流石にダメだろとか思うところはありますが、トム・クルーズのスター映画として、そして「映画館でしか味わえない体験」を提供してくれる映画として、最高の作品でした。そしてトム・クルーズの心意気にも痺れます。
 

 

『M:I』シリーズ。

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2022年冬アニメ感想④【マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 Final SEASONー浅き夢の晩ー】

☆☆★(2.7/5)
 
 2020年の冬アニメとして放送を開始した「マギレコ」のアニメ化作品。2021年の夏に放送された「覚醒前夜」を経て、ようやく完結へこぎつけた本作。監督は「覚醒前夜」から続投して宮本幸裕。シリーズ構成には高山カツヒコ。キャラクターデザインは谷口淳一郎が本家から続いて担当します。制作はもちろんシャフト。1期からの付き合いなので視聴しました。
 
 「魔法少女まどか☆マギカ」とは、「願いの代償」として、「魔法少女」としてその人生と希望を搾取され続ける少女たちの救済の物語でした。本編はまどか達に寄ってはいましたが、本編以外でも、絶望のうちに魔女になってしまった少女は多かったはずです。しかも「まどマギ」の構造上、「失敗した」ルートも多くあります。そしてそれらの物語は我々には見えていなかった、「語られなかった」物語です。「マギアレコード」とは、こうした「語られなかった」魔法少女達の物語を描くものでした。
 
 本作は、ハッキリ言って言いたい点はとても多い。そもそも「Final SEASON」とか言っているけど、絶対に製作期間間に合わなかっただけだろとか、ゲームの内容を無理に詰めたからか知りませんけど何かよく分からないまま終わってしまったとか、アニメーションの力が入ってる時と手を抜いてるときの差が激しすぎて逆に萎えるとか、ダメな点を挙げるとキリ無いんです。それでも本作を評価するとすると、正しく上述の「語られなかった」魔法少女たちの物語をやった点だと思います。
 
 「まどマギ」という作品では、「語られなかった」だけで、魔法少女の物語の数だけ絶望が生まれていたことは明白。それら全てを救うためにまどかは最後に「円環の理」となるわけですが、この「マギレコ」という作品は、「まどマギ」の作品の構造を活かし、尚且つ作品世界を拡張、その上で、本編で「語られなかった物語」を我々視聴者自身が目撃するという構造の作品になっていて、それはアルティメットまどかのように救済にはならないにしても、忘れられるはずだった少女たちの希望と絶望の物語を視聴者が知るという点で、「まどマギ」の補完になっていると思いました。つまりは、「忘れられた世界線」を記録した我々は、目撃者であり、彼女らのことを覚えている。この1点だけは面白かったです。
 

 

1期。

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シャフト作品。

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2022年新作映画感想集①

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男】

 

93点

 

 ウェストバージニア州のコミュニティを蝕む環境汚染を巡って、十数年にわたって巨大企業と戦い続けてきた弁護士、ロブ・ビロッドの物語。

 脚本的には非常に地味で爽快感皆無な内容でありながら、トッド・ヘインズ監督の抑制のきいた演出と、ロブ・ビロッドの苦悩を体現したマーク・ラファロの好演で、最後までスクリーンに釘付けになる。

 「不屈」を言う言葉がこれほど似合う人物はいないと思う。巨大企業はビロッドが事実を突きつけ、裁判で勝訴したとしても、中々贖罪を行わない。寧ろ、行わないことで原告の精神が擦り減るのを待っている。余談だけど、これは「遠い国」の出来事ではなく、日本でも全く同じことが起こっている。本作はこのような無情さをも淡々と描き出す。対するビロッドは精神的に疲弊し、最後には倒れてしまう。映画全体が淡々としているため、彼の苦悩がより伝わってくる。最後の最後で証拠が発見されるものの、それでも劇的な演出はせず、抑制を保つ。これで終わりではなく、寧ろ始まりなのだから。だからこそ、ラストの台詞「Still here」が胸をうつのであります。

 

【マークスマン】

 

82点

 

 監督はイーストウッドの作品で長年助監督を務めていたロバート・ローレンツ。長年助監督を務めていたせいか、本作は孤独な老人と少年の逃走劇という点で、『クライ・マッチョ』と似ている作品。

 本作は、「正しい道」を選んだ男の話。老境に差し掛かった男が、人生の最後に、少年に「正しい道」を選ぶことができるように助けを出す。対をなすのがカルテルの追手で、平気で人を殺す残忍な男だけど、「道」を選べなかったという過去もある。ちょっとした表情で、「俺もああなっていたかも…」と彼が羨ましそうに思っているのが分かる演出がとても良い。以上のように、ロバート・ローレンツは非常に手堅い演出をしていて、驚きは少ないけれども、水準以上の出来になっている。

 2人の関係性は「疑似家族」までには発展しない。あくまでも「バディ」以上のものは無い。逆に言えば、バディを形成するまでを非常に丁寧に描いている。アクションに関しても必要最小限の動きで敵を仕留めるもので、こちらもとても堅実。

 イーストウッドは新しいパートナーを見つけて新しい人生を見つけるけど、本作のリーアム・ニーソンは自分の命を他者のために使い、決して救われてはいない。あくまでもニーソンは孤独なのです。

 

【ハウス・オブ・グッチ】

 

77点

 

 GUCCIと聞くと、「岸辺露伴GUCCIへ行く」を真っ先に連想してしまうレベルでしかGUCCIに縁も興味もない私ですが、リドスコ爺さんの新作とあらば観ないわけにはいかない。
 予告の段階から、「GUCCI版の『ゴッドファーザー』か?」と思っていたのですが、本当にそんな感じでした。特にマウリツィオは、劇中の役割が完全にマイケル・コルレオーネ。しかし、『ゴッドファーザー』と違うのは、バトリツィアという、「外部」の女性が一族経営の会社に入り、マウリツィオを操り、GUCCIの名前に固執すること。実話ベースということで、「終わり」へと向かっていく人間模様を批判するでも愛着を持つのでもなく、突き放して描くいつものリドスコ
 視点をバトリツィアに絞り、出来事をぶつ切り気味に描く構成はどうかと思ったけども、一貫してたのはバトリツィアのGUCCIへの執着で、彼女の執着が一族経営というシステムを終わらせたという内容にしていた。そもそも、映画が冒頭とラストが同じブックエンドで、映画そのものが「終わり」の中にあるんだよね。これはリドスコ爺さんのこれまでの作品と構造的に似ていると思う。『最後の決闘裁判』で言うところの「女性にとっての男性社会システム」みたいな感じ。そしてそれを恐ろしくブラックな笑いで描いてしまう。イーストウッドとは別ベクトルで恐ろしい爺さんだよ。
 

【ライダーズ・オブ・ジャスティス】

 

77点

 

 変な映画だった。『狼の死刑宣告』とか、『デス・ウィッシュ』みたいな、「街のダニども!貴様ら全員死刑に処す!!」な映画かと思いきや、このリベンジものを逆手にとった作品だった。ジャンルがどんどん変化していき、「リベンジもの」的展開をベースにしつつも、そこから暴力が暴力を生むという、暴力の恐ろしさと連鎖についての話になり、同時に「偶然」にまつわる物語でもあり、そして過去のトラウマを抱える人達がお互いをケアしていく物語でもあった。互いの心を閉ざす演出として、「扉」と「室内」が効果的に使われていたと思う。総括としては、「リベンジもの」の批評的作品と言えると思う。

遺言の補足【クライ・マッチョ】

77点
 
 今年、御年92歳になるクリント・イーストウッド。彼の監督デビュー50周年にして、40本目となる本作は、1976年にN・リチャード・ナッシュが出版した小説を映画化した作品。イーストウッドが58歳のときに初めて企画が持ち込まれたものの一旦は流れ、その後、監督と主演俳優を変えて企画は転々とし、33年後の2021年、イーストウッドに一周回って戻ってきて今回の映画化に至ったという経緯があります。
 
 アメリカ、テキサス。ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以来、数々の試練を乗り越えながら、孤独な独り暮らしをおくっていた。そんなある日、元雇い主から、別れた妻に引き取られている十代の息子ラフォをメキシコから連れ戻すという依頼を受ける。犯罪スレスレの誘拐の仕事。それでも、元雇い主に恩義があるマイクは引き受けた。男遊びに夢中な母に愛想をつかし、闘鶏用のニワトリとともにストリートで生きていたラフォはマイクとともに米国境への旅を始める。そんな彼らに迫るメキシコ警察や、ラフォの母が放った追手。先に進むべきか、留まるべきか?少年とともに、今マイクは人生の岐路に立たされる・・・。
 イーストウッドは、新作で自身のイメージを解体してきた人物です。『許されざる者』ではかつて西部劇のスターであったイーストウッド自身が、「西部劇」というジャンル自体を批評的に解体してみせました。その16年後に撮った『グラン・トリノ』では、アメリカという国をモン族の移民に任せ、自身が死ぬことで決着をつけてみせました。この点で『グラン・トリノ』は、『ダーティハリー』の脱構築であり、同時に俳優としてのイーストウッドの遺言的映画でした。そして2018年の『運び屋』では、過去の輝かしい栄光を持ちながらも、家族を蔑ろにしていたという、イーストウッド本人のような老人、アールを演じ、自分の人生に決着をつけてみせました。
 
 以上のように、過去の作品で自身を解体してきたのがイーストウッドです。あらすじから分かる通り、本作は、「子どもと老人の交流と意思の継承」という点では、『グラン・トリノ』を彷彿とさせますし、『運び屋』とは「過去の栄光」という点が共通しています。そして、イーストウッド演じるマイクは元ロデオスターで、西部劇を彷彿とさせる出で立ちです。移動は車ですが。つまり本作は、これまでのイーストウッドのキャリアを総括してみせた内容なわけです。そしてここに加え、本作は、これらの「遺作」たちに「1つだけ補足があるんぢゃ」という感じで作られた作品でした。
 
 ただ、本作には『許されざる者』や『グラン・トリノ』のような堅苦しさというか、生真面目さはなく、『運び屋』にあったような、非常に「軽い」映画です。撮り方には全く気負いを感じず、ストーリーも飄々としています。とにかく「気が抜けた」映画なのです。
 『グラン・トリノ』では、イーストウッド演じるコワルスキーは、モン族の少年、タオに「男」としての修行を施します。タオはコワルスキーの「男」教育を受け、彼からグラン・トリノを受け継ぎます。それは『ダーティハリー』的な「強さ=マッチョ」があったと思います。しかし、時代は変わりました。「マッチョ」なだけが強さだけではありません。本作の少年、ラフォは、「マッチョ」に憧れています。今回、マイクは、そんな彼を諭す側に回ります。この点が、イーストウッド自身が、自身の作品で見せてきた「マッチョ」に対する「補足」なのだろうと思います。
 
 さらに、『グラン・トリノ』では自らが死ぬことでしか決着をつけられなかったイーストウッドですが、本作では自分の新しい「家」を見つけ、女性と生活を始めます。居場所を無くしていた彼が、アメリカという国の外で居場所を見つける。『運び屋』では「老いを恐れるな」と言っていましたが、本作でも、彼の人生への前向きさを感じました。
 

2022年冬アニメ感想③【からかい上手の高木さん3】

☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 山本崇一朗先生原作、小学館より発行されている「ゲッサン」にて連載中の原作をアニメ化した作品。2018年に第1期が放送されて人気を博し、本作で3シーズンを数え、6月には劇場版も公開が予定されています。制作は1期より継続して「クレヨンしんちゃん」などでお馴染みで、最近では「PUI PUI モルカー」を共同で制作したシンエイ動画。監督は1期から継続して赤城博昭さん。シリーズ構成はおらず、各回ごとに脚本家が別々に担当します。参加しているのは加藤還一、伊丹あき、福田裕子の3名。キャラクターデザインを「干物妹!うまるちゃん」や『きみの声を届けたい』の高野綾さんが務めます。
 
 「2」において、2人の距離が「ゼロセンチメートル」になりました。そのためか、本作の高木さんは、前作までと比べ物にならないくらい西片にアプローチをかけまくります。1期はあくまでも「からかい勝負」という体を保っていて、西片少年の狼狽えっぷりとか、そこにちょっとだけ高木さんが見せる本音みたいなものに尊さを感じていたわけですが、本作に関してはもう高木さんの好意が漏れまくっており、ただいちゃついているようにしか見えないという。「もう付き合っちゃえよ!」と思うわけですが、あの2人の尊さというものは、西片少年が自分の気持ちに自覚的になれないという、付き合っていないからこそ生じるものであるのも事実です。つまり本作は、「2」で互いの距離が「ゼロセンチメートル」となった後の物語なわけです。
 
 「2」では、それまでの話で積み上げた「距離」が、夏のお祭りですれ違い、また合流できたこと、そして手を握ったことで「ゼロセンチメートル」となる話でした。物理的な距離が近くなったので、今度は心理的な距離を縮めようというわけです。そのピークがクリスマスと、最終の12話、13話の「2月14日」と「3月14日」。この2つは気持ちのやり取りを行う日なわけですから、ここで西片が高木さんを探し、合流したということは、そのまま2人の気持ちが通じ合ったということでもあります。最終話のEDがORANGE RANGEの「花」で、その歌詞が全てを語っていたと思います。余談ですが、だからこそ「元高木さん」の話が少し入っていたのだと思います。まぁとにかく、2人とも良かったね。劇場版待ってます。
 

 

2期の感想です。

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