暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

今、日本沈没で「日本人」を問い直す【日本沈没2020】感想

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☆☆☆(3/5)
 
 
 1973年に小松左京が発表した伝説的SF小説のアニメ化作品。実写ならば映画でもドラマでも何回か作られてきましたが、アニメーション作品は初。しかも制作はNETFLIXで、監督はTVアニメ「四畳半神話大系」、「DEVILMAN cry baby」、映画『マインドゲーム』などで知られる鬼才・湯浅政明。彼がNETFLIXと組んで制作した「DEVILMAN cry baby」は凄い傑作だったので、今年かなり期待していた作品でした。そしてコロナ禍の今、ちょっと時期的にタイムリーな題材になってしまったという点でも興味がありました。
 
 本作と原作の最大の相違点は、「視点の違い」です。原作では、『シン・ゴジラ』よろしく「政府」の視点で物語が進んでいて、「日本が沈没する」という未曽有の危機に対し、どう対応したのか、という点が苦悩と共に描かれていました。原作は「プレートテクトニクス」の理論を用いて「日本沈没」をシュミレートし、「日本経済はどうなるのか」、「諸外国はどのような反応を示すのか」、そして、「国土を失った日本人は日本の地でなくとも、「日本人」として生きていけるのか」、という点を問うた作品でした。私は原作をこの機に読んだのですけど、このシュミレーションが現代でも全然通用するもので、今読んでも凄く面白い作品でした。
 
日本沈没(上) (角川文庫)

日本沈没(上) (角川文庫)

  • 作者:小松 左京
  • 発売日: 2020/04/24
  • メディア: 文庫
 

 

 本作では、この視点を大胆に転換し、「1つの家族」の視点に絞っています。それはかなり徹底されていて、原作で描かれていた「政府」が全く出てきません。小野寺は登場しますが、もう1人の重要人物である田所博士に至っては名前しか出てきません。しかも、主人公一行が出会った人がその後どうなったのか、は基本的に描かれず、2話で分かれた一行もどうなったのか明確には描かれません(一応、最終話で1人生き残っているのは確認できる)。また、実際の災害も主人公一行が目にするものしか描かれず、「神の視点」が無いです。だから日本沈没のシーンは明確には無く、いつのまにか海の中に沈んでいます。
 
 以上のように、本作の視点は徹底してミクロなのですが、そこで描かれていることは原作が描こうとしたことと同じです。つまり、「日本が沈み、国土を失った日本人はどうなるのか」ということです。小松左京先生が執筆した第1部は日本が沈み、「日本人には、これから苦悩の日々が待っているだろう・・・」と匂わせるだけで終わっていました。要は難民になるわけですからね。本作は視点を1家族に絞ったことで、原作の災害に対して、そのとき、普通の国民はどう思っていたのか、を描き出そうとします。だから本作は原作と表裏一体の関係であると言えます。そしてこの答えが示されるのが9話のラップであり、最終話のモンタージュなのです。そこでは、「これまで生きてきた賢明な人々の積み重ねが、今の私を作っている」という歩のモノローグにより、原作への回答がなされています。これは、原作のトーンから比べると、かなり前向きなものだと思います。
 
 また、主人公一行もなかなか面白い面子です。まず主人公は混血であり、父親は日本人なのですが、母親はフィリピンのセブ島の出身です。そして歩は将来を期待されている陸上選手で、剛は半分英語で喋り、日本からは早く出ていきたいと思っている。そして春生は元は陸上選手だったのですけど、今は引きこもり。そしてユーチューバーのカイトというトリックスター。彼は特異な人物で、「国家」に囚われず、自由に生きている人物です。見ていて思うのは、主人公一行は皆ユニークなんですよね。途中から加わる小野寺(原作主人公)にしても寝たきりですし。そんな彼ら彼女らが様々な日本人と出会い、「日本人とは」を彼ら彼女らなりに包括するのが本作です。そして、彼らだからこそ、日本が沈み、そこで起こる諸問題を描けるのだと思います。具体的に言えば中盤の国粋団体のくだりとかね。同時に、彼らだからこそ、「日本人って何?」という問いに対する包括的な答えを考えられるのだと思いました。この点は非常に現代的です。国粋団体(こういう奴らは絶対に出てくる)の人たちみたいに、「純粋な日本人」など、もはや幻想でしかないのですから。
 
日本沈没  [東宝DVD名作セレクション]

日本沈没 [東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/08/19
  • メディア: DVD
 

 

 巷で話題の突っ込みどころ満載の脚本についても、私も困惑はしましたけど、目指そうとしたところは理解できました。つまり、徹底して、ミクロな視点で、「リアルに」やろうというわけです。「リアル」だからキャラもあっさりと退場しますし(前半2人が特に凄い)、主人公一行には日本がどうなっているのかという情報が全く入ってこない。そして、災害が起こったときに起こり得る悪事についてもしっかりと描いています。この点に激怒している人も多いのですけど、人間なのだから悪人はいるし、そもそも美談ならニュースとかで散々やってるので、こういう点を強調するのは悪くないと思います。というか、本作の明確な「悪」と言える人間はごく少数で、多くの人は、私には「悪い人ではないけど、極限状況故に感じが悪い態度をとってしまった」人にしか見えませんでした。私には「あり得る」話だと思えました。最大の問題であるコミューンの下りについては、私は結構笑いながら見たんですけど、極限状況だと、ああいう霊能力にすがる人も増えそうだなと思いましたよ。
 
 「脚本のちぐはぐさ」も、「日本沈没」という特大級の災害をミクロな視点から描いた故だと思います。こういう災害を描く場合だと、一番良いのは原作みたいにマクロ、つまり政府視点で描くことです。しかし本作は一家族のミクロな視点を「リアルに」描いた。1家族は一般人であり、だから全体がどうなっているのか把握できず、色んな人に出会い、「日本人とは」を問い直していくのです。で、視聴者はそれに付き合っているので、何も分からないまま。だからイマイチ作品の全体像がつかめないのだと思います。しかもそれに加えて、3話冒頭みたいに、視聴者の予想の斜め下をいく展開をしたりします(父親が死んで悲しむでもなく、黙々と歩くシーンから始まる)。それがちぐはぐさに拍車をかけているのだと思います。
 
日本沈没2020 ORIGINAL SOUNDTRACK

日本沈没2020 ORIGINAL SOUNDTRACK

  • アーティスト:V.A.
  • 発売日: 2020/08/26
  • メディア: CD
 

 

 以上のように、本作は「日本沈没」をミクロな視点で描こうとした作品だとは思います。そしてその試み自体は悪くはないでしょう。しかし、気になる点も多いのも事実。まずは脚本ですよ。一応は擁護しましたけど、やっぱり看過できない点は多い。特に終盤のカイトです。あれはラッキー過ぎだし、漂流している歩と剛を母親が迎えに来たときとかも都合が良いです。コミューンの下りも必要だったのかなぁと思いますしねー。さらに歩むの足の下りももうちょっと上手くできなかったものですかね。1話は本当に素晴らしかったんですけどね。絶望感が半端なくて。そして次は作画。途中からちょっと看過できないレベルでひどくなってしまいました。脚本以上に気になってしまいました。
 
 私からは以上です。手放しで絶賛は出来ませんけど、否定はできない。「好きか嫌いか」で言えば「好き」を選ぶ。そんな作品です。とにかく、湯浅監督なりのアプローチで小松左京の「日本沈没」をアニメ化してみせたという一点で、私は興味深く視聴しました。
 
 

2020年秋アニメ視聴予定作品一覧

 もう早いもので、9月も終わりです。夏アニメは新型コロナウイルスの影響を受け、放送作品が激減。代わりに再放送が充実するという思わぬ効果がありました。私個人としては、新作が少なくなったことで、過去の作品を見返す時間ができたことが思わぬ効果でしたが、新作が少ないのはやっぱり寂しいものです。そんな寂しさを感じさせた夏アニメも終わり、秋アニメの視聴予定作品を晒したいと思います。

 

2020年夏アニメ視聴継続作品

「GREAT PRETENDER」

 

2020年秋アニメ視聴予定作品一覧

ひぐらしのなく頃に

「呪術廻戦」

池袋ウエストゲートパーク

「魔女の旅々」

魔王城でおやすみ

「アサルトリリィ Bouquet」

安達としまむら

おそ松さん(3期)」

「神様になった日」

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN」

憂国のモリアーティ」

トニカクカワイイ

「よりぬき銀さん ポロリ篇」

「エデン」

 

 視聴予定の作品はご覧の通り15本。平常より少し多め。やっぱり夏アニメが移動したのが効いてるのでしょうか。

 

 そんな中でも、特に期待しているのはそりゃ何と言っても「呪術廻戦」です。原作既読で、今一番はまってる漫画であること、そして制作はMAPPAで、脚本は「BANANA FISH」や「ドロヘドロ」などで素晴らしい仕事をしてくれた瀬古浩司さん、そして監督はアクションに定評のある朴性厚という、期待値高まる布陣。ファンが言ってるように「鬼滅並みにヒットする!」ことは多分ないと思いますけど、原作の面白さは折り紙つきですので、上手くやればかなり良い作品になるかと思います。ただ、気になるのがクール。キャストを見るに1クールでは少しきついので、2クールが妥当なのですが、まだ発表がないので不安です。

 

 また、動画工房2作品は共に楽しみで、らしくない「IWGP 池袋ウエストゲートパーク」と、山崎みつえ監督の「魔王城でおやすみ」と、両極端な内容に期待です。

 

 他にも、「ひぐらしのなく頃に」は2020年の今、どうリメイクするのか気になるし、ブシロード肝入りの「アサルトリリィ」はシャフト枠、「神様になった日」はだーまえ枠という事で見ますし、「おそ松さん」と「ストライクウィッチーズ」は付き合いで見ます。秋アニメはこんな感じです。例によって、話題や評判で見るアニメを増やしていこうと思います。

見事な完結篇にして、優しいおとぎ話【劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン】感想

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

 
92点
 
 
 2018年の1月から3月にかけて放送され、昨年の9月には外伝も公開された「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の完全新作劇場版にして完結篇。制作はもちろん京都アニメーション。元々今年の1月公開だったのですが、あの事件と新型コロナウイルスの影響で公開が2度延期され、9月にようやっと公開される運びになりました。正直、私は公開には1年ほどかかるだろうと踏んでいたので、年内に公開してくださったスタッフの皆様には感謝しかありません。とりあえず原作は読んでいないのですけどアニメシリーズは全て追っているので、鑑賞しました。
 
 TVシリーズは「武器」として使われ、心を失くしていたヴァイオレットが、ギルベルトが遺した「あいしてる」の意味を探す物語でした。そのためにヴァイオレットは他者の手紙を代筆する自動手記人形の仕事に就き、様々な人と触れ合い、手紙を書き、そこに込められた想いを見つけ、「心」を獲得していきました。「武器」ではなく、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という個人として、「何にでもなれる」と述べた9話で、一応の決着を見たと思います。
 
 『外伝』においては、このシリーズが持っていた「想いを伝える」ことをもう一度描き、同時にTVシリーズでは描写不足だった配達員にフィーチャーしてみせたまさしく外伝と呼ぶにふさわしい、本編の補完的な内容でした。詳しくは感想書きましたので、そっち読んでください(投げやり)。

 

 

 そして公開された本作は、TVシリーズ、『外伝』を含め、包括し、まとめ上げた見事な完結篇だったと思います。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」個人の人生の物語の締めくくりとしてもそうですし、時代の変遷を描いた大河としても、「あいしてる」を探す物語の完結篇としても見事だったと思います。
 
 本シリーズのメインテーマとして、「想いを伝える」ということがあったと思います。そしてその手段として「手紙」がありました。本作で何を「伝える」のかと言うと、ヴァイオレットが見つけた、「あいしてる」という気持ちです。本作は、これをギルベルトに伝える愛の物語です。この点で、本作においては、「距離」が強調されています。それは物理的な距離もそうですが、心情的な距離を表現するために「扉越しの会話」というオーソドックスな演出も見せてくれます。「あいしてる」を見つけたヴァイオレットですが、それを伝えるべきギルベルトとの間には、長い距離があるのです。
 
 そしてこの「距離」の最たるものが「海」だと思います。本作で海は何度も出てきて、重要な要素となっています。そしてヴァイオレットとギルベルトが住んでいる場所は、海で隔てられています。これが最も遠い距離だと思います。そして同時に、この「海」というものは、もう1つの意味も持っていると考えていて、それが「死者が眠る場所」ということです。冒頭と中盤で出てきたように、海ではかつての戦争で亡くなった人を悼む催しが開かれています。これによって、物理的な距離以上に、「死」という乗り越えられない距離が2人を隔てているのです。つまり本作において「海」とは、「物理的な距離」と、「死」という心情的な距離の2つの役割があるのかなと思いました。ただ、これが一気に反転するのがラストなのですけど、それは後で書きます。
 そしてもう1つ印象に残ったのが「不在」の演出。劇中では、何度かヴァイオレットの隣がぽっかりと空いたシーンがあり、それはシネスコのスクリーンを一杯に使って演出されていました。これはヴァイオレットの心が未だに埋まらないことも示していると思います。
 
 そして、ここで視点をもう1つ増やします、ホッジンズです。彼はヴァイオレットを娘のように思っていて、常に気にかけています。なので、彼の隣には常にヴァイオレットがいるのですが、本作はヴァイオレットが彼の隣からいなくなる物語でもあります。それがもう1つの「隣」であり、本作は、ホッジンズの「子離れ」的な話でもあるのです。そして同時に彼は、観客と視点を同化した存在だと思っていて、彼の隣からヴァイオレットがいなくなることに、かなりの喪失感を覚えます。だから花火の時は凄く切なくなる。そしてホッジンズの隣から離れたラストシーンでは、指を繋いで、2人一緒に画面に収まっているのです。この上なく幸せそうな感じで。
 
 「距離」と「不在」という遠すぎる間を繋ぐのは、本作の最重要テーマ、「手紙」です。遠すぎた2人の心を繋ぐのはヴァイオレットが最後に書いた手紙であり、それが「みちしるべ」をBGMにして一気に感情を高め、ラストの超エモーショナル大展開に繋がってくるのです。あのシーンでは「手紙」で伝えた想いと、物理的に2人は近づき、「海」で抱擁します。ここで「死」と「距離」という隔てるだけだった「海」は、2人を繋ぐ中間として機能します。それはさながら、「生命の海」のごとく、「愛」を生む場所となったのかもしれません。全て憶測です。あのシーンは本当に一大スペクタクルだったと思います。
 最後に、本作の構造について。これまで触れてきませんでしたが、本作には2つの時系列があります。ヴァイオレットたちがいる「現在」と、10話に出てきたアンの孫であるデイジーがヴァイオレットの足跡をたどる「未来」です。ぶっちゃけ、デイジー篇は「現在」と言った方がいいのですけど、敢えてこう分けます。デイジーが「過去の出来事」としてヴァイオレットの足跡をたどることで、本作そのものを「御伽噺」化させています。ヴァイオレットの物語を「幸せに暮らしましたとさ」という物語として総括させているのです。
 
 そしてこの物語は、アンへのあの手紙から始まりました。デイジーはヴァイオレットの足跡をたどり、最後に手紙で想いを伝えます。手紙を出すのに使った切手にはヴァイオレットの姿があり、彼女は、まだ人々の想いを伝えているのだと示します。時代が変わっても、変わらないものはあって、それは人の気持ちや想いで、それを伝えあって、人は生きていて、歴史を作っている。そしてその傍らにはヴァイオレットの姿があるのだという、見事な締め括りでした。感無量です。
 
 

 外伝とTV(1話)の感想です。

inosuken.hatenablog.com

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 京アニTVアニメ。

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女性の人生の物語【ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語】感想

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

 

87点

 

 

 ルイーザ・メイ・オルコット原作による、19世紀後半のアメリカを舞台に、ピューリタンである4姉妹の反省を綴った古典「若草物語」。これまでにも幾度となく映画化された古典を、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが映画化。主演は同じく『レディ・バード』で主演を務めたシアーシャ・ローナン。2019年度のアカデミー賞では作品賞を始めとして、6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞しました。アカデミー賞にノミネートされたとあってはそれは観ないわけにもいかず、鑑賞した次第です。

 
 映画は冒頭が大切であるとは常識ですけど、本作の冒頭は、扉の前に佇み、小説家として未来へ進もうとするジョーの後ろ姿です。これが象徴しているように、本作は未来へ進もうとする4姉妹の物語でした。グレタ・ガーウィグは、前作の『レディ・バード』でも半自伝的な内容として、1人の少女が自立した1人の人間になるまで(=半生)を描いていました。この点で本作は、『レディ・バード』と明確に繋がってる作品で、内容的には、レディ・バードが自己を獲得して、社会に出た後の物語とも言えます(演じてるのも̪シアーシャ・ローナンですし)。違う点があるとすれば、『レディ・バード』は1人の半生だったのに対し、本作は4姉妹の4者4様の人生を描いたという点です。

 

レディ・バード [Blu-ray]

レディ・バード [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: Blu-ray
 

 

 本作は2つの時間軸を並行して描いています。1つは4姉妹が成人し、それぞれ別の人生を歩み始めた「現在」、そしてもう1つは4姉妹が一緒に過ごした「過去」です。基本的に4姉妹全員が揃って楽しくやっている過去は全体的に暖色系の色で撮られていて、ノスタルジーを掻き立てられるものになっています。実際、過去で4姉妹+ローリーがわちゃわちゃやっている姿は観ていてとても面白いですし、会話のリズムがよく、本当に楽しそうなんです。撮影では実際に監督がタクトを執って会話の演出をしたらしく、そのおかげもあると思います。
 
 翻って、「現在」は全体的に寒色系で撮られていて、人生の苦境に立たされ、苦労している姿が描かれています。これは楽しかった「過去」と並行して語られることで、「現在」の自分は「過去」に思い描いていたような自分になれているのか、思い通りに人生を生きているのか、という迷いや苦悩をより際立たせています。
 
 4姉妹の生き方というのは女性の多様な生き方を描いていると思っていて、長女のメグは結婚して、家庭を築きたいと思っていて、四女のエイミーはマーチおばさんに思考が近く、現実主義者。三女のエリザベスは体が弱いながらも姉妹を繋ぐ存在で、ジョーは小説家を夢見る女性です。このうち、エイミーとメグは彼女らなりの人生を歩んでいますけど、ジョーは迷走中。ローリーの求愛を蹴って、都会に出たけど上手くいかず、帰ってきたら三女が亡くなってローリーもエイミーと一緒になった。つまり、ジョーは才能はあるけれど、孤独になってしまうのです。「愛」が無いと。だから、ラストでそれを自分でつかみ取った姿が凄く良いわけです。

 

若草物語 1&2

若草物語 1&2

 

 

 本作は「女性の人生の物語」です。だから4姉妹それぞれの人生をフラットに見せたし、男性は脇役。そして、それ故に、ラストで「著作権を渡さない」のだと思います。あのシーンは凄く良くて、というのも、これまでの物語が収められているあの本を渡さないということは、「これは私たちの物語だから」と宣言しているような気がしたからです。しかもその時に編集長に向かって反論しているんですよね。当時は「女性の物語は売れない」と言われていた時代で、そんな時代に反論して、本を自分たちの物語として出版する。そしてこれが多くの女性に力を与えてきたわけで、そういう意味では、この結末は、非常に現代的なものだなと思いました。
 
 他にも、美術が素晴らしかったのはもちろんなのですけど、役者が皆素晴らしかったです。4姉妹はもちろんですけど、みんな会話が活き活きしていて、本当に輝いて観える。これは女優でもあるグレタ・ガーウィグの演出力の賜物でしょうね。しかし、中でも一番素晴らしかったのはティモシー・シャラメですよ。失恋してダメ人間になってる姿が本当に最高で、でもダメ人間なのに美しさが損なわれておらず、寧ろ耽美的ですらあるという・・・。本当に奴は俺と同じ人種なのか?いや、違うのだろう。総じて、「現代版の古典文学映画」として、これ以上は無い作品でした。
 
 

 ガーウィグ監督作。

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 これも人生の話だね。

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「一生懸命になる」事は素晴らしい【のぼる小寺さん】感想

のぼる小寺さん

 
72点
 
 
 「good!アフタヌーン」にて連載されていた、珈琲先生原作のちょっと変わったスポーツ青春漫画が原作の青春映画。監督は『ロボコン』などの古厩智之さんで、脚本は『リズと青い鳥』や『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』等、アニメ作品を多く執筆している吉田玲子さん。私は例によって直前まで存在は知らず、公開前からSNSを中心にして話題になっていたことで知り、今年は日本映画をなるべく観たいと思っているため、鑑賞しました。
 
 本作は「小寺さん」というボルダリングを懸命に頑張っている女子生徒を中心にして、彼女に感化された人たちが「何かに一生懸命になる」作品です。そこに結果を伴うことは重要ではありません。小寺さんのように、目の前の「壁」に向かって頑張る姿こそ素晴らしいと、本作は、「何かに夢中になる」ことを全力で肯定してくれる作品なのです。だから、本作が絶賛される理由は納得です。

 

ロボコン

ロボコン

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 この点で、本作とは好対照をなす作品があります。それは同じく青春映画であり、個人的には傑作だと思っている『桐島、部活やめるってよ』です。この作品と本作は、いくつかの点で相似点があり、同時に決定的に違う点があります。まず、同じ点では、「誰か1人に周囲の人間が影響を受ける」こと、「何かに夢中になれる」ことこそが最も大切なであり、そこに意味や結果はないのだというテーマです。しかし、この相似点は、『桐島』とは表裏一体の関係です。
 
 『桐島』では、「桐島」という「イケてる奴」の究極みたいな存在にすがることで自身の存在意義を見出していた奴らが、桐島が部活を辞めたことで存在意義を見出せなくなり、右往左往することで、桐島など関係なく、「好きなこと」をやっている前田君を始めとする映画部の尊さが出てくる作品でした。しかし、本作では、「中心」にいる小寺さんはどちらかと言えば前田君よりの人間で、ボルダリングに夢中になっています。そんな彼女を中心となって周りが照射され、一生懸命になる姿を全肯定して描き、「一生懸命になる事は素晴らしい」と謳っているのです。これは、『桐島』でそこまで描かれていなかった存在である、「頑張っても駄目な人もいるんだよ」と言った、バドミントン部の彼女や、バレー部の彼とかを救済する話なのです。つまり、本作は『桐島』の逆パターン映画であり、同時に同種の映画でもあるのです。
 
 本作がこのような作品であるため、小寺さんを「見る」シーンが印象的でもあります。そしてそれは映画内の登場人物だけではなく、我々観客にも言えることです。本作は、登場人物が小寺さんを見ているであろう主観ショットが頻発し、観客にも、「頑張っている」小寺さんの姿を見て、影響を受ける登場人物たちと同じ気持ちを抱かせているのです。この点で、本作は観客巻き込み型映画でもあります。劇中の台詞でもありましたが、「一生懸命」になれば、結果はついてこないかもしれないけど、何かは変わるんです。それらは無駄にはならないのです。そんなことを、本作は我々観客にも伝えようとしています。
 ただ、内容的にはとても良い事を描いている作品だと思ったのですけど、イマイチ乗り切れなかったのも事実です。それは単純に比較対象が『桐島』だったからってのもあるのですけど、それ以上に私の学生時代に関係しています。私は学生時代は帰宅部で、「頑張らなかった」奴なんですよね。そんな俺が「頑張っている」ことが素晴らしいと謳う本作を観てしまうと、どうにも申し訳ない気持ちになるんです。「あぁ、俺、頑張らなかったなぁ」って。まぁ、頑張るほど好きなこともなかったってのもあるんですけど、それにしても、頑張ってる人間を横で見ているくらいだったので。「頑張ってることは素晴らしい」って、そりゃそうだけど、じゃあ頑張らなかった俺の学生時代って、何なんだろうなって思ってしまいました。すいませんね、何か。
 
 

凄い作品だとは思うけど【ダークナイト(IMAXリバイバル上映)】感想

ダークナイト

 
78点
 
 
 クリストファー・ノーランの大出世作。公開時には全世界から大絶賛が相次ぎ、その頃から「歴史的な傑作」とまで言われていた作品です。影響は絶大で、ノーランは本作で「『メメント』の一発屋」から、一気に「巨匠」の領域まで行った感がありますし、本作以後、「アメコミ映画」の在り方まで変えました。私の世代的には、本作からノーランに入った人間が多いと思います。私も高校生の時にBlu-rayで観て、その時は「凄い映画だなぁ」と思った記憶があります。今回、新型コロナウイルスの影響で新作映画の公開が滞ってしまいスクリーンに空きがでたこと、そして9月18日に公開される『TENET』に合わせて、まさかのIMAXでのリバイバル上映が決定。初めて映画館で鑑賞しました。
 
 鑑賞してみると、実のところ、そこまで最高な気分にはなりませんでした。寧ろ、「あれ?こんなに粗がある作品だったけ?」と思ってしまったくらいで、少し驚きです。また、ノーランの他の作品も鑑賞してみると、本作はかなり奇跡的なマジックが重なり合ってできた作品であるということも分かりました。もちろん素晴らしい点はあるのですけど、気になる点もあったということで、その辺を書いていきたいと思います。

 

メメント [Blu-ray]

メメント [Blu-ray]

  • 発売日: 2010/12/22
  • メディア: Blu-ray
 

 

 まず素晴らしかったのは、ヒース・レジャー演じるジョーカーです。基本的に本作は彼で持ってる作品で、彼が出ているシーンは全てが良く、一挙手一投足が素晴らしい。彼の役割も「人間の善悪を揺さぶる」というもので、これはアラン・ムーア著の「キリングジョーク」のようだと思いました。彼はバットマンやデントとは違い、ルール無用の存在で、抽象的で、正体不明。「善悪を揺さぶる」概念のような存在で、だからこそ最強なのです。そしてこのようなテーマを扱っているが故に、「ダークナイト・トリロジー」の特徴である「リアル化」にも意味が生まれてきます。「映画内のこと」が「リアル化」によって、「現実」にいる我々とも共有され、我々の倫理観をも揺さぶってくるからです。これをさらに突き詰めたのが『ジョーカー』だと思うんですよね。
 
 そしてもう1つは「ゴッサムシティを主役にした」ことです。上述のように、本作のメインは「ジョーカーのゲームに、ゴッサムの市民はどう反応するのか」です。つまり、主役はバットマンでも、ジョーカーでもなく、市民なのですよね。これを最大限に活かすのに貢献しているのが、IMAXカメラです。ここぞというときにIMAXになるのですけど、空撮とかはバシッと街全体を見せます。これで「ゴッサム」という街が印象付けられ、本作に「特別な感じ」を抱かせます。
 
 更に素晴らしい点は、「バットマン」という作品を、『ヒート』のようなクライム・アクションにした点です。ノーラン自身が「参考にした」と言っているように、本作はバットマンとジョーカーの一騎討の話であり、実際に取調室でのシーンは『ヒート』でのアル・パチーノロバート・デ・ニーロみたいでした。というか、ノーランって、デビュー作の『フォロウィング』とか、『インソムニア』、『プレステージ』で、こういう「男と男の一騎討」みたいな作品を作ってるんですよね。本作はノーランがこれまで作ってきたこの手の作品の自己アップデート版なのだと思います。

 

ヒート 製作20周年記念版(2枚組) [Blu-ray]
 

 

 ただ、本作には気になる点もあって、まずは脚本ですよ。上映時間です。150分は長すぎ。後、ジョーカーのゲームがあまりにも上手くいきすぎだってことと、話の筋が回りくどいと感じました。更に、デントが悪墜ちする下りも唐突だったし、全体的に、「やりたいことをブチ込むための話作り」をしてんなぁってのが見えてしまいました。
 
 でも、これ、ノーラン作品の中ではどれも抱えている問題なんですよね。少なくとも本作以前は。それでも本作が素晴らしいと思えるのは、やはりテーマ的なものと、IMAXカメラという撮影、そしてヒース・レジャーが上手くはまったからなのかなと思います。この辺がマジックで、次の『ライジング』ではこれがかかっていなかった感があります(私は擁護したい派なんだけど)。以上ですかね。
 
 

 ノーラン作品たち。

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我々を「不寛容」から解き放つ【その手に触れるまで】感想

その手に触れるまで

 
89点
 
 
 『少年と自転車』、『午後8時の訪問者』などの、ダルデンヌ兄弟最新作。実は私、本作が初のダルデンヌ兄弟作品です。ダルデンヌ兄弟の作品は前から観てみたいと思っていましたし、本作に関しても絶賛評を目にしたので、鑑賞しました。
 
 ダルデンヌ兄弟が今回題材としたのは、イスラム教の過激な思想に傾倒してしまった少年の姿でした。この手の作品だと、思想を「矯正」することを主眼としそうなものなのですけど、本作に関しては少し違いました。本作は、アメッド少年という、ただのゲーム好きの少年が如何にして過激な、排外的な思想にのめり込んだのかを、アメッドに寄り添う形で見せていく作品で、アメッド少年はもちろん、我々観客すらも「不寛容な思想」から解放させていく作品でした。
 
 「過激な思想に傾倒した人」と言えば、どこか「特別な人」と見てしまうことがあります。あくまでも、自分たちには関係ないと。しかし、本作で描かれているアメッド少年は、過激な思想に傾倒する前はただのゲーム好きな少年でした。そんな彼の姿を、本作では淡々と追っていきます。本作では、アメッド少年を「間違った存在」として断罪しません。あくまでもアメッド少年に寄り添っています。

 

少年と自転車 [DVD]

少年と自転車 [DVD]

  • 発売日: 2015/05/20
  • メディア: DVD
 

 

 彼が思想にハマる要素は複雑で、色々な理由がありますが、1つには幼く、未熟故の偏狭な世界観があります。13歳ですから、まだ世の中のことを知らないのは当然なのですが、それ故にネットにある伝道師動画を信じ、悪徳な伝道師に騙され、世界の見方をそれだけに固定させ、犯罪に走ってしまう。そして、自分が正しいと思っているから、他人に価値観を押し付け、それを悪いことだとは微塵も思わず、寧ろそれによって疎外感を強めていく(ルイーズの下りとか)という負のスパイラル。これは、イスラムの過激思想に限らず、世の中の排外的な思想や運動全体に繋がってくると思います。つまり、世の中を単純化し、「1つの正しい考え」に固執し、それ以外を拒絶するという。
 
 「固定」と言えば、本作のアメッド少年は、眼鏡をかけていて、犯罪に及ぶとき、それを固定しています。私にはそれが、彼の「偏狭な世界観」を表現しているように思えました。だからこそ、最後で転落して、眼鏡を失くしたとき、彼は初めて、世界を「自分の目で」見たのかもしれないと思いました。ならば、彼の本当の更生は、ここから始まるのだと思います。
 
 このように、本作は、1人の少年の姿を、断罪するのでも、批判的に描くのでもなく、淡々と描いた作品でした。そして、その姿を描くことで、不寛容な姿勢を生む構造を分析し、我々観客を不寛容から解き放つ作品だったと思います。
 
 

 不寛容つながり。

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 こちらは差別の歴史かなぁ。

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