暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2023年8月に見た新作映画の感想②

No.78『タイラー・レイク 命の奪還2』 82点

 クリス・ヘムズワースのフィジカルを活かしまくった最先端長回しアクション映画の続編。本作は序盤で約30分くらいの長回しアクションを見せてくれる。また、その他のアクションも空間の使い方、アクションの組み立て方など見事。アクションという1点では眼福な作品。

 しかし、ドラマ面はよく分からない。いや多分、「有害な男性性」からの脱却の話だと思うんだけど、それにしてはクリヘムは別にケアするわけでもなくまた戦地へ戻っていくため、「これまでのドラマは何だったん・・・?」となる。まぁ、このシリーズは最早どれだけ凄いアクションをやるのか、が全てなので、あんまり気にはしてないけども。

 

No.79『リボルバー・リリー』 30点

 期待はしていた。最近の東映は『孤狼の血』で往年の東映映画を復活させたり、アニメーション映画でも成功を収め、乗りに乗っている。まぁ『レジェンド&バタフライ』はアレだったが、本作も予告見る限りでは頑張ってそうだし。で、見てみたらこれがまた酷い映画でね。ビックリしたよ。

 まずはアクション。本作は主人公がリボルバーを使うので、基本的にガンアクションになるわけだけど、組み立てとかに一切ロジックがない。とにかく綾瀬はるかがバンバン撃てば百発百中で相手が倒れる。「シティーハンター」か!アニメなら許せるけど、実写でそれをやるな。しかも謎の不殺主義。一応、中盤に大きな一対多数の銃撃戦があるわけだけど、それも基本そんな感じだから全く盛り上がらない。しかも、途中、『戦艦ポチョムキン』オマージュだか何だか知らんけど、「赤ん坊が戦地に入ってくる」とかいう目を疑う展開が起こる。思わず俺は笑ってしまった!それで綾瀬はるかは負傷!馬鹿か!そして陸軍は弾も切れて絶好の機会の綾瀬はるかたちを放置して撤退。馬鹿か!?ハリウッドでは『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』、日本でも『ベイビーわるきゅーれ』が作られている今、このクオリティのガンアクションを見せられても困るんだが?終盤の霧の中のアクションもただ見にくいだけで、状況を活かしたアクションができていないので退屈。後、最後の適地の突破もただ突っ込んでいくだけって、もう何度言ったか分からないが言わせてくれ、馬鹿か!!まぁここまでくるとこの映画をまじめに見るだけ損だと分かってるので、もうギャグとして見てた。

 肝心の脚本も酷い。『グロリア』をやりたいんだろうけど、綾瀬はるか羽村仁成の間で絆が深まっていく過程が大して描かれない(というか、羽村君は最初から割と素直)し、彼女からどう影響を受けて成長したかが不明。後、清水尋也の下りとか馬鹿すぎだし、綾瀬はるかたちは羽村君を好きに行動させすぎて攫われまくってる。無能か!ちなみに、陸軍はもっと無能。無能VS無能だから出来の悪いコントを見せられてる気分になる。最後も何か平和がどうのとか言ってたけどさ、結局、軍に金の情報渡してんじゃねーか!しかも結局愚かな開戦をすることは史実として決まってるので、あの頑張りは一体なんだったの?としか思えない。

 まぁ酷い映画だったけど、良かったのは美術と綾瀬はるかかな。特に一番最初のアクションは良かったよ。というかさ、綾瀬はるかは動ける女優なんだから、もっといいアクション映画作ってくれよ。彼女主演の本格アクション映画、本気で見たいんですけど。

 

No.80『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』 87点

 「肉体の変化/進化」を描いてきたボディホラーの巨匠、デヴィッド・クローネンバーグの最新作は、肉体へのフェティシズムが全開になった超ド変態映画でした(歓喜)。

 肉体が進化し、人々が痛みを感じず、感染症も克服した未来。そこで新しい臓器を生成できるヴィゴ・モーテンセンは、レア・セドゥと組んでアート活動をしていた。しかし、そこへ秘密機関の手が忍び寄る・・・。という話らしい。一応、諸々の要素はよく分かるんだけど、話の中身についてはボンヤリしている。正直、私もよく分かってない。しかし、本作にはそれすら気にならなくなるくらいのフェティシズムがある。後、レア・セドゥがとてもセクシー。

 本作は基本設定が設定なので、肉体への破壊行為が結構描かれる。だから絵面はグロい。しかし、そこには官能的な色気が漂っている。肉体への破壊行為が、セックスと同じように描かれているのである。ここだけでもうやられてしまった。ヘンテコガジェットも全開。ビジュアルのインパクトも相当ある。本作から、クローネンバーグの肉体への止まらない賛美と祝福を感じた。こんな映画は唯一無二だと思うし、それだけでだいぶ満足してしまったので、私の負けです。

 

No.81『ミンナのウタ』 78点

 GENERATIONSに欠片も興味は無いけど、評判が良いので鑑賞。そしたら久々に映画館で「ちゃんと怖いJホラー」を見ることができて、大満足でした。

 話自体はオーソドックスで、とある少女の怨念がこもったカセットテープによってGENERATIONSのメンバーが1人ずつ消えていく…というやつ。さらに、映画の中の要素も、清水監督の過去作から惜しげもなく流用し(本作はかなり『呪怨』みたいな話)、それをちゃんと怖く演出してる。偉い。序盤はそうでもないけど、マキタスポーツの語りから徐々に怖さが増していって、「家」が出てきてからのボルテージの上がりっぷりが最高だった。印象に残るのが「繰り返し」の演出。お母さんが迫ってくるシーンは、恐怖と驚きで鳥肌立った。また、ジャンプ・スケアも中々キマッてる。

 また、本作はGENERATIONS全員が本人役で出演しているアイドル映画だけど、自然と複数人集まる理由になってたり、キャラ付けもちゃんとされてるのでそれが見やすさにつながってたりと、それが上手く機能してる。

 唯一の不満点は、マキタスポーツ。かなり記号的な「ガサツな昭和親父」キャラで、探偵役以上のものはない。意図的なんだろうけど、もう少し何とか味付けできなかったのかな。家族の不和設定とか特に要らない気がした。

 

No.82『SAND LAND』 76点

 鳥山明が「ドラゴンボール」終了後に発表した短期集中連載作品の映画化。原作をこの機に読んだうえで鑑賞しました。

 本作は舞台設定は架空だけど、ミリタリー描写はリアル。そしてそこに「悪魔」というファンタジーを入れてる。ただ、この設定はプラスアルファでしかなく、本作で鳥山先生がやりたかったのは老兵が自身の犯した罪に決着をつける西部劇であり、戦車に代表されるミリタリーであることは明白。以前、鳥嶋和彦が鳥山先生のことを「人ではなくずっと車とか戦車とか描いていたい人」と言っていたけど、原作はこの趣味性が炸裂していた。この点で本作を3DCGにしたのは効果的で、鳥山明の描く緻密な戦車を簡略化させることなく動かせている。また、戦車戦は非常に力が入っていて、戦車の戦術が細かく描かれ、勝利のロジックがよく分かるようになっている。

 本作において「悪魔」はプラスアルファだけど、彼らがいることで、この物語に深みが出てる。本作の真の「悪」は人間で、情報統制を敷き、誤った情報を流して偏見を広め、自らの私腹を肥やしている権力者。それを「悪」であるベルゼブブを通して語らせることで、人間の正義と悪がよりはっきりと浮かび上がるようになってる。後、道中のやり取りがとても面白い。これは主にチョーさんの力に依るところが大きい。

 原作と比較すると、本作はかなり上手くアレンジが加えられている。原作は鳥山先生の興味のあることとないことの差がハッキリしてる出来で、最後の虫人間との対決なんて本当に取ってつけたようなバトルだった。しかし、本作ではベルゼブブの物語の中で果たす比重が大きくなっていて、特に最後のバトルは単純に数を増やして大バトルをやっている。また、最後はあっさり決着がついた原作と比べ、本作は最後の展開がかなりアレンジされ、良くなってる。最後なんて、ラスボスとラオのそれこそ西部劇的な一騎打ちもある。

 原作から既に簡単にはいかない善悪、偏見から生まれる意外な展開など、見所が多かったのですが、映画化にあたり、大幅にアレンジを加え、テーマをよりはっきりとさせるだけではなく、作品全体のボリュームも増やした良作だったのではないでしょうか。興行的に爆死したらしいけど、全然良い映画だと思います。

 後、今時、権力者をこうも悪役然として描く映画、珍しいと思う。正直、この映画で似たようなことが現実の政治で起こっていたりするので、直接風刺したのではないにせよ、もっとこういう風に権力を打ち倒す的作品が増えてもいいと思うんだよな。