☆☆★(2.8/5)
GAノベルから出版されている原作を基にした作品。元々はAmazon Kindleの自費出版作品を基にし、大幅加筆の上で出版されているそうです。自費と無料公開という違いはありますが、なろう系と似たようなルートを辿っている作品と言えます。監督はガイナックスに在籍していたこともあり、『ベルセルク』三部作や「はるかなレシーブ」を監督した窪岡俊明さん。制作は「はるかなレシーブ」と同じくC2C。シリーズ構成を筆安一幸さんが務めます。
私が視聴を決めたのは、本作の題材にあります。本作の主人公は魔女であり、舞台も中世なのですが、題材が短編連作で、しかも「旅」とくれば、何を連想するでしょう?そう、「キノの旅」ですよ。タイトルも似ているし、これは「キノの旅」の一ファンとしては両作品がどう違うのかを見極めなければならないなと思い、視聴した次第です。後、「はるかなレシーブ」も好きだったしね。
アニメの放送中から、散々「ジェネリックキノの旅」という非常に失礼極まりない呼ばれ方をされていた本作ですけど、「キノの旅」とは結構差別化もされていて、そんなに「ジェネリック」でも「劣化版」でもないなと思った次第です。そもそも、「キノの旅」だって言ってしまえば「銀河鉄道999」とか、星新一作品の影響を受けてますしね。
本作は短編連作という形態をとっています。話のバリエーションは寓話的なものから、訪れた国の事件や問題に首を突っ込んでいく流れ者的なものまであり、物語の結末もハッピーエンドからバッドエンドまで多岐にわたります。この話の中には、後味は悪いものもありますけど、「キノの旅」のようにえげつない結末を迎える話は少なく、それが「ジェネリック」と言われてしまった理由だと思います。さらに、物事の結末を台詞で全て説明してしまっている点も、その印象に輪をかけているのだと思います。
本作で面白かったのは、タイトルです。「魔女の旅々」なんですよね。「イレイナの旅」ではない。作中ではイレイナ視点で話が進むことがほとんどで、しかもナレーションから考えるに、これは「イレイナが書いた本」が元になっているフシがあります。この語りの多重構造も興味深いのですけど、注目すべきはイレイナが影響を受けたという「ニケの冒険譚」です。あの本は、話が進むにつれて実はイレイナの師匠・フランの師匠・ヴィクトリカが書いたものだと判明します。そして、フランの物語も、別の場所で本になって読まれているそうです(これはフラン的には黒歴史だそうですが)。つまり、本作には様々な「魔女の旅」があるわけです。そして、それらが紡がれていって、またイレイナのように旅に出ている魔女もいます。だからこそ、タイトルが「旅々」なのだと思います。そしてこの点が、「キノの旅」と違う点でもあります。
「キノの旅」は星新一的であり、メインは「国」なんですよね。しかし、本作のメインはイレイナを始めとする「魔女」です。本作は「キノの旅」的な短編連作でありながら、フォーカスされているのが「キャラ」なのです。だから最終話では「16人のイレイナ(本渡楓さんの演じ分けが圧巻)」という超展開が始まり、「あり得た自分」を救済する話になります。こちらでも、「魔女の旅々」であるといえます。つまり本作は、色々な国や人に会う連作短編でありながら、最終的には「魔女」イレイナ個人の物語としてそれらが昇華されるのです。これは2回のTVアニメが「世界」そのものについての話になった「キノの旅」とは真逆だなと思います。