暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

言葉通り「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」【デッド・ドント・ダイ】感想

デッド・ドント・ダイ

 

86点

 

 

 『パターソン』を監督したジム・ジャームッシュ。彼の次作は、何とゾンビ映画。日常をオフビートな笑いを交えて描いてきた彼がゾンビ映画を撮ると聞いたときはビックリしたのですけど、「ジム・ジャームッシュが作るゾンビ映画」は大変興味があったので鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみた結果、本作は紛れもない「ジム・ジャームッシュ映画」でした。「ゾンビ映画」というジャンルに対するリスペクトはあれど、基本的にはジャンル映画のフォーマットと借りてジム・ジャームッシュが遊び倒した作品。それが本作です。

 

 まず、本作の基本的なストーリーを追ってみると、立派な「ゾンビ映画」です。とある村でパニックが広がり、住民全員がゾンビになってしまう。そしてオタクは「ゾンビ映画の定番だ!」とテンションを上げて立て籠もり、警官らは事態を傍観するしかなく、ゾンビを倒しつつ街を回る。そしてラストにはジム・ジャームッシュ監督からの、本当に取ってつけたような「メッセージ」が「観測者」によって語られます。このメッセージも、現代の資本主義への警鐘をしている(ように)見えます。そして本家の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にも似た感じのテーマはあったと思います。

 

 

 ただ、本作は、とにかく「ゆるい」そして、「適当」で、いい加減なのです。都会から来た都会っ子たちは村に来るまで尺を取った割に即効でゾンビに殺されるし、立て籠もったオタクと黒人はあっさりと殺され、差別主義者の白人も差別発言に決着をつける素振りもなく殺されます。そして救世主っぽい感じを出していたティルダ・スウィントンは何をするでもなく、ゾンビを何人か斬り殺した後に何故かUFOで脱出します。彼らから分かる通り、本作は序盤で張られた伏線を全く回収することなく、映画が終わるのです。

 

 しかも本作は、とにかく「ゆるい」映画です。冒頭、「THE DEAD DON’T DIE」がかかったときのビル・マーレイアダム・ドライバーの会話とか、終盤の2人の会話とかもそうですし、最初の犠牲者が発見されたときの3人の繰り返しのギャグもそう。とにかく全編に亘って弛緩した空気が漂っているのです。この点からは、ジム・ジャームッシュがとにかく遊んで撮っているんだなというのが伝わってきますし、彼のこれまでの作品の雰囲気です。

 

 適当だしゆるい作品ですけど、実はジャームッシュなりの世界観が出ています。それはパンフレットでも語られている通り、「世の中の人間は皆ゾンビだよ」ってこと。彼はスマホを見ながら徘徊している人間を見て、「ゾンビみたいだな」と思い、そこから本作のアイディアが生まれたそうです。そして彼はこの世の中と大人には期待してなくて、「悪い結末にしかならない」と思っているのです。そしてそんな世界からは「脱出」するしかないのです。UFOに連れ去られるとか。しかし、彼はどうやら子供には期待しているらしくて、ラストで孤児院から「脱出」させています(彼ら彼女らがどうなったかも描かない。ここも適当)。後は最初から世界に属していない世捨て人くらいですね。この世界で正常なのは。そういう映画なんだと思います。そしてこれは、「ゾンビ映画」っぽく、ジャームッシュ作品でもあります。つまり本作は、「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」として見ると、確かに面白いと思います。

 

 

 ジャームッシュ映画。

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 和製ゾンビ映画

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ハリウッド映画数本分の濃さがある特盛映画【サーホー】感想

 

94点

 

 

 『バーフバリ』2部作で国際的なブレイクを果たしたプラバース。彼の主演最新作です。私は『バーフバリ』は大変楽しく観たのですが、別にプラバースのファンになったわけではありませんでした。それでも何故本作を観たのかと言うと、予告が面白かったから。荒唐無稽なアクションが連続して続き、外連味しかない演出、そしてプラバースのカリスマ的なカッコよさを目の当たりにし、近年のインド映画の出来から、「これは愉快な映画に違いない!」と思い、鑑賞した次第です。ちなみに、緊急事態宣言解除後、初めての映画です。

 

 鑑賞してみると、事前の予想の遥か上をいく荒唐無稽な、しかし圧倒的な熱量と破壊力で我々の度肝を抜く痛快娯楽エンタメ作品でした。

 

 本作を観て圧倒されるのは、何と言ってもアクションです。本作のアクションは普通のアクション映画のスケールを遥かに超えています。序盤こそ普通のアクションにテルグ語映画得意のスローモーションという外連味が乗った感じでした。しかし、ストーリーが進むにつれてアクションが多様になっていきます。というか、ハリウッド超大作のアクションを何本分も盛り盛りにしたようなアクションが連続します。具体的には、アクションのスケールはマイケル・ベイで、やっていることは『ミッション・インポッシブル』とか『マッドマックス』、そしてMCU映画を彷彿とさせるスーパーガジェットなんです。そしてこれらがオリジナルと同じくらいの熱量で展開されます。なので、本作を観ると、映画2,3本分を観たかのような満足度を得ることができます。

 

バーフバリ2 王の凱旋(字幕版)

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 そしてこれらのようなアクションがただ続くのではなく、荒唐無稽なれど撮影とか美術とかCGとかがしっかりしているせいなのか分かりませんが、バカバカしくないのです。きちんとしたリアリティを以て観ることができます。完全に常軌を逸しているにもかかわらず、面白く、素晴らしいのです。

 

 そして本作のストーリーも荒唐無稽で素晴らしい。2転、3転、というか、ほとんど「嘘も方便でしょ!」とでも言わんばかりの超展開の連続なのです。「サーホー」の意味が分かった瞬間、本作の全てが反転します。ここは本当に衝撃的で、私は危うく、映画館で声を出しそうになりました。それくらいビックリしました。伏線は張っていたとはいえ、生半可な映画ではこの反転は「ご都合主義」と受け取られそうなところ、勢いとノリで押し切っていて、それがまた大変素晴らしい。そして最終的な帰結が結局、「王の帰還」である点も、プラバースでしかできない内容で、少し笑ってしまいましたが、同時に体が震えるほど感動しました。いや本当、あのシーンの高揚感は異常。

 

 以上のように、本作は素晴らしい作品でした。決して練り込まれた脚本ではありません。しかし、大盛りのアクションのつるべ打ちを真剣にやっている作品で、しかも悪い奴らも皆やっつけられる痛快娯楽作でした。娯楽作として素晴らしい作品でした。

 

 

 『バーフバリ』2部作。

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 感動路線。

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ブログを開設して3年が経ったという話

はじめに

 皆様。こんばんは。いーちゃんです。いつも私のブログ、「暇人の感想日記」を読んでくださり、ありがとうございます。おかげさまで、当ブログも開設から3年が経ち、4年目を迎えることができました。昨年の記事を書いた頃は「月にアクセス数3000いければいいなぁ」とボンヤリ考えていたのですが、昨年の夏に金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』とともに放送された『透明人間』の影響で、『ちいさな英雄』の記事にアクセスが集中。それ以降はブログへのアクセス数そのものが上昇し、現在は1日に300~600、月だと15000はいけるようになりました。いや本当、ここまで書き続けてきた成果が身を結んだ感じです。

 

 アクセスの傾向としては、映画の記事よりも、アニメの記事へのアクセスが多くなりました。特に毎クールごとのTVアニメですね。「注目記事」に出ている記事を見てもアニメばかりで、映画の感想も書いているブログであることなど忘れてしまうレベルです。しかし、ここまでこのブログが成長したのも皆様のおかげです。本当にありがとうございます。重ね重ね、御礼申し上げます。

 

 さて、今回の記事では、例によってこの1年で印象的な記事を挙げていきたいと思います。昨年までは特に数の指定はしていなかったのですけど、今回は10前後にします。キリがないので。

 

 

『凪待ち』 2019年8月14日

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  まずは『凪待ち』です。何故この記事なのかと言うと、香取慎吾さん主演だからということもあり、Twitter上でめちゃくちゃバズったのです。そしてそのおかげでアクセス数が上がりました。改めて彼の人気の高さを思い知りました。

 

『ジョーカー』 2019年10月13日

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  2本目は『ジョーカー』。私にとっては素晴らしい映画でした。社会の最下層に生きる男が、その鬱憤を爆発させるという大問題作。映画そのもののクオリティはもちろんですが、アーサーが感じていたことは、私が感じていたことでもあり、そこに自分自身の危うさを感じさせてしまう作品でした。衝撃度でランクイン。

 

「学ぶことの楽しさ」を思い出させてくれる漫画「ほしとんで」の感想 2019年11月6日

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 「ほしとんで」の感想記事です。何故この記事なのかといえば、はてなブログのお題に参加し、それが週刊はてなブログで取り上げられたのです。かなりビックリしましたが、同時に嬉しくもありました。

 

『羅小黒戦記』 2019年12月7日

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  中国製アクションアニメ。「NARUTO」を彷彿とさせるカッコいいアクションの連続。昨年の大発見作品で、3週間前にチケットを買って観に行ったのが良い思い出。早くディスク出ないかな。

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑭』 2019年12月14日 

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  「俺ガイル」最終巻の感想記事。これまでずっと付き合ってきた作品をリアルタイムで完結を迎えるのは久しぶりでした。本作はラノベにおける「ラブコメ」を脱構築した作品で、それについての私見を書けたという意味で思い出深い記事。

 

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』 2019年12月27日

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  私の怒りが爆発した記事。今でも『スター・ウォーズ』をイチ「商品」に貶めたディズニーのことは許せない。

 

『2010年TVアニメ各年のベスト作品&ベスト10』 2020年3月27日

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  以前からやりたかった、2010年代のTVアニメのランキング記事。2010年代の私のアニメ歴を振り返ることも出来、書いている間は楽しかったです。こうしてランキングを作って、簡単な感想を書いてみると、私の好みも浮き上がってきたようです。

 

『映像研には手を出すな!』 2020年3月29日

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  今年ベストアニメの筆頭作品。そして私の「監督:湯浅政明」という理想が現実になった作品でもある。内容が素晴らしすぎたので載せます。

 

 『魔術師オーフェンはぐれ旅』 2020年4月18日

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  「往年の名作リメイク作品」の1つ。この手の作品は、きちんと作ればファンもついてくるのに、ダメな出来になってしまい、新規のファンから「やっぱ古いのはダメだな」と言われてしまうことがままあります。本作もそれです。この手の作品は誰かが「ダメだ」と言わないとファンは悶々とするだろうと思い、「言わなければ」と謎の使命感が芽生え、書き上げた記事。多くのファンの方々から賛同の意見をいただき、SNS上で拡散されました。

 

イエスタデイをうたって』 2020年7月18日

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  最後は最近の記事を。この記事を選んだのは、初めて他の方のブログで引用されたから。自分の記事を肯定的に引用していただけるのはとても嬉しかったのですが、同時に少し気恥ずかしくもありました。

 

 

おわりに

 はじめにでも書きましたが、当ブログは開設より3年が経ち、これから4年目を迎えます。それも読んでくださっている皆様のおかげです。これからも、当ブログを、何卒よろしくお願いいたします。

洗練されたロマコメ【ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから】感想

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから

 

89点

 

 

 NETFLIXオリジナル映画。緊急事態宣言発令時に鑑賞。理由は単純で、「話題になってたから」。監督はアリス・ウー。何とデビュー作『素顔の私を見つめて・・・』から15年振りの監督作のよう。てっきり新人監督だと思ってました。

 

 本作のジャンルはロマンティック・コメディに該当すると思います。ストーリーは非常にオーソドックス。とある女の子に片想いしている子がいて、その子が別のアメフト男子に協力してラブレターを代筆するというもの。ベタですらあります。どうやら大元となった古典的な劇があるそうです。しかし、本作はそれでも素晴らしく面白い作品でした。

 

 まず、本作はオーソドックスなストーリーを基にしつつ、現代的に内容を変化させています。主人公のエリーが片想いしているのは学年のアイドル的存在の美少女アスター、つまりエリーはレズビアンなわけです。昔だったら主人公と代筆を頼む人間は同性だったと思うし、代筆していた側が好きになって三角関係がこじれるとかあると思うのですけど、本作はLGBTQの要素を入れて、その上で古典的な代筆モノをやっているのです。

 

 

 そして、本作における関係性も「恋人」とか1つに決めつけず、もっと大きな意味合いの関係性として描いていました。それは冒頭の「愛とは自分の片割れを見つけるもの」という考えから、関係性を「愛」という言葉ではなく、名前が付けられない大きな関係性として描いている点が良いなと思いました。また、ポールに良いところが見つかっても、エリーは別に(恋愛的な意味で)好きになるでもなく、ずっと対等な関係として接していたのも現代的だなぁと思います。

 

 さらに、本作は撮影が面白くて、冒頭の「片割れを探す」という台詞からか、前半は左右対称な、シンメトリックな構図が多かった印象です。また、編集も良くて、中盤の3人が教会にいるシーンでの、エリートアスターの視線が合ったと思わせておいて実は違っていたという編集は、エリーが感じている切なさを感じさせる素晴らしいシーンでした。

 

 他にも、本作の中にある膨大な引用、そしてクスッと笑えるコメディセンスなど、全てが行き届いている作品で、非常に品の良い作品だったと思います。

 

 

ロマコメ。

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 大人のマリッジストーリー。

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奪還と救済の物語【タイラー・レイクー命の奪還ー】感想

タイラー・レイク -命の奪還-

 

82点

 

 

 NETFLIXオリジナルのアクション映画。配信開始時は日本では緊急事態宣言が発令され、映画館が軒並み閉館していました。そんな中配信された本作は映画ファンの間では「久々の新作映画」という扱いになり、配信時はその内容で盛り上がっていた記憶があります。私としても映画秘宝でその存在は知っていましたし、映画館で観る映画もない状況だったので、本作を鑑賞した次第です。

 

 本作のあらすじは単純明快。バングラディシュのダッカ麻薬王に誘拐されたインドの麻薬王の息子を救出し、麻薬組織の包囲網を抜けてバングラディシュから脱出する。これだけです。このシンプルな筋立てに、ドラマと新鮮なアクションを盛り込み、しっかりとした娯楽作品に仕上げていました。

 

 本作の目玉は、何と言ってもアクションです。圧倒的なフィジカルを持つクリス・ヘムズワースがその力を遺憾なく発揮しています。そしてそれに加えて、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のルッソ兄弟作品でスタントを担当している、監督のサム・ハーグレイブのアクション演出の凄まじさが、本作を見応えのあるアクション映画に仕上げています。

 

 圧巻なのは中盤の12分間の疑似ワンシーン・ワンショットです。『1917』のような登場人物たちをずっとカメラが追っているものなのですが、本作ではアクションということもあり、状況が目まぐるしく変わります。カーアクションを寄ったカメラで撮っていたかと思ったら、手持ちのまま登場人物を追って集合住宅に入って肉弾戦、そしてそこからさらに移動してカーアクション、という感じです。これを疑似的ながらもワンシーン・ワンショットでやっているため、緊張感と臨場感が半端ではない。何でも、監督のサム・ハーグレイブさんは『アトミック・ブロンド』のあの階段のシーンを撮った人だそうです。本作はあらゆる意味であのシーンの拡張版と言えると思います。

 

 

 アクションは、ここ以外でも見所はたくさんあります。その凄まじさたるや、別次元の『ジョン・ウィック』です。ただし、向かってくるのは殺し屋だけではなく、麻薬カルテルと警察と昔の友人です。それらの人が四方八方からタイラーを殺しに来るわけです。そしてそれらを多彩なアクションでなぎ倒す姿は痛快です。

 

 また、ドラマ面でも良くて、タイラーの過去と現在がリンクして、タイラーの遺志が、1人の少年に生きる希望を与える物語だったと思います。

 

 「溺れるのは川に落ちるからじゃない。沈み続けるからだ」本作の象徴的な台詞です。この台詞と呼応するかのように、映画の冒頭とラストで「落下と浮上」が繰り返されます。しかし、その意味は違っています。最初のタイラーの落下は、人生を虚無的に生きている彼の姿を描いていましたが、ラストのオヴィのそれは、諦めから「落下する」のではなく、そこから自分の意志で「浮上」します。これはタイラーが示した姿に、オヴィ自身が感化され多結果でしょうし、タイラーの過去を考えれば、彼は本当の意味で救われたのだと思います。故に本作は、「親子の物語」とも言えるのです。

 

 

 サム・ハーグレイブ監督がアクション監督をした作品。

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 ルッソ兄弟作品。

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2018年春アニメ感想⑨【ゲゲゲの鬼太郎(第6期)】

https://pbs.twimg.com/media/EZaZjvzVAAEpHB4?format=jpg&name=medium

 

☆☆☆☆★(4.6/5)

 

 

 水木しげる先生原作の国民的漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の6度目のアニメ化作品。1968年に第1作目が放送され、本作が放送開始した2018年はTVアニメ化50周年の記念の年となりました。制作はもちろん東映アニメーション。監督は『プリキュアオールスターズ New Stage』の小川孝治さんで、シリーズ構成は大野木寛さん。

 

 私の「ゲゲゲの鬼太郎」に対する熱意は程々でして、原作はある程度読み、TVアニメも全話しっかりと見たのは第4シリーズと第5シリーズのみです(後は「墓場鬼太郎」がありますが、これは除外します)。後の3シリーズはCSでたまたま放送されたのを見たり、Youtubeで公開されている各シリーズの1話を見た程度です。なので、今回の感想で過去のシリーズと比較する場合、4,5期と比較してものを言っています。後はWikipediaの知識。すいませんね。そんな私ですが、新作が放送されればそれは見るので、今回も視聴した次第です。

 

 結論から書けば、本作は素晴らしい作品でした。おそらく、スタッフが「今の時代に「鬼太郎」を蘇らせるならば、何を語るのか」を真剣に考えて作っていることが伝わってくる作品だったからです。今回の感想では、私が素晴らしいと感じた4つの点について、分けて書いていきたいと思います。

 

 

 まず1つ目が、「妖怪と人間の共生」というテーマの貫徹です。過去のシリーズでもそのテーマは繰り返し描かれてきましたが、それは主に各話で完結していて、最終的な結論としてはなあなあで終わっていたケースが多かったと思います。しかし、本作では犬山まなという人間側の主人公を配置して、鬼太郎が徐々に心を開いていくという過程を丁寧に描いています。

 

 本作の鬼太郎はドライ&クール。本作では初めて水木の存在が言及され、その恩返しとして人助けをやっているという設定が付加されています。しかし、過去作以上に約束を守らない、妖怪に対して何の反省もない人間には容赦なく裁きを下します。基本的には人助けをしますが、過去のシリーズよりも妖怪と人間のバランサーとしての側面が強調されています。

 

 犬山まなは、鬼太郎と初めて出会い、心を通わせていく存在です。とにかく良かったのは、まなが鬼太郎に恋心を抱かなかった点で、どこまでも対等な「友達」として共にいます(その代わり、猫娘に夢中)。

 

 今作の鬼太郎は上述の通りドライで「人間と妖怪は近づかない方がいい」と言っているのですが、徐々にまなと近づきます。そして、鬼太郎は彼女と交流することで、「妖怪と人間の共生」ができるかもしれないと思い始めるのです。ここから、本作の鬼太郎は、最初から完璧なヒーローではなく、「共生」という夢を見られない人物だったのだと分かります。本作の肝は、この鬼太郎がまなと交流し、「共生」という理想に希望を持ち始め、同時に、この点にシリーズ最高レベルで悩み通すという点です。

 

 話の基本的な流れこそ過去のシリーズと似通っていて、妖怪が起こした事件と共に、各話毎に人間の愚かしさやどうしようもなさも描かれている点も共通です。しかし本作が過去のシリーズと違うなと感じる点は、このエピソードを1話完結にせず、1つ1つ積み重ねていって、バランサーとしての鬼太郎の苦悩を描いている事です。そこには鬼太郎に対する「妖怪のくせに人間の味方ばかりして!」というこれまた繰り返し描かれてきたことに対して、真っ向から向かい合う姿勢が見られます。鬼太郎が人間を助けるのは人間の良い点を知っているからで、妖怪を助けるのも妖怪の良い点を知っているからです。しかし、双方を知らない身からすれば、「悪い人間」「悪い妖怪」という偏見が生まれ、分断が広がる。そしてそれは、今、世界中で課題となっている問題へと繋がっていきます。

 

 

 素晴らしかった点の2つ目は、「社会風刺としての鬼太郎」です。「ゲゲゲの鬼太郎」はヒーローものというイメージが強いですが、原作は風刺色が強い内容で、TVアニメも1作目、2作目はその傾向が強いそうです。ただ、ヒーロー路線に舵を切った第3作目からヒーローとしての側面が強くなったそう。4,5作目に関しては自然破壊や環境汚染はやりましたけど、そこまで風刺色は強くなかった記憶があります。

 

 しかし、本作では一転して、時事ネタをふんだんに盛り込み、風刺色をかなり強く押し出しています。そのため、各話も妖怪の特性を上手く活かして現代的にアップデートしてみせています。アベノミクスや水道民営化問題、黒塗り文書、「自衛」という名のもとの特別法案、働き方改革外国人労働者ルッキズム、戦争の記憶、等々です。そして本作(というより、TVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」全体)のテーマである「妖怪と人間の共生」に関しては、今世界で問題になっている「分断」が重ねられています。妖怪を「他国もしくは他の民族」のメタファーとして描いているのです。過去のシリーズでもこの点は描かれていましたが、ここまで突っ込んで描いたことは無かったのではないでしょうか。

 

 素晴らしかった点の3つ目は、ぬらりひょんです。4作目ではコミカルすぎて敵役というよりは「ポケモン」におけるロケット団みたいな奴で、5作目は本当に「ライバル」でしたが(「鬼太郎を殺せるのはワシだけだ」とか言っちゃうの好き)、本作ではこの2作とも違い、現代的な「悪」でした。というのも、本作のぬらりひょんは、「妖怪の復権」を目的とし、人間を排除しようとする存在で、自らは直接手を下さず、裏で糸を引いて「分断」を煽る存在だからです。秀逸なのは89話で、手の目の犠牲を上手く使って檄文をばらまくという策略を見せたときは舌を巻きました。アメリカのトランプ大統領や、日本でもこういう風に分断を煽っている奴らはいくらでもいます。ぬらりひょんは彼ら彼女らのような差別主義者と似通っています。また、彼はこういう現実にいる奴らのように、自分たちとは違う存在への恐怖や怒りを煽り、利用しているのです。この点で、本作のぬらりひょんは非常に現代的な「悪」だと思うのです。この点もテーマの補強になっています。だからこそ、憎しみや憎悪ではなく、皆の力で勝利してみせたラストにはグッとくるわけですが。

 

ゲゲゲの鬼太郎 DVD-BOX1

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 素晴らしかった点の4つ目は、「長期シリーズを見越した構成」です。「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズは1話完結のオムニバスのため、終わるときはやや唐突に終わる印象があります。5作目に至っては長期シリーズに舵を切った途端に打ち切りにあいました。本作ではその反省を活かしたのか、最初からテーマを定め、それに沿ってストーリーを構築しているのです。それは最初の3話で既に現れていて、私見では、他のシリーズが1話でやっていることを3話かけてやっているのです。つまり、事件起きる→妖怪ポストに手紙出す→鬼太郎来る→ねずみ男が絡む→鬼太郎ファミリー勢揃い→敵をやっつけるという要素を3話に分けているのです。つまり、1話は鬼太郎と目玉の親父しか出ず、鬼太郎について掘り下げが行われます。2話では猫娘ねずみ男が話の中心に来て、3話ではファミリーが勢揃いして妖怪城を倒すのです。

 

 最初の3話が終わった後はバラエティの富んだ話が積み重ねられ、同時に章ごとに大きな目標が設置されています。「名無し篇」や、「西洋妖怪編」、「地獄の四将」、そして「ぬらりひょん篇」です。そしてこれらの中でシリーズ全体のテーマも語られます。これはこれまでのシリーズではあまり見られなかった要素なのではないでしょうか。強いて言うならば5作目でしょうが、アレは打ち切りにあってしまったし。

 

 以上のように、本作はシリーズ恒例のテーマ「妖怪と人間の共生」を現代的に描き直すことに成功した作品だと思います。ギャラクシー賞を受賞したそうですが、当然の評価かなと思います。他にも、ねずみ男の扱いが5作目よりも上がって良かったとか(特に終盤は鬼太郎とまなとねずみ男の話だったと思う。「戦争なんて腹が減るだけだ!」の水木先生リスペクトも最高だった)、本筋以外の話も良かったとかアクション演出が凝ってて見応えがあったとか(ちなみに、感心した回は全て小泉昇さんの回)、鬼太郎たちの能力が良い感じに強化されてたりとか、猫娘が素晴らしかったとか色々あります。総じて大満足です。

 

 

同じく何度もアニメ化されている作品。

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 思えばこれも調停役の話。

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孤独な彼女の救済【ジュディ 虹の彼方に】感想

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85点

 

 

 『オズの魔法使い』にドロシー役として主演し、ハリウッドの黄金期を代表する女優であるジュディ・ガーランド。本作は彼女の伝記映画です。私が本作を鑑賞しようと思ったのは、単純に主演のレネー・ゼルウィガーアカデミー賞主演女優賞を受賞し、話題になったから。ちなみに『オズの魔法使い』は大昔に絵本で読んだことはありますが、映画を最初から最後まで通しで観たことはありません。多分。

 

 本作はジュディ・ガーランドの伝記映画ですが、内容は彼女の最晩年、イギリスのナイト・クラブ「トーク・オブ・ザ・タウン」での公演を描いたものとなっています。時代は1968年。彼女にとっての全盛期が過ぎ、今や薬に体を蝕まれて映画出演のオファーはなくなり、それでもステージに立とうとする姿を描いています。

 

 本作はジュディと観客の関係性についての映画だと思っています。それは冒頭から示されていて、本作は、いきなり子ども時代のジュディがこちらを向いていて、後ろからMGMのボス、ルイス・B・メイヤーに話しかけられているというシーンから始まります。ルイス・B・メイヤーの言葉巧みな話術でジュディは「向こう側」に行ってしまうのですが、そこから彼女の地獄が始まるわけです。スターになったは良いものの、過酷なスケジュールをこなすために薬を使って強制的に体系を維持させられたり眠らせられたり、とにかくもう滅茶苦茶です。そして回想の中で幼いジュディがいるのは全てセットの中で、ほぼ全てこのようなパワハラシーンばっかり。ジュディがケーキすらもまともに食べることができない子どもだったと描かれます。これを観てしまうと、ジュディが体を壊したのも納得してしまいます。観客はこの虐待を以て制作された作品を享受してしまっているのです(責任は無いけど)。

 

 

 ジュディは孤独です。色々な大人に囲まれて育ちましたが、本当に自分を愛してくれている人はわずかでした。親は虐待に積極的に加担し、寄ってくる大人は下心丸出し。恋人はアレな人が多く(良い人もいた)、仕方ないとはいえ子どもも取り上げられてしまいます。そんな彼女が、誰と心を通わすのか。それはファンでした。それが印象的に描かれているのがゲイのカップルとの交流と、その2人が「虹の彼方に」を歌い出すというラストです。余談ですが、ジュディはゲイのアイコンとしても扱われていたらしく、それを反映させたシーンだそう。あのシーンは、ステージを見に来ているファンは、少なくとも本当に彼女のことを愛しているんだ、ということをファン側から示したシーンで、分断されていたジュディとファンを繋いだものでした。あのシーンで、ジュディはファンからは本当に愛されていたのだと知り、それによって、辛かったであろう彼女の人生に少しだけ救いが見えたと思います。そしてこれはファンにとっても救いになることで、ファンはその人を好きで、応援することこそ、その人のためになるのだとも示されていると思います。彼女は、ステージに立っている時だけは、孤独ではなかったのです。

 

 また、本作の注目すべき点としては、やはり主演のレネー・ゼルウィガーでしょう。生前のジュディとはあまり似ていない彼女ですが、立ち居振る舞いや歌うときの姿勢で、完璧にジュディになりきっています。本作は彼女の独壇場です。


 また、映画的にも素晴らしい点が多く、冒頭の長回しとか、「虹の彼方に」を歌うまでの溜めの上手さとか、ジュディが歌っているときのカメラワークとかです。特に歌っている時が重要で、ちゃんと最初から最後まで映しているのです。ここが本当に素晴らしい。後はケーキの反復です。ジュディがラスト付近でようやくある程度心を通わせた人たちと食べる姿を観て、私は本当に感動しましたよ。

 

 

伝記映画。

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 イギリス繋がり。

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 ハリウッド繋がり。

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