暇人の感想日記

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映画は凄い!と思わせられる傑作!!【カメラを止めるな!】感想 ※ネタバレあり

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97点

 

 

はじめに

 本作を知ったのは、町山智浩さんの「アメリカ流れ者」でした。そこで彼が絶賛していたので、興味を持っていました。この時点では「時間があったら観るか」程度の興味でした。ですが、公開されてみたら評判が評判を呼び、劇場は毎回満席御礼状態で、評価は高くなる一方。そうなると気になるのが人情というもの。私の行動範囲内の映画館でようやく上映が開始したので、さっそく鑑賞してきました。

 

『ONE CUT OF THE DEAD』の衝撃

 結論として、めちゃくちゃ面白かったです。非常にウェルメイドな映画であると同時に、「映画」そのものの可能性も感じさせてくれる傑作でした。

 

 本作は2回始まります。劇中の番組『ONE CUT OF THE DEAD』、そして本編『カメラを止めるな!』の2本です。最初の『ONE CUT OF THE DEAD』ですが、これは正直、反応に困りました。それまで日常を送っていたのに、急にゾンビに襲われ、知ってる人間が1人1人ゾンビになっていく恐怖感とか、建物に立て籠もるとか、結局怖いのは人間とか、所謂「ゾンビもの」の定番は押さえているし、何より37分ワンカットというチャレンジングな試みは観ていて面白かったです。しかし、所々違和感があるのです。時々会話の中で変な間が出るし、その会話もぎこちない。しかも、脈絡なくストーリーが展開されます。しかもどんどん映画がヒートアップしていって、明らかにワンカットとして失敗だろうと思える事件が起こったりします。町山さんの解説を聞いていたので、これが二重構造のフェイクだということは分かっていたのですが、これをどう次に繋げていくのか全く見当がつかず、観ていて困惑しました。正直、最初は「学生が作った映画みたいだなぁ」と思っていたのですが、途中で「そういえばこれ、監督養成スクールの企画でできた奴なんだよなぁ」ということを思い出し、「だからこのクオリティなのか」と、絶賛されているにも関わらず、最後まで楽しめるか不安になってしまいました。

 

視点の切り替えによる笑い

 しかし、この違和感は全てこの後の展開のための種まきだったのです。この時抱いた違和感は、この次に始まる『カメラを止めるな!』で完璧に回収されます。この映画に変わったことで、映画のジャンルそのものもゾンビ映画」から映画製作の裏側のドタバタを描いた「喜劇」に変わり、場内は爆笑の渦に包まれます。

 

 この映画の笑いは、主に「視点の切り替わり」です。さっきまで我々が「ゾンビ映画」だと思っていたものが、視点を変えてしまえばこんなにも滑稽に見えるなんて、というギャップで笑わせているわけです。映画というものは、作り方で次第でいくらでも物事の捉え方を変えることができます。故に、この「視点の切り替わり」だけで笑わせるというのは、非常に映画的なんじゃないかなぁと思います。

 

 さらに、この構造がめちゃくちゃ効いています。この二重構造により、後半は前半の舞台裏を描いていますので、後半の時点で我々は「何が起こるのか」がもう分かっている状態なのです。なので、自然と関心が「あの時はどうやって撮ったんだ?」という点に集中するわけです。そして、その1つ1つが分かっていくにつれて、笑いと同時に、登場人物たちの情熱、そして狂気が浮かび上がってくるのです。そしてそれらが結実するのがラストの組体操。組みあがるまでは爆笑の渦でしたが、いざ完成したものが映ると、「みんなの力で映画を作っている」ことを画的に表現したシーンに見えて、泣けてきました。パンフレットを読むと、あそこは皆演技を忘れて組体操を必死にやっていたそう。だからかな。このシーンに代表されるように、本作にはいくつか「現実」が入ってきています。上述のトラブルシーンは本当にトラブルだったものを勢いに任せて撮り続けたからこそできたものらしいですし、真魚さん演じる真央は、本当に真央みたいな人らしいです。本作はこのようなトラブルすらも味方につけ「映画」にしてしまっているのです。

 

入り混じる「現実」と「映画」

 本作の「次元の層」も面白いなと思いました。本作には、いくつかの層があります。まず、冒頭の「ゾンビ映画」。そして、『ONE CUT OF THE DEAD』、そして『カメラを止めるな!』。さらに、『ONE CUT OF THE DEAD』を観ているプロデューサーたち。劇中だけで4つの層があります。さらに観客、制作陣も含めると6層です。面白いと思ったのは、観ているうちに、これらの層が入り混じっていく点です。

 

 冒頭の「ゾンビ映画」は『ONE CUT OF THE DEAD』と入り混じり、そしてこちらも『カメラを止めるな!』と入り混じります。『カメラを止めるな!』は初っ端から監督が役者として日頃の鬱憤を相手の役者にぶつけるという破壊行動(笑)をとることで崩れ、「晴美さんから逃げる」という劇中の出来事が「本当に」起こることで、映画が「現実」となります。そして、劇中のスタッフが本物の制作陣とダブります。さらに、プロデューサーの層が観客の視点と同化することで、この層の垣根も無くなっていきます。最終的に、全ての層が映画の中に取り込まれるのです。上述の破壊行動(笑)のときに監督が「本物をくれよ!」と言っていましたが、まさにそれが起こっているのです。

 

秀逸なドラマ

 さらに、ドラマ面にも抜かりが無く、本作には「何かを諦めてしまった人間がもう一度立ち上がって何かを成し遂げ、尊厳を取り戻す」という、きちんとドラマがあります。しかもそれを台詞に頼らず、ちょっとした仕草や小道具で語らせているあたりも超クール。タイトルである『カメラを止めるな!』には、序盤のワンカットの意味もあるのかもしれませんが、「何かを諦めるな!」という意味も持っているのかもしれません。だとしたら、なんて前向きな映画なんだ。