暇人の感想日記

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言葉通り「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」【デッド・ドント・ダイ】感想

デッド・ドント・ダイ

 

86点

 

 

 『パターソン』を監督したジム・ジャームッシュ。彼の次作は、何とゾンビ映画。日常をオフビートな笑いを交えて描いてきた彼がゾンビ映画を撮ると聞いたときはビックリしたのですけど、「ジム・ジャームッシュが作るゾンビ映画」は大変興味があったので鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみた結果、本作は紛れもない「ジム・ジャームッシュ映画」でした。「ゾンビ映画」というジャンルに対するリスペクトはあれど、基本的にはジャンル映画のフォーマットと借りてジム・ジャームッシュが遊び倒した作品。それが本作です。

 

 まず、本作の基本的なストーリーを追ってみると、立派な「ゾンビ映画」です。とある村でパニックが広がり、住民全員がゾンビになってしまう。そしてオタクは「ゾンビ映画の定番だ!」とテンションを上げて立て籠もり、警官らは事態を傍観するしかなく、ゾンビを倒しつつ街を回る。そしてラストにはジム・ジャームッシュ監督からの、本当に取ってつけたような「メッセージ」が「観測者」によって語られます。このメッセージも、現代の資本主義への警鐘をしている(ように)見えます。そして本家の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にも似た感じのテーマはあったと思います。

 

 

 ただ、本作は、とにかく「ゆるい」そして、「適当」で、いい加減なのです。都会から来た都会っ子たちは村に来るまで尺を取った割に即効でゾンビに殺されるし、立て籠もったオタクと黒人はあっさりと殺され、差別主義者の白人も差別発言に決着をつける素振りもなく殺されます。そして救世主っぽい感じを出していたティルダ・スウィントンは何をするでもなく、ゾンビを何人か斬り殺した後に何故かUFOで脱出します。彼らから分かる通り、本作は序盤で張られた伏線を全く回収することなく、映画が終わるのです。

 

 しかも本作は、とにかく「ゆるい」映画です。冒頭、「THE DEAD DON’T DIE」がかかったときのビル・マーレイアダム・ドライバーの会話とか、終盤の2人の会話とかもそうですし、最初の犠牲者が発見されたときの3人の繰り返しのギャグもそう。とにかく全編に亘って弛緩した空気が漂っているのです。この点からは、ジム・ジャームッシュがとにかく遊んで撮っているんだなというのが伝わってきますし、彼のこれまでの作品の雰囲気です。

 

 適当だしゆるい作品ですけど、実はジャームッシュなりの世界観が出ています。それはパンフレットでも語られている通り、「世の中の人間は皆ゾンビだよ」ってこと。彼はスマホを見ながら徘徊している人間を見て、「ゾンビみたいだな」と思い、そこから本作のアイディアが生まれたそうです。そして彼はこの世の中と大人には期待してなくて、「悪い結末にしかならない」と思っているのです。そしてそんな世界からは「脱出」するしかないのです。UFOに連れ去られるとか。しかし、彼はどうやら子供には期待しているらしくて、ラストで孤児院から「脱出」させています(彼ら彼女らがどうなったかも描かない。ここも適当)。後は最初から世界に属していない世捨て人くらいですね。この世界で正常なのは。そういう映画なんだと思います。そしてこれは、「ゾンビ映画」っぽく、ジャームッシュ作品でもあります。つまり本作は、「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」として見ると、確かに面白いと思います。

 

 

 ジャームッシュ映画。

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 和製ゾンビ映画

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