暇人の感想日記

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愛は制度ではなく、互いを想う合う心【マリッジ・ストーリー】感想

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95点

 

 

 初ノア・バームバック。そしてスカーレット・ヨハンソンアダム・ドライバーのW主演作。存在を知ったのは、例によって町山智浩さん経由。劇場でも公開された作品ですが、タイミング的に合わず、私はNETFLIXで鑑賞しました。

 

 鑑賞してみて、これは参ったと思いましたね。ストーリーはもちろんのこと、撮影、美術、そして主演2人の演技、その全てが素晴らしい作品だったのです。総合的な出来ならば、私のような未熟な人間ですら分かるほどに、今年ベストレベルでした。

 

 本作は仲睦まじかった夫婦が離婚調停をするさまを描いた作品です。しかし鑑賞してみれば、立派な『マリッジストーリー(=結婚の話)』であることが分かります。それは「結婚」という制度に縛られるのではなく、真の意味で互いを理解し合い、思いやり合うことを意味します。本作は2人(と言うか、チャーリー(アダム・ドライバー))がこの地点に至るまでをあくまでコミカルに描きます。

 

 本作は役者が素晴らしいです。まずはニコール役のスカーレット・ヨハンソン。近年は『アベンジャーズ』ばっかり出ていた彼女ですが、元々は演技派であり、その実力を遺憾なく見せてくれます。圧巻なのは劇中何回かある長回しローラ・ダーンとのやり取りですが、感情の起伏を表情豊かに演じていて、もう画面に引き付けられましたよ。また、彼女が纏う「自立した女優」っぷりも堂々たるものでした。

 

 

 そして何と言ってもアダム・ドライバーです。本作は基本コメディで、そのコメディ要素を一身に引き受けているのも素晴らしいのですが、何よりも彼の「分かってない感」が本当に素晴らしい。これは脚本の上手さにも関係していると思うのですけど、本作は奥さんの離婚の理由を本編のかなり早い段階で明かしてしまうのです。この手の映画は離婚理由は終盤で明かされて、それで2人は仲睦まじい関係に戻るor離婚を受け入れる、みたいな話が多いと思うのですが、本作はそうせず、早い段階で明かしてしまうことで、旦那の方の「分かってない感」をよりはっきりと描いています。しかもそれは、「意思を尊重しているようでいて、結局は軽視している」という世の中の男性の問題点そのものの内容なので、説得力が凄い。

 

 この「分かってない感」がきちんと説得力を持って描かれることで、本編の多くの部分である、2人のすれ違いに関して、より切なくもおかしい気持ちで観ることができます。ニコールは、ただ自分の意思を尊重してほしいだけなのに、チャーリーは無自覚にニコールの意思を無視している。この点こそが最大の問題なのに、チャーリーは尊重している「つもり」で、問題を問題として自覚していないのが観てて辛い、というか、ちょっと可笑しくすらあります。これは本作が基本的にコメディだからでしょう。

 

 「結婚」というのは、制度によって成り立っているものです。法律で決められているからこそ、2人は結婚していて、夫婦として認められます。しかし、本作はこの常識に対して、疑問符を突きつけます。「別に制度に縛られていなくてもいいじゃないか」と。たとえ制度に縛られずとも、真の意味で相手の意思を尊重することができてさえいれば、それは「愛」だし、そうしてこそ、真の意味での「結婚」なのだろうと本作は訴えます。本作は離婚の話ですが、すれ違っていた夫婦(と言うか、チャーリー)がこの点に気付くまでの物語であり、だからこそ、『マリッジストーリー』なのだと思います。

 

 

 アダム・ドライバー主演映画。こちらも素晴らしい。

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 これもある意味で結婚の話、なのか?

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