暇人の感想日記

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2020年冬アニメ感想①【映像研には手を出すな!】

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☆☆☆☆★(星4.7)

 

 現在、月刊スピリッツにて連載中の、大童澄瞳先生原作の漫画「映像研には手を出すな」のアニメ化作品。監督は「四畳半神話大系」や「DEVILMAN cry baby」の湯浅政明。私は原作に関してはラジオなどで評判を聞いて読んではいました。そしてその頃から「これをアニメ化するとしたら、監督は湯浅政明しかいない!」と思っていたため、それが叶った本作には期待しかなく、今期どころか2020年最も楽しみにしていた作品でした。

 

 本作の主題は「アニメーション制作」です。同じような題材のTVアニメだと思いだされるのが2014年にTVアニメが放送され、現在劇場版が公開中の「SHIROBAKO」です。しかし、あちらが「社会の中の仕事としてのアニメーション制作」を描いていたのに対し、本作で描かれているのはより純粋な、「アニメーションを作りたい」というプリミティブな衝動です。つまり本作は現在公開中の作品である、『音楽』に近いものがあると言えます。

 

 

 映像研3人中、この衝動を持っているのは2人いて、1人は設定厨の浅草氏、もう1人はアニメーター志望の水崎氏です。浅草氏は空想力豊かな人間で、「最強の世界を作る」という想いの下、日常のあらゆるものからイマジネーションを得てアニメーションに落とし込んでいきます。その姿はさながら国民的アニメーション監督である宮崎駿のようです。そして水崎氏は自身の理想とする動きを追求したいという人物です。動きを研究し、それをアニメーションに昇華する。その動機と想いの丈を描いた7話は素晴らしいものでした。そして本作の凄い点は、このような純粋な衝動だけではなく、収益や広報などのマネジメント方面にも力を入れて描いている点。それを担うのが最後の1人、金森氏です。

 

 そして舞台も、彼女たちの衝動を叶えるために設定されています。アニメーション業界と言えばブラックな業界であることは周知の事実ですけど、本作の舞台は社会ではなく、生徒会が絶大な権力を持っている、警備部という名の治安部隊がある、ヘンテコな部活が多い、など、独自のルールがあるかなり奇抜な高校の中です。しかも時代は2050年。映像研は最初こそ自分たちだけでアニメーションを作っていましたが、実績を出し、それによって信頼を得て、次作からは校内の多くの部活と提携して制作依頼をかけ、相手に意図を説明し、協力してアニメーションを制作していきます。社会人なら身に染みて分かると思いますけど、「部活」を「協力会社」に置き換えれば、これはそのまま「仕事」を描いているということができると思います。つまり、この高校という舞台によって、彼女たちをモラトリアムという箱庭の中で守ったまま、「アニメーション制作」をさせることが出来ているのです。

 

 そして本作は、「アニメーション制作」の一連の流れもしっかりと描いてくれます。それは「制作して、観客に届け、見た観客がどう感じるのか」という点です。本作の制作パートはアニメーション制作における演出の蘊蓄とか、それを阻もうとする権力側の横暴などの障壁(この点もお仕事アニメっぽい)をしっかりと描きつつ、アニメーションを見た観客が感じ取ったことまで描いているのです。例えば、4話で思わず出た「すげぇ」って声や、最終話で観た人間全員の頭の中で浅草氏が想像した世界が出来上がっていく様子などです。これは7話で水崎氏が言っていた「分かる人に届ける」ということが実現したということであり、これが入っているからこそ、本作は感動的になったのだと思います。

 

 

 本作が素晴らしい作品になったのは、原作が持つ上述の要素と、アニメーション監督である湯浅政明監督の強みが完璧にマッチしたからだと思います。原作は上述のようなアニメーションを作るという衝動をそのまま漫画にした画期的な作品でした。対する湯浅政明さんはどうかと言えば、これまで自由自在なアニメーションを作り続け、作品全体から「アニメーションの楽しさ」が感じられるものを作ってきた方です。本アニメではこの自由さは浅草氏の空想で発揮されています。「アニメーションの楽しさ」を追求した来た監督が「アニメーション制作の楽しさ」を描いた作品を作る。本作がこのような素晴らしい出来になるのは必然だったと言えます。

 

 以上のように、本作は「SHIROBAKO」とは違った意味で「アニメーション制作」をしっかりと描いた作品でした。そしてまた、本作は高校に入学してすぐに出会った3人が信頼を深め、「仲間」になったり、浅草氏がアニメーション制作を通して相互理解を学んだりといった青春アニメ的な子どもの成長物語的な側面も十分に持っている作品で、全方位的に隙のない作品でした。今年ベストです。

 

 

湯浅監督作品その1.

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 湯浅政明作品その2

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 湯浅政明作品その3.

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