暇人の感想日記

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2018年春アニメ感想⑨【ゲゲゲの鬼太郎(第6期)】

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☆☆☆☆★(4.6/5)

 

 

 水木しげる先生原作の国民的漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の6度目のアニメ化作品。1968年に第1作目が放送され、本作が放送開始した2018年はTVアニメ化50周年の記念の年となりました。制作はもちろん東映アニメーション。監督は『プリキュアオールスターズ New Stage』の小川孝治さんで、シリーズ構成は大野木寛さん。

 

 私の「ゲゲゲの鬼太郎」に対する熱意は程々でして、原作はある程度読み、TVアニメも全話しっかりと見たのは第4シリーズと第5シリーズのみです(後は「墓場鬼太郎」がありますが、これは除外します)。後の3シリーズはCSでたまたま放送されたのを見たり、Youtubeで公開されている各シリーズの1話を見た程度です。なので、今回の感想で過去のシリーズと比較する場合、4,5期と比較してものを言っています。後はWikipediaの知識。すいませんね。そんな私ですが、新作が放送されればそれは見るので、今回も視聴した次第です。

 

 結論から書けば、本作は素晴らしい作品でした。おそらく、スタッフが「今の時代に「鬼太郎」を蘇らせるならば、何を語るのか」を真剣に考えて作っていることが伝わってくる作品だったからです。今回の感想では、私が素晴らしいと感じた4つの点について、分けて書いていきたいと思います。

 

 

 まず1つ目が、「妖怪と人間の共生」というテーマの貫徹です。過去のシリーズでもそのテーマは繰り返し描かれてきましたが、それは主に各話で完結していて、最終的な結論としてはなあなあで終わっていたケースが多かったと思います。しかし、本作では犬山まなという人間側の主人公を配置して、鬼太郎が徐々に心を開いていくという過程を丁寧に描いています。

 

 本作の鬼太郎はドライ&クール。本作では初めて水木の存在が言及され、その恩返しとして人助けをやっているという設定が付加されています。しかし、過去作以上に約束を守らない、妖怪に対して何の反省もない人間には容赦なく裁きを下します。基本的には人助けをしますが、過去のシリーズよりも妖怪と人間のバランサーとしての側面が強調されています。

 

 犬山まなは、鬼太郎と初めて出会い、心を通わせていく存在です。とにかく良かったのは、まなが鬼太郎に恋心を抱かなかった点で、どこまでも対等な「友達」として共にいます(その代わり、猫娘に夢中)。

 

 今作の鬼太郎は上述の通りドライで「人間と妖怪は近づかない方がいい」と言っているのですが、徐々にまなと近づきます。そして、鬼太郎は彼女と交流することで、「妖怪と人間の共生」ができるかもしれないと思い始めるのです。ここから、本作の鬼太郎は、最初から完璧なヒーローではなく、「共生」という夢を見られない人物だったのだと分かります。本作の肝は、この鬼太郎がまなと交流し、「共生」という理想に希望を持ち始め、同時に、この点にシリーズ最高レベルで悩み通すという点です。

 

 話の基本的な流れこそ過去のシリーズと似通っていて、妖怪が起こした事件と共に、各話毎に人間の愚かしさやどうしようもなさも描かれている点も共通です。しかし本作が過去のシリーズと違うなと感じる点は、このエピソードを1話完結にせず、1つ1つ積み重ねていって、バランサーとしての鬼太郎の苦悩を描いている事です。そこには鬼太郎に対する「妖怪のくせに人間の味方ばかりして!」というこれまた繰り返し描かれてきたことに対して、真っ向から向かい合う姿勢が見られます。鬼太郎が人間を助けるのは人間の良い点を知っているからで、妖怪を助けるのも妖怪の良い点を知っているからです。しかし、双方を知らない身からすれば、「悪い人間」「悪い妖怪」という偏見が生まれ、分断が広がる。そしてそれは、今、世界中で課題となっている問題へと繋がっていきます。

 

 

 素晴らしかった点の2つ目は、「社会風刺としての鬼太郎」です。「ゲゲゲの鬼太郎」はヒーローものというイメージが強いですが、原作は風刺色が強い内容で、TVアニメも1作目、2作目はその傾向が強いそうです。ただ、ヒーロー路線に舵を切った第3作目からヒーローとしての側面が強くなったそう。4,5作目に関しては自然破壊や環境汚染はやりましたけど、そこまで風刺色は強くなかった記憶があります。

 

 しかし、本作では一転して、時事ネタをふんだんに盛り込み、風刺色をかなり強く押し出しています。そのため、各話も妖怪の特性を上手く活かして現代的にアップデートしてみせています。アベノミクスや水道民営化問題、黒塗り文書、「自衛」という名のもとの特別法案、働き方改革外国人労働者ルッキズム、戦争の記憶、等々です。そして本作(というより、TVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」全体)のテーマである「妖怪と人間の共生」に関しては、今世界で問題になっている「分断」が重ねられています。妖怪を「他国もしくは他の民族」のメタファーとして描いているのです。過去のシリーズでもこの点は描かれていましたが、ここまで突っ込んで描いたことは無かったのではないでしょうか。

 

 素晴らしかった点の3つ目は、ぬらりひょんです。4作目ではコミカルすぎて敵役というよりは「ポケモン」におけるロケット団みたいな奴で、5作目は本当に「ライバル」でしたが(「鬼太郎を殺せるのはワシだけだ」とか言っちゃうの好き)、本作ではこの2作とも違い、現代的な「悪」でした。というのも、本作のぬらりひょんは、「妖怪の復権」を目的とし、人間を排除しようとする存在で、自らは直接手を下さず、裏で糸を引いて「分断」を煽る存在だからです。秀逸なのは89話で、手の目の犠牲を上手く使って檄文をばらまくという策略を見せたときは舌を巻きました。アメリカのトランプ大統領や、日本でもこういう風に分断を煽っている奴らはいくらでもいます。ぬらりひょんは彼ら彼女らのような差別主義者と似通っています。また、彼はこういう現実にいる奴らのように、自分たちとは違う存在への恐怖や怒りを煽り、利用しているのです。この点で、本作のぬらりひょんは非常に現代的な「悪」だと思うのです。この点もテーマの補強になっています。だからこそ、憎しみや憎悪ではなく、皆の力で勝利してみせたラストにはグッとくるわけですが。

 

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 素晴らしかった点の4つ目は、「長期シリーズを見越した構成」です。「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズは1話完結のオムニバスのため、終わるときはやや唐突に終わる印象があります。5作目に至っては長期シリーズに舵を切った途端に打ち切りにあいました。本作ではその反省を活かしたのか、最初からテーマを定め、それに沿ってストーリーを構築しているのです。それは最初の3話で既に現れていて、私見では、他のシリーズが1話でやっていることを3話かけてやっているのです。つまり、事件起きる→妖怪ポストに手紙出す→鬼太郎来る→ねずみ男が絡む→鬼太郎ファミリー勢揃い→敵をやっつけるという要素を3話に分けているのです。つまり、1話は鬼太郎と目玉の親父しか出ず、鬼太郎について掘り下げが行われます。2話では猫娘ねずみ男が話の中心に来て、3話ではファミリーが勢揃いして妖怪城を倒すのです。

 

 最初の3話が終わった後はバラエティの富んだ話が積み重ねられ、同時に章ごとに大きな目標が設置されています。「名無し篇」や、「西洋妖怪編」、「地獄の四将」、そして「ぬらりひょん篇」です。そしてこれらの中でシリーズ全体のテーマも語られます。これはこれまでのシリーズではあまり見られなかった要素なのではないでしょうか。強いて言うならば5作目でしょうが、アレは打ち切りにあってしまったし。

 

 以上のように、本作はシリーズ恒例のテーマ「妖怪と人間の共生」を現代的に描き直すことに成功した作品だと思います。ギャラクシー賞を受賞したそうですが、当然の評価かなと思います。他にも、ねずみ男の扱いが5作目よりも上がって良かったとか(特に終盤は鬼太郎とまなとねずみ男の話だったと思う。「戦争なんて腹が減るだけだ!」の水木先生リスペクトも最高だった)、本筋以外の話も良かったとかアクション演出が凝ってて見応えがあったとか(ちなみに、感心した回は全て小泉昇さんの回)、鬼太郎たちの能力が良い感じに強化されてたりとか、猫娘が素晴らしかったとか色々あります。総じて大満足です。

 

 

同じく何度もアニメ化されている作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 思えばこれも調停役の話。

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