暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年冬アニメ感想⑤【魔術士オーフェンはぐれ旅】

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☆(星1.3)

 

 今から約20年前、まだ「ブギーポップは笑わない」すら誕生していない時期、ライトノベルは「剣と魔法」のファンタジーが主流だったそうです。そんな時期の中、富士見ファンタア文庫から生まれた代表的な作品が「スレイヤーズ」と「魔術士オーフェン」です。富士見ファンタジアでは2大巨頭的な扱いをされている作品ですけど、メディアミックスでは大きく溝を開けられている感があります。「スレイヤーズ」はこれまでに5回TVアニメが放送され、劇場アニメも何度か上映されるほどの大ヒット。対して、「オーフェン」はと言えば、2回のアニメ化はどうやらアニオリを入れまくったことで不評をくらい、ファンからは半ば黒歴史化されている模様。

 

 「スレイヤーズ」とは、同じくレーベルの代表的な作品とされながら、メディアミックスでは雲泥の差がついてしまった。ファンとしては忸怩たる思いを抱えている事でしょう。僭越ながら、私にはその気持ちが分かります。というのも、私は「キノの旅」で全く同じ思いをしてきたからです。「キノの旅」も電撃文庫の大ヒット作でありながらTVアニメが(出来自体は良いのですが)不発に終わり、後続の「灼眼のシャナ」の大ヒットによって陰に隠れる形になってしまいました。そして、「もう一度作り直して、大ヒットしてほしい」と思いながら10年以上過ごしてきたのです。なので、今回の再アニメ化はファンにとって悲願であることも分かります。これで成功すれば、ひょっとすると「オーフェン」はもう一度ヒットするかもしれない。そんな思いを抱いていたことでしょう。私はこの境遇に共感しまくっていたこと、そして原作がどのような作品なのか興味があったので、視聴した次第です。

 

 

 視聴してみて、ちょっと驚きました。本当に酷い出来だったからです。私はこのブログで以前、「キノの旅(2017年版)」に対して愚痴を書いたのですけど、本作に比べれば、あの作品はまだ全然良い方だったのだと思わせられました。視聴を継続したのは、「これは酷いときちんと言わなければならない」という、謎の使命感を覚えたからです。一応言っておきますが、これから酷評しまくるので、本作を好意的に見ている方は読まない方が良いかなと思います。

 

 本作は全体的に出来が悪くて、作画は整ってはいますが、平べったい画で安っぽく、アクションでもそこまで良い動きはしません。たまにアクションになると動くのですけど、横向きで映しているだけで、何の工夫もなく単調。魔術も詠唱は良いのですけど演出が安っぽい。しかも会話のシーンやバトルでもキャラが棒立ちで配されているだけだったりするので面白みがない。

 

 演出、作画、この2つが全然ダメなのに、加えて本作の最大の問題点は、脚本です。本作の脚本家は何人かいますが、シリーズ構成はあの吉田玲子さんなのです。映画では傑作を多く残している人なのです。TVアニメでも「ガールズ&パンツァー」とか「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を執筆した人なんですよ。期待してしまうではないですか。でも本作は脚本が本当に酷い。「外れの方の吉田玲子」でした。

 

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 まず、最初の3話が問題でした。おそらく原作1巻の内容にあたると思うのですけど、原作がどうなっているか分からないのですが、話の主軸が「現在」と「過去」どっちにあるのかさっぱり分からないのです。何せ過去の話と辻褄合わせのための回想が合わせて半分くらいあるのですから。おかげで今のオーフェンがどういう旅をしてきたのかがさっぱり分からず、彼のキャラクターが全くつかめないのです。過去の話とは、「現在」のキャラのことがよく分かった上でやるからこそキャラクターに奥行きをもたらすことができるものですが、本作は「現在」が不明であるのにいきなり過去をやっているから呑み込み辛い。

 

 この弊害は後々まで尾を引いています。大きくはクリーオウとマジクのキャラです。私には、2人に対して全く魅力を感じることができませんでした。これは本作のキャラ全員に言えることなのですが、メインである2人でこうなっているのは致命的だと思います。何故魅力が分からないのか。それは、過去話のやりすぎで2人のキャラが描写不足なのです。マジクは1話で魔術に興味があると示唆していたからまだいいものの、クリーオウに至っては初登場以降出番がほとんどなく、3話のラストで押しかけ的に急に出てきてオーフェンに付いて行きます。理由は「世界を見てみたいの」。本当にびっくりしました。私はOPを1回しか見ていなかったので、彼女の存在があまり頭に入っておらず、出てきたときはモブだと思っていました。しかもオーフェンに付いて行こうと思った理由も不明。しかしこれで交流して絆を深めていくのかと思いきや、対してそういうエピソードは描かれず、いつの間にか自分を「オーフェンの相棒」とか抜かしているのです。正直、何故彼女がここまでオーフェンに信頼を寄せているのか、最後まで分かりませんでした。

 

 そしてマジク。彼はクリーオウよりはマシですが、酷いのは変わりません。オーフェンを「御師様」と慕うのですけど、特別魔術を修行している描写が無いのにいきなり魔術を使っているのです。しかもこちらも3話ラストでさらっとついてきているし。後は行く先々にいるあの2人組も、多分あの時代特有のムードメーカー的な存在なのだろうけど、如何せんいる意味がほとんどなく、マジで邪魔。

 

 この2人に代表されるように、本作は全体的に表面的で、薄っぺらなんですよね。まず脚本家達のストーリーがあって、キャラたちがその辻褄が合うように動かされている感じがあるのです。つまり、ストーリーで起こることと、こなさなければならないノルマがあって、その描写だけが大味で描写されている感があります。だからオーフェンがどうやってクリーオウやマジクらと信頼を積み重ねていったかが全く描かれていない。だから台詞や行動に重みがない。つまり、「結果」だけが写るキングクリムゾン状態。行間を読む力が凄く必要。だから本作には具体的な伏線とかも特にない。ラスボスにしたって、1話から出てたけどそんな素振りしてなかったと思うんだよなぁ。

 

 

 また、話の内容が基本的に「牙の塔」絡みばかりなので「はぐれ旅」がタイトル詐欺になっているのも問題だし、何かあるたびに過去回想に入るから話のテンポも悪いし、後付け感が凄い。褒めるというか、擁護する点があるとすれば、森久保祥太郎さんですね。アマゾンプライムのレビューだと思った以上に辛辣な言われ様なのですが、私は特に気になりませんでした。

 

 以上のように、本作はファンの方が不憫になるくらい残念な出来でした。これは原作が「古臭い」からで済まされるものではありません。リメイクが上手くいっている作品もあるのに、何故このような雑なアニメ化をしてしまうのか。理解に苦しみます。きちんとしたクオリティで作れば、ファンもそれに応えてくれるのに、実にもったいない。怒りすら感じます。ファンじゃないけど。2期決定したそうですけど、私はもう見ません。

 

 

愚痴った作品。でも現在の「往年の名作のアニメ化」の死屍累々を見るに、この作品はまだいい方だったんだなぁと思っています。

inosuken.hatenablog.com

 

 愚痴った作品2。こっちは題材がアニメ映えしないからなぁ。

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