暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「権力」の恐ろしさ【バイス】感想

f:id:inosuken:20190506165817j:plain

 

93点

 

 

 2001年の9.11テロ当時、ブッシュ政権において副大統領を務めた男、ディック・チェイニーを取り上げた評伝映画。過去、様々な評伝映画が制作されましたが、それらはどれも大統領や、名は成さなかったにしても知名度はある人物のものでした。しかし、本作は、これまでその地味すぎる立ち位置から全く注目されたことがなかった副大統領を題材にした作品。私はアメリカの政治史にはそこまで詳しくはないのですが、町山智浩さんも薦めていらしたし、アカデミー賞にもノミネートされたので鑑賞した次第です。

 

 政治家の評伝映画と聞いて、まず思い浮かべるのは重厚な演出や、難解な政治的駆け引きです。ここが魅力であると同時に、少しだけとっつき辛くしている要素でもあると思います。しかし、本作は全く違っていて、内容はコメディチックなものに終始しています。作劇もかなり自由であり、ナレーションがメタなことを言い、第4の壁を破って観客に話しかけたり、登場人物の心境を説明するためにいきなりシェイクスピア調の話し方になったり、映画の途中でいきなりエンドロールが流れたりします。近年の作品で一番近いのは『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』ですかね。この点は、さすが、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイです。

 

 

 このように、内容は自由ですが、その反面登場人物は皆そっくりさん。特にブッシュとパウエルは異常なくらい似ています。クリスチャン・ベールは安定のデ・ニーロアプローチぶりですし、この点は役者の凄さを感じました。

 

 このように、本作はそっくりさんがコメディ作品に出ているような風体ですが、描かれていることは、前作『マネー・ショート』と同じく、かなりえげつないものです。本作は要するに、「非常に官僚的ながら、機に乗じることだけは上手い男が、権力を握ってしまった」というブラック・コメディなのです。

 

 映画を観ていると、このディック・チェイニーという男は思想など無く、ひたすら場当たり的に動きます。特に前半はそうで、政治家になったのも奥さんにせっつかれたからだし、共和党に入ったのもラムズフェルドが面白そうな人だったから。ただ、周りにいる奴らも問題で、ラムズフェルドはチェイニーが結構真面目に聞いた「そこに理念はあるんですか」という質問に対して爆笑して答えません。

 

 そんな「何も思想が無い」まま権力を握ってしまったチェイニー。そんな彼が国民のために公僕となるわけもなく、ひたすらその権力を行使しまくります。そのやり方はかなり周到で、まず、憲法を解釈だけで捻じ曲げ、一元的執政府理論なる謎の理論を掲げて事実上の独裁体制をしいたり、憲法に照らし合わせれば違法なことも解釈して平気でやっています。また、自分たちにとその支持者(主に金持ち連中)に有利な法律を通すために世論操作をしまくったり(この時も実に巧妙で、税金を呼び方1つで印象を変えるようしむけたり、「民主党は批判しかしていない!」とマスコミに報道させ、敵対組織の無責任ぶりを印象付けたりしています。どっかで見た光景ですね)、「アリバイ工作」も平気でやります。作中で何度もチェイニーが釣りをしているシーンが出てくるのですが、これはチェイニーがアメリカという国に対してやっていることの明確なメタファーでしょう。

 

 そして、それが極まるのが9.11テロ事件。それがきっかけでイラク戦争が始まるわけですが、それから10年間、チェイニーがCEOを務めている石油会社ハリバートン社は、アメリカから多大なイラク関連の受注をしたらしいですよ。「テロとの戦い」とか勇ましいことを言っていましたが、状況証拠を並べてみれば、誰がどういう得をしたのか、丸わかりなわけです。しかも、その個人的な利益のために、あまりにも膨大な人間を死に追いやり、今でもその禍根を残しているわけです。

 

 そして、最後に彼はとんでもないものを盗んでいきました。ナレーションをしていた男から心臓を譲り受け、延命するのです。彼は多くの命を奪ったくせに、自分は生き延びたのです。しかも、自分の国の国民の命を使って。これには、どこまでも国民からものを毟り取ろうという浅ましさを感じましたし、何より、「心が無い」と言われてきた男が本当に「心を失くし」、その代わりに国民から心を奪うという、とんでもなくブラックなラストになっています。

 

 好き放題やった政治家が国民の心を盗んでいった。何というブラック内容なのかと思います。しかし、本作はこれを「政治家の話」として終わらせません。エンドロール後、再び講習会が映されます。そこで映されるのは現代の国民の縮図。保守系は「この映画リベラルくせぇ」と言い、それに怒ったリベラルが突っかかって喧嘩になり、その横で「如何にも(失礼)」な感じの女の子が「ワイルドスピードの新作楽しみ~」とか言っているわけです。ここで、映画は我々にも問いかけてきます。「君たちにも責任はあるよね?」と。そう、私たちも、政治に関心を持ち、チェイニーみたいな奴をのさばらせないように意志を表明しなければならない。とりあえず選挙行くか。そんなことを考えた映画でした。

 

 

監督の前作。こちらも似たような作品でした。

inosuken.hatenablog.com

 

 似たような作品その2.

inosuken.hatenablog.com

 

2019年冬アニメ感想⑤【荒野のコトブキ飛行隊】

f:id:inosuken:20190517214422j:plain

 

 

 水島努監督の最新作。正直、『ガルパン』の最終章もある中で、TVシリーズなどやっていていいのだろうかと思ってしまいますが、新作を作るとなれば仕方がない。監督の作品はとりあえず見るようにしているので、視聴しました。

 

 見始める前は、組み合わせから、『ガールズ&パンツァー』のレシプロ戦闘機版を狙っているのかと思いました。しかし、見てみると、ほとんど全ての要素が「あっさりして」いて、正直、「可もなく不可もなく」な普通という印象の作品でした。

 

 

 本作の「あっさりな点」として、まず1つ目はキャラクターを挙げることができます。本作のメインキャラは、レシプロ戦闘機を操る「コトブキ飛行隊」の面々。彼女たちのデザインは今の売れ線をやや外しているキャラクター。キリエとチカは口煩くいつもギャーギャー喚いており、エンマはお嬢様風ながらもねちっこく毒舌家。ケイトは所謂クールな無口キャラで、レオナは生真面目な隊長、そしてザラは「昔色々あった」系のお姉さんキャラです。他にも、有能な上司であるルゥルゥなど、非常に個性豊かです。女性キャラが全員有能で個性豊かな反面、男は基本的には無能に描かれています(一部例外あり)。

 

 しかし、これらのキャラの印象は、この枠の中から一歩も外に出ません。一応、キャラ回はあるにはあるのですが、上記のキャラを説明するだけに終始していて、そこまで深掘りはされません。まぁそれでもある程度の好感を抱かせるというのはさすがですけど。

 

 また、本作の楽しい点としては、こうしたキャラ達の掛け合いがあると思います。この会話は、見やすいように整理されているとはいえ、各々のキャラが好き放題話しているものです。この点は他のアニメとはちょっと違う点だと思いました。

 

 

 キャラの会話は面白いものの、キャラクターはあっさりしている。では、ストーリーや世界観にその分の労力を割くのかといえばそうでもなく、ストーリーもあっさりしています。一応、「世界の穴」とか、西部劇のような舞台に日本の戦闘機が飛んでいるという面白さはあります。しかし、話に明確な目的が特に無く、中盤に出てきたイサオがラスボスになり、彼の野望を阻止することで物語は終わりを迎えます。一応、自分の独裁体制を敷きたいイサオを、自由を求めるコトブキ飛行隊が倒す、というのは構図としてあるとは思いますけど、にしても描写不足は否めません。加えて、設定などで見せるわけでもなく、「世界の穴」、ユーハングについても、「何故、異世界にレシプロ戦闘機があるのか?」という説明にしかなっていません。ここら辺も何かあっさりしています。

 

 さらに、作画の面でもあっさりしています。手描きと3DCGを組み合わせたもので、最初は困惑しました。これによって、キャラの動きは多彩になったと思いますが、それ以上の効果をあまり感じませんでした。作画の消費を抑えたかっただけではないのかな。あ、でもジョニーのガン=カタは良かった。

 

リベリオン-反逆者- [Blu-ray]
 

 

 このように、とにかくあっさりな感じの本作ですが、1つだけあっさりではない点があります。レシプロ戦闘機です。私は詳しくはないのですが、どうやらアニメで出てきた戦法は、全て現実でも出来るものだとか。また、戦闘のシチュエーションも多彩であり、特に最後の市街戦は迫力もあり、大変面白かったです。さらに本作は、そこの音も凝っていて、イヤホンやヘッドホンを使ってみれば、その凝り具合がより分かります。ただ、その空戦も基本的には命のやり取りをしている感じはあまり無いので、どこか緊張感は弛緩している感はあります。

 

 このように、レシプロ戦闘機以外はとにかくあっさりしていた本作。でも、私には戦闘機の戦闘シーンと、コトブキ飛行隊のキャラがやや魅力的に思えたので、最後まで見ることができました。

「片想い」の恋愛を赤裸々に描く【愛がなんだ】感想

f:id:inosuken:20190512134019j:plain

 

77点

 

 

 存在を知ったのはwowowぷらすとの2018年ベスト映画の動画にて。そこで誰かが絶賛していて観る気になり、初日に鑑賞してきました。鑑賞後は色々な感情が渦巻いていて、中々感想がまとまらず、結果、書くのがここまで遅くなりました。

 

 巷には恋愛映画が溢れています。それらは非常に「キラキラして」いて、口にするのも恥ずかしくなるような美辞麗句とすらいえない言葉と旬な若手俳優で飾り立てられている。そこでは主人公とヒロインや、周りの人間だけの閉じた世界が展開され、何やかんやのすったもんだの末に2人は結ばれて映画は終わります。この点は別に恋愛映画だけではないと思う。どのドラマや映画でも主人公とヒロインは大抵すったもんだの末に結ばれ、幸せに幕を閉じます。

 

 でも、「取捨選択」という言葉がある通り、誰かが選ばれたという事は、選ばれなかった人間がいるはずです。そして現実では、おそらくそっちの方が多い。本作はこっち側、つまり、「選ばれない人間」たちの恋愛模様を描いた映画です。

 

 主人公はテルコ(岸井ゆきの)。知り合いの結婚式で出会ったマモちゃん(成田凌)に絶賛片想い中。会社にかかってくる電話には微動だにしないくせにマモちゃんからの電話にはワンコールで出る、夜遅く、家にいるときに電話がかかってきても「会社にいるからよってくね」とわざわざ私服を着替えて近所のスーパーか何かで食材買って家に行く。終いにはマモちゃんに気をとられすぎて会社をクビになる始末。恋愛は人を盲目にすると言いますが、テルコは恋愛の一方通行ぶりをそのまま体現しています。ただ、傍から見るとこんな偉そうなことが言えるわけで、大なり小なり恋愛中の人間はこうだと思いますよ。

 

 ただ、このマモちゃんという男がまた曲者。見た目は成田凌なのでイケメンなのですが、自分に自信がないダメ男で、外を歩いている時もテルコを歩道側に歩かせているという鈍感野郎なのです。しかも他人と距離を置く人間でもあり、介入を拒みます。だから、ほぼ確実にテルコの気持ちに気付いているにもかかわらず、それに対して答えようとしない、若しくは答えられず、彼女と不誠実に曖昧な関係を続けています。映画を観ている観客は、劇中の葉子(深川麻衣)の言葉通り、「そんなのとは早く分かれな」とか思ってしまいます。しかし、だからと言って憎めるかと言えばそんなことはなく、むしろコイツも「こっち側」の人間だと知って妙に感情移入してしまいます。

 

 この2人と鏡像関係にあるのが、先ほどの葉子と、最高の男、ナカハラ(若葉竜也)。葉子は先述の通り、テルコに対して現実的なアドバイスをしている人間で、しかも元乃木坂46ということでかなりかわいいのですが、それ故にナカハラ君のどうしようもなく(いい意味で)冴えない感じが強調され、ナカハラ君の片想いが切なく感じられます。

 

 この2人は初めこそ気にならず観ていられたのですが、中盤以降、マモちゃんに苦言を呈していた葉子自身も、ナカハラ君に対して同じことをしていたと分かります(そして多分、葉子も同じ体験をしている)。それ故にナカハラ君が葉子を諦めたとテルコに言うシーンは、我々と同じく「普通の人間」の選択として、そして「あり得たかもしれないテルコ」として映り、「やっぱそうだよなぁ」と我々観客に思わせるものでした。彼らの物語が入っていることで、本作はより普遍的な恋愛の話になっていると思います。

 

 このようなどうしようもない一方通行の恋愛をしている連中に割って入るのがすみれ(江口のりこ)。彼女はサバサバした性格でこいつらの恋愛事情をぶった切っていきます。白眉は別荘での夜のシーン。あの「隠していた事実が明るみに出て、現実を突きつけてくる」感じが本当に怖かったし、良かった。

 

 登場人物以外にも、本作は小道具とか美術というか、細部に至るまでが凄く良くて、特によかったのは酒です。テルコを始めとした人間が恋愛の話をするときなどは、いっつも酒を飲んでいるのです。しかも金麦とか安いヤツを。酔わねぇとやってらんねぇみたいな感じで。この酒のシーンをはじめ、食事シーンなども、本作は全体的に素晴らしかったです。

 

 一方通行のテルコは、度々出てくる自分との会話を繰り返し、「現実的」ではなく、「マモちゃんの傍にいる」という究極の選択をします(この時のマモちゃんの友人の「赤がいいな」発言が非常に暗示めいている気がする)。それは「現実的な」選択をしたナカハラ君がラストでちょっとだけ希望を残したエンドになったのとは対照的だなと思いました。

 

 テルコの行動は正直、少し引くところもあります。しかし、それは我々が俯瞰して観ているから抱く感想なのであって、恋愛中の人間はこんなもんなんじゃないでしょうか。本作は、一方通行しかしてないダメな人間達の恋愛模様を飾り立てたりせず、しっかり描いた作品だと思っていて、それ故に素晴らしいと思っています。少なくとも、彼ら彼女らは相手のことを心底好きになっていて、この時点でアイツらは私よりもマシな人間なのだと思います。

2018年秋アニメ感想⑧【風が強く吹いている】

f:id:inosuken:20190508223530j:plain

 

 

 三浦しをんの小説を原作としたアニメ作品。原作は過去に実写映画化もされていますが、私は読んだことも、映画も観たこともありません。では、なぜ視聴しようと思ったのかと言えば、それは制作スタッフ。プロデューサーには松下慶子と、制作会社にはProduction.IGという、これまで『ハイキュー!!』や『ボールルームへようこそ』といった良作スポーツアニメを送り出してきた布陣が揃っていたためです。

 

 今回、このチームが挑んだのは「駅伝」という、およそアニメ映えしないであろう種目。しかもチーム10人分のドラマも描く群像劇。普通ならば不安になりそうですが、「このチームならば」と期待を胸に視聴しました。

 

 

 結論から言えば、本作は青春群像劇として素晴らしい作品であり、「走る」事をかなり深掘りし、きちんとドラマに出来ている作品でした。

 

 本作のメインは、「箱根駅伝」です。つまり、陸上。普通に考えれば、走るということは、アニメーションにおいては、大きな見せ場だと思います。走っているときの疾走感を如何に出すか、ということはアニメーターの腕の見せ所だと思います。

 

 しかし、こと「陸上競技としての走り」になると話は違います。ここで求められているのは陸上選手がやる規則正しい動きです。そこにはアニメーション的な疾走感はあまり出せないと思っています。さらに、ずっと同じ動きであるため、画面に変化があまり無く、画面を持たせるという意味でもアニメ映えしないと思います。そのくせ、常に動いているため動画の枚数は食うというコスパの悪さ。一昔前ならば中々に難しい題材だったと思います。

 

 この「走る」というスポーツを、スタッフは非常に堅実にアニメーションにしています。走っているときの筋肉の動きや息遣い、1人1人のフォームの違いを丁寧に描いています。また、その他大勢が走るときなどは3DCGを使ったりと工夫もしています。

 

 ただ、本作において、「走る」ということには競技以上の意味がもたらされています。それを持たせるために、メインの10人のドラマをかなり丁寧に掘り下げていて、これによって、本作は青春群像劇として素晴らしいものになっていると思います。

 

 ここでは、脚本を執筆された喜安浩平さんの、『桐島、部活辞めるってよ』でも発揮された手腕が光ります。第1話で、全てのキャラクターの性格をきちんと見せてしまっているのです。そして、この10人には様々な悩み、葛藤があることを描きつつ、ハイジの強引な説得によって次第にバラバラだった10人がまとまり、箱根駅伝で襷を繋ぐ。ここに、最大のカタルシスを感じました。

 

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

 

 

 よく箱根駅伝では「ドラマ」が語られます。その駅伝のためにすべてを注いできた選手たち。異なる10人がそれぞれに想いを託し、襷を繋げていく姿に、毎年視聴者は熱くなるのです。本作も、要はそういうことだと思います。だから各々のドラマを丁寧に描くのです。各々の人生を生きているアオタケ荘の皆が、「なぜ走るのか」と問いながら懸命に走り、「次」に繋げるために襷を渡す。この意味で、本作は駅伝の感動をそのまま描いた作品だとも思います。

 

 そしてこの「走る」ことには、「生きること」という意味がもたらされます。劇中で何度も「なぜ走るのか」と問われますが、それはそのまま「何故生きるのか」という問いになります。皆生きる意味なんて明確にはわからないけど、それでもがむしゃらに生きなければならない。この姿は、「走る意味」が分からずとも、信頼している仲間と共に走り抜いた彼らの姿に重なります。

 

 がむしゃらに走って、襷を繋ぐように望みを繋ぎ、新たな道を切り開く。それは1人では決してできないことだけれど、10人でならできるのです。

 

 最後に、キャラの描き方の上手さについては既に書きましたが、関係性を構築していく様も丁寧で、素晴らしかったです。ちなみに、私が一番感情移入して見てたのはキングでした。総じて、素晴らしい作品でした。

 

 

同じくスポーツもの。こちらは天才と凡人について描いた作品だったような。

inosuken.hatenablog.com

 

「ポケモンがいる世界」の見事な映像化【名探偵ピカチュウ】感想

f:id:inosuken:20190509215032j:plain

 

77点

 

 

 2018年に発売された、同名ゲームの映画化作品。私はゲームは全くやっておらず、CMでやっていた大川透さんの声だけがやたらと印象に残っています。そんなボンヤリとした印象しかなかったので、「ハリウッドで映画化!」と聞いても全く期待していませんでした。むしろ、「爆死案件」くらいに思っていました。

 

 しかし、『スパイダーマン スパイダーバース』を観た時に流れた予告を観て考えが変わりました。モロ「デッドプール」な喋り方をし、でもそのすぐ後に耳に馴染んだ大谷育江さんの声で「ピカピカ!」と鳴くピカチュウの姿に完全に笑わされたのです。以来、どうにも気になってしまい、とうとう鑑賞してしまった次第です。

 


【公式】映画「名探偵ピカチュウ」予告①

 

 鑑賞してしまった結果、非常に楽しむことができました。これは本作の前に観た映画が『バースデー・ワンダーランド』だったことも関係しているような気もしますが、とにかく、バディものとして面白く、そしてポケモン(特に第一世代)に親しんだ人間ならばニヤリとする小ネタの数々が豊富に盛り込まれている作品でした。

 

 本作を鑑賞してまず驚いたのが、「ポケモンがいる世界」の再現度の高さです。CG技術が発達し、人間以外の生き物も本物と見間違うレベルに映すことができるようになった今、『猿の惑星』新3部作、『ジャングル・ブック』など、様々な映画が作られました。本作はその流れから、ポケモンを非常に「リアル」に作ってあります。キモリゲッコウガなどの爬虫類、両生類系の若干の気持ち悪さとか、ベロリンガの舌はアニメ、ゲームだと許容できるけど、本物だったらあんな感じだよねとか、コダックのよちよち歩き、ブルーの何か知らん可愛さ・・・、おい、何だこの的確過ぎる映像化は。毛並みや肌質等もかなりリアルだし。

 

 また、ポケモンの特性の表現も上手くて、カイリキーは手数を活かして交通整理してるし、地下闘技場でのゲンガーのバトルシーンは素晴らしいの一言。抽象的で、ゲームでは分かりづらかったゴーストタイプの戦い方をかなり上手く映像化しています。それはラストバトルにも言えます。

 

 さらに、ポケモンの小ネタもしっかり拾ってくれています。アニメでも割りと忘れられているリザードンの「尻尾の炎が消えたらヤバイ」とか、カラカラの「孤独」についての言及とか、とにかくポケモン図鑑の説明に載っているような設定をしっかりと拾っているのです。

 

 このように再現されたポケモンの中で、一番目を引くのはやはりピカチュウ。毛並みがあり、ベラベラ喋りまくります。その様は完全に「Fワードを使わないデッドプール」な訳ですが、とにかく表情の変化が豊かで可愛い。嬉しそうなとき、落ち込んだとき、ピカチュウの顔が感情豊かに動きます。でも中身はデッドプールというこのギャップ萌え。いやたまんねぇ。でも、中身はデッドプールなので、やはりメタ発言を連発し、でんこうせっかボルテッカーを「アレは俺も痛いからパス!」とか言ったりします。

 

 

 こんなライアン・ピカチュウと共に事件の謎に迫っていくのはティム。かつてポケモントレーナーを目指しながらも、父とのすれ違いから諦めてしまった過去を持つ青年です。だからポケモンを避けているのですが、そんな彼がピカチュウと共に苦難を乗り越え、絆を深めあっていく姿は見飽きた展開とはいえ、思わずグッときます。

 

 そしてこの「絆を深める」ことはポケモン作品の中では非常に重要な要素であり、ここをきちんとやっているという点で、本作はまさしく「ポケモン映画」なのだと思います。そして、さらにそれが「家族の物語」にスライドしていくことで、幅広い人が観られる作品になっていると思います。

 

 また、本作には、名作『ミュウツーの逆襲』のオマージュを強く感じます。球体のカプセルの中にミュウツーが入っていること、そのミュウツーが最初に確認されたのが「約20年前のカントー地方」だということ等から、意識しているのは明白。ストーリーも薄められているとはいえ、「人間とポケモン」という、『ミュウツーの逆襲』を彷彿とさせるものです。

 

 確かに、「名探偵」とタイトルに付いてる割にはあんま推理しないとか(だいたいホログラムが教えてくれる)、ラスボスが類を見ない間抜けだとか思うところが無いわけではないですが、「ポケモン映画」に必要なことをしっかりやり、その上で面白い作品に出来ているという点で、本作は充分観るに値する作品だと思います。

 

 

ライアン・レイノルズの代表作。こっちはFワードを連発する男でした。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらも最高でした。これを見ているときに流れた予告を観て観たくなりました。

inosuken.hatenablog.com

 

「どうしたんだ、原恵一!」と戸惑わずにはいられない【バースデー・ワンダーランド】感想

f:id:inosuken:20190506182708j:plain

 

40点

 

 

 『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『河童のクゥと夏休み』など、これまで傑作を多く世に送り出してきた原恵一監督。非常に強い作家性を持ち、故に『クレヨンしんちゃん』以外はそこまで大規模な公開はなく、興行収入もいい成績を残せていませんでした。本作は、そんなメジャー路線から外れていた原監督が『クレヨンしんちゃん』以降、初めて大規模公開した作品です。私は原監督には裏切られたことがないので、作品が公開されれば絶対に観ることにしているので、今回も鑑賞した次第です。

 

 しかし、鑑賞してみて、非常にガッカリしてしまいました。言いたいことは分かりますし、その点は原監督らしいなと思うのですが、如何せん映画そのものの出来が微妙過ぎて、本当に原監督が作った映画なのかと頭を抱えてしまう作品でした。

 

 

 まず、良い点を先にあげておくと、冒頭20分くらいの日常描写。バターの塗り方とか、料理を作っているときの芝居などは素晴らしいと思いましたし、小学校のLINEを使った実に嫌な感じの同調圧力にも戦慄しました。後は異世界が「テクノロジーが発達しなかった世界」だという点が興味深かったですね。まぁこのくらいかな。次から酷評します。

 

 本作で描きたいことは、おそらく主人公、アカネのちょっとした成長です。学校で起こった、ちょっとした出来事に罪悪感を覚え、不登校になってしまったアカネが異世界を冒険して世界の広さを知り、ちょっとだけ前向きになる話です。この「現実の自分と世界に折り合いをつける」という描き方は非常に原恵一監督らしいと思います。しかし、問題はその描き方なのです。本作はそこが絶望的に下手だと思いました。

 

 ダメな点を挙げるとキリがないのですが、私が最もイカンと思ったのがストーリー展開。よくあるファンタジーもののセオリー通り、その世界にある不思議なもの、美しいものをアニメーションならではの自由さで描きます。ここらへんはイリヤ・クブシノブ氏の能力の凄さを実感できますし、1つ1つはなるほど中々面白いなと思えます。

 

 しかし、問題なのは、これら1つ1つがてんでバラバラで、全く繋がっていないという点。劇中では『恐怖の報酬』の吊り橋のオマージュとか迫ってくる敵との追いかけっことか色々あります。普通の映画ならば、これら1つ1つを段取りをきちんとつけ、どうストーリーに組み込んでいくかという試行錯誤があると思います。しかし、本作ではこれらのイベントがストーリーに全く絡まず、全然出来てないと思いました。しかも、これらが出てくる最初の1時間くらいは、映画全体から言えば必要ないように思えます。一応、最後でそれっぽい理由付けは出てきますが、説得力はないと思います。『千と千尋の神隠し』って、やっぱり凄かったんですね。

 

 

 さらに問題なのは、情報の出し方と、目的の適当ぶり。例えば、セーター。先述の道中の理由です。そしてそのセーターは苦しい村のためにおばあさんが必死になって編んだ物とのこと。それがコンテストで1位になれば、という願いが託されています。しかし、このセーターはその後何か重大なアイテムになることもなく、「優勝しました」と示されて終わります。何だそれ。しかも王子の失踪の理由である雫斬りの儀式は「失敗した場合は命を落とす」だとか。これも後から分かるのですが、観客としては、「うん。そりゃ逃げるわ!」と言いたくなります。

 

 まぁこれは良いですよ。しかし、最大の問題は、主人公の新庄アカネです。この人はとにかくずっと受け身で、最後の方まで全く自主的に行動しません。最後の方で何か急に覚醒して説教を始めます。これは「同じ苦しみが分かる」者同士だからかもしれませんが、それにしても説得力がないような・・・。

 

 ただ、能動的に動かない理由は簡単で、アカネは強引に異世界に連れてこられたから。それもヒポクラテスに連れられ、「前のめりの碇」なる錬金術の道具をつけられ、無理やりにです。そこにアカネの意志など関係ありません。この点は王子も同じで、彼は生まれながらにして死を背負う運命を押し付けられていて、「逃げないように」と言って魔法で動けなくされています。人権無視とか最悪だな。最終的に2人は問題と向き合って解決しますが、最初にも書いたとおり、この「世界のどうしようもない押し付け」に対して折り合いをつけようという点は、原恵一監督らしいなと思います。

 

 他にも世界の危機という割には絶望感ゼロだとか、そもそも全てはあの魔術師のせいだろとか、専業主婦は楽じゃないぞとか、言いたいことは山ほどあります。しかし、それだと分量が多くなってしまうので、簡単に言及するにとどめ、感想を終わりたいと思います。正直、これが無名の方の作品ならば、凡作だなくらいの感想で終わっていましたが、こと傑作を作り続けた原監督の作品としては、大変ガッカリしたと言わざるを得ません。

 

 

こっちも微妙だったなぁ。

inosuken.hatenablog.com

 

 こっちは最高でした。

inosuken.hatenablog.com

 

『アベンジャーズ/エンドゲーム』も観たことだし、個人的MCU作品ランキングを作ってみた。

はじめに

 皆様。こんにちは。世間では10連休だ令和だ8年分の賃金が分からないだ騒がしいですが、私の頭の中は現在、その大部分が『アベンジャーズ/エンドゲーム』のことに埋め尽くされています。皆様は観たでしょうか。まぁこの記事を読みに来ているという事は観た方なのでしょうね。私は少し遅れて、後悔3日目の4月28日に観ました。ちなみに、IMAX3D字幕です。劇場は満席で、コミカルなシーンでは笑いが起こり、終盤のキャップの「アベンジャーズ・アッセンブル」の掛け声のシーンでは、劇場の熱が一気に上がった感じがあり、ラストでは啜り泣きも聞こえてきました。好きな人たちと一緒に観るって、本当に良いもんだなと思った次第です。

 

 と、私の個人的な話は置いといて、はい、今回の記事はMCU(マーベルシマティックユニバース)の私的なランキング記事です。これを書こうと思ったのは実は昨年でした。映画秘宝の2018年11月号で秘宝の執筆・編集陣がMCU作品のベストを決める企画をやっていたことに触発されたことがきっかけです。この号がでてすぐに乗じても良かったと思います。しかし、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』から月日が経っていたこと、そして、来年のこのタイミングならば、『エンドゲーム』も公開され、MCUの区切り的にも丁度いいと思ったため、このタイミングになりました。まぁ「twitterでやれ」と思われるかもしれませんが、そこはその作品についての一言を書くことで差別化したいと思っています。それでは、MCU22作品、いってみよう!

 

映画秘宝 2019年 06 月号 [雑誌]

映画秘宝 2019年 06 月号 [雑誌]

 

 

 

 

22位【マイティ・ソー ダーク・ワールド】

inosuken.hatenablog.com

 

 いきなりビッグ3の作品で申し訳ない。でも、私の中では、本作はMCU作品の中でも、屈指の「事務的処理感」を覚えずにはいられない作品です。それでも一定水準は保っていますけど、相対的にこの順位です。この作品を好きな方、すみません。

 

 

21位【マイティ・ソー

inosuken.hatenablog.com

 

 これまたソー。いや、だって、こちらも「事務的処理感」を強く感じてしまったんですよ。「ソーのオリジンをやろう」という。だから、一時期はこの作品がMCUワーストでした。ですが、最近観返してみたら『ダークワールド』よりは面白く感じたので、繰り上げました。こちらは貴種流離譚的な話にしていて、文化ギャップをギャグにしていたりしていますしね。

 

 

20位【アイアンマン2

inosuken.hatenablog.com

 

 制作でゴタゴタがあったんだろうなぁと思わずにはいられない作品でした。掘り下げられる箇所があるのにそこら辺はなぁなぁだったし。ただ、私個人のアイアンマンに対する思い入れも込みでそこそこ楽しく観られましたので、この順位です。

 

 

19位【アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン】

inosuken.hatenablog.com

 

 『アベンジャーズ』2作目。面白いのですが、やっぱり、「自分たちが蒔いた種を処理しただけ」な感じがしますね。ただ、それもこの後の展開を考えれば必要な事だったと思いますし、何より本作は異様な情報量なので、それを処理しきった腕に感服はしました。

 

 

18位【アントマン&ワスプ】

inosuken.hatenablog.com

 

 何度も書きますが、順位が低くても好きなことには好きなんです。でも、相対的にはこの順位なんです。すいませんね、この作品を好きな方。本作は1作目と同じくサクッと観られますが、それ故にあまり印象に残らなかったのかなぁ。

 

 

17位【インクレディブル・ハルク

inosuken.hatenablog.com

 

MCUの中でも、ひときわ影が薄い作品。でも観てみたら結構面白く、この順位にしました。

 

 

16位【キャプテン・アメリカ/ザ・ファーストアベンジャーズ

inosuken.hatenablog.com

 

 キャプテン・アメリカ1作目。第二次大戦時を描き、キャップのオリジンを原作通りにやったことは良いのですが、やっぱり「それだけ」であっさり感を抱いてしまいました。すいませんね。

 

 

15位【キャプテン・マーベル

inosuken.hatenablog.com

 

 男性から解放される女性を、そのままヒーロー映画として描いた快作。ブリー・ラーソンが美しすぎる。

 

 

14位【マイティ・ソー バトルロイヤル】

inosuken.hatenablog.com

 

 前2作が微妙だったのに対し、本作はその2作をぶったぎったことが功を奏したのか、割りと深刻な内容なのにも関わらず、全編コメディに振り切った最高の作品でした。

 

 

13位【アイアンマン3】

inosuken.hatenablog.com

 

 『アイアンマン』3部作の最終作。アイアンマンという存在をもう一度定義し直し、トニー・スタークの中にその精神を内面化するという、3部作の最後にふさわしい作品でした。

 

 

12位【ドクター・ストレンジ

inosuken.hatenablog.com

 

 MCU公式の一大トリップ映画。IMAX3Dを最大限活用した映像はMCUイチで、そこだけでも本作は素晴らしいと思います。

 

 

11位【アントマン

inosuken.hatenablog.com

 

 小さくなるヒーローという設定、そしてあまり重くなり過ぎない気軽な内容、そしてダメダメな奴らが一発当てるために行うケイパーものの要素がとても良く、この順位です。

 

 

10位【スパイダーマン:ホームカミング

inosuken.hatenablog.com

 

 規模がどんどん大きくなり、救う対象が「街そのもの」から「世界」になり、果ては宇宙まで行ってしまったMCUにおいて、「親愛なる隣人」であり続ける姿に感動。『ブレックファストクラブ』を彷彿とさせる学園要素も〇。

 

 

9位【アベンジャーズ

inosuken.hatenablog.com

 

 フェイズ1の総決算。これまで出てきたヒーローが勢揃いし、キャップの「アベンジャーズ、アッセンブル!」の掛け声で皆が戦う姿は何度見ても胸が熱くなります。

 

 

8位【アイアンマン】

inosuken.hatenablog.com

 

 全てはここから始まった。トニー・スタークがトンカチ1つでアイアン・スーツをこしらえた姿は、まだまだ先行きなど見えなかったMCUの挑戦姿勢そのものな気もします。内容も、カラッとしていて、気楽に楽しめる1本。ただ、『エンドゲーム』の必須映画です。

 

 

7位【ブラック・パンサー】

inosuken.hatenablog.com

 

 ヒーロー映画でありながら、アメリカで起きている問題に正面切って向かい合った作品。他にも、ワカンダという画期的舞台、エリック・キルモンガーという、凄まじい魅力の悪役を生んだ画期的作品。

 

 

6位【ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.2】

inosuken.hatenablog.com

 

 邦題はアレだと思ってる人間なので、敢えて「Vol.2」とさせていただきます。一言。最高です。ウェットすぎるという意見もあるそうですが、私にとって、笑って泣けて熱くなれた本作は、最高のエンタメ作品でした。

 

 

5位【シビルウォーキャプテン・アメリカ

inosuken.hatenablog.com

 

 キャップとアイアンマンの正義のぶつかり合いを、どちらもきちんと立たせた上で面白く見せるその手腕に感服です。

 

 

4位【アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

inosuken.hatenablog.com

 

 始まってから終わりまでノンストップで進む怒濤の展開、衝撃の結末ながら、「サノスの物語」としてきちんとまとまっているというとんでもない作品。

 

 

3位【キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー

inosuken.hatenablog.com

 

 キャップの2作目。理想と現実が違っていても、その理想を体現しようとするキャップの姿勢に感動。ポリティカル・アクションとしても素晴らしい作品でした。

 

 

2位【アベンジャーズ/エンドゲーム】

inosuken.hatenablog.com

 

 最新作にして、『アベンジャーズ』最終作。多くは語りません。ただ、これまでの作品全てに心から感謝したいと思います。本当にありがとう。

 

 

1位【ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

 

 でも、やっぱり1位はこれ。スペース・オペラとして最高だし、馬鹿で負け犬な連中が互いに力を合わせて銀河の危機に立ち向かう姿は、何度観ても素晴らしい。Vol.3も待ってるぞ!感想無くてすみません。

 

 

 以上、MCU作品ランキングでした。フェイズ3最終作『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』、そして、それ以降の作品も楽しみにしています。