暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「片想い」の恋愛を赤裸々に描く【愛がなんだ】感想

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77点

 

 

 存在を知ったのはwowowぷらすとの2018年ベスト映画の動画にて。そこで誰かが絶賛していて観る気になり、初日に鑑賞してきました。鑑賞後は色々な感情が渦巻いていて、中々感想がまとまらず、結果、書くのがここまで遅くなりました。

 

 巷には恋愛映画が溢れています。それらは非常に「キラキラして」いて、口にするのも恥ずかしくなるような美辞麗句とすらいえない言葉と旬な若手俳優で飾り立てられている。そこでは主人公とヒロインや、周りの人間だけの閉じた世界が展開され、何やかんやのすったもんだの末に2人は結ばれて映画は終わります。この点は別に恋愛映画だけではないと思う。どのドラマや映画でも主人公とヒロインは大抵すったもんだの末に結ばれ、幸せに幕を閉じます。

 

 でも、「取捨選択」という言葉がある通り、誰かが選ばれたという事は、選ばれなかった人間がいるはずです。そして現実では、おそらくそっちの方が多い。本作はこっち側、つまり、「選ばれない人間」たちの恋愛模様を描いた映画です。

 

 主人公はテルコ(岸井ゆきの)。知り合いの結婚式で出会ったマモちゃん(成田凌)に絶賛片想い中。会社にかかってくる電話には微動だにしないくせにマモちゃんからの電話にはワンコールで出る、夜遅く、家にいるときに電話がかかってきても「会社にいるからよってくね」とわざわざ私服を着替えて近所のスーパーか何かで食材買って家に行く。終いにはマモちゃんに気をとられすぎて会社をクビになる始末。恋愛は人を盲目にすると言いますが、テルコは恋愛の一方通行ぶりをそのまま体現しています。ただ、傍から見るとこんな偉そうなことが言えるわけで、大なり小なり恋愛中の人間はこうだと思いますよ。

 

 ただ、このマモちゃんという男がまた曲者。見た目は成田凌なのでイケメンなのですが、自分に自信がないダメ男で、外を歩いている時もテルコを歩道側に歩かせているという鈍感野郎なのです。しかも他人と距離を置く人間でもあり、介入を拒みます。だから、ほぼ確実にテルコの気持ちに気付いているにもかかわらず、それに対して答えようとしない、若しくは答えられず、彼女と不誠実に曖昧な関係を続けています。映画を観ている観客は、劇中の葉子(深川麻衣)の言葉通り、「そんなのとは早く分かれな」とか思ってしまいます。しかし、だからと言って憎めるかと言えばそんなことはなく、むしろコイツも「こっち側」の人間だと知って妙に感情移入してしまいます。

 

 この2人と鏡像関係にあるのが、先ほどの葉子と、最高の男、ナカハラ(若葉竜也)。葉子は先述の通り、テルコに対して現実的なアドバイスをしている人間で、しかも元乃木坂46ということでかなりかわいいのですが、それ故にナカハラ君のどうしようもなく(いい意味で)冴えない感じが強調され、ナカハラ君の片想いが切なく感じられます。

 

 この2人は初めこそ気にならず観ていられたのですが、中盤以降、マモちゃんに苦言を呈していた葉子自身も、ナカハラ君に対して同じことをしていたと分かります(そして多分、葉子も同じ体験をしている)。それ故にナカハラ君が葉子を諦めたとテルコに言うシーンは、我々と同じく「普通の人間」の選択として、そして「あり得たかもしれないテルコ」として映り、「やっぱそうだよなぁ」と我々観客に思わせるものでした。彼らの物語が入っていることで、本作はより普遍的な恋愛の話になっていると思います。

 

 このようなどうしようもない一方通行の恋愛をしている連中に割って入るのがすみれ(江口のりこ)。彼女はサバサバした性格でこいつらの恋愛事情をぶった切っていきます。白眉は別荘での夜のシーン。あの「隠していた事実が明るみに出て、現実を突きつけてくる」感じが本当に怖かったし、良かった。

 

 登場人物以外にも、本作は小道具とか美術というか、細部に至るまでが凄く良くて、特によかったのは酒です。テルコを始めとした人間が恋愛の話をするときなどは、いっつも酒を飲んでいるのです。しかも金麦とか安いヤツを。酔わねぇとやってらんねぇみたいな感じで。この酒のシーンをはじめ、食事シーンなども、本作は全体的に素晴らしかったです。

 

 一方通行のテルコは、度々出てくる自分との会話を繰り返し、「現実的」ではなく、「マモちゃんの傍にいる」という究極の選択をします(この時のマモちゃんの友人の「赤がいいな」発言が非常に暗示めいている気がする)。それは「現実的な」選択をしたナカハラ君がラストでちょっとだけ希望を残したエンドになったのとは対照的だなと思いました。

 

 テルコの行動は正直、少し引くところもあります。しかし、それは我々が俯瞰して観ているから抱く感想なのであって、恋愛中の人間はこんなもんなんじゃないでしょうか。本作は、一方通行しかしてないダメな人間達の恋愛模様を飾り立てたりせず、しっかり描いた作品だと思っていて、それ故に素晴らしいと思っています。少なくとも、彼ら彼女らは相手のことを心底好きになっていて、この時点でアイツらは私よりもマシな人間なのだと思います。