暇人の感想日記

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アメコミヒーローを通して、今、現実の世界で求められているリーダーを描いた快作【ブラックパンサー】感想

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86点

 

 MCU最新作。アメリカではMCUの中でも屈指の大ヒットを飛ばしている本作。実際に観てみると、ヒットするのも納得の作品でした。というのも、本作は「ヒーローのオリジン」と「主人公の成長」を軸に話が展開し、それが達成された時、自然と今の世界に向けてのメッセージにつながってくるという、アメコミヒーロー映画としても、搾取と差別の歴史を踏まえ、今を描いた社会派映画としても非常に完成度の高い作品だったからです。

 

 観始めて目を奪われるのは、スタッフが徹底して調べ上げたというアフリカ地域の民族文化。エキゾチックな印象があり、観ているだけで楽しいです。

 

 本作の主人公はティ・チャラ。彼は『シビルウォーキャプテン・アメリカ』で死亡したティ・チャカに代わって王位を継ごうとしています。しかしこの男、どうにも頼りない。それは冒頭から出ていて、彼は元カノの前に立つと緊張で硬直し、若干ピンチに陥ったりします。そしてそれを護衛隊長であるオコエさんにたしなめられる始末。周りがしっかりしているだけに、余計に彼の頼りなさが強調されます。ちなみにこの冒頭の戦闘シーンは、アクションだけでキャラ紹介をしている良いシーンでもあります。

 

 でも、その周りも少し問題で、基本的になぁなぁのまま彼を甘やかしています。王位の継承儀式も出来レースでしたし。途中の乱入が無ければ、彼の強さすら疑っていました。

 

 そんな甘やかされているチャラと対照的なのがマイケル・B・ジョーダン演じるエリック・キルモンガー。本作の事実上の主役とも言える彼はヌクヌク育ったチャラとは対照的に、底辺から自力で這い上がった男。なのでチャラとは違い、苦しんでいる人々の辛さを身を以て知っています。そんな彼の目的はワカンダを乗っ取ること。何故彼がそのようなことを考えたのか。それはワカンダの持つ欺瞞が原因です。

 

 ワカンダはヴィブラニウムが採れる唯一の国で、その科学力は世界の水準を遥かに上回ります。そんな超絶科学を持つならば外国にさぞかし有益なことをしているのかと思われますがそんなことはない。「他国のゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだ」とし、諸外国にはその科学力を徹底的に秘密にし、世界には「農業国」として通しています。つまり、他国の窮状を救える力があるのに、黙って見ているわけです。

 

 エリックの父親はこの欺瞞を止め、科学力を持ち出そうとしたためチャラの父親に殺されたのでした。エリックは底辺から這い上がったため、苦しんでいる人の気持ちが分かります。故にワカンダを乗っ取り、世界中の虐げられている人々に「戦うための力」を授けようとするのです。

 

 根底にある思想には非常に共感できます。世界中で言われていることですし。ですが、そのために武器を輸出することはどうなのでしょうか。これって、過去から現在まで、アメリカとかソ連とかロシアとか、所謂「大国」が小国に武器を送って代理戦争をさせていることとあまり変わらない気がします。

 

 虐げられた人々を救わなければならない。しかし、エリックも止めなければならない。チャラは葛藤の末に、過去のワカンダを受け入れ、「これからのワカンダ」を自らの意志で目指し始め、世界と繋がります。それは露骨なまでの反・トランプ的メッセージ。ここから、本作で描かれたヒーローは、まさに今、世界で望まれているリーダーであると言えます。

 

 こうして新たな決意を固めたチャラがラストにある場所に行くことでワカンダの在り方が冒頭と対比され、「あの」子どもの問いかけに答えられるチャラは、まさしく新しいワカンダの国王なのです。

 

 また、冒頭と言えば、最初の最初。ある人物がおとぎ話を聞かせているシーン。終盤でその人物が分かるのですが、ここでもう感動が何倍増しになります。

 

 エリックは今回で退場ですが、彼の存在は今後もチャラの中で生き続けるでしょう。何故なら、チャラが目指すワカンダは、エリックが憧れていたものだろうから

 

 最期に・・・ワカンダフォーエバー!