暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2018年秋アニメ感想⑧【風が強く吹いている】

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 三浦しをんの小説を原作としたアニメ作品。原作は過去に実写映画化もされていますが、私は読んだことも、映画も観たこともありません。では、なぜ視聴しようと思ったのかと言えば、それは制作スタッフ。プロデューサーには松下慶子と、制作会社にはProduction.IGという、これまで『ハイキュー!!』や『ボールルームへようこそ』といった良作スポーツアニメを送り出してきた布陣が揃っていたためです。

 

 今回、このチームが挑んだのは「駅伝」という、およそアニメ映えしないであろう種目。しかもチーム10人分のドラマも描く群像劇。普通ならば不安になりそうですが、「このチームならば」と期待を胸に視聴しました。

 

 

 結論から言えば、本作は青春群像劇として素晴らしい作品であり、「走る」事をかなり深掘りし、きちんとドラマに出来ている作品でした。

 

 本作のメインは、「箱根駅伝」です。つまり、陸上。普通に考えれば、走るということは、アニメーションにおいては、大きな見せ場だと思います。走っているときの疾走感を如何に出すか、ということはアニメーターの腕の見せ所だと思います。

 

 しかし、こと「陸上競技としての走り」になると話は違います。ここで求められているのは陸上選手がやる規則正しい動きです。そこにはアニメーション的な疾走感はあまり出せないと思っています。さらに、ずっと同じ動きであるため、画面に変化があまり無く、画面を持たせるという意味でもアニメ映えしないと思います。そのくせ、常に動いているため動画の枚数は食うというコスパの悪さ。一昔前ならば中々に難しい題材だったと思います。

 

 この「走る」というスポーツを、スタッフは非常に堅実にアニメーションにしています。走っているときの筋肉の動きや息遣い、1人1人のフォームの違いを丁寧に描いています。また、その他大勢が走るときなどは3DCGを使ったりと工夫もしています。

 

 ただ、本作において、「走る」ということには競技以上の意味がもたらされています。それを持たせるために、メインの10人のドラマをかなり丁寧に掘り下げていて、これによって、本作は青春群像劇として素晴らしいものになっていると思います。

 

 ここでは、脚本を執筆された喜安浩平さんの、『桐島、部活辞めるってよ』でも発揮された手腕が光ります。第1話で、全てのキャラクターの性格をきちんと見せてしまっているのです。そして、この10人には様々な悩み、葛藤があることを描きつつ、ハイジの強引な説得によって次第にバラバラだった10人がまとまり、箱根駅伝で襷を繋ぐ。ここに、最大のカタルシスを感じました。

 

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 よく箱根駅伝では「ドラマ」が語られます。その駅伝のためにすべてを注いできた選手たち。異なる10人がそれぞれに想いを託し、襷を繋げていく姿に、毎年視聴者は熱くなるのです。本作も、要はそういうことだと思います。だから各々のドラマを丁寧に描くのです。各々の人生を生きているアオタケ荘の皆が、「なぜ走るのか」と問いながら懸命に走り、「次」に繋げるために襷を渡す。この意味で、本作は駅伝の感動をそのまま描いた作品だとも思います。

 

 そしてこの「走る」ことには、「生きること」という意味がもたらされます。劇中で何度も「なぜ走るのか」と問われますが、それはそのまま「何故生きるのか」という問いになります。皆生きる意味なんて明確にはわからないけど、それでもがむしゃらに生きなければならない。この姿は、「走る意味」が分からずとも、信頼している仲間と共に走り抜いた彼らの姿に重なります。

 

 がむしゃらに走って、襷を繋ぐように望みを繋ぎ、新たな道を切り開く。それは1人では決してできないことだけれど、10人でならできるのです。

 

 最後に、キャラの描き方の上手さについては既に書きましたが、関係性を構築していく様も丁寧で、素晴らしかったです。ちなみに、私が一番感情移入して見てたのはキングでした。総じて、素晴らしい作品でした。

 

 

同じくスポーツもの。こちらは天才と凡人について描いた作品だったような。

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