暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年秋アニメ感想⑧【ひぐらしのなく頃に業】 ※ネタバレあり

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 ※この記事には、今作のネタバレはもちろん、現在公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレも含みます。
 
 
 ゼロ年代に一大ムーブメントを巻き起こした歴史的作品「ひぐらしく頃に」の正統続篇。私は90年代に生まれ、世代的には直撃なのですけど、実はこれまで見たことがなくて。というのも、「ひぐらし」の序盤で顕著なグロテスクな描写や陰惨な雰囲気が苦手だったんですよね。しかし、新作が放送されるということで、過去作を見ておいた方が比較とかできて良いだろうと思い、今回、過去作を視聴したうえで、今作も視聴しました。
 
 放送順に印象を述べていくと、最初は他の皆さんと同じく、リメイクだと思っていました。1話を見た限りだと、所々気になる点はありながらも、EDでかかった「ひぐらしのなく頃に」のパワーも相まってその印象が強くなっていました。しかし、思えばこの時点で竜騎士07th先生の術中であり、3話が終わった時点で、本作が我々の想像の上をいく「完全新作」であると認識させられました。
 「ひぐらし」のようなミステリー作品を再アニメ化する場合、どうしても問題となってしまうのは、我々視聴者が「答え」を知っている点。どう行動すれば惨劇を回避できるのか、を我々は知っており、それ故にミステリー性が薄くなってしまうという点があります。本作はそれを逆手に取っており、視聴者と視点を同じくしている梨花が惨劇を回避するルートを選んでいるにもかかわらず、別の形で惨劇が起こってしまうのです。これによって視聴者は、また別の黒幕の存在を感じ取り、新鮮な気持ちで「ひぐらし」を楽しむことができるようになっています。過去作では、傍観者であった羽入がプレイヤーの暗喩だと言われましたが、本作では梨花こそが視聴者の暗喩であるといえます。
 
 そして、今作においてはネタを知っているからこそ発生する格差が面白いと思っております。情報という意味では、梨花=視聴者であり、「答えを知っている」わけですが、しかし本作では、より高次の存在の介入によりゲームがリプレイされ、黒幕は「全ての答えを知っている」梨花の行動の更に上をいく仕掛けをします。つまり本作には、ゲームのリプレイという形態をとってはいるものの、梨花は「過去と同じゲーム」という認識で、黒幕は「違うルールの下で行われている新しいゲーム」というような、2者間で情報の格差があるのです。オリジナルの「ひぐらし」は多分にメタフィクション的な内容を持った作品でしたが、本作はオリジナルの解答を踏まえたうえで、より高次の存在の介入によりクリアしたゲームをさらにリプレイさせるというメタ・メタフィクションとでもいうべき作品になっているといえます。この点において、本作は「ひぐらし」という作品らしい正統続篇であるといえます。
 
 さて、次は黒幕である沙都子について書いてみたいと思います。竜騎士07th先生自身もインタビューで仰っておりましたが、沙都子はヒロイン達の中で唯一、能動的な行動によって運命を切り開かなった人物です。それ故、最も「先」が描かれるべきキャラでした。今作における沙都子は、親友である梨花と永遠に一緒にいたいという「願い」をかなえるために力を使います。しかし、その願いは梨花や過去作で辿り着いた結論とは全く逆です。梨花や圭一は幸せな未来へ向かって外に出ていきましたが、沙都子は「雛見沢へ籠る」ことを選択しているのですから。そしてこの点を考えていくと、本作の構造的な面白さというか、「ひぐらし」らしい内容が見えてきます。
 「ひぐらし」という作品は、所謂「ループもの」です。基本的には1983年の綿流しの日前後が舞台であり、本編はそこから抜け出すことが目的でした。番外編にしても、どこかの世界線が舞台であり、基本的にはこの年代からは抜け出せませんでした。しかし、今作はその「先」こそがメインの舞台。未来に絶望した沙都子が梨花と一緒に雛見沢へ留まることを選択し、彼女が自ら世界を構築していきます。
 
 この点で思い出したのが、先日、遂に完結した伝説的アニメ作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でした。あの作品は、シンジ(=庵野監督)が、「エヴァ」というループから抜け出し、現実と虚構が見事に融和した世界へ駆け出していく話でした。今作における沙都子は、言わば「エヴァ」におけるシンジやゲンドウ、カヲルのような存在であり、『シン・エヴァ』と同じく、彼女が構築した世界から抜け出し、独り立ちする(=自らの手で運命を決める)ことこそがゴールなのかもしれないと思いました。
 
 今作のタイトルは、「業(=郷?)」です。そして解答編となる次作は「卒」。2つ合わせると、「卒業」です。「ひぐらし」という作品はループものであり、同じ時間を行ったり来たりしています。つまりは、だいたいにおいて、作品そのものが1つの空間の中に留まっているのです。しかし、本作で描かれたのは未来でした。留まっていた時間からの脱出。そして沙都子の依存的な心からの脱却。それら全てを含め、「卒業」なのかもしれないなと思いました。ただ、竜騎士07th先生はまだタネを残しているそうなので、この予想自体が彼の掌の上なのかもしれないですが。
 

 

実はループものだった件。

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 現代のループもの。

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千尋の自立の物語【千と千尋の神隠し】感想

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100点
 
 
 もう半年以上も前なんですけど、リバイバル上映で観ました。私は90年代前半の生まれなので、順当にいけば本作が初の映画館ジブリだったのですけど、予告で千尋の両親がブタになるシーンを観て、めちゃくちゃ怖くて観なかったんですよね。実際に観たのは小学校高学年になってから、金曜ロードショーでした。そんなわけで、昨年のリバイバル上映は本作を映画館で観る初めての機会でしたので、鑑賞した次第です。
 
 まず、映画館で観ることができて本当に良かった。TVでは味わえない感動がありました。宮崎監督お得意のダイナミックな動きをするアクションとか、飛行シーンも素晴らしかったのですが、やはり音楽です。映画館では久石譲さんの音楽が大音量で流れるので、そこから受ける感動もTVよりも何倍も大きかった。特に凄かったのは終盤、ハクの真名が分かったときですね。

 

風の谷のナウシカ [DVD]

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 宮崎駿監督には、一貫した問題意識があって、それは、『風の谷のナウシカ』から続き、監督前作である『もののけ姫』のテーマにもなっていた、「どうしようもない世界でも、生きろ」というものだと思います。そしてこの世界を「どうしようもなく」させたのは、「先人」なのです。つまり、今の大人ですね。『風の谷のナウシカ』の世界は高度産業文明を崩壊させた最終戦争「火の七日間」によって世界は崩壊、人間にとって有害な瘴気のせいで世界はマスクなしでは生きられなくなっています。漫画版ではこのへんがさらに深く掘り下げられていて、「人間は地球にとっては有害な生き物だが、でも生きるに値するよな・・・」という禅問答が繰り広げられます。
 
 『もののけ姫』は、舞台こそだいたい室町時代くらいなのですが、自然と人間の対立を描いていました。この作品でも、主人公のアシタカは腕に痣という形で人間が犯してきた業を背負い込みます。それでも人間と自然の間を何とか取り持とうと奔走し、最後には獅子神に人間から首を返すことで、事態を収拾します。
 
 本作はこの流れを汲んだものになっています。世界観こそ現代がベースとなっており、話の規模も先にあげた2作と比べるとミクロで、「千尋の矯正」が話の焦点となっています。この千尋という主人公は、最初は全く自立できていない存在として描かれます。トンネルを抜ける冒頭でも母親にくっついていたり、湯婆婆やリンに散々注意されたように、礼儀を知らない。本作では、それは彼女のせいではなく、両親が悪いと断罪します。この両親というのは、宮崎監督もインタビューで答えていたように、ロクでもない親として描かれていて、事の発端になった飲食にしても、「金があるからいいさ」と勝手に食べ始めます。さらに、母親はジブリ作品とは思えないビジュアルです。もう何か、宮崎監督の露骨なまでの嫌悪が見えます。「こんな親のせいで今の世の中はダメになってしまった!」というのが、宮崎監督の声です。
 
 本作では、千尋をこんな親から自立させるべく、矯正を始めます。労働によってです。油屋というあの場所はこの資本主義世界のメタファーになっています。仕事をするために名前を奪われ、契約を結ばされてしまうとか、仕事によって人を縛るとか、ファンタジックな感じにしてますけど、完全に雇用契約です。しかも、仕事が無いと存在を許されず、名前でその場所に縛らせるという点は、現代における労働の搾取をも彷彿とさせます。こうした厳しい環境に身を置き、労働に精を出すことで自立した存在として成長を促しす。この点には、宮崎監督の子供への信頼が伺えます。面白いのは、この労働によって、千尋は自分の居場所も獲得していく点。中盤のオクサレ様の下りがそうなのですけど、あれでそれまで馬鹿にされていた千尋は一気に認められ、居場所を獲得します。あれは完全に仕事における成功体験です。そして後半ではしっかりと自立し、自らの意志でハクを助けに向かいます。もちろん、1人で立って。寧ろカオナシの保護者みたいになってるし。

 

もののけ姫 [DVD]

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 しかし、この千尋と対極にいる存在がいます。カオナシです。あいつは名前の通りアイデンティティがない存在です。そして、自分がないので、自分の居場所を働くことで勝ち取るのではなく、金で獲得しようとしました。この点で、カオナシ千尋の対極にいると思います。だからカオナシは金持ってるロクデナシなのかな。ただ、ずっと千尋のことを見てたりするのは宮崎監督の深層意識の表れなのかとも思ったり。
 
 この「子どもが本来持っている力を目覚めさせる」という点は、同じく高畑勲も扱ったテーマです。「アルプスの少女ハイジ」で。あの作品でも、都会は子どもの可能性を押し殺してしまう場所として描かれ、ハイジは自然で子どもとして伸び伸びと学んでいきます。そして、クララは都会では足が治らず、自然の中で足が快方へ向かいます。「都会」という社会の捉え方、そして子どもを都会ではない場所で成長させるという、共通したテーマを扱っている点は興味深く、本作は宮崎監督なりの「アルプスの少女ハイジ」なのかもしれないと思いました。
 
 現実世界ではロクでもない親と社会のせいでロクでもない人間になる寸前だった千尋を、現実ではなく、油屋という世界で労働に従事させ、自立させてから現実へ送り返す。宮崎監督の、「どうしようもない世の中だけど、生きろ」。そのためには、一刻も早く子どもを自立させなければ駄目だ、という想いが顕著に出た作品でした。
 

 

ポノック作品。

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ある意味似てるかも。

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宮崎駿監督作。

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偏見への痛烈なカウンター【バクラウ 地図から消された村】感想

バクラウ 地図から消された村

 
75点
 
 
 ブラジルの鬼才、クレベール・メンドンサ・フィリオ監督によるジャンル分け不能映画。各所で話題かつ評判も高いので鑑賞しました。ユーロスペースでは観れなかったので、2月に行動範囲内のミニシアターで観ました。ちなみに、監督の前作『アクエリアス』は未見。NETFLIXにあったらしいけど、知ったときには配信終了3日前とかだったので。ネトフリは本当にこういう周知はしっかりとしてほしい。マジで。
 
 本作を一言で言い表すなら、「サプライズてんこ盛り」につきます。本作は多分にジャンル映画的な要素をはらんだ作品なのですが、そのどれとも違う点に行ってしまうのです。私がジャンル映画的に「これはこうなるんだろうなぁ」と思ったら全然違う方向に行き、常に私の予想を裏切り、斜め上に行き続けます。
 
 序盤、「ウルトラQ」のような珍妙なBGMが流れ、宇宙からバクラウへ画面が移っていきます。ポスターにUFOが見えたので「これはアレか、SFなのか」と思ったのですがそんなことはなく、バクラウの村の丁寧な生活描写が続きます。この時点で「何だこれ」と思うのですが、不穏な空気が流れ始めます。この徐々に日常が侵食されていく感じが不気味で素晴らしいです。そして中盤でウド・キア率いる謎の舞台が現れ、物語は急転、「弱者」である村人と武装した「強者」であるアマチュア戦闘部隊による、『ザ・ハント』的な人間狩りが始まるのか、と思いきやそんなことはなく、何と今度は辺境ホラーとなってアマチュア戦闘部隊が一方的に殺戮される展開が起こり幕を閉じます。
 
 以上のように、本作は、我々が本来持っている「偏見」や思い込みを巧みに利用してその裏をかいてみせている作品と言えます。そしてこれはジャンル映画への批評的な視点もあると思うのです。ジャンル映画というのは、良くも悪くもそのジャンルの領域から出ない映画が多いです。そしてそこでは、言ってしまえば偏見を助長したりする描き方もあったりします。本作はそこへメスを入れます。例えば、バクラウを「未開の村」としてではなく自分たちの文明をしっかりと持っている、我々と変わらない存在として描いたり、「虐げられる弱者」というステレオタイプな描き方もしません。そしてアマチュア戦闘部隊は、差別的で、文明国が持つ傲慢さも持ち合わせている存在として描かれています。つまり本作は、我々が持つ偏見に対する、痛烈なカウンターの物語であると言えるのです。大変変な映画ですが、「ジャンル映画で以てジャンル映画を乗り越える」志を持つ映画だと思います。
 

 

人間狩り映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 辺境ホラー(マチズモ男性への制裁話)。

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分断から調和へ【この茫漠たる荒野で】感想

この茫漠たる荒野で

 
92点
 
 
 トム・ハンクス×ポール・グリーングラス監督という、『キャプテン・フィリップス』コンビによる西部劇。アメリカ本国では劇場公開されたようですが、日本ではNETFLIX配信。シネスコの画面を目一杯に使った「茫漠たる荒野」もあったため、ぜひ劇場で観たかったのですが、このご時世ですからね。とりあえず、この座組と西部劇というジャンルから、私は大変惹かれまして、鑑賞しました。
 
 本作の舞台は南北戦争直後の1870年。主人公キッドは、ニュースの読み聞かせをやっている退役軍人。彼が旅の途中、偶然に出会った少女ジョハンナを本当の親族のもとまで送り届けるロード・ムービーですジョハンナは戦争中にネイティブ・アメリカンにさらわれて育てられた過去があり、彼女とキッドの交流が描かれます。。この点から『子連れ狼』を連想させられます。中盤に挟まれる銃撃戦や、チェイスシーンなどの緊張感も素晴らしいです。そして、この点にも表れているのですが、本作のテーマは「分断と融和」。現在も世界各国で取り上げられているテーマであり、ことアメリカではトランプ大統領就任以後、最も重要なテーマと言えます。本作は南北戦争という時代を描くことで、大雑把に2つに分断された今の時代を描こうとしているのです。
 そもそも、南北戦争というのは、簡単に言ってしまうと「綿花栽培のため奴隷労働を維持しようとした南部」VS「産業が発達し、近代的な資本主義経済により、奴隷労働が必要ない北部」の内戦でした。南部の人間からしたら、綿花がとれなくなれば自分たちの死活問題になるので、奴隷制に反対したわけです。この内戦は結局は北部の勝利で終わり、奴隷制の廃止がなされます。この点はどの点から見ても正しい事であるのは明白です。しかし、内戦の傷跡として、アメリカという国は2つに分断されてしまいました。そう、まるで今のアメリカのように。
 
 この混沌とした世界で、1人ニュース読みを行っているのがキッドです。これは多分識字率の問題から成り立つ職業だと思うのですが、混沌とした時代に、正確なニュースを知らせるというのも、凄く現代的だなと。中盤の集落が象徴的なのですが、自分たちのコミュニティを作ってそこに閉じこもり、自分たちにとって都合のいい情報しか流さないというのは、トランプ陣営や、彼らが使うフェイクニュース批判でしょう。そこでキッドが真のニュースを伝え、それが住民の蜂起につながるのも凄くアメリカっぽいなと。

 

キャプテン・フィリップス [Blu-ray]

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  • 発売日: 2014/09/03
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 本作の素晴らしい点は、こうした分断と混沌を分断として描くだけで終わらせるのではなく、融和の可能性まで描いている事です。ジェファーソンはテキサスの人間と多く出会いますが、彼ら彼女らを悪として断罪してはいません(中にはクズもいるけど)。そして、ジェファーソンは彼ら彼女らのためにニュースを読んでいます。もちろん、奴隷制を肯定したりはしていません。そこにあるのは、「過去を忘れない」という姿勢です。ジェファーソンがニュースを読んでいるのも、今のニュースを伝えるとともに、過去の傷跡を忘れてはいけないから。過去は忘れるものではなく、それを踏まえたうえで、同じアメリカ国民として進んでいこうという、素晴らしいメッセージを含んでいると思えました。さらに、これだけお堅いテーマを扱っているにもかかわらず、最後はジョークで〆るという後味の良さも凄く品が良くて、評価が上がりました。
 

2021年春アニメ視聴予定作品一覧

 冬アニメも、もう終わりです。冬アニメは中々レベルが高くて、充実した視聴体験をすることができました。今期も、視聴予定の新作アニメを一覧で紹介します。今回も前回通り、期待値をマーク付けて示したいと思います。

 

期待大=◎、楽しみ=○、とりあえず見る=△です。

 

2021年冬アニメ視聴継続作品

「バック・アロウ」

 

2021年春アニメ視聴予定作品

「Vivy-Fluorite Eye’s Song-」○

「86-エイティシックスー」○

「EDEN」○

「幼なじみが絶対に負けないラブコメ」○

「オッドタクシー」△

「極主夫道」△

ゴジラ S.P<シンギュラリティ・ポイント>」◎

さよなら私のクラマー」△

「シャドーハウス」△

「SHAMAN KING」○

スーパーカブ」○

ゾンビランドサガ リベンジ」○

「戦闘員、派遣します!」△

「SSS.DYNAZENON」◎

NOMAD メガロボクス2」○

「美少年探偵団」○

「B:The Beginning Succession」△

不滅のあなたへ」○

「YASUKE」△

 

 春アニメで視聴予定の作品は、何と19本。これでも絞った方。もう昨年がコロナでてんやわんやだったせいかどうか知りませんが、ここに一気に良い作品が集中している印象です。中でもいちばん楽しみなのは、もちろん「ゴジラ S.P」ですよ。オレンジとボンズゴジラ作ってくれるとか最高かよって感じですし、しかもジェットジャガー推しなんですよね。もう楽しみで仕方が無いですよ。しかも「SSS.DYNAZENON」という特撮アニメ化作品もあるし、充実ぶりがヤバい。

 

 後は注目どころでは以前より気になっていたラノベ、「86ーエイティシックスー」と「幼なじみが絶対に負けないラブコメ」、WIT STUDIOオリジナル作品の「Vivy-Fluorite Eye’s Song」、1巻だけで読むのをやめてしまった「不滅のあなたへ」などが気になる作品です。「SHAMAN KING」はリアルタイム直撃作品ではあるけれど、過去に作られた往年の名作のアニメ化作品の出来を考えると、そこまで期待はしないでおきます。「極主夫道」もPV見る限り大丈夫かなとは思うのですけど、とりあえずは見ます。今期も、評判などを考慮して、見る作品を増やしていきたいと思います。それでは。

社会構造の告発と、女性の自己の確立の物語【あのこは貴族】感想

あのこは貴族
 
94点
 
 
 最初は観る気はありませんでした。予告を観ても、ありきたりな恋愛ものというか、社会の格差を表面的に描いただけの作品な気がしたからです。しかし、Youtubeで配信中の「そえまつ映画館」にて、松崎健夫さんが「今年ベスト」と大絶賛されていたことから興味が湧き、SNS上での評判も尋常ではないレベルで良いので鑑賞を決めました。
 
 結論から言ってしまうと、本作は傑作でした。私のような庶民では決して縁のないこの国の上流階級を徹底してリサーチして描いた点も勉強になりましたし、上流と下流という、この国にある身分格差を「見ている風景」の上下で示して見せた点も素晴らしかった。そしてそれ以上に、「#MeToo」以降、日本であまり生まれ得なかったフェミニズム的な視点を持つ作品だと思いました。加えて、これを「男性の問題」にまでしっかりと広げて、この社会そのものの生き辛さも描いている点も素晴らしかったです。

 

あのこは貴族 (集英社文庫)

あのこは貴族 (集英社文庫)

 

 

 本作は「貴族」である華子の成長物語です。タイトルが出るショットでも表れているのですけど、あそこでは、華子の背景には何もなく、彼女のアイデンティティがなく、「家」だけの存在であると示されます。それは序盤の婚活で表れていて、華子は「良縁を持ち、結婚して跡継ぎを産む」ことのみを考えています。それが「当然の責務」であるかのように。また、移動手段に関してもそうで、華子は基本タクシーなんですよね。タクシーという時点でどんだけ金持ちなんだよって思いますけど、華子は自分で車を運転しない、つまり、「誰かにどこかに連れて行ってもらう」ことを当然としている人物として描かれています。
 
 そんな彼女が、婚約者である幸一郎を介して出会うのが、自分とは全く「身分」が違う美紀。彼女は地方から東京へ憧れを持って東京へ出てきましたが、金銭的な理由で退学して風俗で働いて、コネで会社に入って何とか生きています。美紀と出会い、華子は自分とは違う景色を知るわけですが、面白いのは2人が出会った瞬間。私は「普通に考えて」しまって、修羅場になるんじゃないかと思っていましたが、そこは外してきます。封筒を取り出したとき、「何だ手切れ金か」と思ったものの全然違うし。2人は別にいがみ合わないし、かと言ってそんなに仲良くもしない。関係性が凄くサッパリしているのです。
 
 ここで示されるのは、対立ではなく、融和の路線。逸子の「女性たちは無暗に分断されているじゃないですか。でも連帯することだってできると思うんです「意約」」の台詞通り、身分の差で分断するのではなく、融和の路線をとろうというのが、本作で描かれているのです。それは、華子が美紀の家からの帰り道、ビニール傘をさし、橋の道路越しに名も知らぬ人と手を振ったように。居る場所は離れているけれど、確かに繋がることはできるはずだということだと思うのです。

 

グッド・ストライプス

グッド・ストライプス

  • 発売日: 2015/12/24
  • メディア: Prime Video
 

 

 2人は色々と違いますが、共通しているのが「生き辛さ」を抱えている点。それは共通していて、華子も美紀も「こうあるべき」という社会の押しつけです。それは広くは「女性なら」という点だと思うのですけど、本作では幸一郎の生き辛さも描かれており、男性にも共通している点だと示されます。この社会には、「こうあるべき」という押し付けがある。この社会で生きている人間は、須らくこの旧来のシステムに縛られていて、苦しみを抱えている「中にはこれに順応し、支配に回っている人間もいるけど)。だから中盤の自転車2ケツシーンは最高で、あの瞬間、あの2人がこの世界の全てのしがらみから解放されている気持ちになりました。
 
 華子はこのシステムのまま、生きようとしていました。それが美紀と出会うことで「他の生き方」を見出し、アイデンティティを獲得するのです。ラスト、華子は自分で車を運転しています。タクシーで連れていてもらうだけではなく、もう自分で行先に辿り着くことくらいはできるようになったのです。そしてラストシーン。「上下」を上手く使った階層表現、そして、華子がいるのは「上」でも「下」でもない「中間」です。ラストは冒頭と対になり、無味乾燥だった冒頭とは違い、自分なりの「色」に染まった華子が映ります。それは彼女が獲得した「自己」なのです。このように、本作は社会の構造の告発と自己の確立を描いた傑作でした。
 

 

上下階級の断罪の物語。

inosuken.hatenablog.com

 

 日本映画だとこれかなぁ。

inosuken.hatenablog.com

 

 アニメーション作品だけどシスターフッド

inosuken.hatenablog.com

 

栄者必衰の理(※悪夢付き)【カポネ】感想

カポネ

 
70点
 
 
 大傑作の『クロニクル』によって大ブレイクを果たしたものの、続くビッグバジェット大作『ファンタスティック・フォー』が興行的にも批評的にも大惨敗し、ハリウッドを干されてしまったジョシュ・トランク。そんな彼が復帰作として制作したのが本作です。私はジョシュ・トランクには何としても復帰してほしいと思ったので、本作はとにかく観たいと思っていました。
 
 本作の主人公はアル・カポネ。『アンタッチャブル』や『スカーフェイス』のモデルとなったギャングです。とくれば、まず想像するのは先にも挙げた『スカーフェイス』とか『ゴッドファーザー』みたいな、血沸き肉躍る伝記ドラマです。私も観る前はそう思っていました。しかし、観てみれば、全然違いました。本作はアル・カポネの弱り切った晩年を描いた作品だったのです。例えるなら、『ゴッドファーザーPARTⅢ』のラストシーンを100分かけてやった、みたいな作品です。

 

ゴッド・ファーザー PART3 (字幕版)

ゴッド・ファーザー PART3 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 本作はとにかく変な映画で、自身の帝国が崩壊していき、何もかも失っていく中で、弱り切ったカポネをずっと映しているだけというのもそうなのですが、それと共に、彼が見る悪夢までも見せてきます。しかもその悪夢を撮っているのがデヴィッド・リンチ作品を手掛けたピーター・デミングなので、映画そのものが抽象的なアート作品となっていきます。ただ、晩年の静かな映画だと思うと大間違いで、主に悪夢のシーンなのですが、彼がしでかしてきた残虐な行いも突発的に挿入され、ギョッとさせられます。この情緒不安定さも本作が特殊である理由です。カポネの弱り切った姿を見せ、その上で精神状態までも観客にも体験させるというトンデモ映画が本作なのです。
 
 何故このような映画を撮ったのか。これはジョシュ・トランクなりのハリウッドへの抵抗というか、置手紙みたいな作品なのかなと思いました。彼は将来を嘱望されたは良いものの、『ファンタスティック・フォー』が失敗に終わってしまったことでキャリアが閉ざされてしまいました。これを踏まえて、私には、ジョシュ・トランクが、本作のカポネに自分を重ねているようにしか思えませんでした。つまり、自分はもう死につつあるんじゃないのかという。栄華を誇ったものの、それは一瞬で消えてしまった。家族すらもう誰も分からない。後に残るものはあるんだかないんだか分からない財産と、後悔だけ。それなら、イケイケの時だけ描いてるくせに誰も描かなかったカポネの、弱り切った晩年を見せつけてやろうという。作中には漏らすシーンがありますが、あの通り、映画で以て、ハリウッドへクソを投げつけるのが、本作でジョシュ・トランクが成し遂げたかったことだったのかなと思いました。大丈夫なのかな。ジョシュ・トランク
 

 

スコセッシの傑作ギャング映画。

inosuken.hatenablog.com