60点
スタジオジブリから独立した西村義明Pと米林宏昌監督が設立したスタジオポノック。2作目の公開作品。前作『メアリと魔女の花』は「魔法」をジブリに例え、「魔法なんていらない!」と言ってジブリからの決別を図った内容になっていたと思います。しかし、その割には全編に亘ってジブリ感満載で、志とは全く逆に「ジブリっぽさ」に全面的に依存した作品となっていて、それがとても歪な感じがして、いまいち好きになれない作品でした。
そんな前作から1年経ってポノックが放った本作は、まさかの短編集。作品は米林監督の『カニーニとカニーノ』、『ギブリーズ』の百瀬義行監督の『サムライエッグ』、そして山下明彦監督の『透明人間』でした。ぶっちゃけ、『メアリと魔女の花』の影響で、『カニーニとカニーノ』はそれほど期待してなく、百瀬監督と山下監督の新作が観られるということで鑑賞しました。短編集なので、個々の作品について個別に感想を書いていきたいと思います。
【カニーニとカニーノ】40点
米林宏昌監督作。知名度的に看板作品でしょうが、残念ながら一番つまらなかったです。川に住んでいる蟹の兄妹を擬人化して、とある事故によってはぐれた父親を捜す小さな冒険を描きます。台詞は無く、観客は動きと表情のみでキャラの感情を読み取る必要があります。また、蟹というミクロ視点から世界を描いていることも特徴です。
こういった設定だけは面白いです。しかし、ストーリーの展開がやや緩慢で、最後の危機については、おそらく見せ方の問題か、全くハラハラしません。あそこは距離感が分かるように撮らないといけないのではないのでしょうか。3作目の『透明人間』を見習った方がいいんじゃないかなぁなんて思ったり。また、中盤の川の外のシークエンスは必要だったのでしょうか。こんな疑問も出てきます。
こんなことを思いましたが、それ以上に私が問題だと思ったことは、米林監督自身についてです。前作『メアリと魔女の花』に続いて、また「ジブリっぽい」絵の作品を作っているのです。内容も(おそらく偶然でしょうが)宮崎駿監督の短編『毛虫のボロ』っぽいし。早くジブリの呪縛から解き放たれないと、彼はまた「劣化ジブリ」を作ることになる気がして、心配になりました。
【サムライエッグ】75点
米林監督には申し訳ないですが、本命の1人目。百瀬義行監督作品。絵は米林監督とは違い、同じ百瀬監督作品『ギブリーズ episode2』を彷彿とさせるもので、全体的にクレヨンで描いたような柔らかいタッチです。しかし、内容はそれとは逆に結構深刻なものでした。『カニーニとカニーノ』は呑み込み辛いストーリーでしたが、こちらはシンプルで面白かったです。
本作の「敵」は卵アレルギーです。アレルギーが発生した時の恐怖演出が中々エグいです。普段は何気なく生きているけど、アレルギーによって彼らの生活がどれだけ恐怖に満ちているのかがヒシヒシと伝わってきます。絵柄と対照的であることも相まって、これが余計に観客の恐怖を煽ります。
しかし、そのような恐怖の中で、最後にアレルギーに負けることなく生きていこうとするシュン君を観て、彼の中にある「生きる」ことへの強い意志を感じました。つまり本作は、卵アレルギーという非常にミニマムな題材を扱っていますが、描いていることは「生きようとする意志」だったのかなぁと思います。だからこそ「サムライ」なんでしょうね。
【透明人間】80点
3作目。監督は山下明彦さん。本命その2。3作の中で一番面白かったです。個人的には、これだけでも料金分の元が取れたと思っています。それぐらい素晴らしかったです。
始まって驚くのは、およそ「ジブリ感」とはかけ離れた絵と画面構成。風景は灰色でどんよりしていて、カメラとかもエッジが効いたものが多々あります。こういうのが観たかった!
本作の主人公は「透明人間」です。しかし、我々が普段考えている存在とは違って、我々と同じように日常を送っています。つまり、仕事もしているし、隠れることもなく生活しています。この時に、透明にも拘らず、細かい日常芝居をしている点に感心しました。ただ、違うのは「世界から存在を認知されていない」点です。普通に仕事をしているにもかかわらず、目の前の人間からはまるで存在していないかのように扱われるのです。目の前の女性が落としたボールペンをとってあげてもお礼1つ言われないし、コンビニで何か買っても気付いてもらえない。ATMにも存在を拒否られ、最後には重力にすら見放されます。
こう考えると、「透明人間」とは「存在感ない奴」の象徴であり、彼が持っている消火器は自身をその場所に留めておくための「重り」だったことが分かります。本作はそんな「存在していない」彼が老人に存在を認められ、「赤ん坊を救う」という「偉業」を達成することで自己の存在を獲得していく姿を描きます。この終盤の救出シーンが素晴らしいですね。観ていて本当にハラハラします。
終わり方もキレ味がよく、良い余韻を以て終わります。これで私は満足していました。しかし・・・
【OPとED】
EDで台無しです。本作は短編が始まる前と後に主題歌が流れるのですが、それがメチャクチャ子供向けで、聴いていて居心地が悪くなります。しかもこれによって、この短編集がどこの層に向けて作られたのかがさっぱり分からなくなります。上記のように「子供向け」な内容はあまりないので。しかも最後はおよそ子供向けではない作品なので、余韻が台無しです。これで若干評価が下がりました。
【まとめ】
正直、スタジオポノックの先行きが不安になりました。1作目がジブリ全面依存で、2作目はパンチがある作品が1つだけ。このままジブリの呪縛の中で作るのだとしたら、未来は無いのではないのかぁと偉そうなことを思いました。
同じくジブリ出身である高坂希太郎さんが制作した映画。こっちは傑作でした。
同じく2018年に公開された作品。こちらは傑作でした。ジブリとは違う意味で、アニメーションを極めた形なんじゃないかと思いました。