暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

保守層とリベラルの断絶を描き出す【ザ・ハント】感想

ザ・ハント

 
75点
 
 
 ブラムハウス製作作品。「ブラムハウス」というだけでも期待値は上がるのですけど、本作の場合、何といっても脚本がHBOのリミデッド・シリーズ版「ウォッチメン」の脚本家であるデイモン・リンデロフであることが一番の鑑賞理由です。時間も90分でちょうどいい感じだし、ジャンル的にも気軽に楽しめるだろうと思い、鑑賞しました。
 
 本作は非常に変則的な内容です。冒頭が素晴らしくて、「人間狩り」の定番を利用した、意表を突く展開を見せてくれます。「狩られていく」側の視点から描かれているのですけど、「主人公っぽい」俳優が出てきて、「こいつ主人公なのかな?」と思ったらすぐに死んでいくという展開が続くのです。しかも最後には主だった人間が皆死んでしまいます。開始20分くらいで、私たちはこの映画のゴールが分からなくなるのです。ここがまず面白かった。
 
 そしてここから真打登場とばかりに出てくるのが主演のクリスタル。ここから、彼女が無双しまくるという痛快な展開が始まります。ここから本作における「狩る側」と「狩られる側」の関係が冒頭と完全に逆転します。我々は冒頭で外道どもの鬼畜行為を見せられているので、ここで留飲を下げることができます。この辺が上手い。

 

サプライズ(字幕版)

サプライズ(字幕版)

  • 発売日: 2014/04/16
  • メディア: Prime Video
 

 

 本作を語る上で最も重要な要素は、本作がアメリカ本国では「上映禁止」に追い込まれた作品であること。アメリカの保守層が本作を「リベラル・エリートがトランプ大統領の支持者を虐殺していく様子を描いた映画だ」と批判したことを受け、トランプ大統領Twitterにて批判をした(←観てないっぽい)ことが原因だそうです。「ほう、そんなもんなのかそりゃ酷いな」と思われるかもですけど、本作をきちんと観た人なら分かると思います。「それ表面上の話じゃん!」と。本作は表面上は確かにそうです。しかし、その裏には寧ろトランプ大統領やその支持者と対立する「リベラル層」を揶揄する内容が含まれている作品なのです。
 
 本作が扱っているのは「陰謀論」。貧困層の白人達がリベラル・エリートであるアシーナ(ヒラリー・スワンク)達が「人間狩りをしている」という根も葉もない陰謀論を巻き散らかしたことが発端。根も葉もないのにアシーナ達は批判され、ひどい目に遭い、「じゃああいつら本当にぶっ殺してやんよ!いても害悪なだけだし!」とブチ切れ、クロアチアに本当に狩場を作ってしまったという冗談みたいな話。
 
 話は冗談みたいですけど、中身は非常に示唆に富んでいて、SNSで巻き散らかされる陰謀論にハマる人間を揶揄するのはもちろんなのですが、それ以上に、保守層と敵対するリベラル層が暗に抱いている「アイツらいてもこの世界のためにならねーじゃん!」という思考への揶揄でもあると思うのです。日本のSNS上でもいるじゃないですか、「ネトウヨは消えた方が良い(まぁ、私自身ネトウヨは嫌いですけど)」と言っている人とか。そしてそういうリベラルな人でも、偏見を持ってしまっている。アシーナとクリスタルの会話の中で、アシーナが「動物農場」を知ったかぶってクリスタルに突っ込まれるという下りがあるのですが、これ、アシーナが無意識のうちに「貧困な白人の保守層」を見下していることを意味していると思うんですよね。ここに、保守層とリベラル層の断絶が垣間見えます。
 
 保守層とリベラル。どちらも偏見と陰謀論に翻弄されているわけですが、そんな中、唯一自分を持っているのがクリスタル。彼女は一切ブレず、1人、1人と着実に狩っていきます。そしてそういう彼女だからこそ、最後に「勝者」としてあの空間から脱出できたのだと思うのです。結論としては、トランプ大統領は本作をきちんと観たうえでツイートすべきでしたねっていう話です。
 
 

 ブラムハウス作品。どっちもジョーダン・ピールだけど。

inosuken.hatenablog.com

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