暇人の感想日記

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全ての呪いを解く物語【シン・エヴァンゲリオン劇場版】感想

 シン・エヴァンゲリオン劇場版

 

点数なし(※2021年3月14日時点では冷静に点付けられないので)

 

 

 1995年より続く「新世紀エヴァンゲリオン」が、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』としてリビルドされてから14年。新型コロナウイルスの影響で2度の公開延期を経て、遂に公開され、「エヴァンゲリオン」シリーズが25年の時を経て完結しました。TVシリーズの頃より庵野監督の私小説的な側面を強く持つ作品であり、同時にSFアニメとして、特撮や映画からのオマージュをふんだんに盛り込んでいたハイコンテクストな作品でしたが、「完結篇」である本作は、25年分の「エヴァ」を総括するべく、あらゆる要素と文脈をブチ込み、どの角度からでも無限に話ができるという超ハイコンテクスト映画となりました。この記事では、とりあえず「新世紀エヴァンゲリオン」という作品のリビルド、そして完結について思うところを表面的にサクッと書いていきます。
 
 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は「新世紀エヴァンゲリオン」のリビルドとして始まり、『:序』ではTVシリーズ6話までを再構築したのみに終わっていました。しかし、『:破』から独自ルートに入っていき、シンジが覚醒し、「セカイ系ロボットアニメ」として大変満足のいく内容の作品となりました。このあたりまではまだ「TVシリーズのリビルドというか、リメイク?」と言えなくもない内容でしたが、『:Q』にて急転直下の超展開が始まり、誰も見たことのない『ヱヴァンゲリヲン』が始まりました。

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

  • 発売日: 2007/09/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 『:Q』は様々な意味で前作までの流れを断ち切った作品で、いちばん分かりやすいのは時間軸でしたが、それ以上に衝撃だったのは『:破』であれほど盛り上げた展開に冷や水をぶっかけてみせたことです。「上げて落とす」は常套手段とはいえ、これは本当に凄かった。ここには、『:破』で見せた「1人の女の子を救えるならば、世界がどうなってもいい!!」というセカイ系的な作品への冷淡な問いかけがあると思っています。ちなみに、この問いかけに対して、「違う!」と居直って見せたのが新海誠監督の『天気の子』です。
 
 『:Q』は問題作ではありますが、「エヴァのリビルド」としては意外にもしっかりしています。というのも、『:Q』のベースとなっているのはTVシリーズ伝説の第弐拾四話「最後のシ者」でありながら、実際の世界観は『旧劇場版』だからです。NERVとWILLEが戦っているのは『Air』の「人間対人間」を彷彿とさせますし、『:Q』のラストでは、シンジが「ガキ」のまま身勝手に行動してみせた結果、世界がよりひどくなる一歩手前に行ってしまうというものになりました。これは『旧劇場版』のラストの繰り返しであり、あの荒廃した世界の責任をシンジ1人が負ったところで『:Q』は終わりました。ここで、あらゆるものを棚上げした上に、終了し、そこから9年ですよ。

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

  • 発売日: 2012/11/17
  • メディア: Prime Video
 

 

 ここからようやく『シン・エヴァ』(以後、本作)の話。本作では何を描くのか。そこで浮かび上がってくるのは、お蔵入りとなったという「完全新作の劇場版」の存在。本作を観ると、完全新作の構想のような、「壁の中に生きている人々」という設定を見ることができます。これに加え、『旧劇場版』の繰り返しとリビルドを行うのが本作です。
 
 実は本作は、大筋は『旧劇場版』と同じで、ラストの結論も同じです。しかし、そこに至るまでの過程がまるで違う。『旧劇場版』は肝心のストーリーはそこそこに、庵野秀明監督の内面の吐露が大半を占めていました。そこでの結論では、「他人がいてもいいじゃん?」というものだったと思うのですが、本作では、この点に着地しつつ、さらに1歩進んだ結論に着いています。加えて、本作では『旧劇場版』ではそこそこだった「やるべきこと」をしっかりとやっています。
 
 「新世紀エヴァンゲリオン」という作品は、骨子にあったのは「父殺し」であり、少年の自己の確立でした。このうち、「自己の確立」はシンジが「補完されていない世界を選ぶ」ことで成されたと思いますが、「父殺し」という点では描き切れていなかったと思いますし、シンジとゲンドウの関係性の決着は着けられていませんでした。しかし本作では、シンジは精神世界でゲンドウと対話し、ゲンドウが何を望んでいたのかを知り、父と決別するのです。
 
 本作におけるゲンドウというのは、TVシリーズ以上に矮小な人間として強調されている気がして、自らの対人への恐怖感や人と関わろうとしない人間として描かれています。ゲンドウがあそこまでに心情を吐露したのは初めてだと思います。それは『旧劇場版』にて、シンジが自問自答したことと同じです。シンジは、ゲンドウと対話し、その思いを知った上で乗り越え、和解し、父殺しを達成します。それはゲンドウ自身の「補完」でもあって、「すまなかったな、シンジ」というほぼ同じ台詞を全く違うシチュエーションで言わせることで「ゲンドウの救い」を描きます。

 

新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に

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  • 発売日: 2019/08/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 このゲンドウを始めとして、本作ではキャラクタ―皆が「居場所」を見つけます。アスカは「自分1人でいい」と言い放つも、シンジによって補完され、ケンスケという新しい居場所を見つけます。ちなみに、この下りで『旧劇場版』では歪なまま終わってしまったシンジとアスカの関係を正しい形へと修復しています。また、ミサトはほぼ同じ結末を辿るもその意味合いは全く違うものになり、レイは「エヴァに乗らなくてもいい自分」という新しい居場所を見つけます。それはカヲル君も例外ではありません。この「新しい居場所を見つける」ことはTVシリーズ第弐拾六話の繰り返しであることは明白です。
 
 重要なのは、これを行うのがシンジであるという点。ご存知の通り、碇シンジとは庵野秀明監督の自己投影であり、シンジがこういう清算を行うということは、本作が「エヴァの完結篇」というだけではなく、「庵野監督自身のエヴァ清算」という側面もあるわけです。庵野監督はエヴァで大変苦しんだと思いますが、それ以上に様々なもの(アニメ業界とか色々な人の人生とか)を壊してしまいました。しかもずっと終わらず、そのことがエヴァの神話性を高めていくという矛盾。そういった「カオス」全てにケリをつけるべく生み出されたのが本作です。ラストで自ら背負ったDSSチョーカーを外すということは、それまでの文脈を考えても、「エヴァの呪縛」、そして「エヴァの責任」を果たしたぞという庵野監督なりのケジメと映ります。この辺は詳しくかけたら別記事で書きます。

 

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組

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  • 発売日: 2017/03/22
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 「エヴァ」という作品は「コミュニケーション」の作品で、ATフィールドは人が持つ心の壁であり、人は拒絶し合っているとされ、「補完された世界」はゲンドウも言っていたように「誰も傷つかない」世界でした。『旧劇場版』はシンジが「他者がいることで自己がある」という実存的な答えに辿り着きました。本作でもこのへんは変わらないのですが、決定的に違う点は、シンジが「傷つけあうけど、他者のいる世界」を選択すらしないこと。上述の通り、自問自答するのはゲンドウです。
 
 また、この結論をした上で、また新しい選択をしているという点も重要で、「補完された世界」でもなく、「補完されてないけどエヴァがある世界」でもなく、「エヴァのない新しい世界」を選んだという点。そこでは、シンジは1人の大人として自立し、「母」に見護られてもいません(1話の繰り返し)。そしてその代わりにいるのは、マリ(『旧劇』の外部にいる存在)。自身と対等な相手です(ちなみに、ここでの「手」の演出は、シリーズ根幹に関わる重要な点。ここも別記事で書けたら書きたい)。『旧劇場版』、そして漫画版では「母」に見護られていたことを考えると、ここでも「エヴァの呪縛」からの脱却が見えます。そして2人が走っていった先は、もちろん「現実」。ここで新たに『シン・ゴジラ』よろしく「現実と虚構」というテーマも立ち上がってくるのですけど、それもまた別の記事で書けたら書きます。あのラストは、「エヴァは終わった。これからは現実を生きろ(る)」ってことなんだと思います。
 
 『旧劇場版』では気持ちのいい「虚構」ではなく、何とか「現実」に踏みとどまった庵野監督。しかし、本作ではさらに1歩進んで、「エヴァ」そのものからの脱却をしてみせました。あの2人は、電車ではなく、自分の足で走っていました。父と母から脱却してみせ、自分の足で立ったシンジ。彼の少年期は、そして庵野監督のエヴァの呪いは、これで終わったのだと思います。なんか表面的な記事になりました。すいません。
 
 最後に、「Beautiful World」ってゲンドウの曲だったのね。
 

 

旧劇の感想。

inosuken.hatenablog.com

 

 とりあえず新海誠作品貼っときます。

inosuken.hatenablog.com