暇人の感想日記

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辛く苦しいこの世界でも、生きろ【もののけ姫】感想

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100点
 
 
 昨年のリバイバル上映で観ました。テーマとしては、『風の谷のナウシカ』から続く、「人間はこの地球上には必要ないのではないか」を、自然に置き換え、人間と自然の相容れない争いを描きます。TVで何度か観ていたのですが、映画館で観ると印象が全然違います。ダイナミックなアクションは映画館で観ると躍動感が凄いし、何より音楽ですよね。久石譲さんのあの音楽が大音量で流れ、そのスケールの大きさには圧倒されました。ジブリ作品はTVで頻繁に流れていますが、映画館にも定期的に流していいんじゃないかなと思います。
 
 本作の主人公、アシタカは、おそらくジブリ作品史上最強の男性キャラです。驚異的な身体能力を持ち、人格に優れています。ちょうど『風の谷のナウシカ』のナウシカのように。これは作品の都合上必然なのだと思います。本作のメインテーマである人間と自然の争いは、もはや腕力で解決できるものではないからです。本作には、所謂「悪い人間」はいません(強いて言うなら、ジコ坊の雇い主)。「人間側」であるエボシ御前は、世間から見捨てられた女性をかき集め、たたら場を形成。独立のために動いています。しかし、そのせいで自然を侵略し、憎しみを生んでいます。対して、自然側は侵略してくるエボシを憎み、攻撃を繰り返します。どちらも「生きる」ことに必死なだけであり、「生きるということは辛く苦しい」という言葉に表されています。これはもはやどちらを倒せば終わるという話ではなく、倒したとしても、また何らかの形で憎しみが生まれてしまいます。
 では、アシタカは何をするのかと言えば、ナウシカと同じく、調停です。両者の間に立ち、争いを何とかして食い止めようとする。これしかできないのです。アシタカは冒頭、腕に呪いを受けます。これは憎しみの象徴であり、彼の体を蝕んでいきます。エボシが起こした憎しみが、巡り巡ってアシタカに降りかかってくるのです。しかし、アシタカは絶望せず、争いをその目で見極めるとし、旅に出ます。呪いという人間の憎しみを背負い、それでも人間と自然の間を取り持とうとするのが、アシタカなのです。これには最終的な解決はなく、出来ることは人間がしでかしたことを謝罪し、せめて人間の手で元に戻すことしかできません。だからラストでも、アシタカは「共に生きよう」としか言えないのです。憎しみも、争いも、全て残っていて、それでも生きることしかできない。相容れないけど、「共に生きる」ことしか提案できないというのが、本作における宮崎駿の精一杯の「回答」なのだと思います。
 
 宮崎駿という監督は、本作のようなテーマを繰り返し語ってきた人間です。代表作である『風の谷のナウシカ』は原作は「人間と地球」の、宮崎さんの禅問答とも言える内容が続きます。そして、「生きねば」という、本作と似たような結論に着地します。本作以降でも、『千と千尋の神隠し』では、ずっとミニマムな話になるのですが、結局は「個人と世界」の話でしたし、『ハウルの動く城』でも、背景にあったのは戦争でした。『崖の上のポニョ』は一見能天気な内容に見えますが、洪水が起こって世の中が浄化されたかのような描写があり、宮崎監督の厭世観が透けて見えてくるものでした。つまり、宮崎監督はある時期から確実に世の中というものに嫌気がさしてきて、世界の戦争や環境問題といった解決が難しい問題に真正面から向き合って来ていたのだと言えます。こうした問題に対し、本作が提示してみせた答えは、「保留」とも言えるものであったとしても、そこにあったのは「考え続けるしかない」という思いであり、私は誠実な姿勢だったのではないかと思います。とりあえず、本作を観返して、もう一度宮崎作品を観たくなりましたね。
 

 次作。

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 興行収入的にはネクスト宮崎。

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