暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

栄者必衰の理(※悪夢付き)【カポネ】感想

カポネ

 
70点
 
 
 大傑作の『クロニクル』によって大ブレイクを果たしたものの、続くビッグバジェット大作『ファンタスティック・フォー』が興行的にも批評的にも大惨敗し、ハリウッドを干されてしまったジョシュ・トランク。そんな彼が復帰作として制作したのが本作です。私はジョシュ・トランクには何としても復帰してほしいと思ったので、本作はとにかく観たいと思っていました。
 
 本作の主人公はアル・カポネ。『アンタッチャブル』や『スカーフェイス』のモデルとなったギャングです。とくれば、まず想像するのは先にも挙げた『スカーフェイス』とか『ゴッドファーザー』みたいな、血沸き肉躍る伝記ドラマです。私も観る前はそう思っていました。しかし、観てみれば、全然違いました。本作はアル・カポネの弱り切った晩年を描いた作品だったのです。例えるなら、『ゴッドファーザーPARTⅢ』のラストシーンを100分かけてやった、みたいな作品です。

 

ゴッド・ファーザー PART3 (字幕版)

ゴッド・ファーザー PART3 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 本作はとにかく変な映画で、自身の帝国が崩壊していき、何もかも失っていく中で、弱り切ったカポネをずっと映しているだけというのもそうなのですが、それと共に、彼が見る悪夢までも見せてきます。しかもその悪夢を撮っているのがデヴィッド・リンチ作品を手掛けたピーター・デミングなので、映画そのものが抽象的なアート作品となっていきます。ただ、晩年の静かな映画だと思うと大間違いで、主に悪夢のシーンなのですが、彼がしでかしてきた残虐な行いも突発的に挿入され、ギョッとさせられます。この情緒不安定さも本作が特殊である理由です。カポネの弱り切った姿を見せ、その上で精神状態までも観客にも体験させるというトンデモ映画が本作なのです。
 
 何故このような映画を撮ったのか。これはジョシュ・トランクなりのハリウッドへの抵抗というか、置手紙みたいな作品なのかなと思いました。彼は将来を嘱望されたは良いものの、『ファンタスティック・フォー』が失敗に終わってしまったことでキャリアが閉ざされてしまいました。これを踏まえて、私には、ジョシュ・トランクが、本作のカポネに自分を重ねているようにしか思えませんでした。つまり、自分はもう死につつあるんじゃないのかという。栄華を誇ったものの、それは一瞬で消えてしまった。家族すらもう誰も分からない。後に残るものはあるんだかないんだか分からない財産と、後悔だけ。それなら、イケイケの時だけ描いてるくせに誰も描かなかったカポネの、弱り切った晩年を見せつけてやろうという。作中には漏らすシーンがありますが、あの通り、映画で以て、ハリウッドへクソを投げつけるのが、本作でジョシュ・トランクが成し遂げたかったことだったのかなと思いました。大丈夫なのかな。ジョシュ・トランク
 

 

スコセッシの傑作ギャング映画。

inosuken.hatenablog.com