暇人の感想日記

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2020年秋アニメ感想⑧【ひぐらしのなく頃に業】 ※ネタバレあり

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 ※この記事には、今作のネタバレはもちろん、現在公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレも含みます。
 
 
 ゼロ年代に一大ムーブメントを巻き起こした歴史的作品「ひぐらしく頃に」の正統続篇。私は90年代に生まれ、世代的には直撃なのですけど、実はこれまで見たことがなくて。というのも、「ひぐらし」の序盤で顕著なグロテスクな描写や陰惨な雰囲気が苦手だったんですよね。しかし、新作が放送されるということで、過去作を見ておいた方が比較とかできて良いだろうと思い、今回、過去作を視聴したうえで、今作も視聴しました。
 
 放送順に印象を述べていくと、最初は他の皆さんと同じく、リメイクだと思っていました。1話を見た限りだと、所々気になる点はありながらも、EDでかかった「ひぐらしのなく頃に」のパワーも相まってその印象が強くなっていました。しかし、思えばこの時点で竜騎士07th先生の術中であり、3話が終わった時点で、本作が我々の想像の上をいく「完全新作」であると認識させられました。
 「ひぐらし」のようなミステリー作品を再アニメ化する場合、どうしても問題となってしまうのは、我々視聴者が「答え」を知っている点。どう行動すれば惨劇を回避できるのか、を我々は知っており、それ故にミステリー性が薄くなってしまうという点があります。本作はそれを逆手に取っており、視聴者と視点を同じくしている梨花が惨劇を回避するルートを選んでいるにもかかわらず、別の形で惨劇が起こってしまうのです。これによって視聴者は、また別の黒幕の存在を感じ取り、新鮮な気持ちで「ひぐらし」を楽しむことができるようになっています。過去作では、傍観者であった羽入がプレイヤーの暗喩だと言われましたが、本作では梨花こそが視聴者の暗喩であるといえます。
 
 そして、今作においてはネタを知っているからこそ発生する格差が面白いと思っております。情報という意味では、梨花=視聴者であり、「答えを知っている」わけですが、しかし本作では、より高次の存在の介入によりゲームがリプレイされ、黒幕は「全ての答えを知っている」梨花の行動の更に上をいく仕掛けをします。つまり本作には、ゲームのリプレイという形態をとってはいるものの、梨花は「過去と同じゲーム」という認識で、黒幕は「違うルールの下で行われている新しいゲーム」というような、2者間で情報の格差があるのです。オリジナルの「ひぐらし」は多分にメタフィクション的な内容を持った作品でしたが、本作はオリジナルの解答を踏まえたうえで、より高次の存在の介入によりクリアしたゲームをさらにリプレイさせるというメタ・メタフィクションとでもいうべき作品になっているといえます。この点において、本作は「ひぐらし」という作品らしい正統続篇であるといえます。
 
 さて、次は黒幕である沙都子について書いてみたいと思います。竜騎士07th先生自身もインタビューで仰っておりましたが、沙都子はヒロイン達の中で唯一、能動的な行動によって運命を切り開かなった人物です。それ故、最も「先」が描かれるべきキャラでした。今作における沙都子は、親友である梨花と永遠に一緒にいたいという「願い」をかなえるために力を使います。しかし、その願いは梨花や過去作で辿り着いた結論とは全く逆です。梨花や圭一は幸せな未来へ向かって外に出ていきましたが、沙都子は「雛見沢へ籠る」ことを選択しているのですから。そしてこの点を考えていくと、本作の構造的な面白さというか、「ひぐらし」らしい内容が見えてきます。
 「ひぐらし」という作品は、所謂「ループもの」です。基本的には1983年の綿流しの日前後が舞台であり、本編はそこから抜け出すことが目的でした。番外編にしても、どこかの世界線が舞台であり、基本的にはこの年代からは抜け出せませんでした。しかし、今作はその「先」こそがメインの舞台。未来に絶望した沙都子が梨花と一緒に雛見沢へ留まることを選択し、彼女が自ら世界を構築していきます。
 
 この点で思い出したのが、先日、遂に完結した伝説的アニメ作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でした。あの作品は、シンジ(=庵野監督)が、「エヴァ」というループから抜け出し、現実と虚構が見事に融和した世界へ駆け出していく話でした。今作における沙都子は、言わば「エヴァ」におけるシンジやゲンドウ、カヲルのような存在であり、『シン・エヴァ』と同じく、彼女が構築した世界から抜け出し、独り立ちする(=自らの手で運命を決める)ことこそがゴールなのかもしれないと思いました。
 
 今作のタイトルは、「業(=郷?)」です。そして解答編となる次作は「卒」。2つ合わせると、「卒業」です。「ひぐらし」という作品はループものであり、同じ時間を行ったり来たりしています。つまりは、だいたいにおいて、作品そのものが1つの空間の中に留まっているのです。しかし、本作で描かれたのは未来でした。留まっていた時間からの脱出。そして沙都子の依存的な心からの脱却。それら全てを含め、「卒業」なのかもしれないなと思いました。ただ、竜騎士07th先生はまだタネを残しているそうなので、この予想自体が彼の掌の上なのかもしれないですが。
 

 

実はループものだった件。

inosuken.hatenablog.com

 

 現代のループもの。

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