75点
ブラジルの鬼才、クレベール・メンドンサ・フィリオ監督によるジャンル分け不能映画。各所で話題かつ評判も高いので鑑賞しました。ユーロスペースでは観れなかったので、2月に行動範囲内のミニシアターで観ました。ちなみに、監督の前作『アクエリアス』は未見。NETFLIXにあったらしいけど、知ったときには配信終了3日前とかだったので。ネトフリは本当にこういう周知はしっかりとしてほしい。マジで。
本作を一言で言い表すなら、「サプライズてんこ盛り」につきます。本作は多分にジャンル映画的な要素をはらんだ作品なのですが、そのどれとも違う点に行ってしまうのです。私がジャンル映画的に「これはこうなるんだろうなぁ」と思ったら全然違う方向に行き、常に私の予想を裏切り、斜め上に行き続けます。
序盤、「ウルトラQ」のような珍妙なBGMが流れ、宇宙からバクラウへ画面が移っていきます。ポスターにUFOが見えたので「これはアレか、SFなのか」と思ったのですがそんなことはなく、バクラウの村の丁寧な生活描写が続きます。この時点で「何だこれ」と思うのですが、不穏な空気が流れ始めます。この徐々に日常が侵食されていく感じが不気味で素晴らしいです。そして中盤でウド・キア率いる謎の舞台が現れ、物語は急転、「弱者」である村人と武装した「強者」であるアマチュア戦闘部隊による、『ザ・ハント』的な人間狩りが始まるのか、と思いきやそんなことはなく、何と今度は辺境ホラーとなってアマチュア戦闘部隊が一方的に殺戮される展開が起こり幕を閉じます。
以上のように、本作は、我々が本来持っている「偏見」や思い込みを巧みに利用してその裏をかいてみせている作品と言えます。そしてこれはジャンル映画への批評的な視点もあると思うのです。ジャンル映画というのは、良くも悪くもそのジャンルの領域から出ない映画が多いです。そしてそこでは、言ってしまえば偏見を助長したりする描き方もあったりします。本作はそこへメスを入れます。例えば、バクラウを「未開の村」としてではなく自分たちの文明をしっかりと持っている、我々と変わらない存在として描いたり、「虐げられる弱者」というステレオタイプな描き方もしません。そしてアマチュア戦闘部隊は、差別的で、文明国が持つ傲慢さも持ち合わせている存在として描かれています。つまり本作は、我々が持つ偏見に対する、痛烈なカウンターの物語であると言えるのです。大変変な映画ですが、「ジャンル映画で以てジャンル映画を乗り越える」志を持つ映画だと思います。