暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

この世界への、怒りの表明【レ・ミゼラブル】感想

レ・ミゼラブル

 
94点
 
 
 昨年、カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を『パラサイト 半地下の家族』と争い、アカデミー賞の国際長篇映画賞にノミネートされた作品。監督はフランスの若手であるラジ・リ監督。スパイク・リーが絶賛した映画であることと、上述のような実績から、興味はあったのですがなかなか時間が合わず、公開から3カ月近くたった6月にようやく鑑賞できました。
 
 タイトルの「レ・ミゼラブル」とは、もちろんヴィクトル・ユゴーの古典が元ネタです。作中でも、舞台が同じくモンフェルメイユですし、内容も「少年がちいさな盗みを働いたことがきっかけ」や、「警官に執拗に追い回される」という点で共通しています。そして内容自体も、「ミゼラブル」、つまり、「無情」なものでした。
 
 どう「無情」なのかと言えば、それは現代でも、階級の違いや人種の違いによって不信感や差別、偏見がまだ起こっているという点です。アメリカではジョージ・フロイトさんが不適切な拘束で死亡させられ抗議の声が高まり、BLM運動がここにきてまた大きくなってきています。本作の最後の行動のきっかけは警官の誤射であり、その映像を巡るやりとりがあるなど、現実世界とのリンクが凄いです。アメリカは多民族国家であり、人種間の差別や偏見が未だに無くならないわけですけど、それは世界的に見ても同じで、本作ではフランスにおける現状を描き出しています。
 本作はラジ・リ監督がドキュメンタリー畑出身ということもあり、ドキュメンタリー的な、そこに住んでいる人々をそのままの姿で捉えたような撮り方をしてます。後半30分くらいで一気に物語が動き出すのですが、それまではそこで生きている人々の中にある、爆発寸前の不信感や、怒りに満ちた日常を浮き彫りにしていきます。住民側にも社会階層や人種、宗教間で分断がありますし、中でも酷いのが警察。一番ひどいのが白人警官のクリスで、横暴な取り調べを強行し、器物破損、暴力を振りかざし、本作のヘイトを一身に集めています。
 
 これでは普通の善悪二元論的な作品(虐げられる市民VS悪徳警官)になりそうなところを、本作はそうしていません。悪徳警官であるクリスは、家庭では良き父、夫であるという姿が映されます。まぁ、あのシーンがあることで示されるのは、差別や横暴をしている人間は、「悪人」なのではなく、「普通の人である」という点だと思うのですが。さらに、新人のステファンという、第3者視点を用意し、彼が2人に働きかけることで、彼らの正義感に問いかけ、そして客観的に映画を観させてくれるようになっています。

 

ドゥ・ザ・ライト・シング (字幕版)

ドゥ・ザ・ライト・シング (字幕版)

  • 発売日: 2014/01/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 宣伝でも言われているラスト30分ですが、そこで行われていることは、言ってしまえば暴動です。しかし、それまで散々警官の横暴を見せられているため、あの暴動は抑圧されていた側(=檻に入れられていたライオン)のどうしようもない社会、大人への意思表示と抵抗の形であり、同時に怒りの表明でもあります。この点で、本作はフランス版、そして現代版の『ドゥ・ザ・ライト・シング』であると思えるのです。ただ、問題なのは、あの作品は今から30年くらい前の映画だということです。現在でも、世界では分断がより可視化され、進んでいます。そここそが、「ミゼラブル(=無情)」な点だと思います。
 
 「レ・ミゼラブル」は、人類の希望の書とも言われています。本作の冒頭にあったような、2018年WCでフランスが優勝した瞬間のあのときのように、本来は皆は1つになる事も出来るのです。そこは希望なのかもしれませんが、そこに至るまではまだ遠い。本作と、そして世界で起こっていることを見るに、そう思わざるを得ませんでした。日本だって、見えていないだけで、こうした不満や怒りはそこかしこにあると思います。だからこそ、ラストの問いかけについて考えることはとても大切なのだと思います。
 
 

30年くらい前の映画だけど、内容の相似ぶりが凄い。

inosuken.hatenablog.com

 

 これも分断の映画。

inosuken.hatenablog.com