暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年冬アニメ感想④【ゆるキャン△ 2nd season】

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☆☆☆☆★(4.6/5)
 
 
 まんがタイムきららフォワードにて連載中、あfろ先生原作による同名漫画のアニメ化作品。本作は2018年に放送され、大好評のうちに終わったTVアニメ1期の続篇になります。スタッフは基本的に前作と同じで、制作はC-Station、監督は京極義昭さん、シリーズ構成を田中仁さん、キャラクターデザインを佐々木睦美さんが手がけます。私は前作を後追いではありますが視聴しており、とても面白かったので、2期である今作も視聴した次第です。
 
 「続篇」というのは、色々な定義があります。単純にストーリー的に前作の続篇的な内容もありますし、前作の展開を踏まえて、よりストーリーやキャラの関係性を深化させていくものもあります。そして中には、前作の内容からさらに捻って、批評的な視点を加えたりするものまであります。本作は、前作を踏まえたうえで、キャラの関係性、キャンプの魅力、楽しさを視聴者に体感させる演出など、全てがパワーアップさせた続篇で、続篇としての1つの理想形があったと思います。

 

 

 本作の注目点が、キャンプの描写です。1つ1つの工程を丁寧に描いているのはもちろんなのですが、大きいのが音です。前作からもそうだったのですけど、キャンプ場の自然音や準備の際の音、調理音等がしっかり入っていて、キャンプの空気感を出すのにかなり大きな貢献をしているのです。そして、撫子たちのキャンプ模様の描写です。これもとても良くて、時間の流れが凄くゆったりしていて、その中で観光とか友達と進路とか人生について喋ったりとか温泉とか料理とか、他には1人ですることなくてゴロゴロしているのです。さすが、自分たちで実際にキャンプして作ってるだけあります。また、キャンプの前の段階、つまり、バイトの資金集めや計画立てまで描いていて、そこをひっくるめた上での「キャンプをしている楽しさ」を本作は全力で描いているわけですね。
 
 そしてこれは、続篇だからこそできたことです。前作は撫子がキャンプのハウツーを知っていく話でした。で、熟練のキャンプ描写は凜に任されており、この2人が最後に交わって、一緒にキャンプをするというのが話の終着点でした。だからこそ、本作の1話は凜がまだ未熟だった頃が描かれ、最後で時間軸が現在(1期後)に戻り、現在の凜が撫子に出会うという、1期1話を反転させた内容でした。前作1話におけるリンの役割(カップヌードル渡す)を撫子にさせることで、前作を経た撫子の立ち位置の変化(キャンプ経験者。そしてリンとの関係性の変化)が表れているわけです。似た話を描くことで、前作との違いを浮かび上がらせるという、見事な1話でした。こうした関係性と撫子の知識の変化を踏まえたからこそ、撫子のソロキャンとか野クルのキャンプ失敗談とか、本作はより突っ込んだキャンプ描写ができたわけです。
 
 以上のように、本作は前作を踏まえたうえで、キャンプの楽しさを丁寧に描き上げることに注力してみせた、理想的な続篇だったと思います。劇場版も観るよ。
 

 

スピンオフ。

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 きららってことで。

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2021年冬アニメ感想③【のんのんびより のんすとっぷ】

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☆☆☆☆★(4.5/5)
 
 
 にゃんぱすー
 
 あっと先生原作、月間コミックアライブにて連載されていた漫画を原作としたTVアニメーション。過去にTVアニメは2作、劇場アニメが1作作られ、本作はTVアニメ3作目となります。私はTVアニメは1期からの付き合いなので、もちろん視聴するということで、毎週楽しみに見ていました。
 
 本作には、過去2作には無かった視点が盛り込まれています。それは、「変化」です。「のんのんびより」という作品は、基本的には日常系と言われる作品で、田舎を舞台にしたのんびりとした日常を描き、我々心が荒み切った現代人の心を癒してくれる作品です。過去2作はこのフォーマットに沿っており、1作目は日常モノ、2作目はちょっと工夫をして、1作目とは別の視点から話を「リピート」するものでした。最終話は季節が回って新しい季節が来るところで終わっていましたが、「変わらない日常」が描かれていたことに変わりはありませんでした。
 
 翻って、本作では、上述のように「変化」がメインテーマとなっております。それを強調するために出てきたのが新キャラのあかねとしおりです。8話にて、このみの「卒業」という「別れ」があかねを通して描かれ、しおりは最終話で旭丘分校に入学し、いちばん年下だったれんげに、「先輩」という新たな役割を与えました。他にも、11話にて駄菓子屋が他のキャラが昔からどのように「変わった」のかを酔っぱらって語り、最後にれんげの成長に泣くという話も挿入されます。このように本作には、過去作以上に、「変化」という視点が加わっているのです。
 
 この手の作品は、「変化しない」ことが重要でした。何者にも脅かされない箱庭を創造し、その中で癒ししかない世界を視聴者に届ける。しかし、本作は上述のようにキャラ達の日常が日々変化していくことを示しました。押井守は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』において、箱庭的な世界を「夢だよ」と言いましたけど、本作はあそこまで苛烈ではないにせよ、「変わらない日常」から「新しい日常」への移行を描き、見事に終わらせてみせました。「のんのんびより」という作品は、「日常」を楽しむという作品でした。彼ら彼女らは、また、この新しい日常を生きていくのだろうという未来を示した、本作らしい終わり方だったと思います。
 

 

劇場版

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 まぁ押井守作品だけど、これは学園もの。

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2020年秋アニメ感想⑩【呪術廻戦】

呪術廻戦

 
☆☆☆☆★(4.5/5)
 
 
 週刊少年ジャンプにて連載中、芥見下々先生原作のダークファンタジー・バトル漫画を原作としたTVアニメ作品。TVアニメ化以前より漫画ファンの間では話題の作品で、私も交流会編あたりから読んでいました。この時点でかなり面白い漫画だなと思っていて、TVアニメ化を聞いたときは超嬉しかったです。
 
 しかし、放送の直前に「鬼滅の刃」が空前絶後の大ヒットを記録。当時は「とんでもないことになっちまったな。絶対比べられて不利じゃん」と思ったのですが、そこはさすが集英社。本作を「ネクスト鬼滅」などど言い出し、積極的にアピール。アニメスタッフにはアクションに定評のある朴性厚さん、キャラクターデザインには平松禎史さん、シリーズ構成には瀬古浩司さん、アニメーション制作会社にはMAPPAと、鉄壁の布陣を用意。それが功を奏し、放送開始時から話題が沸騰し、現在は既刊15巻で累計4000万部を突破という、「ネクスト鬼滅」にふさわしい結果を残しました(記録的には「ONEPIECE」越え)。オリコンランキングを見ると、未だに売れてます。まぁそのおかげで、本当に一部では「鬼滅の便乗したおかげでヒットしたのでは?」とか思われているし、事実その面はあるんですけど、いやいやそもそも作品そのものが面白いんですよという話をしたいなと思います。

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

 本作は様々な人が指摘している通り、過去のジャンプ作品のいいとこ取りです。「主人公の中に最強の存在が封印されている」「呪術高専」「五条悟」といった設定は「NARUTO」、漫画のコマ割りとかテンポ感は冨樫義博先生、能力の感じは「BLEACH」、能力の設定は「HUNTER×HUNTER」を彷彿とさせます。これは芥見先生も言及されている点です。本作には、その他にも様々な映画や漫画からの印象があります。面白いなと思ったのは、芥見先生のお話の中では、「ONEPIECE」への言及があまり無いこと。現在のジャンプを代表する存在でありながら、空前のヒットを記録した「鬼滅の刃」といい、本作といい、そこまで影響が見られないのは時代の変化を感じさせます。「ヒロアカ」は影響ありまくりですけど。
 
 これらを「パクリ」と言い、オリジナリティのなさとして批判する人もいるのですけど、私は寧ろこれは音楽で言うところのサンプリングに近いものなんじゃないかと思っております。つまり、既存の設定や演出方法を抜き出して、自身の漫画として昇華していく、という。そして事実それは成功していて、目新しさは無いのですけど、読んでいてめちゃくちゃ面白い、「ツボ」を抑えた作品になっているんですよね。そこに加え、台詞の韻の踏み方(真人戦の「二度は無い」とか)、アクションの見せ方とかも普通に上手い。要は「ヒロアカ」と共に、「ONEPIECE」世代の次の「新時代のジャンプ作品」として素晴らしい作品なのです。
 
 また、これに加え、従来のジャンプ漫画から更なる意識的なアップデートも施されています。これは「鬼滅の刃」でも見られた点なのですけど、大きくは女性の描き方ですよね。バトル漫画では、女性キャラって脇に追いやられたりすることが多かったり、強い人は「強い理由」があったのですけど(普通に強い人ももちろんいます)、本作にしろ「鬼滅」にしろ「ヒロアカ」にしろ、女性キャラがフラットに強い。特に理由付けとかは無いです。従来の「ヒロイン」的な存在はいないのです。後は小沢さんのエピソードですよね。
 
 更に、ストーリーの進め方も、かなりのスピード感で進めています。本来ならば1話くらいかけてしかるべき点を、「いや、もうこれはこういうもんだから。そういうお約束は最速ですっ飛ばす」とばかりに。具体的にはTVアニメ2話の伏黒の葛藤とか、虎杖の「戦う理由」の下りとかです。これは全キャラに徹底されていて、各キャラを最速で立たせ(ナナミンの登場から魅力的に映るまでの流れの素晴らしさ!)、そして退場させます。「従来の漫画をサンプリングしアップデートさせる」という点では、やはり本作がDNAを色濃く継いでいるのは、冨樫義博先生なんだなと思います。

 

 

 で、アニメはどうだったのかというと、素晴らしかったです。脚本も原作を補完するような箇所が幾つかあったりして好印象だったのですが、やはりアクションですよね。アクションと言えば「鬼滅の刃」が凄かったのですが、本作はそれとは別ベクトルの凄さを描いています。「鬼滅の刃」は原作は一枚絵は素晴らしいのですけど、アクション描写がたまに分かりにくいところがあったりしました。しかし、そこはさすがのufotable。その隙間を上手く膨らませ、充実したものを見せてくれました。そこでは、お得意のエフェクトをバリバリに使った大迫力アクションが展開されました。
 
 翻って、「呪術廻戦」のアクションは「鬼滅の刃」とはまた少し違います。「呪術廻戦」は芥見先生が『ザ・レイド』を参考にしているというくらい、近接の肉弾戦で、手数が多い武術アクションなのです。それに加え、術式によるダイナミックな演出も必要になるというものもあります。本作では、朴監督お得意のカメラを大きく動かしてアクションのダイナミックさを描き、そこにしっかりと手数の多い武術アクションをカットを極力割らないで連続性を以て描いてみせました。また、原作の持つスピード感の再現も素晴らしかったです。一部の話ではちょっともっさりしてるかなと思ったのですけど、1,2話とか13話とか18話とかでは完璧に再現されていたと思います。特に13話とかに代表されるように、カットを極力割らないで描かれるアクションの気持ちよさは、漫画にあったスピード感と共に、アニメならではの連続した動きによる気持ちよさがあったなぁと思いました。
 
 つまり何が言いたのかというと、本作は過去のジャンプ作品(私世代が親しんだ作品群)をサンプリングし、アップデートしてみせた新時代のジャンプ漫画であり、そのアニメ化作品である本作は、その魅力をしっかりと描いていみせた良質な作品だったということです。
 

 

直前に空前の大ヒットを記録した作品。

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 ジャンプ代表漫画。

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2021年冬アニメ感想②【無職転生~異世界行ったら本気だす~】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 小説家になろうにおいて、2013年から2019年まで、5年以上にわたってランキング1位を保持していた作品(ちなみに、本作に代わって1位になったのが「転スラ」)。現在はフロンティアワークスからMFブックスとして刊行されています。私は本作のことはアニメ化されるまでは全く知りませんでしたが、何でも本作は所謂「なろう系」や「異世界転生モノ」の始祖的な作品だそう。この点で興味は惹かれませんでしたが、一気に視聴する気になったのはPVを見たから。物凄いクオリティで、慌ててスタッフを確認してみれば監督に「ダリフラ」とか「キャロチュー」で名前を見た岡本学さんで、初監督ということなら見てみるかと思った次第です。
 
 本作を視聴してまず目を引くのが、およそTVアニメとは思えないレベルのクオリティです。キャラクターの芝居にしてもそうなのですけど、各話のレイアウトにしても、かなりしっかりと作り込まれていたり、アクションも素晴らしい。映像作品として見ていて気持ちいいものになっています。「小説家になろう」の王者的作品のアニメ化として、十分なものだと思うと同時に、アニメ化における格差を感じずにはいられませんでした。
 映像的な側面では大変面白かった作品ですが、ストーリーはどうかと言えば、「現実世界ではどうしようもない人生だった男がトラックに轢かれて死亡。そして異世界に前世の記憶を持ったまま転生し、そこで類稀なる才能を発揮する」というもので、流石「異世界転生モノ」の始祖とまで言われる作品だけあって、このジャンルのお約束を踏襲したものになっています。ベタなものではありますが、豊かなアニメーション演出により、作品としての魅力が増大されています。
 
 ただ、本作に関しては、私は他のなろう系の作品とは違う側面も見出すことができると思いました。それは、本作にある「人生をやり直す」という切実さです。
 
 「なろう系」「異世界転生モノ」と言えば、しばしば読者の欲望を満たすための作品であると言われます。つまり、「現実世界ではうだつの上がらない自分でも、異世界に行けばワンチャンあるのでは?」というものです。要は現実逃避なわけで、そこが批判の対象になる事もあります。(とは言え、最近の大ヒット作「転生したらスライムだった件」は、主人公は前世ではそれなりの社会的地位を持っていましたが)。しかし本作には、他の作品と比べても、現実に対する絶望が前面に出ているのです。
 
 主人公はいじめや家族からの虐待から引きこもりになってしまった34歳です。時折挟まれる回想から察するに、学生時代にいじめにあい、そこから20年間引きこもっていた模様。普通の作品ならば、彼が自分の力で部屋を出て、社会性を身に付け、復帰する姿をこそ描いてもいいでしょう。そうすれば、「現実逃避でない」現実に生きる我々にとっての物語になるでしょう。しかし、よく考えてみてください。14歳から20年間引きこもっていた34歳無職を、どこが雇ってくれるのか、ということを。そして、20年間引きこもっていた人間が復帰するまでにどれだけの苦労があるのか、ということを。彼が復帰できるほど、この社会は優しいのか、ということを。この結果に対し、「それは彼の努力が足りないからだ」ということは簡単です。しかし、家族を始め、周囲の人間は彼が復帰できるように手を差しのべたのでしょうか。そして同時に、彼は差しのべられた手を受け取ることができたのでしょうか。出来なかったのではないでしょうか。彼の回想では、両親の葬式で、親族が彼の部屋に殴り込みをかけるものがありました。ここから察することができるのは、親族的に、彼は許せない存在だったのでしょう。本作には、このような「現実はドロップアウトした自分を救ってくれない」という深い絶望があるのです。
 そして、だからこそ、主人公はルディとして転生したとき、「本気で生きる」と決めます。幸い、ルディの両親は、ルディに愛情を注いでくれます。そして才能にも恵まれ、自力で魔力を習得し、ロキシーという師匠を得て成長し、エリスの家庭教師も務め、順風満帆な人生を送ります(そしてフラグを立てまくる)。ここで重要なのは、単純な俺TUEEEE展開ではないこと。ルディは確かに才能を持っていましたが、それを認識し、高めたのは彼の努力の賜物です。そして、エリスと親睦を深めたのしても、彼の歩み寄りの賜物です。さらに、他の言葉を習得し、魔大陸篇で活かされます。つまり、彼が発揮する現実世界での知識は、どちらかと言えば人生の処世術ともいえるものなのです。この点は、前世でのマネジメント能力が活かされた「転スラ」とも似ています。
 
 また、ここで思ったのは、異世界のルディは、とにかく周りの人間に恵まれている事。学校に行ってはいませんが、両親にしろロキシーにしろ、ルディに好意的に接し、それがルディを前向きに生きるように促します。後、ルディは容姿も整っている(前世は太っていたらしい)。この点に、「人間は環境によっていかようにも変わることができる」という側面と、そこはかとないルッキズムが見えます。現実でも、いくら頭が良くても経済的な側面から大学に行けずに就職も難しくなったり、リストラされても失業手当が中々出なかったりという、個人ではどうにもならない環境的な要因があるにもかかわらず、新自由主義的な思想のもと、「それはお前の自己責任だよ」と言われ、社会からドロップアウトしてしまう人間は多いです。本作にある意識は、こうしたネオリベ的な思想に対する絶望だと思うのです。だから異世界で人生をやり直すのだと思います。現実は絶対に自分を救ってくれないから。
 

 

異世界転生パロディ作品。

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 異世界転生(?)のヒット作。

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2021年冬アニメ感想①【ぶらどらぶ】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 『機動警察パトレイバー』シリーズや、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』等でお馴染みの押井守による、新作アニメーション作品。押井監督がアニメーションに携わり、しかも総監督まで関わるのは、おそらく『スカイ・クロラ』以来だし、TVアニメとなると「うる星やつら」以来。単純にアニメーション作品ということだと13年振り、TVアニメということだと約40年振りです。これはとんでもないことだと思うのですが、如何せん広報がやる気がないのか知りませんが全く周知がなされずに配信がなされ、全く話題にならないまま終わってしまいました。私は押井監督の久しぶりのアニメ作品ということで、楽しんで見た次第です。ちなみに、本作において押井守は総監督であり、監督は押井守と共に「うる星やつら」に参加した盟友・西村純二さん。音楽はもちろん川井憲次というベテランと、キャラデザは新垣一成さんという若手で揃えています。
 
 本作は言ってしまえば、「うる星やつら」です。ラムが吸血鬼マイに代わっただけで、やってることは「うる星やつら」のようなドタバタギャグ。押井守監督といえば『攻殻機動隊』とか『天使のたまご』のような、難解かつ観念的な内容の作品のイメージがありますけど、元々はギャグの人でした。「機動警察パトレイバー」にしてもロボものではなくて隊員たちのドタバタをやりたかったと公言している人ですし、『スカイ・クロラ』以降は内輪受けのセルフ・パロディ作品ばっかり作っています。その『スカイ・クロラ』にしても、「終わらない日常」の話と捉えることも出来なくもないです。で、本作も『スカイ・クロラ』以降のその他と同じく、身内受けのパロディがこれでもかと盛り込まれ、特に後半に関しては全編何かしらの映画のパロディです。要は本作は原点回帰に近いところがある作品なわけです。
 押井守監督と言えば、蘊蓄にまみれた膨大な台詞量の脚本が有名だと思いますが、本作でもそれは健在。古臭いボケ・ツッコミの中に、様々な蘊蓄と台詞の応酬が繰り広げられます。押井監督の過去作を見ていると、この台詞を長回しで声優に喋らせているのですけど、本作はTVアニメという時間も予算も限られている中で作る媒体なわけで、面白い方法でこれを成し遂げています。
 
 1つ目は背景です。見ていると分かるのですけど、実写なのです。インタビューでも言っていたのですが、これは実際に現地に行って写真を撮って、それを加工してアニメの背景に使うという特殊な方法で作成しているそう。更に手を加える必要が生じたときは実際にセットを組み立ててそれを撮影して処理して使用していたそうです。押井守という監督はレイアウトの人間なのですけど、これで背景のパースを完璧にしておいて、その上でキャラを動かしているのです。
 
 2つ目はカットイン。本作で多用されているのですが、これが全体的に上手く作用していると思いました。キャラ同士の会話を行うときは基本的にカットインが入り、実写背景は変わらずに会話を成立させています。会話のシーンって基本的にはカット割る必要があるのですけど、これによって、会話の導線が出来、視聴者が今誰が誰にものを言っているのか、がよく分かるようになっています。しかもこれによって、声優さんの会話のアンサンブルも上手く出せているような気もしてくる。つまり本作は、実写加工の背景+カットインにより、膨大な台詞を自然な形で、テンポよく描くことに成功しているのです。

 

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 話そのものは、他愛もない、空虚なものです。押井監督自身が『ビューティフルドリーマー』で否定したような「終わらない日常」を地で行く内容です。そこには「御先祖様万々歳!」みたいな痛烈な批評性もありません。一応最後は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のパロディで、マイの生い立ちを知った上で、「いつかは貢の血ぃを抜くかもしれない」という血比呂のモノローグで終わりはしますが、それだけであり、「パトレイバー」で押井監督がやりたいと言っていたドタバタギャグが繰り広げられます。つまりは本作は特に何も考えずに見られるという一点が素晴らしい作品であり、それ故に私は本作のことが好きです。

2020年秋アニメ感想⑨【おそ松さん(3期)】

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☆☆☆★(3.8/5)
 
 
 2015年から放送されている「おそ松さん」の第3シリーズ。私は1期よりの付き合いで、伝説となった1話に仰天したのも良い思い出です。1期は不条理ギャグアニメとしてかなり行き過ぎた(褒めてます)内容でしたが、中にはホロリとさせるような話もあり、「赤塚不二夫のアニメ化」として、意外としっかりしているのではないかと思えました。続く2期も不条理ぶりは多少鳴りを潜めましたが、トンデモなことに変わりはなく、楽しんで見ることができました。
 
 このシリーズがここまで面白くなった要因としては、隙があった六つ子にキャラ付けをしたとかと同じくらい、やはり監督である藤田陽一さんの力が大きいと思われます。藤田監督と言えば、「やり過ぎたアニメ」の代表格である「銀魂」の2代目監督であり、「銀魂」でも数多くのやりたい放題を行い、数多くの伝説を残してきました。彼の作家性と「おそ松くん」に代表されるような赤塚不二夫先生の不条理ギャグの路線がしっかりと噛み合った結果、このようなぶっ飛び作品が生み出されたのだと思います。

 

おそ松さん 第一松 [Blu-ray]

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 さて、そんな2シリーズと映画を通して放送された3期ですが、正直言って、過去2作と比べるとパワーダウンは否めませんでした。しっかりと過去作のような劇中劇やクズエピソード、各キャラに絞ったキャラ回はやってくれます。しかし、どうにもそれが過去作から続くルーチンでしかないように感じられるのです。つまり、過去2作にはあった(と思われる)「面白いことを全力でやってやろう」という意識がそこまで作品から感じられず、寧ろ「制作陣、シリーズに少し疲れてる?」と思わざるを得ない感じになっているのです。過去2作では画面の中にエネルギーが充満している感じがあって、勢いというか、アニメーションの演出的にもパワフルなものが多かったんですけどね。
 
 思い返すと、この「ルーチン」ともいえる感じが出ていると思ったのが1話だった気がします。1期にしても2期にしても、1話は「所信表明」でした。1期は「皆に受け入れられる」ためにあらゆるところから設定をパクりまくり、最終的に「いつもの俺たちでいいや」となりました。結果として封印されてしまいましたが。で、2期は「ちゃんとする」ことを目的とし、やっぱりあらゆる設定を盛りまくり、結論として「やっぱ今の俺たちでいいや」となりました。そして3期です。3期は今のポリティカル・コレクトネスとかジェンダー平等に照らし合わされ、「おそ松さん」が断罪される話でしたけど、最終的に「いつもの俺たちで行くよ」というものでした。ただ、あの1話にあったのは、過去2作にあった色々な設定を盛り込みまくり、それをガチのアニメーションでやりきるという藤田監督の技が光っていたのに対し、3期の1話は基本的な「おそ松さん」の1エピソードのフォーマットをそのまま行っただけな感じがあります。これが、3期全体にあった「ルーチン感」でした。

 

おそ松くん (1) (竹書房文庫)

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 本作の特徴としては新キャラのAI、おむすびがいるんですけど、あの2体は最終的には六つ子にほぼほぼ絡まずに終わってしまったのも気になりました。最初こそは何か裏がありそうな感じで、この謎をシリーズ通して引っ張るのかなと思っていてのですけどね。2体のツッコミも最初は興味深くて、「おそ松さん」の中では当たり前と思われていたこと(シェ―の意義とか、ハタ坊の旗とか)に批評的な視点を加えるための存在なのかなと思っていたのですけど、それも大してなされず、A1に出て優勝することを目的とし、すっかり作中のキャラの1人になってしまいました。絶対制作陣持て余したよね。
 
 とまぁこのように、ルーチン的になってしまい、パワーダウンは否めない3期でしたけど、面白かったのは事実です。つーか、これも私の印象論でしかないので、4期があれば見ますよ。
 

 2期1話。

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赤塚不二夫の代表的作品のリメイク。こっちは本当にダメ。

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2020年秋アニメ感想⑧【ひぐらしのなく頃に業】 ※ネタバレあり

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 ※この記事には、今作のネタバレはもちろん、現在公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレも含みます。
 
 
 ゼロ年代に一大ムーブメントを巻き起こした歴史的作品「ひぐらしく頃に」の正統続篇。私は90年代に生まれ、世代的には直撃なのですけど、実はこれまで見たことがなくて。というのも、「ひぐらし」の序盤で顕著なグロテスクな描写や陰惨な雰囲気が苦手だったんですよね。しかし、新作が放送されるということで、過去作を見ておいた方が比較とかできて良いだろうと思い、今回、過去作を視聴したうえで、今作も視聴しました。
 
 放送順に印象を述べていくと、最初は他の皆さんと同じく、リメイクだと思っていました。1話を見た限りだと、所々気になる点はありながらも、EDでかかった「ひぐらしのなく頃に」のパワーも相まってその印象が強くなっていました。しかし、思えばこの時点で竜騎士07th先生の術中であり、3話が終わった時点で、本作が我々の想像の上をいく「完全新作」であると認識させられました。
 「ひぐらし」のようなミステリー作品を再アニメ化する場合、どうしても問題となってしまうのは、我々視聴者が「答え」を知っている点。どう行動すれば惨劇を回避できるのか、を我々は知っており、それ故にミステリー性が薄くなってしまうという点があります。本作はそれを逆手に取っており、視聴者と視点を同じくしている梨花が惨劇を回避するルートを選んでいるにもかかわらず、別の形で惨劇が起こってしまうのです。これによって視聴者は、また別の黒幕の存在を感じ取り、新鮮な気持ちで「ひぐらし」を楽しむことができるようになっています。過去作では、傍観者であった羽入がプレイヤーの暗喩だと言われましたが、本作では梨花こそが視聴者の暗喩であるといえます。
 
 そして、今作においてはネタを知っているからこそ発生する格差が面白いと思っております。情報という意味では、梨花=視聴者であり、「答えを知っている」わけですが、しかし本作では、より高次の存在の介入によりゲームがリプレイされ、黒幕は「全ての答えを知っている」梨花の行動の更に上をいく仕掛けをします。つまり本作には、ゲームのリプレイという形態をとってはいるものの、梨花は「過去と同じゲーム」という認識で、黒幕は「違うルールの下で行われている新しいゲーム」というような、2者間で情報の格差があるのです。オリジナルの「ひぐらし」は多分にメタフィクション的な内容を持った作品でしたが、本作はオリジナルの解答を踏まえたうえで、より高次の存在の介入によりクリアしたゲームをさらにリプレイさせるというメタ・メタフィクションとでもいうべき作品になっているといえます。この点において、本作は「ひぐらし」という作品らしい正統続篇であるといえます。
 
 さて、次は黒幕である沙都子について書いてみたいと思います。竜騎士07th先生自身もインタビューで仰っておりましたが、沙都子はヒロイン達の中で唯一、能動的な行動によって運命を切り開かなった人物です。それ故、最も「先」が描かれるべきキャラでした。今作における沙都子は、親友である梨花と永遠に一緒にいたいという「願い」をかなえるために力を使います。しかし、その願いは梨花や過去作で辿り着いた結論とは全く逆です。梨花や圭一は幸せな未来へ向かって外に出ていきましたが、沙都子は「雛見沢へ籠る」ことを選択しているのですから。そしてこの点を考えていくと、本作の構造的な面白さというか、「ひぐらし」らしい内容が見えてきます。
 「ひぐらし」という作品は、所謂「ループもの」です。基本的には1983年の綿流しの日前後が舞台であり、本編はそこから抜け出すことが目的でした。番外編にしても、どこかの世界線が舞台であり、基本的にはこの年代からは抜け出せませんでした。しかし、今作はその「先」こそがメインの舞台。未来に絶望した沙都子が梨花と一緒に雛見沢へ留まることを選択し、彼女が自ら世界を構築していきます。
 
 この点で思い出したのが、先日、遂に完結した伝説的アニメ作品『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でした。あの作品は、シンジ(=庵野監督)が、「エヴァ」というループから抜け出し、現実と虚構が見事に融和した世界へ駆け出していく話でした。今作における沙都子は、言わば「エヴァ」におけるシンジやゲンドウ、カヲルのような存在であり、『シン・エヴァ』と同じく、彼女が構築した世界から抜け出し、独り立ちする(=自らの手で運命を決める)ことこそがゴールなのかもしれないと思いました。
 
 今作のタイトルは、「業(=郷?)」です。そして解答編となる次作は「卒」。2つ合わせると、「卒業」です。「ひぐらし」という作品はループものであり、同じ時間を行ったり来たりしています。つまりは、だいたいにおいて、作品そのものが1つの空間の中に留まっているのです。しかし、本作で描かれたのは未来でした。留まっていた時間からの脱出。そして沙都子の依存的な心からの脱却。それら全てを含め、「卒業」なのかもしれないなと思いました。ただ、竜騎士07th先生はまだタネを残しているそうなので、この予想自体が彼の掌の上なのかもしれないですが。
 

 

実はループものだった件。

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 現代のループもの。

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