暇人の感想日記

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煉獄さんが見せた人間讃歌と、受け継がれる意志【劇場版 鬼滅の刃 無限列車編】感想

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87点
 
 

はじめに

 昨年放送されたTVアニメの効果により、現在、空前の大ブームを起こしている「鬼滅の刃」の劇場版作品。制作はTVアニメから継続して安心と信頼のufotable。私はTVアニメは放送当時見ており、最初こそ「あんま面白くねぇな」と思っていたのですが、那田蜘蛛山篇から徐々にハマっていき、TVアニメが終わって劇場版の公開が告知された頃には「これは絶対に観に行こう」と思えるくらいには好きになっていました。
 
 正直、TVアニメを見ていた時には本作のことを「根強いファンに何年も強く深く愛される作品だな」と思っていて、おそらく制作側もそう思っていたと思うのです。だからTVアニメで掴んだファンを劇場に呼び込もうとTVアニメはクリフハンガー的に終わらせ、ファンのために細く長く続けていこうとしていたのかなと思っていました。しかし、現実は違いました。このクリフハンガーによって続きが気になったファンが映画より先に原作購入に殺到し、サブスクの普及も相まってファン層が拡大。TVアニメ放送終了時には1200万部だった発行部数はあれよあれよという間に1億部にまで伸び、「ONE PIECE」が保持していた記録を次々と打ち破っていきました。そして企業はこぞってコラボし、ニュースでも取り上げられ、「鬼滅の刃」を見ない日はないというくらいのまさしく社会現象となりました。

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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 そんな最高の状況で公開された本作は、海外の大作映画が公開延期されたことで生じたスクリーンの空白を占拠したことも相まって、公開3日で46億円というまさしく桁違いのヒットを記録(そして今週末の数字を見るに、史上最速で100億突破は確実)。多くのファンが劇場に詰め掛け、久しぶりに満席の映画館で映画を観ました。ということで前置きが長くなってしまいましたが、私も公開してすぐに観に行った次第で、これから感想を書きます。

 

「映画」にふさわしい「アクション」と、映画としての問題点

 本作に関しては、とにかくアニメーションのクオリティが高いということです。まずはやはりアクションです。ufotableと言えばアクションと言っても過言ではなく、TVアニメから「劇場版レベル」のクオリティを作り出していました。劇場版ということならば、今年最終章が公開された『Fate/stay night Heaven's Feel』シリーズでも異次元のアクションを作り出していましたが、本作でもエフェクトをバリバリに使った超ド級のアクションは健在です。そしてそのアクションが、TVアニメ版からアップデートされていて、きちんとスクリーンに堪えるものになっているのも素晴らしいなと。列車内のアクションもそうなのですが、やはり素晴らしかったのはラストの上弦の参と煉獄さんの戦いでした。縦横無尽に動きまくるバトルはやはりスクリーンでは映えます。
 
 また、本作そのものが映画にするにふさわしい題材だったかなとも思います。それは本作の舞台が「列車」に限定されているためです。「列車と映画」とは、バスター・キートンに代表的されるように、古来より組み合わされてきたものです(列車ではないですが、近年では『マッドマックス 怒りのデスロード』を思い出しました)。映画というのはアクションであって、2時間という決められた時間を連続して体感させる映画と、常に動いている列車というのは相性がいいのです。本作でも列車が動いていること、そして厭夢が繰り出す攻撃によって次々にアクションが生まれ、飽きさせない作りになってはいます。しかし、この映画という時間の使い方が上手くできていない点があるのも確かです。

 

キートンの大列車追跡(字幕版)

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  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: Prime Video
 

 

 それは、本作の中盤で出てくる「夢」のシークエンス。炭治郎たちが4者4様の夢に囚われる下りが描かれるのですが、これによって本作の中で描かれる時間がここだけ止まってしまい、これが上述の映画的な時間の使い方を阻害しているのです。これが漫画ならば良かったと思います。漫画は読者側に時間の主導権があるため、のってくれば自分のスピードで速く読めるからです。対して、映画の時間の主導権は映画にあります。自分のスピードで進められない。だからこそ面白いのですが、本作は漫画ならば許容されていたもたつきをそのまま映画にしてしまっているため、そこだけ時間の流れが遅くなり、結果として映画としての時間の流れが阻害されていると感じました。
 
 また、それ以外にも、TVアニメからの継続で、モノローグと台詞の多様もなされ、それがアクション毎に挟まれるためにアクションのテンポが阻害されている面もあります。まぁこれは「鬼滅の刃」という作品そのものがモノローグの多様やキャラクターがベラベラ心情を語る漫画であり、ufotableが「原作を尊重」した結果であるため致し方ない側面もありますが。なので、一介の映画ファンが本作を観ると辟易するのはよく分かります。
 

人間讃歌

 本作のテーマについても、興味深い点があります。私は「鬼滅の刃」という作品は悲劇だと思っていて、鬼というのは元人間が様々な理由から鬼無辻によって鬼に「なった」若しくは「させられた」存在で、TVアニメでは鬼の最期に人間の頃の記憶が描かれ、単なる悪役ではない、奥行きのある存在として描かれていました。つまり、本作は本来ならば戦い合うはずのない者たちが殺し合いをさせられているのです。この要素は先行作品では様々なものに用いられていますけど、漫画では「ジョジョの奇妙な冒険」の第1部と第3部、ディオとその一味を彷彿とさせられました。そしてここまで考えると、本作のテーマも浮かんできます。それは「ジョジョ」と同じく、「人間賛歌」です。

 

 本作では、まず冒頭でお館様の語りが入ります。それは「人の意志は、決して消えることはない」的な意味合いだったと思います。そして本作はそれでテーマが貫徹されている。本作で重要なテーマは「夢」です。厭夢は「心地のいい夢」に人間を浸らせる能力を持っています。人間はその夢に浸りたいのだとして。しかし炭治郎はその夢から脱出し、「現実」に立ち向かい、辛い夢を見させられても、「俺の家族がそんなこと言うわけないだろ!」と吹っ切ってみせ、炭治郎の意志の強さが感じられます。また、炭治郎が厭夢に勝てたのは1人だけの力ではありませんでした。戦いの後に厭夢が思っていたように、猪之助がいて、禰豆子がいて、善逸がいて、そして煉獄さんがいたからこそ勝てたのです。対する厭夢は1人でした。「人間は力を合わせることができる」ということだと思います。
 そしてもう1つは、最後の煉獄さんと上弦の参との戦いのときです。敵は老いることを嫌い、鬼になりました。そんな彼は煉獄さんの強さに惚れ、「鬼になれ」と誘います。「鬼になればずっと若く、全盛期でいられる」と。これに対し、煉獄さんは「老いることも含めて、人間は素晴らしい」とし、決してその誘いには乗らず、自分の意志を貫き、ギリギリのところまで追いつめます。これはつまり「試合に勝ったが勝負に負けた」ということであり、「決して鬼にならなかった」ことこそが煉獄さん、そして人間にとっての「勝利」なのです。そしてその意志は炭治郎たちに受け継がれていくのです。何かこの辺も「ジョジョ」っぽい。
 
 私の感想は以上です。映画にふさわしい題材でしたし、アクションもやっぱり素晴らしい。そしてテーマ的にも1本の筋が通っています。なので基本的には満足度は高めなのですが、やっぱり中盤の夢シークエンスはちょっといただけなかったなと思います。とりあえず2期待ってます(原作買うかは微妙)。
 

 

TVアニメの感想

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 ufotable日常芝居の頂点。

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