暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年冬アニメ感想①【ぶらどらぶ】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 『機動警察パトレイバー』シリーズや、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』等でお馴染みの押井守による、新作アニメーション作品。押井監督がアニメーションに携わり、しかも総監督まで関わるのは、おそらく『スカイ・クロラ』以来だし、TVアニメとなると「うる星やつら」以来。単純にアニメーション作品ということだと13年振り、TVアニメということだと約40年振りです。これはとんでもないことだと思うのですが、如何せん広報がやる気がないのか知りませんが全く周知がなされずに配信がなされ、全く話題にならないまま終わってしまいました。私は押井監督の久しぶりのアニメ作品ということで、楽しんで見た次第です。ちなみに、本作において押井守は総監督であり、監督は押井守と共に「うる星やつら」に参加した盟友・西村純二さん。音楽はもちろん川井憲次というベテランと、キャラデザは新垣一成さんという若手で揃えています。
 
 本作は言ってしまえば、「うる星やつら」です。ラムが吸血鬼マイに代わっただけで、やってることは「うる星やつら」のようなドタバタギャグ。押井守監督といえば『攻殻機動隊』とか『天使のたまご』のような、難解かつ観念的な内容の作品のイメージがありますけど、元々はギャグの人でした。「機動警察パトレイバー」にしてもロボものではなくて隊員たちのドタバタをやりたかったと公言している人ですし、『スカイ・クロラ』以降は内輪受けのセルフ・パロディ作品ばっかり作っています。その『スカイ・クロラ』にしても、「終わらない日常」の話と捉えることも出来なくもないです。で、本作も『スカイ・クロラ』以降のその他と同じく、身内受けのパロディがこれでもかと盛り込まれ、特に後半に関しては全編何かしらの映画のパロディです。要は本作は原点回帰に近いところがある作品なわけです。
 押井守監督と言えば、蘊蓄にまみれた膨大な台詞量の脚本が有名だと思いますが、本作でもそれは健在。古臭いボケ・ツッコミの中に、様々な蘊蓄と台詞の応酬が繰り広げられます。押井監督の過去作を見ていると、この台詞を長回しで声優に喋らせているのですけど、本作はTVアニメという時間も予算も限られている中で作る媒体なわけで、面白い方法でこれを成し遂げています。
 
 1つ目は背景です。見ていると分かるのですけど、実写なのです。インタビューでも言っていたのですが、これは実際に現地に行って写真を撮って、それを加工してアニメの背景に使うという特殊な方法で作成しているそう。更に手を加える必要が生じたときは実際にセットを組み立ててそれを撮影して処理して使用していたそうです。押井守という監督はレイアウトの人間なのですけど、これで背景のパースを完璧にしておいて、その上でキャラを動かしているのです。
 
 2つ目はカットイン。本作で多用されているのですが、これが全体的に上手く作用していると思いました。キャラ同士の会話を行うときは基本的にカットインが入り、実写背景は変わらずに会話を成立させています。会話のシーンって基本的にはカット割る必要があるのですけど、これによって、会話の導線が出来、視聴者が今誰が誰にものを言っているのか、がよく分かるようになっています。しかもこれによって、声優さんの会話のアンサンブルも上手く出せているような気もしてくる。つまり本作は、実写加工の背景+カットインにより、膨大な台詞を自然な形で、テンポよく描くことに成功しているのです。

 

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 話そのものは、他愛もない、空虚なものです。押井監督自身が『ビューティフルドリーマー』で否定したような「終わらない日常」を地で行く内容です。そこには「御先祖様万々歳!」みたいな痛烈な批評性もありません。一応最後は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のパロディで、マイの生い立ちを知った上で、「いつかは貢の血ぃを抜くかもしれない」という血比呂のモノローグで終わりはしますが、それだけであり、「パトレイバー」で押井監督がやりたいと言っていたドタバタギャグが繰り広げられます。つまりは本作は特に何も考えずに見られるという一点が素晴らしい作品であり、それ故に私は本作のことが好きです。