暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年冬アニメ感想②【無職転生~異世界行ったら本気だす~】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 小説家になろうにおいて、2013年から2019年まで、5年以上にわたってランキング1位を保持していた作品(ちなみに、本作に代わって1位になったのが「転スラ」)。現在はフロンティアワークスからMFブックスとして刊行されています。私は本作のことはアニメ化されるまでは全く知りませんでしたが、何でも本作は所謂「なろう系」や「異世界転生モノ」の始祖的な作品だそう。この点で興味は惹かれませんでしたが、一気に視聴する気になったのはPVを見たから。物凄いクオリティで、慌ててスタッフを確認してみれば監督に「ダリフラ」とか「キャロチュー」で名前を見た岡本学さんで、初監督ということなら見てみるかと思った次第です。
 
 本作を視聴してまず目を引くのが、およそTVアニメとは思えないレベルのクオリティです。キャラクターの芝居にしてもそうなのですけど、各話のレイアウトにしても、かなりしっかりと作り込まれていたり、アクションも素晴らしい。映像作品として見ていて気持ちいいものになっています。「小説家になろう」の王者的作品のアニメ化として、十分なものだと思うと同時に、アニメ化における格差を感じずにはいられませんでした。
 映像的な側面では大変面白かった作品ですが、ストーリーはどうかと言えば、「現実世界ではどうしようもない人生だった男がトラックに轢かれて死亡。そして異世界に前世の記憶を持ったまま転生し、そこで類稀なる才能を発揮する」というもので、流石「異世界転生モノ」の始祖とまで言われる作品だけあって、このジャンルのお約束を踏襲したものになっています。ベタなものではありますが、豊かなアニメーション演出により、作品としての魅力が増大されています。
 
 ただ、本作に関しては、私は他のなろう系の作品とは違う側面も見出すことができると思いました。それは、本作にある「人生をやり直す」という切実さです。
 
 「なろう系」「異世界転生モノ」と言えば、しばしば読者の欲望を満たすための作品であると言われます。つまり、「現実世界ではうだつの上がらない自分でも、異世界に行けばワンチャンあるのでは?」というものです。要は現実逃避なわけで、そこが批判の対象になる事もあります。(とは言え、最近の大ヒット作「転生したらスライムだった件」は、主人公は前世ではそれなりの社会的地位を持っていましたが)。しかし本作には、他の作品と比べても、現実に対する絶望が前面に出ているのです。
 
 主人公はいじめや家族からの虐待から引きこもりになってしまった34歳です。時折挟まれる回想から察するに、学生時代にいじめにあい、そこから20年間引きこもっていた模様。普通の作品ならば、彼が自分の力で部屋を出て、社会性を身に付け、復帰する姿をこそ描いてもいいでしょう。そうすれば、「現実逃避でない」現実に生きる我々にとっての物語になるでしょう。しかし、よく考えてみてください。14歳から20年間引きこもっていた34歳無職を、どこが雇ってくれるのか、ということを。そして、20年間引きこもっていた人間が復帰するまでにどれだけの苦労があるのか、ということを。彼が復帰できるほど、この社会は優しいのか、ということを。この結果に対し、「それは彼の努力が足りないからだ」ということは簡単です。しかし、家族を始め、周囲の人間は彼が復帰できるように手を差しのべたのでしょうか。そして同時に、彼は差しのべられた手を受け取ることができたのでしょうか。出来なかったのではないでしょうか。彼の回想では、両親の葬式で、親族が彼の部屋に殴り込みをかけるものがありました。ここから察することができるのは、親族的に、彼は許せない存在だったのでしょう。本作には、このような「現実はドロップアウトした自分を救ってくれない」という深い絶望があるのです。
 そして、だからこそ、主人公はルディとして転生したとき、「本気で生きる」と決めます。幸い、ルディの両親は、ルディに愛情を注いでくれます。そして才能にも恵まれ、自力で魔力を習得し、ロキシーという師匠を得て成長し、エリスの家庭教師も務め、順風満帆な人生を送ります(そしてフラグを立てまくる)。ここで重要なのは、単純な俺TUEEEE展開ではないこと。ルディは確かに才能を持っていましたが、それを認識し、高めたのは彼の努力の賜物です。そして、エリスと親睦を深めたのしても、彼の歩み寄りの賜物です。さらに、他の言葉を習得し、魔大陸篇で活かされます。つまり、彼が発揮する現実世界での知識は、どちらかと言えば人生の処世術ともいえるものなのです。この点は、前世でのマネジメント能力が活かされた「転スラ」とも似ています。
 
 また、ここで思ったのは、異世界のルディは、とにかく周りの人間に恵まれている事。学校に行ってはいませんが、両親にしろロキシーにしろ、ルディに好意的に接し、それがルディを前向きに生きるように促します。後、ルディは容姿も整っている(前世は太っていたらしい)。この点に、「人間は環境によっていかようにも変わることができる」という側面と、そこはかとないルッキズムが見えます。現実でも、いくら頭が良くても経済的な側面から大学に行けずに就職も難しくなったり、リストラされても失業手当が中々出なかったりという、個人ではどうにもならない環境的な要因があるにもかかわらず、新自由主義的な思想のもと、「それはお前の自己責任だよ」と言われ、社会からドロップアウトしてしまう人間は多いです。本作にある意識は、こうしたネオリベ的な思想に対する絶望だと思うのです。だから異世界で人生をやり直すのだと思います。現実は絶対に自分を救ってくれないから。
 

 

異世界転生パロディ作品。

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 異世界転生(?)のヒット作。

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