暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年秋アニメ感想③【かぎなど】

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☆☆☆★(3.7/5)

 

 Key作品のキャラが一堂に会するクロスオーバー作品。制作はライデンフィルム京都スタジオ。秋は他にも2作作っていて、相変わらず仕事のし過ぎである。Key作品は「AIR」「CLANNAD」「リトルバスターズ!」しか見たことがないのですが、それでもいいだろと思い視聴。

 

 ハッキリ言うと、特に語ることはありません。完全にファン向けに作られた作品であり、ミニキャラ化されたキャラが原作ネタを活かしたパロディや自虐ネタ、声優ネタ、原作の垣根を超えた夢の共演ばっかりやってるお祭りアニメです。私は上述の通り3作しか見たことがない(そう、ゲームすらプレイしたことがないのです)のですが、それでもネタは分かるので楽しめました。

 

 また、5分という非常にミニマムな時間もこの手のファン向け作品としては適正なもので、テンポのいい話運びな内容は見ていて飽きず、スナック感覚でポンポン見ることができました。ラスト、「Angel Beats!」の参戦で、「かぎなど」というより、「あさえだなど」になった感があり、2期を楽しみに待ちたいと思います。個人的にはヒロイン座談会をしてほしい。

 

 

麻枝作品。私はダメだった・・・。

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2021年秋アニメ感想②【先輩がうざい後輩の話】

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☆☆☆★(3.6/5)
 
 
 しろまんた先生原作、作者のTwitter上で連載され、一迅社より書籍化されたという経緯をもつ漫画が原作。一迅社Webコミック配信サイト「comic POOL」でも連載されています。少しガサツだが面倒見の良い会社の先輩である武田と、武田をうざいと思いつつも実はまんざらでもなかったり、しかし素直になれない後輩の五十嵐の関係を描きます。制作は「幼なじみが絶対に負けないラブコメ(以下、おさまけ)」で大幅に評判を落とした動画工房。監督は同じく動画工房制作の「イエスタデイをうたって」にて副監督を務めた伊藤良太。脚本は「プリキュア」シリーズや「墓場鬼太郎」の成田良美。「おさまけ」で大幅に評判を落とした動画工房がきちんと復活してくれるのか、というちょっとした緊張感をもって視聴しました。
 
 結論から言うと、動画工房はきちんと復活してくれました。日常芝居の豊かさ、レイアウトがキチッと決まっているカットの数々、そしてキャラの心情をしっかりと捉える演出、全てが、我々が期待している「動画工房」でした。「おさまけ」のファンと原作者は泣いていい。肝心の内容に関しては、まぁ、可もなく不可もなく、という感じではありますけど、それはそれ。
 
 本作は、アニメ作品としては珍しい、「会社」が舞台となっています。日本アニメは、とにかく学生が主人公の作品が多く、中でも根強いジャンルとしてあるのが「高校生に何かやらせてみた」シリーズです。これは色んな制作会社が手を出しているのですが、動画工房はその代表的な存在です。「会社」が舞台ということなら、P.A.Worksの「お仕事もの」みたいな感じなのかなぁとか思っていたのですが、はてさてその中身は何てことは無い、舞台を「学校」から「会社」に移しただけのラブコメ作品でした。本作が「会社である必然性」は特には無く、高校生の部活とか友情が会社の仕事に置き換えられただけな感じがします。本作でも会社というのは学校みたいな安全地帯の側面が強く、理想的な場所として描かれます。営業なのに直帰しすぎだろとかみんな早く帰りすぎだろとか色々と羨ましい点があります。しかも会社の中のことが具体的に描かれるのは1話と最終話くらいで、後の間の話は「お前ら高校生か!」と言いたくなるラブコメが展開されます。しかもそれはただ見てニヤニヤ出来るだけで(いやまぁ良いんだけれども)何の進展もしないし、仕事一切関係ない休日の遊びとか夏休みの旅行とかそんなんばっかです。しかも社内イベントはクリスマスだバレンタインだといったイベントを「学生か!」と突っ込みたくなるようなノリでやっているわけです。社会人になってバレンタインにあんなに一喜一憂している奴っているのか・・・?だいたい義理チョコもなく終わりだろ!
 
 つまり本作は、学校から会社へ舞台を移しただけのいつも通りのラブコメ作品であり、そこには少しガッカリしました。いやまぁ、アニメの中でも取引先のクレーム対応とか無茶ぶりばかりする取引先に殺意を抱いたりとか先輩がとっつきにくくて一緒にいるだけでストレスだとかそういうのやられても困るんですけども。でも、せめて「SHIROBAKO」の宮森みたいに冷蔵庫の中に発泡酒常備くらいはさせておけ!
 これ以外の不満点というか、常々感じているものとして、この手のアニメ作品の構成の問題があります。本作の縦軸としては、ラブコメ以外に、五十嵐の成長という要素があります。で、一応1話と最終話で対比になるような構成をとって、五十嵐の成長を描きました。これ事態は別に良いんです。ただ、問題はその間の話です。上述の通り、間はひたすらラブコメをやっているわけです。仕事の描写は何かPC弄ったり電話対応してるくらいしかないので、せっかく五十嵐の成長を描いても、それを埋める話がないため、唐突な感じが否めない。しかも、プレゼンが上手くいったってのは良いんだけれども、五十嵐が取引先の会社に入ったら次のカットでもう出てくるので、「何をしたから上手くいったのか」が分からない。この点を具体的に描いてほしかった。しかもこの話は、間で繰り広げられていたラブコメ話が一切関係ないので、ここでも乖離してしまっている。間に仕事のエピソードを入れるとか、もう少しやりようはあったんじゃないのかな、と思います。
 
 また、これは私がこの手の作品に常々感じていた不満にも直結しています。つまり、「最終話でいきなりシリアス展開をぶっ込んで、何となく終わりっぽい感じを出す」という構成です。1話は導入としてしっかりと作っているのですが、間の話が基本的に他愛もないギャグ話ばかりで大してストーリー的な繋がりもないのにもかかわらず、最終話でそれっぽいテーマとかを主人公に語らせて終わらせる、という内容の作品は、唐突でいつも違和感を覚えてしまいます。最近だと「魔王城でおやすみ」とか、後は「アニマエール」かな。まぁこれは連載途中で、ストーリーでないコメディ作品の構成をするうえで鬼門だとは思うわけですが。
 
 以上が私の感想でした。まぁ、何やかんや楽しんで見れましたよ。それと、夏美は一体何の職に就いているんだ・・・。お爺ちゃん回は大塚明夫さんの演技が素晴らしく、個人的にはベスト回。
 

2021年秋アニメ感想①【古見さんは、コミュ症です。】

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☆☆☆☆(4.2/5)
 
 
 オダトモヒトさん原作、週刊少年サンデーにて連載中の漫画を原作としたアニメ作品。人と話すことが極端に苦手な、「コミュ障」である古見さんと、彼女の理解者となる只野君を中心とした学園コメディ。総監督は「恋は雨上がりのように」『海獣の子供』の渡辺歩、監督は本作が初監督となる川越一生。脚本を赤尾デコが務めます。制作はOLM.TEAM.KOJIMA。要は「ポケモン」でお馴染みのOLMの1チーム。私が本作を視聴しようと思った理由は、もちろん渡辺歩さんが関わっているから。彼の作る作品は大体面白いので、ハズレは無いだろうと考えたのです。
 
 感想としては、少しだけ引っかかる点はあれど、楽しんで見ることができました。本作は「コミュ障」を扱っている作品ではありますが、基本的にはコメディであり、「コミュニケーション」という主題をそこまで深刻に扱ってはいません。1話こそ、古見さんがコミュ障であることでどれほど悩み、葛藤してきたかが描かれ、それがラストの黒板での「会話」に繋がっていきます。1話は彼女の苦しみを視聴者に理解させる演出がよく出来ており、そこを踏まえた上での最後の黒板は、コミュニケーションの楽しさや豊かさ、幸福感が絵的にバッチリと伝わる素晴らしいシーンでした。ここで私は本作に対する考えを少し改め、割と真摯に「コミュニケーション」を描こうとしているんだな、と思いました。これ以外にも、本作の演出は全体的にパワフルというか、ギャグ的に誇張したものと繊細な演出の緩急がついていて、この辺のメリハリも良かったなと。
 ただ、2話以降は、視聴前の私の予想通りな内容になっていきました。つまり、「コミュ障」である古見さんの奮闘をチャーミングに描き、同時に癖の強すぎるキャラ達の暴走を組み合わせることでコメディとして描くという内容です。ここのバランス感覚はとてもいい塩梅で、ともすれば「コミュ障を笑う」という倫理的に絶対に許されない内容になりそうなところを、古見さんの反応をチャーミングに描くことで中和していると思います。ハッキリ言うと、「コミュニケーション」を題材とした作品としては、キャラ達の古見さんへの好感度が100%どころか1000%くらいになっていいて、古見さんのあらゆる行動を勝手に拡大解釈して好意的にとってしまうため、古見さんが「みんなに好かれる」という努力をしなくてもいいという状態になっているのです。そのため、「相手とぶつかって絆を深めていく」的な人間関係ドラマとしては弱いのです(一応、山井には意思表示をしたけど)。というか、いちばんコミュニケーションを頑張っていたのは中々思春じゃないの?まぁ、コメディだから良いだろと言われるかもしれないし、実際私もそう思いながら見ていたのですが、最終話の最後によせばいいのに「コミュニケーションに悩む全ての人々へ」的なテロップが出るんです。1話はともかく、2話以降の上述のような内容の本作を見て、「コミュニケーションに悩む」人々のエンパワメントになるのかな、という点は疑問です。ここが少し引っかかったところです。
 
 ただ、これに関しては、私は逆の見解も持ってはいて。 つまり、古見さんはディスコミュニケーションであるという点です。つまり、皆過剰に古見さんを慕っているのですが、それは彼女の本当の姿ではなく、彼ら彼女らが勝手に抱いている幻想のもとに慕っているわけです。それはある意味では悲劇であり、「本当の古見さん」を知らないという点で、ディスコミュニケーションの極致みたいな感じです。だから、尾根峰さんのエピソードは印象的で、只野君となじみ以外で多分初めて古見さんの素の姿を知って友達になった人だと思います。まぁ、この誤解も只野君が解いてくれるんですけどね。でも、こういう誤解込みでも、古見さんみたいなコミュ障の人が問題なく過ごせるあの世界は、優しいんだとは思いますが。
 

 

コミュニケーションもの。

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川越さん演出参加作品。

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青春学園もの。

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2022年冬アニメ視聴予定作品一覧

 皆様。こんにちは。いーちゃんです。2022年冬アニメの視聴予定作品の一覧です。毎期恒例ですが、秋アニメを完走出来ていません。しかも感想も書けてないし。そんな中、冬アニメの視聴予定作品を発表いたします。ちなみに、2021年のTV/配信アニメのベスト10は、秋アニメを全て見終えた段階で出します。

 

 毎期通り、◎=期待大、〇=楽しみ、△=とりあえず見る、で行きます。

 

2021年秋アニメ(視聴継続)

ルパン三世 PART6」

鬼滅の刃 遊郭編」

 

2022年冬アニメ視聴予定作品

「明日ちゃんのセーラー服」 ◎

「あたしゃ川尻こだまだよ」 △

「怪人開発部の黒井津さん」 △

からかい上手の高木さん3」 ◎

「賢者の弟子を名乗る賢者」 △

最遊記RELOAD ZEROIN」 〇

「錆喰いビスコ」 △

「時光代理人-LINK CLICK- 日本語吹き替え版」 △

「スローループ」 △

「その着せ替え人形は恋をする」 〇

「地球外少年少女」 ◎

「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」 △

平家物語」 ◎

「リーマンズクラブ」 〇

 

 冬アニメは14本からスタート。中でも特に楽しみなのは、そりゃもちろん「平家物語」ですよ!山田尚子の新作ということだけでも期待値が天井突破なのに、制作が湯浅政明さんが起こしたサイエンスSARUとかもうありがとうございますとしか言えない。

 他には、Clover Worksのガチ感が漂う「明日ちゃんのセーラー服」、「その着せ替え人形は恋をする」、3期の「からかい上手の高木さん3」、磯光雄さんの最新作「地球外少年少女」、TVアニメは何故か全て見ている「最遊記RELOAD ZEROIN」あたりが楽しみです。しかし、毎期思うんだけど、ライデンフィルム仕事しすぎだろ・・・。

2021年新作映画全ランキング

 皆様。あけましておめでとうございます。いーちゃんです。昨年はブログ上で大変お世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。さて、毎年恒例、新作映画の全ランキングを発表したいと思います。では、行ってみよう。
 

新作映画全ランキング

1位 シン・エヴァンゲリオン劇場版
2位 ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党集結
3位 ドライブ・マイ・カー
4位 プロミシング・ヤング・ウーマン
5位 街の上で
6位 この茫漠たる荒野で
7位 DUNE/デューン 砂の惑星
8位 最後の決闘裁判
9位 17歳の瞳に映る世界
10位 劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト
 

ベスト10に関してはこちらの記事もどうぞ。

inosuken.hatenablog.com

 

11位以下は以下の通りです。
 
11位 アメリカン・ユートピア
12位 ファーザー
13位 あのこは貴族
14位 花束みたいな恋をした
15位 すばらしき世界
16位 CALAMITY カラミティ
17位 偶然と想像
18位 KCIA 南山の部長たち
19位 マリグナント 凶暴な悪夢
20位 キャッシュトラック
 
21位 すべてが変わった日
22位 藁にもすがる獣たち
23位 猿楽町で会いましょう
24位 銀魂 THE FINAL
25位 漁港の肉子ちゃん
27位 騙し絵の牙
28位 サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~
29位 孤狼の血 LEVEL2
30位 モンタナの目撃者
 
31位 フリー・ガイ
32位 ラストナイト・イン・ソーホー
33位 エターナルズ
34位 キャンディマン
35位 劇場版 呪術廻戦0
36位 サイダーのように言葉が沸き上がる
37位 逃げた女
38位 AWAKE
39位 彼女はひとり
40位 チャンシルさんには福が多いね
 
41位 ノマドランド
42位 マトリックス レザレクションズ
43位 映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
45位 竜とそばかすの姫
46位 るろうに剣心 最終章/The Final
47位 映画大好きポンポさん
48位 ミッチェル家とマシンの叛乱
49位 サマーフィルムにのって
 
51位 由宇子の天秤
52位 ジャスト6.5 闘いの証
53位 Arc/アーク
54位 21ブリッジ
55位 ミナリ
56位 ハロウィン KILLS
57位 イン・ザ・ハイツ
58位 BLUE/ブルー
59位 ラーヤと竜の王国
 
62位 アイの歌声を聴かせて
63位 ある人質 生還までの398日間
64位 空白
65位 シャン・チー テン・リングスの秘密
66位 ベイビーわるきゅーれ
67位 アナザーラウンド
68位 かそけきサンカヨウ
69位 新感染半島 ファイナルステージ
70位 聖なる犯罪者
 
71位 ザ・ホワイトタイガー
72位 クルエラ
73位 ジェントルメン
74位 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
75位 ワイルド・スピード/ジェットブレイク
76位 オールド
77位 ゴジラVSコング
78位 楽園の夜
79位 JUNK HEAD
80位 燃えよ剣
 
81位 ヤクザと家族 The Family
82位 ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ
83位 キングスマン ファースト・エージェント
84位 バクラウ 地図から消された村
85位 ミラベルと魔法だらけの家
86位 グリード ファストファッション帝国の真実
87位 SEOBOKU ソボク
88位 ザ・スイッチ
89位 DAU ナターシャ
90位 パーム・スプリングス
 
91位 彼女が好きなものは
92位 夏への扉
93位 トゥルーノース
95位 るろうに剣心 最終章/The Beginning
96位 カポネ
97位 あの頃。
98位 キネマの神様
99位 返校 自由が消えた日
100位 ハッピーオールドイヤー
 
101位 岬のマヨイガ
102位 スペース・スウィーパーズ
103位 時の面影
104位 マルコム&マリー
105位 クー!キン・ザ・ザ
 
 以上が、2021年に観た全ランキングです。ぶっちゃけ、25位くらいまではベストに入れるかどうか悩んだ、「ベスト級」です。昨年は日本映画に良作が多い印象でした。動画配信の映画も、今年は観ていきたいと思います。それでは。今年もまた良い映画に出会えることを願います。

2021年新作映画ベスト10

 2021年ももう終わり。ということで、毎年恒例、新作映画の年間ベスト10を発表したいと思います。今年観た新作映画は105本(映画館&配信)でした。この中から、私が「好きだ」と言える映画10本をランキング形式で発表していきたいと思います。では、行ってみよう。

 

10位『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト

 「再生産」から「始まり」へ。

 「映画館で映画を観る」ことは特別な体験であることは映画ファンならば知っていると思いますが、本作はそのさらに上をいきます。本作は「映画」であることを作品そのものが自覚し、「舞台少女の卒業」というレヴューを「観客が観る」ことで初めて作品が完成されるという、今まで味わったことのない奇妙な、しかし「映画館でしかできない」体験をさせてくれた作品でした。また、日本の劇場アニメ(しかもTVアニメの劇場版)で、あそこまでシネスコ画面を効果的に使ったレイアウトを見ることは中々ないと思います。

 

9位『17歳の瞳に映る世界』

 望まない妊娠をした女子高生と、彼女の友人が、中絶をするためにニューヨークを目指すロードムービー。その旅模様を言葉少なめに、役者の些細な表情と繊細な映像で綴ります。非常に映画的な内容ですが、その中身は女性が世界で受けている抑圧を強烈に画面に映し出しています。主人公のオータムは、常に鬱屈とした表情をしており、それがこの世界で女性が受けている抑圧を表しているような気がしていました。

 

8位『最後の決闘裁判』

 リドリー・スコットが、自身が監督してきたような「男と男の決闘」にメスを入れた傑作。あの手の映画で、如何に女性の意見が無視されてきたかを克明に描き、中世より現代に続く男性社会の中における女性の苦しみを浮かび上がらせます。そしてそれは同時に、『羅生門』を始めとした語り口にもメスを入れ、映画史を振り返る行為にも繋がると思います。

 

7位『DUNE/デューン 砂の惑星

 「映画館で映画を観る」ことがこれほど素晴らしい体験になるのか、ということを再認識させてくれた作品。IMAXで観ることで、本作のSF世界に没入することは、至福の体験でした。「映像」を撮るドゥニ・ヴィルヌーヴの本領発揮といったところです。

 

6位『この茫漠たる荒野で』

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 可能ならば、これは映画館で観たかった。現代の分断と南北戦争の分断を重ね、その中でもニュースという真実で以て世界を繋ぎとめようとする主人公の姿勢に胸をうたれた。西部劇としても面白いし、異文化との相互理解の話としても面白い作品でした。ラストの〆方も品が良くて好き。

 

5位『街の上で』

 今泉力哉監督作。全ての時間が至福であり、「もっとこの時間に浸っていたい」と感じた1作。出てくる登場人物全てが愛おしく、「観ている間の幸福度」という点では今年1かも。

 

4位『プロミシング・ヤング・ウーマン』

 この世界全てを告発する、挑発の映画。画面はポップで、エンタメとして描いてはいるけれども、それすらも罠。観終わった後、全ての意味が分かり、我々(特に男性)は呆然とするよりかはないと思います。「世界観を変える」という点では、今年1。

 

3位『ドライブ・マイ・カー』

 濱口竜介監督作品。『街の上で』とは違った意味合いで、映画の時間に浸っていたいと思う作品。原作に加え、「ワーニャ伯父さん」「ゴドーを待ちながら」の要素を増幅させ、濱口監督らしい、「コミュニケーション」の映画にしていました。これも観ている間の幸福度が高い1作。

 

2位『ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党集結』

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 「映画に浸っていたい」という幸福度ではなく、こちらはエンタメとして最高の1本。登場人物全てが少し馬鹿で最高としか言えない。ジェームズ・ガンのトロマ魂が炸裂した悪趣味極まりない画面や演出もノリにのっていて、「最高」としか言えない作品でした。

 

1位『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

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 「今年の1位は?」と聞かれたら、間違いなく本作を挙げる。庵野秀明という監督の新たなる旅立ちを謳った作品。「エヴァ」という呪縛から、庵野監督自身はもちろん、我々ファンすらも解き放った傑作です。私の旅も、1つ終わりを迎えたのです。

 

 他に、ベスト10に最後まで入れるかどうか悩んだのは、『アメリカン・ユートピア』、『ファーザー』、『あのこは貴族』、『花束みたいな恋をした』、『すばらしき世界』、『CALAMITY』は入れるかどうか迷いました。

 

最後に。

 こうして見てみると、今年は「映画館で映画を観る」ことの重要性を実感した年だったのかなと思いました。選出した作品は、本当に「映画館で観て良かった」と思えた作品ばっかりなので。ただ、今年は配信の映画は全く観られなかったので、2022年はもっと配信も観たいと思っています。感想書けてない作品は早く書きます。それでは。

2021年新作映画感想集③

【ある人質 生還までの398日間】

ある人質 生還までの398日

83点

 2013年5月から2014年6月までの398日間、ISに人質となって囚われていたデンマークの写真家、ダニエル・リューの実話を映画化した作品。相当ヘビーな内容であることは承知の上で、鑑賞しました。

 

 本作は、ダニエル・リューが拘束中に感じたであろう、絶望と屈辱、恐怖を鮮明に描き出します。それはエスベン・スメドさんの演技力も貢献しているのですが、撮影の力も相当あるのではないかと思いました。本作の撮影はエリック・クレスという方なのですが、ダニエルがコペンハーゲンで暮らしていた日常では、優しい感じの光を使った画面、そして拘束されてからは冷たい感じで、光が一切差さない冷徹な印象を与える画面を作っています。また、ダニエルが疾走したりするシーンではステディカムを使った荒々しい映像を用いています。これで観客には一発でダニエルの心情変化が分かるわけですが、それ以外にも、サスペンス演出も大変素晴らしい。まぁだからこそ凄く辛いんですけど。

 

 それ以外にもリアルだなと感じたのは、ダニエルを救うための資金を国が出し渋ること。「テロリストとは交渉しない」とは、アメリカを始め、日本や、各国が宣言していることで、「身代金を払うことは間接的なテロ支援であり、それによって、また被害が出る可能性がある」という弁は、実は理解できなくもない。しかし、身代金を支払わなければ国民が1人死ぬ可能性があるのは事実だし、家族を救いたい、という気持ちは当然。更に、ジャーナリストが現場に行かなければ実態なんて分からないし、実態が分からなければ、我々国民も判断などできない。そこを無視して、捕まったら「謝罪しろ!」だの「自決しろ!」とか言うのは全然違うと思うが。この葛藤を含め、善悪に簡単に断じたりせずに描いている点も良かったな。

 

 

【DAU ナターシャ】

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60点

 15年という歳月をかけてソ連全体主義時代を完全に再現した狂気のプロジェクト、それがDAUプロジェクトであります。「狂気」である所以は、本プロジェクトは当時の街並みを実際に作り上げ、そこに400人近い役者を実際に住まわせるという、比喩ではなく「当時を再現」してみせた点にあります。出演している役者の中には、本物の元KGB所属の人間もいたり、もはや「役」ではなく、「映画の中の人物」と役者がイコールになってしまっているのです。これはもはや、「映画」ではなく、1つの「世界」であって、我々はスクリーンを通して、この「世界」のほんの一部を覗き見ているのです。

 

 映画は、その歴史を紐解くと、撮影に巨大なセットを作成した作品は多々あります。グリフィスの『イントレランス』は最たる例だと思いますし、ハリウッドも、昔はスタジオの中で撮影をしていました。そこには、完全にコントロールされた「世界」があり、役者はそこで住人となって演技をし、我々はそれをスクリーンで観ていました。しかし、その世界の創造は、製作費などの兼ね合いで失敗を繰り返した歴史でもあります。本作はその「世界の創造」の究極形とも言える作品であり、それを今、観た私は、その途方もない「世界」に驚嘆するしかありませんでした。

 

 

【ラーヤと竜の王国】

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86点

 信頼が失われ、分断されてしまった世界を繋げる少女の物語。非常に今日的なテーマであり、シスター・フッド、人種の多様性など、圧倒的な「正しさ」を持つ映画。ストーリー的にも、5つの国へ行って石のかけらを集める、という目的を軸に、絶え間なく起こるアクション、テンポの良すぎる脚本で、観ていて飽きないし、何より楽しい。テーマ的な正しさと多様性を確保しつつ、エンタメとして圧倒的な強度を誇る作品を作ってしまえるディズニーの力量と志に感服した(ディズニーはあんま好きじゃないけど)。

 

 素晴らしかったのはシス―。声優を務めるオークワフィナ本人か?と言えるくらいのハマり役(いやほぼ当て書きといってもいいかも)で、彼女が隣にいるだけで安心感がある。さらに日本語版吹替の高乃麗さんのハマり具合も半端なく、「もうオークワフィナの専属でいいのでは?」と思えるくらい。年齢的に厳しいとは思うけど。

 

【ミナリ】

ミナリ

77点

 主要な人物は韓国の移民だけれども、描いているのは由緒正しいアメリカの開拓者魂だと思いました。往年の名作だと、それを行っているのは白人だったんだけど、本作では韓国の移民であり、そのために本作には、移民という「異国」の受容や、世代間のアイデンティティを巡る物語の側面も加わって、「現代の開拓者魂の映画」となっているのではないかと思いました。

 

 また、アカデミー賞助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンさんの存在感が圧倒的。英語を話せず、良かれと思ってしていることが若干裏目に出ているあの感じと、息子のデビットとのコミュニケーションのすれ違いっぷりとか、「あるある」な感じが凄い。コミカルな面も全て背負ってくれており、彼女がいると少しイラっとするやら笑えるやらで楽しい。

 

 ただ、少し気になったのが女性で、奥さんは旦那の我儘に振り回されてばっかりだし、娘も、基本的にほったらかしにされてて、名前もほとんど呼ばれない。お金の話でも、「デビットには残しといてね」って言うだけだし。当時の時代背景を考えれば分からないでもない描写ではあるけど、今観るとやっぱり気になるな。