暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年秋アニメ感想③【神様になった日】

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☆(1.4/5)
 
「気持ち悪い・・・」
                                     劇終
 
 
 Keyの名物脚本家、麻枝准。「Kanon」、「AIR」、「CLANNAD」などの名作を生み出し、時代の寵児にまでなり、TVアニメの脚本にまで手を出した人物です。彼の生み出した「AIR」は今でも「泣きゲー」として語り継がれる作品ですし、「CLANNAD」に至っては、「人生」とまで言われており、私のような現在20代後半のオタクにとっては、最重要の人物の1人と言っても良いと思います。
 
 そんな彼ですが、2010年からはTVアニメにも進出。「Angel Beats!」を発表します。ここからP.A.WORKSとの関係が始まっていき、続いて「Charlotte」も制作しています。ただ、世間的には高い評価を獲得しましたが、私はどうも麻枝さんが脚本を書いた上記2作は好きにはなれません。それは主に、ストーリーの構成の面です。上記2作品とも、キャラの描き込みは浅くて感情移入が難しいわ、ストーリー上の転換点が数回あるたびに作品そのものの方向性がブレてしまうわ散々で(要は俺の感想みたいな感じ)、全く乗れなかったのです。正直、ゲームのシナリオライターしてた方が良いんじゃねと思うのですけど、どうやら麻枝さんは、本作を「原点回帰」とし、Keyブランドをかけるそう。そんなら見てみるかと思い、視聴した次第です。
 
Angel Beats! PERFECT VOCAL COLLECTION

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 最終話まで視聴して、「なるほど」と思いました。やりたいことは分かったと。そしてそれは、まぁ良いと。しかし、根本的な問題が未解決だぞと、声を大にして言いたい作品でした。
 
 本作のHPにおいて、麻枝さんは以下のように述べています。
 
自分は『Angel Beats!』や『Charlotte』で、戦闘やバンドや異能力といったエンターテインメントとして放り込める要素はすべて放り込む、というゲーム制作の時とは違うシナリオを書いていました。その「原点回帰」の意味について特に深く話し合ったわけではないのですが、自分なりに『Kanon』や『AIR』の頃のような、ただ純粋に感動できるお話を求められているのだな、と解釈し、脚本を書き上げました。*1
 
 この発言を読むと、本作の内容にもなるほどと思える点があります。それは、本作の構成はが過去2作とは違うという点。主に2つに分けられていて、ひなが陽太と共に夏を過ごす1部と、真相が明らかになり、陽太がひなを取り戻しに行く2部です。1部では自称オーディン娘のひなが「神の能力」を使って問題を解決、または陽太と周囲の人間関係を描きます。そして「世界が終わる日」とひなという謎をフックとして引っ張り、真相が明らかになってからは一転、極めてささやかな「奇跡」しか起こらないラストが待っています。
 
 これは以前までのTVアニメとは異質な作品です。というのも、「Angel Beats!」にしろ「Charlotte」にしろ、作中で物語のツイストが何回も起こるからです。「Angel Beats!」は3話、「Charlotte」では6話です。しかし、本作はツイストは1回しか起こらず、それ故に作品そのものの方向性も一貫していますし、物語のスケールも身の丈に合ったものになります。だから過去2作と比べると設定的な破綻が少ない。この点は「AIR」を彷彿とさせ、なるほど原点回帰的だと思います。
 
 ただ、面白い点があって、それは、本作では順番が逆な点です。というのも、麻枝さんの作品は、どれも形を変えて「世界の終わり」を描いてきたと思っていて、だいたいその犠牲になるのはヒロインなのですけど、その犠牲を、ちょっとした「奇跡」で以て救済する作品でした。そしてその「世界の終わり」はイコールで「死」でもあり、「病」という要素も深く関わってきます。
 
 本作はこの点が逆転していると思っていて、まず「奇跡」という救済があって、それを奪われてしまうという展開なのです。そして、この点とHPのコメントを合わせて考えると、興味深いことを考察できます。それは、本作が彼にとって、一種私小説的な内容なのでは?ということ。「神様になった日」とはまさか、「自分が脚本家になった日」であり、ラストのひなは、「才能が枯渇した自分」なのかと思えてきます。まぁ考えすぎかもしれませんが。ただ、そう考えると、3話の「情熱大陸」パロディも違う見方ができます。
 
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 ここまでが興味深いというか、面白いなと思った点です。さて、ここからが本番。以上のような考察は出来ても、根本的な点が直ってないんですよ。そして、「原点回帰」をしてしまったが故、彼が元々持っていた気持ち悪さみたいな点も浮き彫りになってしまったなと思います。
 
 まず、本作の構成について、先ほど、1部と2部に分かれているけど、話の筋は通ってると書きましたが、それはあくまで過去2作と比較してです。本作も全然直ってないです。1部はまぁギャグも「中学生が考えたのか?」と思う感じで笑えないし、「いつもの麻枝さんだなぁ」と思って見ていましたが、1つ1つのエピソードはまぁ面白かったです。しかし、ひなの奇跡が奪われてからは、「陽太の話」になり、それまでとは全く違う話になります。この接続をもっとスムーズにやろうよ。
 
 それは、麻枝作品によく出てくる、「理不尽な社会への抵抗」です。麻枝さんの作品の中では、「理不尽な社会」が出てきて、主人公たちはそれに抗うため、「楽園」を作って「抵抗」します。本作もその構図は健在なのですけど、過去2作と比べて、「敵」が明確に示されたのは良いのですが、陽太たちの主張も身勝手極まりないので、過去2作以上に感情移入できません。しかも、「戦うところ、そこかよ!」とも思います。
 
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 問題なのは、そこでの陽太の主張がめちゃくちゃ独りよがりで、作品全体がそれを肯定してしまう点。自分の意志を表明できないひなを「自分といた方が良いんだ」と、自分勝手な意見を述べるばかりで、全く感情移入できませんでした。確かに、ひなは陽太たちと幸せな時間を過ごしたと思います。しかし、ひなの状態を考えれば、親族でもない彼に預けるよりもあの施設にいた方が絶対良いだろ。しかも、「ヒナへの献身」を表現するのが「徹夜でゲームをする」って、何じゃそりゃ!って感じですよ。いや、理屈としては分かるんですけど、「献身」表現でそれかよっていう。
 
 さらに、陽太がひなに固執する理由がまた浅くて、「夏を一緒に過ごしたから」とかならまだいいんです。しかし、いきなり「ひなが(異性として)好きだ!」と言うわけです。ちょ、待てよ。お前、つい最近まで「イザナミさん、イザナミさん」って言ってたじゃないか。いつ心変わりしたんだよ。で、ひなもいつの間にか陽太のことを好きとか言ってるし・・・。いや、展開としては分かるんだけど、でも、もっと説得力を持って描こうよ。台詞でポロッと言われただけで、ストーリー的な説得力がまるで無いんだよ。こう言うところだぞ、本当。全然直ってねぇ。
 
 で、最終話ですよ。ひなを無事に「楽園」に連れて帰ってきた陽太ですけど、そこでの描写が本当に酷いんだな。アニメ史に残る気持ち悪さ。無事に帰ってきたひなと共に中断していた映画撮影を再開するのですが、あのときの光景が物凄く嫌。冷静に考えてみると、あれは自分で意志を表明できず、体も上手く動かない女の子を、わざわざ設備が整っている施設から引き戻して、着せ替えたり映画撮影に参加させたりして喜んでいる人間たちなんですよ。で、「ひなちゃんすごい」とか言って喜んでる。私には、彼らがまるで人形で遊んでいるようにしか見えませんでした。で、肝心の「ひなの気持ち」も陽太たちが勝手に自分たちに都合のいいように推測しているだけ。一応、ビデオメッセージはあったけど。何なの?この集団。サイコパス?これは一種の虐待なのではないかと、真剣に考えてしまいました。これをさも感動げに演出しているのも気持ち悪さに拍車をかけています。
 
 以上のように、本作は設定を盛っていないという点では過去2作よりかは破綻が少ないと思います。しかし、肝心のストーリーの詰めの甘さは健在で、しかも本作では身勝手さや気持ち悪さまで前面に出てしまった作品でした。ちょっとこれは評価できない。