暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

ガンのトロマ魂炸裂映画【ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結】感想

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94点
 
 
 2016年に公開された『スーサイド・スクワッド』は散々な映画でした。評価されたのはマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クイーンくらいで、内容は散々。DCの意向が反映され、デヴィッド・エアー監督の意図とは全く違う作品が出来上がり、エアー自身は未だに「これは俺の作品じゃない」って言っています。しかし、予告編が大変出来がよろしくて、興行的には大成功します。今回の監督は何とジェームズ・ガン。自身の過去ツイートのせいでディズニーからいったん解雇されたタイミングで声がかかり、企画から白紙委任されるという前代未聞の超好待遇で迎えられました。そんな彼が選んだのが、2016年に盛大に失敗した『スーサイド・スクワッド』の続篇だったわけです。
 
 本作は、ジェームズ・ガンの世間的な出世作、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(以下、『G.O.G』)』と似ている作品です。集められたのが世間に居場所のないポンコツ集団で、そんな彼ら彼女らが世界を救うために何やかんやで奮闘する、という筋書きは、もはや「DC版ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」と言ってもいいレベル。しかし、本作は決定的に違う点があります。それは、本作はジェームズ・ガンの古巣である、トロマ映画の精神が存分に入っている点です。

 

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 「トロマ映画」とは、ロイド・カウフマンがマイケル・ハーツと共に設立した所謂B級、Z級のおバカ映画を量産している映画製作会社、トロマ・エンターテインメントから配給されている映画たちです。内容はおバカ&エロ&グロ&ナンセンスで、およそビッグバジェットと相性が良いとは言えないのですが、本作において、ジェームズ・ガンはこのトロマ精神を炸裂させているのです。冒頭から始まる、阿鼻叫喚(笑)な地獄絵図からのマイケル・ルーカー首チョンパ、からの出血で描かれるOPクレジット。そして中盤のあまりにもしょうもない「殺人スキル比べ」、終盤の実験室のおぞましい光景や、最後に出てくるスターロ・・・。全編に亘って不謹慎&グロ満載なのです。
 
 この「グロさ」と「不謹慎」さは、ただ視覚的に楽しむものではなく(まぁガンは大半は面白がってやってるだろうけど)、そこにきちんとした批評性が入っています。序盤の反乱軍の基地を間違って襲撃する下りは、マチズモ的な思想に対する冷やかしだと思いますし(ハズしギャグも最高)、ギャグっぽく見せてはいるけど、暴力をきちんと暴力として描いています。この辺は『スーパー!』でヒーロー映画の暴力性を冷静に見つめたジェームズ・ガンの面目躍如といったところです。話全体も、アメリカが他の後進国を使って進めていた非道な実験を、使い捨ての部隊に証拠隠滅させる話であり、アメリカが過去に行ってきたことを彷彿とさせます。ここでスクワッドの面々が証拠隠滅を巡って仲間割れをするのがとても興味深く、アメリカの良心と建前の葛藤として見れます。何としても平和を守ろうとするマキャベリスト、ピースメイカーは、自国の過ちを正当な理由をつけて隠滅しようとするアメリカの暗部であり(立ち位置的にMCUキャプテン・アメリカの逆を行ってるのも興味深い)、証拠を公開しようとするリックやラットキャッチャー2は、まぁ良心なのでしょう。MCUでは、『キャプテン・アメリカ』シリーズが現在進行形で刷新していっているテーマを、本作は「暴力への批評性」を加え、やってみせているのです。
 本作で世界を救うのは、完全無欠のスーパーヒーローではありません。全員が微妙な能力を持った「自殺部隊」です。「ポンコツの集まり」という点では、『G.O.G』なんですけど、彼ら彼女らは、皆「居場所がない」んですよね。ブラッド・スポートは娘と喧嘩中だし、ピース・メイカーはマキャベリスト、ラットキャッチャー2はネズミを操る元ホームレスだし、ポルガドットマンは母親の虐待を受け、変な球が体にできる。鮫は、何だかよく分からない。そんな奴らが立ち上がるのは、自らのなけなしの良心なのです。国家のためではなく、「正義」のためでもない。そしてこれは全員が持っているもので、やる気のなかった指令室の人間達も、最後に「良心」に従い、命令に背きます。この、一般人でも、「良心」に従って行動することこそが、「ヒーロー」の証なのだというメッセージには心を打たれました。そしてそれを発揮するのが、世間的には最も「必要のない」存在であるスクワッドの面々であり、キメ手になるのがその中でも最下層のラットキャッチャー2である、というのも、実にガンらしく、素晴らしいなと思います。この点で、本作はまさしく、「ヒーローの映画」なのだと思います。
 
 つまり本作は、『G.O.G』によりジェームズ・ガンの作家性がより強く刻印され、『キャプテン・アメリカ』のようなアメリカへの自戒と批評性を備え、さらに、ヒーロー映画における暴力への批評性をも加味した作品だったと言えます。そしてそれをトロマ映画精神を全開にして送り出して見せたという、大変素晴らしい作品でした。つーか、普通に面白いですよ。これ。
 
 

DC映画たち。

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ハーレイ出演映画。

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