暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年夏アニメ感想②【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完】

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71KEPDX01XL._AC_SL1280_.jpg

 

☆☆☆☆★(4.5/5)

 

 

 今期は、①4月に放送開始されたものの延期して夏に仕切り直して放送された作品と、②4月放送予定だったものの7月に放送開始そのものが延期された作品の2種類があるため、①に関しては「春アニメ」として、②に関しては「夏アニメ」としてカウントします。
 
 渡航先生原作、ぽんかん⑧先生イラストで、小学館ガガガ文庫より発売されていた「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」を原作とするアニメ作品。本作でシリーズは3作目となり、同時に完結篇でもあります。スタッフは基本的には「続」から継続で、制作はfeel.、監督は及川啓さん、そして脚本は大知慶一郎さんです。私は原作は既読で、TVシリーズももちろん視聴済み。そして今回は過去のシリーズで不満だった点が解消される可能性が大ということで、結構期待して視聴を始めました。
 
 この記事は「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完(以降、「俺ガイル完」)」の感想記事なのですが、作品の内容そのものに関しては原作⑭巻の感想である程度(「俺ガイル」シリーズは既存のラブコメラノベ脱構築作品であること)は書いてしまいました。なので、今回は私自身がアニメ版で感じたことと、彼ら彼女らが求めた「本物」とは何だったのかを、言語化してみようと思います。
 まず、アニメ化における感想ですが、触れておきたいのは尺です。本作は、尺取りが完璧なのです。これまでのシリーズは、5~6巻分を1クールでやっていたため、尺がキツキツだったり、カット部分が大量にありました。それでも1期の頃は原作が短編集みたいな内容で、本筋に直結する内容がそこまで多くなかったため何とかなっていました。しかし、長編化が進んだ⑦~⑪をアニメ化した「続」は明らかに尺が足りてなく、個人的には残念な出来になってしまった印象です(かなり頑張って押し込んでいたけど)。それは詰め込み過ぎなだけではなく、演出にも問題が出ていたと思っていて、原作をとにかく「押し込んだ」だけな印象を受けました。そこへ行くと今回の「完」は⑫~⑭の3巻分を12話でやるという超良心設計。これまでのシリーズとは違ってカットもほとんどなく、尺をたっぷりと使って演出をし、キャラ毎の心情を描けていたなぁと思います。
 
 演出の話に行くと、これはシリーズ通して言えることなのですが、空間演出が良かったです。シリーズ通して奉仕部の部室という空間が非常に重要で、本作ではほとんど出てこないのですが、あの空間にあの3人のかけがえのない時間があって、シリーズを通してそれを描いてきました。だからこそ、12話の最後であの5人が一緒に部室の中で映ったカットから、「俺ガイル」という作品が行き着いた「新しい、本物の関係」が始まるということを強調できていたと思います。
 
 また、別な点では視線のやり取りですね。「俺ガイル」という作品は会話劇が基本で、第2部ともいえる⑦巻からは微妙な人間関係の物語になります。そこで、1期以上に視線や会話の演出に力が入りました。「完」でもそれは健在で、会話や視線の導線、会話を受けたキャラの反応をしっかりとアップで描いたり、キャラの気持ちに寄り添った演出をしているのです。特に素晴らしいなと感じたのは11話で、2人のヒロインに対する八幡の答えをしっかりと描いてて、ちょっと泣いちゃったよ。
 さて、演出まわりはこれくらいにして、「本物」の話をしましょう。それを理解する鍵になるのは雪ノ下陽乃だと思っています。彼女を見て、八幡さんはこのような感想を抱きました。「強化外骨格みたいな外面」だと。要は「周りと上手くやっていく」達人なんですよね、彼女は。そしてそんな彼女だからこそ、それが如何に空虚化が分かっていて、だから、八幡さんと雪乃にちょっかいを出す。自分が手に入れられなかった「本物」を追い求めているから。「そんなものはない」と言いつつ、実は彼女が一番「本物」を追い求めているのだと思います。陽乃にちょっかいを出された雪乃は「上手くやれる」と言います。これは八幡さんと結衣が結ばれても、何も変わらずに「表面上は」付き合えるということ。しかし、こうすることで、雪乃の、そして八幡さんの「本物」の気持ちが抑え込まれ、「偽物」の関係が続いていきます。陽乃が断罪しているのはそこです。ちなみに、「偽物」と言える関係を意図的に継続しているのが葉山達です。
 
 また、別のところでは、陽乃は八幡さんと雪乃の関係にもちょっかいを入れます。「共依存」だと。つまり、八幡さんは雪乃を助けることで満足感を覚え、雪乃はすがってしまう。そんな関係だと言うのです。そしてそれも「本物」ではないと。これはメタ的に言えばライトノベルのラブコメにおける主人公とヒロインの関係性への批評になっているとおもいます。陽乃は3人の関係に終始疑問を投げかけ、「本物」があるのかどうか確かめようとしている存在なのです。
 自分の気持ちに正直になる。これは簡単なようでいてとても難しい。奉仕部の3人を例に出せば、誰かの気持ちを優先すれば、決定的に関係が変わってしまうから。だからあの3人は「偽物」のぬるま湯の関係を選ぼうとするわけです。そしてそれは陽乃が続けてきたことでもあります。「偽物」の関係を続ければ、失うものは何もない。でも、「何か」が決定的に変わってしまう。それは何かを手に入れるために何かを犠牲にすることで、この場合犠牲になるのは結衣です。そしてこれは実人生の話でもあります。人生は「選ばなかった」関係があり、「選んだ」関係がある。人生はこれの繰り返しであり、だからこそ面白いし、辛くもある。それがないと、本物の友達がいない、空虚な人生になってしまう。
 
 しかし、八幡さんと雪乃は2人にとっての「本物」を選びます。あの告白は最高でした。2人は、関係を選んだのです。しかしこうなると不憫なのが結衣。ずっと2人を見守ってきた彼女ですが、最後は結局選ばれない。でも、だからこそ、最後に奉仕部に来た時が感動的なのです。これは1期1話のやり直しであり(だからユキトキがかかったんだと思う)、またあの3人の新しい関係が始まるのですから。「俺ガイル」シリーズの帰結が素晴らしい点はここで、「1度崩れた関係も、また新しく作り直すことができる」と示しているのです。つまり本作は、これまでずっと間違え続けてきた彼ら彼女らが、また少しだけ「正しい」関係に移るまでの物語なのです。さらに、八幡さんが人間関係を獲得する物語でもあります。そしてこれは既存のラブコメ作品の批評的な側面を持つもので、本作がラノベ脱構築作品だと思う故です。長くなりましたが、私からは以上です。
 
 

 原作感想です。

inosuken.hatenablog.com

inosuken.hatenablog.com

 

 似た感じの作品。

inosuken.hatenablog.com