暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2月に観た新作映画の感想

 2月に鑑賞した映画の感想一覧です。話題作が相次いだため、12本鑑賞しました。

 

No.9【モリコーネ 映画が恋した音楽家】 86点

 偉大なるマエストロに敬礼。

 モリコーネの関わった作品は、レオーネやトルナトーレとの一連の作品、『アンタッチャブル』、『ヘイトフル・エイト』くらいしか観たことはなかった。本作は、一介のトランペット奏者でしかなかった青年が、如何にして巨匠となったか。その足跡を追ったドキュメンタリー映画トリビアも多く、キューブリックとニアミスしてたとは知らなかった。

 マカロニウエスタンからトルナトーレ、タランティーノの映画の映像も交えて描かれる。無論、それらは素晴らしい映画ばかりであり、画面に映る度に興奮してしまう。情報の密度に圧倒される。情報が多すぎるあまり、映画がそれを処理するだけになってしまい、構成と編集が歪になってはいるものの、モリコーネという巨人の足跡を辿ることができる。

 本作はモリコーネが如何にして曲を産み出していったのか、をインタビューから掘り起こす。そこに見えてくるのは、彼が如何に論理的な思考のもと映画に向き合っていたかという事実。多種多様な映画に合った曲を産み出し、映画をより傑作にしていく過程を編集で描いている。『荒野の用心棒』に曲を当て、「完成」するまでの過程を描いたシーン、彼が口ずさむ曲が実際の音楽となり、実際の映画とともに映される点は、それまでの過程を知っているだけに、感動がより深くなる。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『ミッション』のところは特に素晴らしかったし、彼が関わった映画を見返したくなった。

 『映画が恋した音楽家』の副題も良い。本作を観ると分かるけど、映画が彼を放さなかったと思うから。彼が与えた影響はあまりにも大きい。

 余談。終盤で、タランティーノがめっちゃ嬉しそうに話しててホッコリした。後、ジョン・ウィリアムズが「あの年で現役なのが凄いね!」って言ってたけど、「アンタも大概だろ!」と思った。

 

No.10【パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女】 60点

 パク・ソダム演じる何でも確実に届ける運び屋が、依頼主の子供と行動を供にすることになる。最初は子供を邪険に扱う運び屋だったが、情が移っていき…という、コテコテの『グロリア』の系譜にある映画。

 劇中には、同じく『グロリア』の系譜にある『レオン』への目配せもある。ハッキリと分かるのは、敵が汚職警官であるという点で、どこかイキってる感じとか、ゲイリー・オールドマンを彷彿とさせる。とは言え、ゲイリー・オールドマン並の存在感もないため、小物感が凄いわけだけど。後、あの殺し屋?みたいな奴が業者を拷問しに入ってきたときの入り方もゲイリー・オールドマン

 話そのものは『グロリア』であり、それ以上のものはない。だいたいこちらが思った通りに物事は進み、驚きやツイストはない。ただ、主人公の運び屋が脱北者であるという点に、本作が「韓国映画版グロリア」であるというオリジナリティがある。とは言え、予想は上まらず、少し退屈な感じは否めない。

 カー・アクションは流石で、『ワイルドスピード』のような荒唐無稽なものではなく、地味だけど堅実なアクションを見せてくれる。工夫を凝らした数々はとても面白い。ただ、カット割りすぎでどの車も同じに見えたりして、少し見にくいという問題もあるが。後、最後の乱闘では、音楽かけたりして狙いすぎなのが少し鼻についたな。

 

No.11【対峙】 89点

 アメリカの高校で起こった銃乱射事件の被害者遺族と加害者遺族が対話を通してお互いの傷を修復していく、修復的司法を題材とした映画。映画はほとんどが一室のみ、4人の会話のみで進む。

 監督が現役の役者であるためか、4名の役者全員が素晴らしくて、終始凄い緊迫感がある。そして脚本も非常に上手い。実際の事件を映さず、4人の会話から、彼ら彼女らの苦悩が分かるし、前半の核心に触れない会話を続けることで、いつ会話が爆発するか、という緊張感もある。撮影に関しては、中盤、ついに核心に触れてからアスペクト比が変わる演出が見所か。監督の意図通り、あそこでまさしく「世界が変わった」感じがあった。

 本作が素晴らしいのは、「会話」というもので被害者と加害者の遺族がどのように苦しんでいるのか、そして、彼ら彼女らの息子がどのような人物だったのか、をお互いに理解する点を丁寧に描いていること。被害者は怒りを感じてはいるものの、加害者遺族にぶつけることが筋違いなのは分かっている。だからこそ、振り上げた拳をどこに下ろしていいかが分からない。加害者遺族も、どうすれば赦してもらえるかわからない。この答えのない難題に、会話で互いを理解することで、一応の結論を出している。

 現在、分断や無理解からくる差別、誹謗中傷が多くみられる。特に加害者遺族なんて、マスコミや世間から叩かれまくると思う。そうやって理解せずに叩くことは簡単だけど、本作のように、「対峙」して、「分かり合えない」と思われる存在同士が会話をして、互いを理解することこそが、とても大切で、物事を前進させていくのだと思わせられた。・・・とは言え、それすら難しい人間もいるわけだが。

 

No.12【レジェンド&バタフライ】 62点

 キムタクは演じている役を全て「キムタク」にしてしまう。本作も例外ではない。織田信長という歴史上の人物だが、スクリーンにいるのは紛れもない「キムタク」である。流石である。

 まぁ、それは予想していた。しかし問題は、本作そのものが「キムタク映画」だった点である。つまり、「最悪な出会いをした男女が徐々に惹かれあっていき・・・」的な話を信長と濃姫に置き換えているだけなのである。だから映画の最大の関心ごとは天下統一とかではなくて、好きだの嫌いだのの色恋であり、なんと合戦シーンがないし、武田信玄今川義元も出てこない。ちょ、待てよ。流石は『SPACE BATTLE SHIP YAMATO』で、「宇宙戦艦ヤマト」ですら「キムタク映画」にしてしまった男である。ちなみに、唐突に事に及ぶところも似ている。

 役者は皆良い。キムタクはいつも通りだけど、やっぱり存在感は圧倒的で、魔王に落ちていくときの貫禄は素晴らしいし、綾瀬はるかも、そのフィジカルモンスターぶりをいかんなく発揮している。伊藤英明も流石。

 金をかけているだけあって、セットとか結構頑張ってたし、画面もリッチ。また、エキストラを大量に使ったモブシーン、乱闘のシーンなどは見応えがある。つまり、単純な画面に関してはかなり満足度が高い。その辺は流石大友監督。さらに、アクションも結構頑張ってた。キムタクと綾瀬はるかは動ける人だから、そこは無駄遣いじゃなくてよかったな。ただ、それが一番発揮されるのが貧民街みたいなところなのはどうなんだと思ったけど。感傷的なシーンでBGMを大音量で流すという悪癖?は抜けてなくて、そこは少し興ざめ。

 脚本が結構問題で、前半と後半でトーンがガラリと変わる。特に前半は完全にキムタクコメディ。久利生公平って言われても納得するレベル。後半でシリアスになるけど、いきなりすぎて辛いものがある。そしてラストはいきなり『ラ・ラ・ランド』化する。正直、あの展開にはかなり困惑して観ていたので、『ラ・ラ・ランド』でよかった~と思ったよ。

 

No.13【バビロン】 50点

 「進歩を妨げてはならない」と劇中でブラピが答えるシーンがあります。デイミアン・チャゼルは一貫している監督で、本作もそうでした。一貫しているのはいいのですが、何というか、私はあんまり好きじゃないです。

 本作の主人公は3人。それぞれ、映画界で一時期は大成功をおさめますが、変革期に対応できず、一度はつかんだ栄光を失ってしまいます。しかし、ラストで「映画の歴史」を一気に流すという荒業により、そんな彼ら彼女らを「救済」します。「あなた達も、「映画」という大きな歴史の一部なのだ」と言って。デイミアン・チャゼル監督は、「何かを犠牲に偉業(=成功)を成し遂げる」映画を作ってきました。本作の「偉業」は映画そのものであり、その映画に吞まれ、「一部」となったのが、歴史の中にいた彼ら彼女らなのです。

 映画の歴史を語るのは結構なのですが、果たしてデイミアン・チャゼル監督にその資格はあるのか。甚だ疑問ではあります。いくら創作だからと言って、当時のハリウッドの描写について、私でも首を傾げるレベルの描写が多々ありますし(私の知識不足もあると思いますが)、カリカチュアライズされた狂乱ぶりも、いち解釈としてはありですが、「映画史」を語るうえでこれはどうなんだろうか。というか、そもそも、映画を通して、興味があるのは前述の点であり、「映画の歴史」そのものに微塵も興味ねぇなコイツってのが何となく伝わってきて、そこが凄くムカつくし、傲慢さすら感じます。「映画で映画を語る」作品なのに、あの時代への敬意無しというのは問題だと思うし、あまつさえ、観客に向かって「あなたがたも、この映画の歴史の一部なんですよ~」とか言ってきて、「お前の傲慢な映画史に俺を加えるな!」と思ってしまった。

 一応、全編フィルムで撮ったという画面の質感は良かった。けど、上流階級の描き方とか、キャラの描き方もテンプレ的で不満が残るし、あれだけ下品な下ネタも下品なだけ。ヴァーホーベンを見習いなさい。不満はあれど、最後まで退屈はしなかったので、この点数で。デイミアン・チャゼル君のことは、これからは生暖かい目で見守ろうと思いました。

 

No.14【ベネデッタ】 94点

 ヴァーホーベン監督の最新作。これがまた面白かった。本作の主人公ベネデッタは、彼のこれまでの作品のヒロインたちと同じく、男性が権威を握る社会でハッタリ(あるいは、真の神の言葉)と知性を武器にのし上がっていく。中盤以降の展開は怒涛で、サスペンスであり、権威を打ち倒すエンタメである。彼女が本当にキリストの言葉を聞けていたのか、ハッタリだったのか、は明言されていない。解釈は委ねられ、それこそ、劇中の通り、「信じたければ信じればいい」という感じである。

 ヴァーホーベンは、どの作品でも、劇中で示される価値観とは別個の価値観を潜り込ませており、我々の「良識」を破壊しにかかる。本作もそうで、それが「キリスト教」に及んでいる。ベネデッタが属する協会は清廉潔白な組織なわけはなく、金にうるさいいち社会的な組織だし、信者である教会の人間すら、信心深くない、欲にまみれた人間として描き、「神」を都合よく利用している存在とし、ベネデッタの「予言」を都合よく利用して権力へ上ろうとする。「善悪の彼岸」を主題とし、決して一元的な見方をしない彼らしい視点だと思う。そこで生きるベネデッタの姿は、『ショーガール』であり、『氷の微笑』であり、『グレート・ウォリアーズ』である。

 そして彼女は、最後はキリストが辿った道を体験してしまう。これはつまり、「キリストって、ひょっとしたら、本作のベネデッタみたいな奴だったかもしれないじゃん?」みたいなこと。私はここに、キリストの存在自身もいち人間として解体してしまおうというヴァーホーベンの恐ろしさを感じた。伊達に本を出してない。

 ラストは原作にはない展開だそうですが、「権威」に居座る男性を民衆が打倒するというとんでもないもので、かなり胸がすく。

 本作は、相変わらず、宗教というものにケンカを売りまくっている作品であり、「信じる者は救われる」をかなり皮肉たっぷりに述べる。しかし、その実は、「何かを信じる」ことをかなり真剣に扱った映画とも言えると思います。

 

No15【ボーンズアンドオール】 80点

 カニバリズムを主題とした映画ではあるけれど、内容は居場所のない男女の物語だった。本作におけるカニバリズムは、色んな読み解きができるけど、パンフの監督の発言から察するに、マイノリティのメタファーであるのは明白。グァダニーノ監督は『君の名前で僕を読んで』でもそうだったけど、マイノリティの物語を描くことに興味があるんだなと思った。

 物語はマレンが自らの欲望を抑えきれず、友人の指を食べようとしてしまうところから始まる。彼女は父親から捨てられ、母親を探す旅に出る。彼女は旅先で同族のリーと出会い、彼の2人で母親を探しているうち、同族とも出会う。だから本作はロードムービーでもある。

 マレンとリーは人肉を食するということで父親から見捨てられ、家族とも離れてしまっている。同族とも出会い、生き方を知り、世界の片隅で寄る辺もなく生きていく2人の姿を映していく。彼ら彼女らが本当にこの世界の片隅に生きているような錯覚を覚える。この映画全体のテンポや雰囲気が『君の名前で僕を読んで』と同じく、とてもよかった。

 本作は孤独の物語でもあって、マレンとリーは互いに信頼し合って居場所を束の間獲得できたけど、対照的なのはサリーだった。マーク・ライランスが上手いってのもあるんだけど、サリーがとにかくキモく描かれている。最後は自身の愛情をマレンへ一方的に押し付けてしまう。サリーはキモかったし、近づき方も最悪だったけど、孤独を感じていたのは事実で、この意味では、リーと合わせ鏡だったのかもしれない。

 「ボーンズアンドオール(=骨まですべて)」ってタイトルだけど、まさか「愛する人と一緒になる究極の方法は食べることだ」ってのを直球でやるとはね。「チェンソーマン」かよ。でも、食べられる側がティモシー・シャラメなんで、妙に耽美的なんだよね。テイラー・ラッセルも超良かったんだけど、やっぱり彼だからここまで美しい話に思えるんだと思う。

 ただ、グァダニーノ監督は、『サスペリア』のときもそうだったんだけど、既存のジャンル映画的な内容を結構気取った感じにコーティングしてしまうため、映画秘宝的な趣味趣向を持つ人達的には気に食わないかもしれないってのは思った。

 

No16【別れる決心】 85点

 パク・チャヌクの新作ならそれは観ますよ。これまで、強烈な内容とビジュアルの映画を送り出してきた彼だけど、本作はこれまでの作品のような過激なシーンがない。暴力もエロもない。あるのは男女の少し変わった愛の迷宮物語であった。

 話そのものはミステリーですごくシンプルなんだけど、映像がデ・パルマか!ってくらい凝ってるし、時系列もかなり入り組んでいる。だから観ていると、だんだんと「これは実は夢なのでは・・・?」と思ってしまったりする。さらに、映像でいくつもの要素が見え隠れし、それが本作を余計に謎めいた代物にしている。まさに映像そのものが迷宮。話の内容は分かったけど、映画そのものはよく分かってないという、唯一無二な体験でした。だから映画として最高。

 最後の、全てを見失い、呆然とするヘジュンの姿を観て、『めまい』を強く連想した。

 

No17【逆転のトライアングル】 77点

 予告編を観て、真っ先に連想したのはリナ・ウェルトミューラーの『流されて・・・』だった。あの作品は無人島に漂着した金持ちのご婦人と使用人の立場が逆転していくコメディだったけど、本作は格差社会そのものと、男女の関係性を逆転させる。

 冒頭から顕著なんだけど、本作にはこの社会にある「格差」をかなりいやらしく描き出す。「人は平等」と謳っているイベントでは一般人は席から追いやられてしまうし、part1においては豪華客船で優雅に過ごしている富豪たちの下で、汗かいて働いている人がいる。ただし、彼ら彼女らはモブでしかない。アビゲイルもちらっと映るだけ。監督の「意識が高いこと言ってるつもりだろうけど、実際に格差はあるんだよ」という考えが見えます。

 富豪は空虚な存在であると執拗に描写される。上辺だけ取り繕っているだけで中身はないと笑い飛ばす。無人島に着いてから、有機肥料富豪が流れ着いた妻の死体から金目の物を取り出してたのとか、ピアノの音が全部録音だったりとか。大しけが来てからは富豪たちはゲロにまみれ、加えて有機肥料を売って大儲けしていた富豪は糞まみれになり、海賊に襲われて武器商人の夫婦は自らが売った手榴弾で吹っ飛ばされる。

 富豪たちは空虚な存在ではあるけれど、無人島に着いてからの展開にはそこまで痛快さはない。思ったより富豪たちが嫌な奴として描かれていなかったからだし、あの惨事を見ると少し同情する気持ちになったからだと思う。

 描かれているのは、無人島という、一般社会のルールが通用しない場所で、立場が逆転することによって生まれる事象だと思う。それは富豪の空虚さだし、稼ぎが少ないから男性としてのプライドを失っていた男性がかなり惨めとはいえ、自らの立ち位置を得る話だし、アビゲイルという普段ならば下層にいる存在に潜在的にみんなが持っている認識だと思う。彼女が漂着したとき、誰1人として彼女のことを心配してなかったのは印象的だった。彼女のような存在には、無人島クラスにもならないと、「人」としてすら認識してもらえない。それが浮き彫りになる。アビゲイルが思いとどまってくれたのは、ヤヤが彼女を「人」として扱ってくれたからだと思う。

 

No18【アラビアン・ナイト 三千年の願い】 77点

 「物語」について描き続けてきたジョージ・ミラー監督が、満を持して「物語」そのものの映画を作った。ホテルの一室で基本的に進む、3000年にわたる歴史の物語など、『マッドマックス 怒りのデスロード』とは真逆の構成の映画でもある。

 自身の物語を持たない女性が、「物語」を持つジンとの交流を通して、自身の物語を獲得していく話。本作で語られる物語とは、つまりは教訓。人は物語から教訓や知識を得、それを語り継いできた。本作のタイトルにある「アランビアンナイト」が入っている「千夜一夜物語」などまさにそうだと思う。それは人の歴史でもある。その積み重ねが、我々に知識を与えている。

 本作の主人公のアリシアは、ジンを愛することで、自らの物語を獲得した。ジンはこれまで、おそらく一方的な愛しか持っていなかったが、初めて愛を受けた。願いをかなえることが一方的な愛情の隠喩だとしたら、本作の「教訓」は、互いに愛し、愛されることの大切さなんだと思う。こういう物語を、本作は我々に伝えてくれる。

 極めつけはあのラストショット。素晴らしかった。最後まで「物語」を信じている監督が残した、とても優しい終わり方だったと思う。正直、そこに至るまでの過程は動きがないし、そこまで面白くはなかったけど、あのラストで許せる。『Furiosa』待ってます。

 

No19【エンパイア・オブ・ライト】 90点

 非常に品のある映画だった。最近、この手の「映画愛」を語る作品が多いわけだけど、その中には監督の「映画愛」を過剰に押し付けてくる作品もある。それには辟易している私ですが、本作は監督の持つ「映画への愛」が謙虚に語られていて、非常に良かったです。

 本作には、サム・メンデス監督の考える「映画館という場所」についての想いがあります。映画館は映画を観る場所であり、そこでは、多くの観客が一緒に現実から離れ、映画に耽溺する。そしてまた現実へと戻っていく場所です。

 本作には、当時の社会情勢が画面の端々に出てきます。また、スティーブンへの差別的な発言も出てくる。ヒラリーも、彼女は精神的な不調を抱えており、どこか孤独で、満ち足りてはいない。こうした、現実に生きづらさを抱えている存在が惹かれ合って、また歩き出すまでを描いています。サム・メンデスは、映画館という場所を、こうした、傷ついた存在がその傷を癒さなくても、また歩けるようになるくらいにはしてくれる場所としています。映画には、そんな力があるんだと、声高ではなく、謙虚に主張しているわけです。冒頭の、ケガをした鳩がその傷を治してまた飛び立ったようにね。ヒラリーが初めて映画を観て、感動する終盤のシーンには、いたく感動してしまった。俺もこういう気持ちで映画観てるなぁと思ったので。

 映画館のスタッフが、支配人を除いてヒラリーを暖かく見守っているのもよかった。映画館でバイトをしていたことがあるので、持ち込みをしてきたオッサン(本当にああいう奴はいる)とか、映画が終わって、床をはいている姿を観たりして、当時のことを思い出した。

 

No20【BLUE GIANT】 82点

 原作は未読。1巻が出たときに「これは読みたい」と思ったものの、何やかんや買うのを先延ばしにしていたら続々と刊行されて追う意欲が失せてしまったというやつ。

 これは素晴らしかった。原作は「読んでると音が聞こえてくる」とまで言われているだけあって、映画となった本作でも、「音楽」にかなり力が入っていて、超立派な「音楽映画」だった。

 劇中では、大が何度も「俺たちのジャズは、聴いてもらえればきっと伝わる」と言いますが、本作でもそれが体現されています。全編オリジナルの楽曲を使い、「音楽」とそれに乗せたアニメーションで観客に「伝える」ことに特化しています。映画館で観れば、彼らの演奏に圧倒されます。最後の演奏はちょっと過剰に泣かせにかかりすぎだろと思ったりしましたけど(何回明子さんの泣き顔映すんだよ)。

 不満というか、少し気になったのが、大のメンタル強者ぶり。一応、これは彼の物語のはずなのですが、彼は終始自信に満ち、有言実行を繰り返していきます。そこには葛藤が特になく、物語を潤滑に進めるためだけの存在として機能しています。つまり、彼は最初から「完成」していて、成長らしい成長があまり見られない。代わりに、ドラマ面では玉田と雪折が補強していましたけど。後で原作少し読んだら、大まわりのドラマはゴッソリ削ってたんですね。

 後、3DCGは、散々言われてる通り、良くなかった。『THE FIRST SLAM DUNK』の後だからよりそう感じるんだと思う。そういう意味では不運だったと思う。

 

最後に

 以上が2月に鑑賞した映画です。アカデミー賞シーズンということもあり、話題作が豊富で、充実した月となりました。仕事のほうが色々と辛いため、映画にかなり救われたところはあります。

 中でも、いちばんは『ベネデッタ』です。ヴァーホーヴェンの最新作は、『ショーガール』を中世に置き換えたような傑作でした。次点が『エンパイア・オブ・ライト』です。他は、『別れる決心』が忘れがたい作品でした。