暇人の感想日記

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究極の『ゴジラ』ファンムービー【ゴジラ キング・オブ・モンスターズ】感想

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80点

 

 

 2014年に公開された『GODZILLA』の続篇にして、そこから始まったモンスター・バースの最新作。本作はゴジラと同じく東宝を代表する怪獣であるモスララドンが参戦し、ゴジラは最大の宿敵、キングギドラと対峙します。つまり『三大怪獣 地球最大の決戦』をハリウッドの巨大資本でやるわけで、そりゃ期待度はマックスですよ。最大の懸念だった「核」の扱いにしても『GODZILLA』で(問題はあるにせよ)一応の改善は見られたので、純粋に楽しみにしていました。

 

 しかし、鑑賞してみると非常に困ったことになってしまいました。私の本作に対する評価が、完全に二分されてしまったのです。「こりゃ最高じゃないか!」と体中の血が沸騰するような要素もある中で、「ダメだこりゃ」と沸騰した血が一気に冷え込むくらいどうしようもない点もあります。その落差が激しすぎるので、本作に対する評価は真っ二つに割れています。具体的に言えば、「怪獣プロレス映画」としては100点、「人間ドラマとか倫理的に」は30点くらいなのです。監督は怪獣の大ファンという事なので、その愛情が滲み出てきてしまい、怪獣を優先させた結果、人間ドラマがおざなりになっているのです。

 

GODZILLA ゴジラ[2014] Blu-ray2枚組
 

 

 まず、本作の最高な点は、ハリウッドの資本を投入しまくった大怪獣バトル。前作がどちらかと言えば第1作目のゴジラよろしく「ゴジラと人間」の物語であり、怪獣プロレス的要素が少なかったのに対し、本作ではこの点に振り切った構成にしています。これは「ゴジラがいる」という世界観を作った上でのことならば結構正しい選択肢だと思います。そしてこの怪獣バトルが凄まじい。日本のファンがぼんやりと考えていた「ハリウッドで怪獣プロレス映画を作ってくれたらなぁ」という夢を、本作は完璧に実現しています。CGをフルに使い、着ぐるみではできそうにない動き、スペクタクルを存分に見せてくれます。ラドンの空中戦とか、ゴジラキングギドラと対峙した時の街の破壊っぷりなど、それはさながら東宝の『ゴジラ』のアップデート版と言えると思います。

 

 また、本作では怪獣たちを神話と同一視しています。そしてそのために、怪獣たちのバトルシーンは終始神話的な絵画のような画面であり、本作そのものが「今そこで起きている神話」であるような感じを高めていました。

 

 そしてそれに輪をかけて私を興奮させてくれたのが本家東宝版へのオマージュ。まずは怪獣たちの造形。本作では、かなり東宝版に近いものになっています。ゴジラは前作よりも背びれが東宝版に近いものになりましたし、モスララドンキングギドラも若干のアレンジを加えつつ、オリジナルに大分近い造形になっています。ちょっと長くなりそうなので1体1体書いていきます。

 

 まずモスラ。出てきたときは幼虫状態でした。造形は王蟲。正直、幼虫には戦闘能力は無いのでどうするのかと思っていたら、まさか糸をあんな風に攻撃に利用するとは。東宝版よりもかなり攻撃力がありそうな糸でした。その後すぐに繭になるのですが、その後の成虫になってからのモスラは本当に素晴らしかった。孵化のシーンの神々しさは鳥肌ものでしたし(皆チャン・ツィイーと同じポーズをしていたはず)、モスラのうたがフルで流れるのも鳥肌もの、そして一番感心したのはモスラのバトルスタイル。東宝版(『ゴジラ』シリーズ限定)では鱗粉攻撃か風を出すかくらいしかなかったアイツが、何と足を使って攻撃をするとは。最期のエネルギーを分け与えるシーンは『ゴジラVSメカゴジラ』のラドン感あり。全体的に、モスラ周りの神がかりっぷりは素晴らしかった。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ モスラ2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ モスラ2019

 

 

 そしてラドンですが、本作ではそのあまりに日和見主義な行動から、「ゴマすりクソバード」「メキシコのイキリ翼竜」「スネ夫」など、散々な言われ方をされている最大の被害者。俺もこればっかりはファンは怒っていいと思う。でも造形はカッコいいんです。しかも、空中戦をたっぷりと描いてくれるし、飛んでいる姿の影が映るというオマージュもしてくれたし、モスラとそういえば観たことがないなという組み合わせの戦いも素晴らしいと思いました。でも、ラドンは本当はこんな奴じゃないんです。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ラドン2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ラドン2019

 

 

 そしてキングギドラ。本作では地底に埋まっているとのことですが、きちんと宇宙からの侵略者という設定を活かしており、これによって中盤から対立構造が明確になるというのはとても良いです。「モンスター・ゼロ」の呼び方や、鳴き声、そして引力光線の感じとか、やっぱり「分かってんなぁ」感が凄い。さらに3つ首がそれぞれ性格が微妙に違うというのもこれまであまりなかった試みだと思います。

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ キングギドラ2019

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ キングギドラ2019

 

 

 怪獣の造形の他にも、あのテーマ曲や、固有名詞の流用(でもオキシジェン・デストロイヤーはやりすぎ。そのくせ全然違うし)、ゴジラのバーニング化、『怪獣総進撃』的な「怪獣をコントロールする機械」の登場など、ファンならば「あぁ、知ってる知ってる」となるシーン、小ネタがとても多い。これにはやはり気分は上がります。しかもこれらの凄い点は、監督が「ほら、これ凄いだろぉ?これ嬉しいんだろぉ?」な目配せとしてやっている感が全く無く、寧ろ「俺が作りたい怪獣映画作りました!バン!」みたいなノリでやっている気がしたので、不快感もない。何だか、超金のかかった同人映画を観ている気分になりました。

 

 日本の怪獣映画ファンが妄想していた超スペクタクルな大バトルを見せてくれたこと、そして映画全体にオリジナルのオマージュが満載なことが素晴らしいと思った点でした。これらは別に悪いわけではありません。しかし、それを除いても本作にはスルー出来ない瑕疵が多すぎです。結論から言えば、作り手たちはマジで怪獣以外はどうでもいいと思ってるんだなと思わせられました。

 

 まず、人間ドラマが酷すぎる。基本的に「怪獣を解放させたい」奴らばっかり出てくるので、共感できる人間が少ない。というかいない。対立する軸はオルカだと思うのですが、中盤以降それは割とどうでもいい感じになり、いよいよ対立する軸が分からなくなっていきます。

 

 一応、中心になるのはある家族の物語なのですが、これがまた心底どうでもいい上に雑。息子を殺されたマーク(カイル・チャンドラー)は割と簡単にゴジラの味方になるし、奥さんに至ってはこの人のせいで地球が危機に陥っているので感情移入ができません。しかも終盤で娘と出会うくだりも雑。観ていてイライラしてました。

 

 そして、その他にも芹沢博士(渡辺謙)の最期も中々。第1作『ゴジラ』の芹沢博士オマージュなんだろうけど、早く逃げろよと言いたくなります。別に死ぬ必要なくね?しかもゴジラを呼び覚ますために大量の核兵器を使うってどういうことだ。核兵器をエネルギードリンクか何かかと思ってんのか。「人類の責任を取る」という点で『ゴジラ』と対比させている感じが出ているけど、それでもどうなんだろ。

 

 しかもこの点でさらに問題なのがその後。復活したゴジラが侵略者であるキングギドラと対峙し、人間と協力するシーンはゴジラのテーマも相まって非常に燃えます。しかし、登場人物の発言を聞くと、これ核を巻き散らかしています。つまり、ゴジラが通った場所は汚染されているわけです。「核」とは切っても切り離せないゴジラにおいて、ここは見過ごしてはいけない箇所だと思います。『VSデストロイア』はその点しっかりやってたぞ。

 

 

 このように、人間側のドラマ、行いには心底同情はできないわけです。これはおそらく、「怪獣をメイン」に据えた結果だと思っています。そこから逆算して作ったから、ここまで歪な出来になったのかなと。このバランスが良ければ最高の作品だっただけに惜しい。

 

 しかし、冷静に考えてみれば、これは「人間など地球上にはいらない」と断言した本作のスタンスそのものと同一な感じがしないでもないです。しかも、エマ博士のような「怪獣に憑りつかれた人間」は第1作『ゴジラ』から存在している要素であり、これだけなら正当な作品と言えなくもない気はしますが、それにしてもこの酷さは無視できません。

 

 さて、以上のことから、私の中では、本作は「怪獣プロレス映画」としては100点、「人間ドラマや設定とか」を見るとまぁ30点くらいの作品として落ち着きました。しかし、1回くらいならこれも悪くはないと思いますので、この点数とします。次作も観ますよ。

 

 

前作。全体的にはこっちの方が好き。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくレジェンダリー制作の作品。こっちも面白かったです。

inosuken.hatenablog.com