暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2023年6月に見た新作映画の感想

 6月に見た映画の感想集です。今回は『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』、『怪物』、『M3GAN』、『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』、『ザ・フラッシュ』の感想です。6月は見た映画少なかったです。

 

No.57『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 76点

 良くも悪くも、「TVドラマの映画化」な映画。一応、映画ということでルーヴル美術館で撮影を行ったり、音楽面で力を入れていたりはする。だけど、せっかく「黒い絵」という、映画館にピッタリな要素があるにもかかわらず、「黒」についてはそこまで画面上拘りが感じられなかった。その上、撮影に関してはTVドラマと特に変わっていない。また、全体的な展開も鈍重なところがあり、倉庫に入ってから脱出するまでが妙に間延びしていたり、最後の過去篇についてはもう少しテンポアップをしてほしかったと感じた。

 しかし、高橋一生と飯豊まりえの2人は相変わらず素晴らしくて、変わらない2人の掛け合いは最高だった。他には木村文乃が良くて、奈々瀬という、本作最大にミステリアスな人物を好演してた。なにわ男子の人はそんなに上手くなかったけど。また、脚色もTVの頃から変わらず上手く、原作をもとに、かなり上手に膨らませている。特に上手いなと思ったのは、絵画のすり替え泥棒を中心に持ってきて、ミステリ的な構造にした点。

 総じて、「TVドラマの劇場版」として結構楽しんで見ました。

 

No.58『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 77点

 実在の事件を基にしているけど、本作は寓話なのだと思う。つまり、この世界で、性暴力にさらされながらも、声をあげられず、そして主体性すらも奪われてきた女性たちが自らの意思を表明するという話。撮影によって、色彩が抑えられた画面で統一されていることもこの寓話性を高めていると思う。この点で、本作は『SHE SAID』、『プロミシング・ヤング・ウーマン』などと同じ映画だと思う。

 「限られた時間の中、登場人物が室内で議論を行う」と聞いて、映画ファンならば真っ先に『12人の怒れる男』を思い出すと思う。しかし、本作はあの作品ほどスマートに結論まで出ない(というより、『12人の怒れる男』こそ、本作で批判されていた「男性だけで規則を決める」ことそのものの映画。これは時代の問題で、傑作という点は変わらないけど)。登場人物たちは互いの感情をぶつけ合い、理解し合い、結論を出す。この過程を本作はちゃんと描こうとする。タイムリミットはあるので、そこへ向かうスリルはあるが、肝心なのは結論に至るまでのプロセスで、そこには、これまであの集落で無視されていた女性たちの「意思」がある。

 冒頭にも書いたとおり、本作は寓話で、ある村だけの話ではない。近年、ようやく女性の声が可視化されるようになってきたけど、#MeToo運動まではそれらの声は無視されてきた。本作で教育すら受けられなかった女性たちは現実の女性たちの隠喩なんだと思う。

 本作は冒頭からある女性が自身の娘へ語り掛けるナレーションが入る。そこには次世代の子どもたちのためにこの不当な世界を変えていこうという意思がある。本作では「教育」によって次世代の子どもたちに希望を託している。教育と、知性こそ世界を良くしていくものなのだと思った。

 

No.59『怪物』 89点

 是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一という、夢のタッグが実現した日本映画。是枝監督が自分で脚本を書かないのは『幻の光』以来。坂元裕二とのコンビでどのような作品が出来上がるかと思っていましたが、思っていた以上に是枝裕和監督の作品でした。

 本作は羅生門スタイルと言われる構造で、3幕に分かれており、それぞれ視点が違う。1つの出来事を多角的に描く映画になっている点は同じですが、他作品と毛色は結構違います。最近の作品だと『キャッシュトラック』がいい例ですけど、あの作品は1つの事件を多角的に描いて、それぞれの視点で不明瞭だった点が他の視点でカチッとハマり、真相が分かるというミステリ的な面白さがありました。本作も一応、それぞれの視点で「真相」が分かるという作りにはなっていますが、各章で繋がる点は、ミステリ的な面白さよりも、「他人の何気ない常識や言動」が、如何に他者を傷つけているか、を可視化させることに特化しています。そして最終的に浮かび上がる真相は、マイノリティである彼らにとって、この世界が如何に生き辛いかというものでした。

 私が本作を見て連想した是枝作品は2作あって、『三度目の殺人』と『万引き家族』でした。『三度目の殺人』は真相を追いかける法廷劇かと思いきや、「人間は主観でしか世の中を見ていない」と結論付ける映画であり、『万引き家族』には社会にある「常識」及び我々のような普通の人によって、如何に困窮している人間が追い詰められているのか(安藤サクラの取り調べシーン)、を描き出した作品でした。『怪物』は坂元裕二の脚本でありながら、この2作の延長のようなテーマを持った作品と感じて見ていました。

 また、本作は『誰も知らない』以降、是枝監督が撮ってきた「子ども」についての映画でもあると思います。つまり、マイノリティの子どもにとって、この世界はどう見えているのか、どう感じているのか、を描いた映画です。だから、本作は結構是枝監督感のある作品に仕上がっています。ただ、作品全体の雰囲気は坂元裕二で、台詞回し、キャラの造形などはかなり依ってる印象。特に瑛太のキャラは完全にそれだった。

 本作への批判として、ラストでこれまで掲げてきた問題をぶん投げている、というものがあります。確かに、私はラストに感動したのですが、それは坂本龍一の音楽と是枝監督の演出が素晴らしかったからで、別に話の流れで泣かされたわけではないなと思います。映画的に素晴らしいから余計に有耶無耶になってしまうというか。

 しかし、少し考えて思ったのですが、やはりあれも是枝印の「考える余地を残す」終わり方なのではないでしょうか。あのラストであの2人は完全に「別の世界」に行ったわけで、そこで初めて彼らは心の底から楽しそうにしている。つまり、彼らにとっての「安心できる居場所」は我々の社会にはまだ無いということです(LGBT理解増進法がほぼ骨抜きになって「マジョリティへの配慮」とかいう訳の分からんものを政府が入れようとしている国だし)。だから、ある意味あの終わり方は苦いものだったのかもしれないとも思えます。

 

No.60『M3GAN』 72点

 『チャッキー』と同じ線上にある、「人形ホラーもの」の最新作。本作はホラーとしてはそこまで怖くはないけど(これは製作側が意図的にそう編集したらしい)、現代批評映画としてとても面白かった。

 本作のミーガンはスマホのメタファー。ケイディがどんどん依存度を高めてしまい、取り上げられたときに発狂する姿がいちばんのホラーだったかもしれない。そして、ケイディを預かることとなったジェマは仕事にかまけ、ケイディの世話をミーガンに一任してしまうという。スマホタブレットを与えれば子どもを外出先でなだめる必要がなくなる、というのはよく聞く話で、この点に注目すれば、とても批評性があると思う。また、AIが急速に発展を遂げるようになった現在、この問題はより身近に感じられると思う。

 脚本はアダム・クーパー。製作のジェームズ・ワン監督の『マリグナント』を執筆した人。順番的には今作が先みたいですが、「もう1人の自分とも言える存在が人を次々と血祭りにあげていっていることを知り、対決して最終的に離別する」という、話の内容的に結構似ていると思いました。後、予想はついたけど、最後の新旧対決にはブチ上がった。

 

No61.『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』 97点

 前作も傑作だったけど、本作も傑作だった。前作がマイルスが「スパイダーマンになる」話だったのに対し、本作は彼が「スパイダーマンの運命」に抗おうとする話。IMAX字幕と吹き替えで2回見た。

 本作は、「カノンイベント」というメタっぽい用語で示される、「スパイダーマンにとって避けられない犠牲であり、救えばマルチバース世界が崩壊する」がカギです。つまりは、「大切な人か、世界を救うか」の究極の2択を突き付けられたマイルスが、「どっちも救う」と奮闘する前編です。そもそも、スパイダーマンは、「報われない」ヒーローで、常に大切な人と別れてしまう運命にあります。『NMH』が感動的だったのは、そのスパイダーマンの運命を丸ごと救済してしまった点でした。

 アニメーションについては、もう素晴らしいとかじゃなく、凄いの一言。各バースで違うアニメーション表現を使っていて、それらが集うシーンでは、違うアニメーションが同じ画面に存在しているという凄まじいことになってるし、それでいて各キャラの表情や動きなどの演技面も実写顔負けの表現力。間違いなく世界一のアニメーションがここにある。もはやこれはアートです。これと同じくらい凄いことをやっている作品として、真っ先に思い出したのは『かぐや姫の物語』でした。

 スパイダーマンの運命と描いた作品ではありますが、本作の軸はマイルスとグウェンの物語で、グウェンは父親と和解し、自分のチームを作るまで(最後に集結したメンツが最高だった)、そしてマイルスは、これは次作へ延ばされるのでしょうが、「自分の物語」を自分で語れるまでの物語です。スパイダーマンになったのも、全て借り物だと分かった彼が、スパイダーマンとして、どう結論を出すのか、楽しみにして続編を待ちます。

 

No.62『ザ・フラッシュ』 80点

 正直、世間で言われているほどの大傑作とは思えなかったけど、良作だったことは間違いないと思いました。

 フラッシュの初単独映画とのことですが、初心者にも分かりやすい作りになっています。まず、冒頭の人命救助で、彼の能力のルールを分かりやすくアクションで理解させ、タイムトラベルをして、能力を得る前のバリーと今のバリーを通して、彼のオリジンと「今」のバリーの物語を並行して語っています。この捌きが非常に上手いなと思いました。昔のバリーが戦う覚悟を決め、最後に大活躍する下りは上がる。おかげで、フラッシュについては「超速いヒーロー」以外の知識が無い私でも、すんなり入り込むことができました。

 また、各役者も良かったです。エズラ・ミラーは終始出ずっぱりですが、流石の演技力でしたし、ベン・アフレックも超良かった。バットマンでは、彼のベストアクトでは。同じくバットマンでは、やはりマイケル・キートンブルース・ウェインも最高でした。ウェイン邸に入っていく下りは大興奮ものでしたね。彼のアクション面も、バートン版のような感じがあって良かったです。後、スーパーガールのサッシャ・カジェも良かった。彼女はこれで終わりというのは勿体なさすぎるので、何とか継続させてやってほしい。

 本作はタイムトラベルもので、同時に作中でも言及のあった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に対する批評的内容になっています。本作の結論は言ってしまえば、「決まっている運命」を変えることはできない、ということで、過去改変をしてハッピーエンドを迎えた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と真逆です。また、日本では同日公開だった『スパイダーバース』とも真逆の結論になっているのも興味深い。なので、本作には、実は爽快さはあまりない。

 サプライズにも満足。いちばん笑ったのは最後のジョージ・クルーニー。あんだけ黒歴史扱いしてたのに、出るんかいっ!ていう。

 不満な点もあり、まず、本作のコメディシーンがそんなに笑えなかった点、そして、作中の食事シーンが総じて良くなくて、作中に出てくる食べ物が総じてマズそうだった点。コメディな点は、昔のバリーがウザすぎたというのがある。しかし、ヒーローのオリジンとドラマを過不足なく行い、サプライズも完備するという、エンタメとしてとても面白い作品なのは間違いないなと思いました。