暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2021年春アニメ感想④【ゴジラ S.P〈シンギュラ・ポイント〉】

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☆☆☆☆★(4.5/5)
 
 
 NETFLIXが満を持して送り出した、「ゴジラ」のオリジナルアニメーション作品。制作はボンズとオレンジ。監督は『ドラえもん のび太のカチコチ大冒険』の高橋敦史さん。脚本はSF作家である円城塔さん。『ゴジラ』シリーズは大好きですし、座組的には期待しかないので、見ないという選択肢はありませんでした。
 
 『ゴジラ』を始めとした怪獣映画は、TVとはおよそ相性が悪いジャンルです。円城塔先生がインタビューで度々仰っているように、映画という、限られた時間の中ならば、一気に見せることが出来る関係上、ぶっ飛んだストーリーでも観客は疑問をそこまで持たせずに楽しむことが出来ます。しかし、TVアニメだとそうはいきません。1話ごとに1週間という間が空く関係上、「考察」が出来るわけです。そうなると、おかしな点を見つけやすいし、「何で日本だけ襲うの?」とか、「そもそもゴジラって何? 」みたいな、怪獣映画の根本的な疑問を抱いてしまう可能性すらあります。そもそも、「怪獣が人間社会を襲う」というストーリー自体、映画ならではのもので、これがTVアニメになると、毎回怪獣を出して襲わせる必要性が出てきて、単調さにつながってしまいます。しかも、「ゴジラ」という怪獣側の主人公がいる関係上、「ウルトラマン」シリーズみたいに怪獣側にドラマを持たせたりすることもあまりできません。『ゴジラVSコング』はこのへんかなり割り切って作っていて、怪獣をメインに据えていました。ただ、あの作品も、映画だからこそできた荒唐無稽極まりない内容でした。TVシリーズでやってしまったら、「早く決着つけろ!」って思ってたと思う。
 
 本作はその弱点を克服すべく、ゴジラを始めとする怪獣たちを「世界を破滅へと導く特異点」と解釈し、それを阻止するための手立てを天才的な頭脳を持つ主人公2人に解明させる、という縦軸を作ってみせました。実は本作の内容は「TV向きではない」と言ったオーソドックスな怪獣モノなんですけど、この縦軸を用意することで、謎を追うという視聴者の興味を引き付けることが出来ます。そしてその行く先々で怪獣を出し、それに対処する人間という、怪獣映画の王道展開を差し込むことも出来ています。これは発明だと思いました。
 本作には、『シン・ゴジラ』との共通点がいくつかあります。起こる事態に対し、粛々と迅速に対応していくキャラ、ゴジラが進化する、葦原という「不在の中心」がいる、などです。インタビューでも、円城塔先生は「影響を受けた」と言っています。ただ、『シン・ゴジラ』は代替可能な個人が集結し、ゴジラと戦うという、まさに「ニッポン対ゴジラ」だったのに対し、本作の主人公2人はいずれも天才であり、この2人が破局回避の手段を突き止めるという点は大きく違います。というか、この点において、本作は『シン・ゴジラ』と真逆と言ってもいいです。しかも、最後はジェットジャガーが巨大化して(まさかの『ゴジラ体メガロ』展開!)ゴジラと一騎打ちをするという、「VSシリーズ」のような王道展開になります。
 
 本作の怪獣デザインはオレンジが担当しています。オレンジというと、「BEASTARS」や「宝石の国」のように、3DCGを駆使して「人間ではないもの」を実在感を以て描き出すことに長けた会社ですが、本作でも素晴らしい仕事をしています。基本的に、本作ではキャラと背景はボンズが担当しているのですが、2Dの中に3Dがあるという異質感が、そのまま本作における、「特異点」としての怪獣の立ち位置を表しています。また、怪獣デザインもアニメーションだからこそできた、人間の骨格を無視したデザインや、リアル路線のものにしていて、実写とはまた違った味わいがあります。
 
 つまり本作は、「ゴジラ」シリーズという、およそTV向きとは言えない作品を、円城塔先生のSF的な内容に寄せることでTV向きにしてみせた作品だと思いました。確かに、怪獣プロレスを望んでいた方からすればこれは肩透かしかもしれませんが、「ゴジラ」の1つの形として、素晴らしい作品だと思いました。
 

 

レジェンダリー版2作。

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