1.『恋のいばら』 77点
2.『ほの蒼き瞳』 77点
3.『かがみの孤城』 82点
4.『非常宣言』 87点
5.『ノースマン 導かれし復讐者』 92点
予告を見たとき、「めっちゃ「ヴィンランド・サガ」!」って思った人は多いと思う。私もそうです。公式でコラボしているのであながち間違いではないと思いますが、実際観てみると、全然違いました。下敷きは「ハムレット」だそうで、そりゃ違うか。ただ、劇中何回も「これ、ヴィンランド・サガで見た!」って物が出てきた。
話自体は、後半に意外な真実が明らかにされるものの、非常にストレートな復讐譚。しかし面白いなと思ったのは、本作がヴァイキングという言葉から連想されるようなマッチョイズムから、かなり距離をとっているという点でした。ヴァイキングたちの行為は残虐な行為としてしか描かれません。略奪のシーンが何回かありますけど、どれもがちょっとエグい。アムレートが成人してから初めてのそれは、ワンシーン・ワンショットの長回しで、いろんなことを同時並行的に見せているだけにそう感じます。しかもヴァイキングの連中は野蛮な奴らとしてしか描かれない。
また、本作に出てくる男性は基本的に考えなしなところがあったりして、策謀とかは基本的に女性が賢しい感じ。特にニコール・キッドマンがやっぱり凄い。彼女の存在によって、本作が単純な復讐譚ではなくなっていると思う。
先にも書いたけど、アクションシーンは見応えがある。基本的に1つのカメラで撮ったという本作では、アクションでも長回しが基本。しかもそれがアクションだけではなくて、色んなことが同時に起こる。かと思えば、ラストでは『スター・ウォーズ シスの復讐』みたいなシチュエーションで決闘をしている。「地の利を得たぞ!」って言いだしそうなレベル。
思えば、ロバート・エガースは、マッチョイムズに関して懐疑的な人で、『ウィッチ』は女性が解放される話だと思うし、逆に『ライトハウス』はマッチョイズムに飲み込まれる人間の話だった。そんな彼がヴァイキングのマッチョイズムを冷めた視線で描くのは当然だと思う。ラストは、彼の作品らしくちゃんと昇天するんだけど、ヴァルハラに行けた彼は満足だったんじゃないのかな。
6.『そして僕は途方に暮れる』 80点
「面白くなってきやがったぜ・・・」これは名言。今後、俺も使っていこうと思う。
藤ヶ谷太輔演じる祐一は本当にどうしようもない男で、観ていると、初めはイライラする。しかし、だんだんと笑えなくなる。「俺にもこういうところあるな・・・」と思ってしまうから。祐一は誇張されているだけで、俺も逃げたくなる時はある。仕事の時とかは特にそうだ。何なら祐一みたいに逃げたい。それでも逃げたら鬼のように電話がかかってくるのが分かってるからやらないけど。だから後半は、「コイツは俺の行き着く先なんだ」と思いながら観ることになる。ここで祐一が転がり込む人間の部屋がとてもいい。皆、それぞれの生活が感じられるものになってる。
これは劇中の祐一にも言える。祐一はおそらく、自分のクズさを多少はわかっている。でも、それを変える度胸がない、というか、どう変わったらいいかが分からない。だから変わらない。自堕落に過ごしてしまう。分かる。しかし、彼へ転機が訪れる。父親との再会である。彼はまさしく、「祐一の行き着く先」である。ここで祐一は、我々と同じ気持ちを味わう。そこでようやく、彼は変わらなければならない、と本気で思い始める。余談だけど、父親役のトヨエツが、クズ台詞をいつものトヨエツトーンで話すから最高すぎた。
しかし、祐一にはどう変わったらいいかがさっぱり分からない。ここが本作の素晴らしい?点。この手の映画だと、ダメ人間が更生の意思を見せたら、後は割とすんなりと改善されたりする。でも、現実は違う。自堕落というか、自分のどうしようもない点なんて、そんなに変えられるものじゃない。しかも祐一みたいに受動的な人間ならばなおさら。謝ったら怒られるかもしれないので謝らない。香里奈演じる姉の言葉でようやく謝る気になった彼が発した「なんかごめんなさい」は、「謝る意思はあるけどなんかわからない」みたいな心情を的確に出していた名セリフだと思う。
祐一も変わる意思を見せたし、これでハッピーエンド・・・かと思いきや、そうはならない。人生は映画みたいにならない。『素晴らしき哉、人生!』みたいにはならない。彼にとって、「まぁ自業自得だよね」な苦い顛末が待っている。しかし、ここからが「面白くなる」のである。どん詰まりまで来た祐一は、ここでようやく彼は前に進み始める。本作では、彼の「振り返り」が象徴的に繰り返される。そこでの彼は常に所在なさげな表情だった。けど、ラストの彼は、何なら笑みすら浮かべている。「面白くなってきやがった」そう思っている彼は、多分もう少しだけましな人間になったんだと思う。良かったね。
7.『イニシェリン島の精霊』 83点
『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督の最新作。今回は、突然絶交することとなったコリン・ファレルとブレンダン・グリーソン(『ハリポタ』のムーディ先生!)の2人の諍いを描く不条理な寓話。「ちょっとした諍いがとんでもない事態を招く」という点で、『隣の影』を思い出した。ブラックさ、犬が酷い目に遭う、という点でも、似通った点がある。
閉鎖された空間で生き、「これまで通りの生活を続けたい」と願う素朴なコリン・ファレルと、寿命を考え、「これまでの生活をやめ、何かを成し遂げたい」と願うブレンダン・グリーソン。2人は親友だったが、両者には深い溝がある。どっちもコミュニケーション不足で、自分の都合ばかり押し付ける。グリーソンにとって、コリン・ファレルはウザくて仕方がない(この表現は的確だと思ってる)し、コリン・ファレルに関しては「俺何で嫌われてんの?」と困惑するばかり。コリン・ファレルも大概で、近づいてきたら指を詰めるからな!と言われてるのに、意に介さずに絡みにいく。そこには「昔と今は同じに決まっている」という希望的観測がある。
彼らの諍いは、そのまま遠くの地で起きている内戦にもなぞらえられる。ファースト・ショットが示しているように、本作の基本的な視点は「神の視点」であって、それはイコールで我々観客の視点になる。我々は諍いをしているおっさん2人を「何やってんだよ馬鹿だなぁ」と滑稽に思いつつ観ているものの、次第に「これ身に覚えがあるかもしれない・・・」と感じてしまう。そしてそれらは犯してきた諍い全てに繋がって、「人間、滑稽・・・!」となる。
本作最大の悲劇は、2人の間に、「島を出る」という選択肢がないこと。それは「選択ができない」のではなく、「出る」という選択肢そのものがないのである。同じ場所、同じ関係しかない場所では、ケリー・コンドンのように思い切って出ていくことも重要だと思う。これは全てに当てはまる点で、「今ある世界」が全てとしか思えないことが、人間にとっての悲劇なんだなと思った。
8.『SHE SAID その名を暴け』 87点
ハーヴェイ・ワイシュタインの性暴力を告発した女性たちの物語。話の軸はジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの2人で、彼女たちが如何にしてNYに告発記事を載せたかを描く。原作は映画秘宝(この文脈で出すと少し気まずい)の書評で知り、近くの図書館で借りて読んでいた。
タイトルは「SHE SAID」つまり、「彼女は言った」。それは、被害時の「NO」だし、告発そのものだと思う。証言を得るため、記者2人は各地へ飛び、被害者を訪ねる。しかし、皆が揃って「オフレコ」を望むか、被害そのものを語りたがらない。その繰り返しが映画に停滞感をもたらしている感じはあるけど、これこそが記者2人が感じていたことなんだと思う。劇中でジョディが言っていた、「壁」を我々も感じる構成になってる。と思う。
本作は、実は結構脚色が上手い作品だと思う。原作がルポだから展開が単調ではあるんだけど、その単調さが先述のような効果を生んでいると思うし、何より、冒頭である。映画に憧れたローラ・マッデンが被害に遭って逃げ出すあれ。一発で、事件の悲惨さを突き付ける。そして、我々も観ていた映画の裏ではこんなことが起こっていたのか、という気持ちにもなる。そしてそのローラ・マッデンが中盤で出てきて、自らの人生について語ることで、本作は、性暴力によって人生を壊された人々の物語でもあるとわかる。また、冒頭にトランプ当選のシーンを加え、「世界を変えられなかった」記者がリベンジをする話にもしていた。
本作に関して、新鮮だなと思った点は、劇中2人の女性記者の描き方。この手の作品だと、主人公の女性たちは「家庭か仕事か」みたいな葛藤が描かれることが多かったけど、本作では割と普通に育児やパートナーとの生活を送っている。そしてそれが、「子どもの未来のために」的な側面も出すことに成功している気がする。
また、実際の性暴力のシーンでは、実際の録音を使い、非常におぞましいものとして描いている。書籍を読んだ時もおぞましさはあったけど、音声になることでそれがより強調されていたと思う。直接的には描かないけど、被害者の声をたっぷりと聞かせた後にホテルの廊下を映しながら声だけを流すあの演出は恐ろしい。
本作は告発の映画で、「主人公」は証言した女性たち。記者2人はもちろん主演だけど、狂言回しに近い。ワインシュタインの告発であると同時に、現時点での、女性への性暴力や性差別を生み出している社会全体の告発でもある。これは映画業界の話であるけど、色んな「SHE SAID」がある。ワインシュタインの件に関しては、この映画が作られたことでようやく一回りしたのかもしれないけど、本作のようなことはどこでも起こっているんだと思う。それを告発するには勇気がいる。それがよく分かるからこそ、最後に「本人」としてアシュレイ・ジャッドが出てきたとき、とても、感動した。オフレコを望んだ人も、実名を出した彼女のことも同等に扱っている点もいい。
最後に。
1月に観た新作映画は8本でした。一番面白かったのは『ノースマン』かなぁ。2月は怒涛の新作公開ラッシュですので、頑張ります。