暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

3月に見た新作映画の感想

 皆様。お久しぶりです。いーちゃんです。最近、仕事で忙しく、更新が遅くなってしまいました。3月の新作映画の感想を投稿します。『少女は卒業しない』『フェイブルマンズ』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『シン・仮面ライダー』『オマージュ』『The Son/息子』『長ぐつをはいたネコと9つの命』『Winny』『グリッドマンユニバース』の9本分の感想です。

 

No.21『少女は卒業しない』 62点

 校舎の取り壊しが決まった高校の卒業式前日~当日を舞台に、4人の少女たちの葛藤が描かれる群像劇。監督が『カランコエの花』の中川駿さんだから観た。

 複数の主人公、特定の時間が舞台、という点で、同じ朝井リョウ原作の傑作映画『桐島、部活やめるってよ』を彷彿とさせます。しかし、あちらよりは緩い(というか、登場人物みんな妙に優しい)映画でした。卒業式の練習や前日のあの、「自分の中で1つ大きな節目を迎える」感じや、学校の雰囲気など、自分の当時の記憶が蘇ってきて、そこは大変良かった。地獄のアディショナルタイムは俺も経験したな。また、4人の女優は皆魅力的でした。1つ1つのエピソードがやけに間延びしていたけど、それも、雰囲気つくりに一役買ってたと思う。

 しかし、問題なのは、4人の少女の葛藤が、関係ないこちらからすると(河合優美を除いて)割とどうでもいい悩みで、「まぁ学生って、こんなことで悩んだりするよなぁ」と思ったけど、大人になった今見てもそこまで顛末に興味を持てなかった。「まぁ、うん、君たちで解決してみよっか・・・」みたいな。俺もオッサンになったってことか。河合優美だけは1つ大きな仕掛けがあったりして良かったけど。中二病を発症している森崎君が一番おいしかったね。卒業式だからって、あんな感じの特別イベントってあるもんなのか?俺には全くわからん。そういえば、同窓会とかもやってんのかな・・・。全く知らないんだが・・・。

 

No22『フェイブルマンズ』 92点

 『エンパイア・オブ・ライト』でも書いたけど、昨今、「映画愛」を語る映画、そして、それに合わせて監督の自伝的な映画が非常に増えた。そんな中、現代映画の神ともいえるスピルバーグが遂に放った自伝的映画は、それらの映画たちと一線を画する映画だった。

 この手の映画では、「映画」というものがいかに自分の人生を救ってくれたかを感傷的に、ノスタルジックに描くことが多いわけだけど、スピルバーグは全く美化しない。映画が持つ暴力性ともいえるものを克明に描き出し、その魔力に魅せられて、「そうとしか生きられなかった」少年を描く。無論、それはスピルバーグ自身のことであり、彼ほど「映画で人を感動させる」ことに長けた存在はいない。本作でもその力量は遺憾なく発揮されているため、この構造に説得力が生まれまくりであります。

 映画の暴力性が示されるのは2点。1点は、偶然映り込んでしまった母親の浮気場面。2点目は、高校卒業の時に撮ったビーチの映像。映画は、現実以上に「真実」を描き出してしまうし、逆に、いくら醜悪な存在でも美しく撮れてしまう。映画はファシズムプロパガンダに使われてきたし、描き方ひとつで悪ですらヒーローにできてしまうのである。

 映画を撮ることは実生活の代償行為となり、人生をめちゃくちゃにしてしまう行為になりうる。しかし、それでもサミーは映画を撮り続ける。その暴力性を理解し、人生が呪われても、「映画の神」だったジョン・フォードの薫陶を授かり、自身もまた「映画の神」への道を歩み始めるあのラストショットは、非常に感動的でした。

 

No.23『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 90点

 2023年のアカデミー賞最多ノミネート作であり、作品賞最有力候補作!「・・・マジで?」と思わざるを得ないふざけ倒した、トリッキーな映画でした。監督は『スイス・アーミー・マン』のダニエルズ。あれも変な映画だったな。

 MCUをはじめ、今やメジャーになったマルチ・バースを扱った作品で、破産寸前のコインランドリーを経営するエブリンが、別のバースからやってきたアルファウェイモンドに促され、宇宙全体を救うことを決意する。話の規模は非常に大きいが、内容自体は非常にミニマムで、家族愛の話であり、1人の女性の人生についての話だった。

 基本的に観ていて楽しい映画だった。ミシェル・ヨークンフーで無双しまくるくだりは最高だし、ジェイミー・リー・カーチスも『ハロウィン』ばりに無双する。脇の俳優も上手いし、お下劣なギャグはご愛嬌。後半の展開が動きがないため少しかったるかったけど、マルチ・バースの演出も含め、映像的にもとても面白い映画であったことは間違いない。

 映像や脚本家ら、非常にトリッキーな映画であるけど、話の軸自体はありふれたものだったと思う。「凡庸な存在が実は特別で・・・」みたいなのは言わずもがな『マトリックス』だし、そもそも、「別次元から来た存在(そしてそれは主人公にとって特別化された異性だったりする)」に導かれてという話もよくある。オタクはこういう話が好きだと思う。後、ノリが完全に「ボーボボ」とか「セクシーコマンドー外伝」とか「銀魂」で、出てくる連中が皆ハジケリストだった。

 「人生をどこで間違えたのか」「自分には別の人生があったのでは」というのは、誰しも考えることだと思う。本作は、別のバースのエブリンを見せたうえで、エブリンの人生を肯定する。「何もない」存在だからこそ可能性があるのだと。自分の人生は変えられないものであると示す。直球な人生賛歌で、最近、色々と辛かったので、ここは少し泣かされた。

 娘との和解で、娘は一切歩み寄らず、母親が歩み寄り、理解するという話であり、そこもよかったなと思った。娘視点で見ると、この映画、今の若者の悲観的な人生観みたいなものも描いている気がして、そこに大人が理解を示すという作りな気がしたので。

 

No24『シン・仮面ライダー』 70点

 『シン・ゴジラ』公開前、私の中では期待2、不安8といった塩梅でした。というのも、庵野監督のそれまでの実写映画の出来もそうですし、何より、『キューティーハニー』のことが大きかった。だからそこまで期待はできなかったのです。

 何故この話をしたのかというと、本作は、まさしく『シン・ゴジラ』公開前に私が危惧していたものがそのまま出てきた作品だったからです。つまり、庵野監督の情熱や敬意が暴走している映画です。

 本作は、1作目の「仮面ライダー」のリビルドと言えます。庵野監督は『エヴァンゲリオン』でも、『シン・ゴジラ』でも、既存の作品やジャンルを脱構築し、語りなおしてきました。本作も、「今の時代に、1作目の「仮面ライダー」を作るならば?」と庵野監督が思考し、「仮面ライダー」について語った作品です。

 本作は、映像的にはTV版を過剰に踏襲していますが、その内容的には、石ノ森章太郎先生の漫画版を強く意識していると思います。石ノ森章太郎先生と言えば、「サイボーグ009」の方ですが、本作でも同じく「改造人間と改造人間が戦う」ことが強く意識されています。だからこそのPG12の流血ですし、本郷猛は、戦いを「暴力を振るっている」とし、自己嫌悪します。また、仮面ライダーの孤独や、マスクや手術跡の設定なども踏襲していますし、ラストもそうです。

 石ノ森先生の作品を意識しつつ、本作の「ヒーローとしての強さ」には、変化も施されています。昭和のTV版では、本郷猛を演じていたのは藤岡弘、であり、マッチョイズムの権化みたいな感じでしたが、本作の本郷猛は、ナイーブで、「優しい」存在であると強調し、ひたすらに他者のために力を行使する。だからこそ、「ヒーローである」としています。そして、その「遺志」が継承された存在がヒーローとなる、というラストには、MCUなどが唱えている「誰もがヒーローになれる」的な意味合いを感じました。そしてそれを「仮面」に象徴させているのもいい。

 また、「1作目の仮面ライダー」は、映像的にも「蘇らせて」います。特撮の十八番、ジャンプカットは頻出するし、BGMも同じなのは当然。始まってすぐ、仮面ライダーが初めて出てきたあのシーンなど、完璧にあの時代の映像とカメラワークを再現してて、コピーの監督、庵野監督の面目躍如といったところ。後は小ネタも多い。2号登場の下りを、藤岡弘、の骨折エピソードを完全再現してやっていたのには正気を疑った。

 また、本作も基本的に「エヴァ」です。「もうやめてよ父さん!」が「もうやめてよ兄さん!」になっただけで、一郎兄さんのやろうとしていることはただの人類補完計画だし、旧劇でのシンジの自問自答がここでも繰り返される。「暴力を振るう」くだりで、手が印象的に映されるのもまんま。後、「コミュ障が強気な女性に矯正される」的な展開もそうだし(というか浜辺美波庵野ヒロインすぎる)、観客と主人公をいきなり渦中に追い込む導入は1話「使途、襲来」そのまんま。一郎は猛の鏡像であり、同じ経験をしつつも他者を拒絶した一郎を他者を受け入れた猛が諭すという展開になっている。だから基本的にエヴァ旧劇。

 ここまで結構褒めたけど、ハッキリ言って、本作は酷い映画です。映像的にテキトーに撮ってるだろ、としか思えないショットが連発し、役者はまともな演技ができてない。これは監督のせい。アクションはカット割りすぎて何してんだか分からないし、CGもチープ。ライダーキックは流石に良かったが。意図があるとはいえ、映画としてこれはキツすぎる。脚本はそれなりにまとめてるなとは思ったけど、映画的に興奮するシーンが1つもない映画で、こんな代物よく自信満々にして出せたな、と思う。後はショッカーがよく分からない組織になってたのも問題。

 映画としてはぐちゃぐちゃで、映画としての体裁を整えることを放棄さえしている。それでも、庵野監督の「仮面ライダー」を作る、という想いだけは伝わってくるという、歪を通り越して、怪作といっていい作品。こんなものを映画館で観られる機会は大変貴重だと思う。こんな作品は庵野秀明にしか撮れないからです。

 

No25『オマージュ』 88点

 昨今、やけに増えている「映画についての映画」系統の作品。しかし、本作は、そこに「時代を越えた女性たちの連帯の物語」というフェミニズム的な側面を加えている作品だった。

 本作は、作品がヒットに恵まれない女性監督が、60年代に活躍した女性監督の映画『女判事』の欠落した音声を吹き込むアルバイトをするさまを描く。そこで彼女は、当時の映画界における女性の差別的待遇を再度理解し、そして、歴史の中に埋もれ、「忘れられてしまった」存在を知っていく、という話です。

 映画の歴史は男性中心の歴史でした。しかし、「#MeToo」運動の中で、歴史の中に埋もれてしまった女性監督の名前が再発見されています。例えば、昨年、ドキュメンタリー映画『映画はアリスから始まった』が公開され、『バビロン』では20年代ハリウッドに実在した女性監督をモデルにした役が出てきます。

 本作もこうした流れの中にある作品ですが、最初に書いたとおり、女性同士の連帯の話でもあります。劇中で主人公は「三羽ガラス」の1人である女性に出会う下りがあります。あそこで洗濯物を一緒に取り込むシーンがとてもよく、彼女たちの間の壁が一気に取り払われた感じがしました。そして、主人公は、過去の映画人とも連帯していく。過去に差別的待遇の中で仕事をしてきた女性を知り、映画界で働く身として、地続きの歴史として認識してくわけです。余談ですが、あの編集技師のお婆ちゃん、ボケ始めてるのに、編集作業をするときだけめちゃくちゃテキパキ仕事してたのがまた良かった。

 そしてその連帯は、最後には映画界のみではなく、女性同士の連帯につながる。終盤、お隣さんが帰ってくるわけですが、そこで交わされる、「ありがとう」の台詞がとても良かった。

 

No.26『The Son/息子』 76点

 『ファーザー』のフロリアン・ゼレール監督作品。「父親」の次は「息子」かよ!って感じですが、『ファーザー』が一筋縄ではいかなすぎる作品でしたので、気合を入れて鑑賞しました。

 本作は『ファーザー』と対照的な作品でした。どちらもスリラーであるという点は共通していますが、『ファーザー』は自らの記憶がおぼつかない老人の主観に観客を放り込んだのに対し、本作は、「息子」という「他者」が分からない父親の主観に観客を放り込みます。つまり本作は、父親と息子のディスコミュニケーションの映画です。

 ヒュー・ジャックマンとゼン・マクグラスが素晴らしい。ゼン・マクグラス演じるニコラスは、自らの苦しみを理解してほしいけど、父親にはそれが理解不能な存在として描かれている。そして、ヒュー・ジャックマン演じる父親は、外的要因を追求してしまい(何で普通になれないんだ!的なことを言ってしまう。最悪である)、息子を追い詰めてしまう。そこには、成功した男性のマチズモ的思考が見えるのが嫌らしい点。

 しかし、中盤で、ヒュー・ジャックマンも自らの父親からの抑圧のもと生きてきたことが明かされる。つまり、自身も父親と同じことをしていたと分かる。度々映されるランドリーのように、同じサイクルを回っている、家族という呪いの話でもあると分かる。そしてそのディスコミュニケーションの連鎖は最大の悲劇を生んでしまいます。端から観ると「もっと早く精神科連れてけよ!」と思いますが、しかし、当事者になったらどうするか、私には確たることは言えません。

 

No27『長ぐつをはいたネコと9つの命』 82点

 『シュレック』シリーズは小学生の頃に金ローでやっていたのを少し見たくらいで全く思い入れはないですし、何なら『長ぐつをはいた猫』の前作も見てません。それでも本作を見ようと思ったのは、予告などで公開されていた、冒頭のアクションシーンが素晴らしかったからでした。

 予告で公開されていたものも含め、とにかくアクションが素晴らしかった。画面の寄りと引きのコントロール、動き、全てが完璧だった。どことなく「進撃の巨人」の立体駆動装置みたいだった。で、このアクション時、コマ数を意図的に落とした2Dアニメになってるんだけど、これが面白さにつながってるし、何より、作品全体の作りにも被ってる。

 本作は非常に教訓めいていて、「願い」は自分の周りに既にある。それに気づくことが大切だという話。それ故、話は予定調和に進む。それが本作の、そして『シュレック』シリーズがおとぎ話のパロディである点と上手く合致している。そして、2Dアニメ化するアクションでは、「絵本」である点が強調され、「おとぎ話」の協調にも一役買ってる。つまりは単純な教訓をアクションとビジュアルで示している作品だと思っていて、そこはポイント高い作品だった。普通に面白いし。

 

No28『Winny』 82点

 「Winny事件」については全く知らず、評判が良いので見ました。本作は所謂「法廷もの」で、実際に金子勇氏の弁護に立った人間の意見をもとに作り上げたという裁判や尋問のシーンは非常に見応えがあったし、如何に裁判を進めていくか、という点を丁寧に描いていた。カタルシスが無いという点は弱いかもしれないが、本作は勝訴を得ていくカタルシスより、日本社会の病理を指摘するという点に比重が置かれているため、やむ無しかなと思う。

 本作で指摘されている「病理」とは、よく言われている、「日本で新しい技術が生まれにくい」的な話。金子勇が開発した「Winny」は確かに悪用はされたものの、それは使用した人間が悪いのであって、開発者が悪いのではない。しかし、機密情報漏洩というタイミングも重なり、権力側が開発者を逮捕してしまう。本作では、終盤にYoutubeの誕生が映されますが、Winnyと同じく、過去には違法動画の温床だったにもかかわらず、現代では生活インフラになったあちらを映すことで、歯がゆさが増す構造になっています。

 本作ではもう1つ、吉岡秀隆演じる警官が裏金作りを告発するストーリーがあります。これは本筋とは絡まないのですが、「匿名であったなら」と思わせる点がWinnyの開発の遅れの歯がゆさを強調する作りになっています。また、「旧態依然とした組織・社会」に何とかして改善の風穴を開けたい、という点でも、本筋のWinny開発と共通するところがあると思う。

 役者は皆素晴らしかった。東出昌大は人としてはどうしようもないかもしれないけど、役者としてはやはり別格だなと再確認。また、吹越満のベテラン弁護士ぶりも良かった。ただ、木竜麻生の扱いはどうにかならんかったのかな。ただの解説役でしかなく、今の時代あれはどうなんだと思った。

 

No.29『グリッドマンユニバース』 87点

 93年のオリジナルTVドラマは見てないけど、「SSSS」シリーズは2作とも見てる。だから本作も楽しみにしていました。結論として、見たいものを全て特盛で見せてくれた最高のファンムービーでした。

 この手の劇場版では、ファンが望む展開というのがあり、可能ならばすべてをこなす必要があります。TVの続編的な内容はもちろん、2作がクロスオーバーすることから、各キャラの活躍の場を設け、掛け合いを用意し、各作品の共闘展開はもちろん、過去作で敵だった存在との共闘などもあれば胸熱です。本作はそれを破綻せずに完璧にまとめ上げ、さらにはこちらの想像の100倍くらいのテンションでやってくれます。特に終盤のグリッドマン降臨~「とにかく合体はしてなんぼ!!!」な合体連発にはテンションぶちあがりです。後、「SSSS.GRIDMAN」にあった特撮オマージュも健在なのも嬉しい。

 「SSSS.GRIDMAN」は現実/虚構を上手く活かした作品だったけど、本作は「ユニバース」の名を冠している通り、全ての平行世界を統合する作品でした。この点で、『ANEMONE』とか『シン・エヴァ』が近い作品だと思う。『ANEMONE』はユニバースを統合したうえで新たな「エウレカ」を構築してしまったのに対し、こちらは「1つにまとめた」内容のため、『シン・エヴァ』のほうが近いかな。

 余談。やっぱり私ぁ、立花さんが好きなんだなぁって思いましたよ。