暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

4月に見た新作映画の感想①

 4月に見た新作映画の感想です。4月は本数が多いので、記事を2つに分けたいと思います。まずは最初の7本です。では、行ってみよう!

 

No.30『生きる LIVING』 77点

 1952年の黒澤明監督による傑作『生きる』のリメイク。脚本はノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ。「なぜ今?」と思いつつ鑑賞しましたが、これがとても良いリメイクでした。

 本作はもちろん、オリジナルへのリスペクトに溢れています。画角はオリジナルのスタンダードサイズに近く、タイトルなどに使われているフォントは50年代の映画を思わせます。カラーでありながら、黒がメインカラーになっているのもそうだと思う。脚本もかなり忠実で、メッセージも同じ。それでいて尺がオリジナルより40分近く短くなっている。

 昔の映画で、昔が舞台であるからと言って、本作が持つテーマは色褪せない。要は「尊厳ある生」とでも言うか、「賞賛などされなくても、自らがなすべきことをなした人の話」。真面目に、死人のように生きていた主人公が、他者のために為すべきことを為す。最後には手柄も取られてしまうが、そこは問題ではない。黒澤明繋がりで言えば、『七人の侍』だってそういう話と見えなくもないし。そこが黒澤明ヒューマニズムだったと思うし、だから胸を打つ。大人になった自分は、「生きているか」と言われているようで。

 しかし、本作ではオリジナルにはなかった点が追加されている。それはエイミー・ルーウッドなどの若者にフィーチャーした点。オリジナルでは志村喬のみの話になっていて、「彼のみの話」になっていたけど、本作では若者に焦点を当て、ビル・ナイの行動が次世代にもつながっていく、という構造にしていた。これでかなり前向きな話になったし、全世代的な話になったと思う。

 余談だけど、ビル・ナイのエイミー・ルーウッドの誘い方が、完全に友人と遊び慣れていない人間のやり方で、見ててきつかった。

 

No.31『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』 91点

 予告を見たときは完全スルー案件だと思ったんだけど、前評判が大変良かったので見た。原作のTRPGはサッパリで、『E.T』や「ストレンジャー・シングス」でやってたなぁってくらいの距離感だったのですが、これが大変面白い作品で、安心して身を任せて見ることができました。こんなにストレートな面白さを持った作品は久しぶりに見た気がします。

 話そのものは、仲間に裏切られ、娘を奪われた主人公が、娘を仲間と共に奪還する、という単純なもので、目的のために仲間集めに奔走したり、クエストをクリアしたりするという、王道ファンタジー(まぁ原作がTRPGの元祖なんで当然なんだけど)。しかし、アクションとギャグのバランスが絶妙で、見ててとても楽しいし、さらにそれらの1つ1つの質が高い。例えば、アクションで言えばミシェル・ロドリゲスの殺陣。動きが非常に論理的で感心した。また、ソフィア・リリスの多彩な変化を疑似ワンショットで見せたり、途中の作戦ではケイパーものの様相を見せたり、最後のチームプレイが見事だったり、本当に見所が多い。ギャグも全く滑っておらず、全部笑えるのもいいし、大仰でないのもいい。

 役者が皆良かった。どいつもこいつも妙に頭のねじが緩い連中で、愛すべき馬鹿なんだけど、特によかったのは主演2人。クリス・パインは過去最高レベルで良かったし、ミシェル・ロドリゲスのやや脳筋キャラかと思いきや妙に男の趣味にうるさかったりするのもいい。そして何よりこの2人の関係性がよかった。2人ともパートナーがいるため、恋愛関係にならず、固い絆で結ばれている相棒って感じで、「スレイヤーズ!」のリナとガウリィを思い出した。後はヒュー・グラントはやっぱ最高。本当に楽しそうに演技するな。

 

No32『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』 70点

 2021年に公開された映画の続編。前作は殺し屋コンビの日常と殺しを描いた日常系殺し屋映画とも言える作品でしたが、本作では少し視点を変えて、殺し屋業界における格差を描いた作品になってました。

 ちさととまひろはいつもの感じですが、本作でもう1組の主役といえるのが丞威さんと浜田龍臣さん演じる正式な殺し屋になれないコンビ。本作は彼らが成り上がろうとして儚く散っていく物語としての側面があります。この2人組によって、前作で描かれた殺し屋業界がさらに深く描かれたと思いますし、彼らが割と青春もののノリであるため、この世界に流れる冷酷さがより強調されたと思います。ラストの無情っぷりとか凄かったし。

 アクションは相変わらず素晴らしい。冒頭の乱闘から始まり、銀行強盗を倒すジャッキー映画みたいなアクション、そしてラストの体術バトル、全てがハイレベル。終盤のガンアクションには「リコリス・リコイル」感があった。

 本作に難があったとすれば、前作より格段に増えたオフビートな会話。役者が楽しそうにしているのはいいんだけど、長くて少しくどかった。言い方は悪いけど、福田雄一の映画を思い出してしまった。まぁ、彼の映画と段違いなのは、オンオフの入れ替えが完璧で、シリアスなシーンへの入れ替わりがとても上手いってのがあるけど。

 

No33『マッシブ・タレント』 80点

 ニコラス・ケイジが本人役で出演し、国際的な犯罪組織のボスにして大富豪であり、自身の熱狂的なファンであるハビをスパイする、という愉快な設定の映画。ニコラス・ケイジが自身のイメージを存分に生かして生き生きと演技をしていて(目をむいてガーッと圧をかけるアレ)、見てるこっちまで楽しい気持ちになる。

 本作はニコラス・ケイジをメインに据えているものの、話自体は平凡。特筆すべき点としては、ハビを演じるペドロ・パスカルとの友情物語だと思う。潜入捜査もので友情が芽生えるのは王道展開ですが、この2人の関係は「男の友情」的なそれではなく、「愛してる」と告白してしまうレベルの絆。従来の男らしさから離れたところで友情を育んでいるのが印象的だった。

 また、ニコラス・ケイジをここまでフィーチャーしている映画なのに、最も大きな役割を果たす映画は『パディントン2』である。そしてそれがちゃんと物語の中で機能しているのも偉い。『フェイス/オフ』も重要だけど。何はともあれ、ニコラス・ケイジが楽しそうにしていて、何よりである。

 

No.34『AIR/エア』 87点

 エア・ジョーダンの誕生秘話の映画だけど、本作の核は「偉業を成し遂げた人間の信念と情熱の物語」だと思う。本作では、話術に長けたマット・デイモンマイケル・ジョーダンの才能を見出し、彼に賭け、他者を説得し、後世に残るブランドを作り上げる姿が描かれる。

 彼は、自らの情熱を形にするために、マイケル・ジョーダンの母親を説得し、会社内の上司や制作部門の人間を説得してまわる。そこで語られるのは熱意だけではなく、相手にとって如何に利益になるか、そして、満足のいく結果を出せるかを「プレゼン」する。

 企業というのは1つの生き物だという人がいるけど、本作ではマット・デイモンが潤滑油となり、各部門の歯車をしっかりと回し、エア・ジョーダンへと向かっていく。情熱だけではだめで、それをいかにロジカルに相手に伝え、納得してもらうか。社会人となった今、この手のお仕事映画を見ていると、この企画を通すことの大変さが理解できるため、マット・デイモンの情熱に感心しきりである。しかし、最後にはエモい展開に持っていくのもにくい。

 本作は非常にアメリカ的な映画だと思う。いやアメリカで作ってるんだから当然だろと思うかもだけど、ちょっと違って、何と言うか、非常にアメリカ的な価値観が滲み出ている映画だと思った。そもそも、当時の映画や映像を多用して80年代の時代に観客を放り込む冒頭や、画面のルックが完全に80年代アメリカ映画のそれ。マイケル・ジョーダンアメリカン・ドリームの話であるし、展開もそう。『ロッキー』が台詞で引用されたりもしてるので、この辺は確信的だとも思う。

 アメリカの映画ではあるけれど、1企業もの、そして、何かを成し遂げる情熱の物語として、大変すばらしい映画だったと思う。エア・ジョーダンなんて欠片も興味ない私がこんなに興奮したので、興味ない人でも全然楽しめると思う。

 

No.35『ザ・ホエール』 79点

 まずもってブレンダン・フレイザーが素晴らしすぎる。ファットスーツを着込み、恋人を失ったショックから過食気味になり、272kgまで膨れ上がった男性を演じる。太った人間を演じたからではなく、その役が抱えている苦悩を完璧に体現しているのが素晴らしい。

 ブレンダン・フレイザー演じるチャーリーは、これまでの人生を悔い、贖罪を望んでいる。だから娘のエッセイを手伝おうとするし、看護師のリズの助けを断る。チャーリーは大学の講義でも顔を隠しているし、ピザの配達員にも顔を隠している。自分の姿を誰にも晒したくないわけで、外界との交流を最低限にしている。

 本作はチャーリーの室内で話が進むワンシチュエーション劇で、スタンダードのような画面のサイズも相まって、画面の中にチャーリーが占める割合が大きい。この室内はそのままチャーリーの心の中と捉えることができると思う。この室内に入れ代わり立ち代わり人間が入り込む。

 ラストで、外界から閉ざされていたチャーリーの心が救済され、まさしく光が差し込む。だから、最後に娘のエッセイを聞きながら立ち上がり、外界の光に向かって歩いていく姿が感動的なんだと思う。

 

No.36『ノック 終末の訪問者』 63点

 原作が既にあるとは思えないくらいのシャマラン度高すぎ映画。シャマランの映画は常に一貫していて、登場人物が世界の中における「使命」を知る物語だった。本作も「使命」についての映画なんだけど、実はシャマランの映画の中では少しだけ方向性が違っていたりする。

 本作は世間から離れた場所で休暇を過ごしているゲイカップルと娘のもとに、デイヴ・バウディスタをはじめとする怪しげな人間が侵入してくるという、『ファニー・ゲーム』を彷彿とさせる展開から始まります。しかし、映画は自らの「使命」を自覚した人間たちが、主人公たちに「大切な人を犠牲にして世界を救え」という「選択」を迫るという内容になる。

 このデイヴ・バウディスタ一行の言動は狂人のそれであるけど、よくよく考えれば、これは過去のシャマラン映画で「使命」を自覚した人間たち。つまり本作は、過去のシャマラン映画のその先の物語であり、これまで指摘されてきたシャマラン映画の「物語」に対する狂信的な姿勢を客観的に描いていると言えます。

 自らの狂信的な面を客観的に描いても、やっぱりシャマランなので、最終的にその狂気に晒される家族も、「物語」を信じ、世界を救うという使命に殉じます。そして、拒絶していた世界に向けて歩いていくわけです。

 本作は演出的にも堅実なスリラー演出がなされており、見ている間は退屈はしない。しかし、変な映画であることは変わりません。とにかく本作には、「理由」がない。あの家族が選ばれたことに理由が説明されないし、何故世界が崩壊するのかも不明。あの家族は、いきなり世界を救う「使命」を背負わされ、大切な人を失う悲劇に見舞われます。ハッキリ言って理不尽。しかし、その理不尽さこそが肝なのかもしれません。運命は、突然やってきて、選択を迫る。まさに、扉を「ノック」して。この運命の理不尽さこそ、シャマランが描こうとしたことだったのかもなぁと思いました。にしてもやばい宗教感はあるし、最後はカルトに屈したとしか思えんわけで。

 余談。『ハリポタ』のロン役でおなじみのルパート・グリントがやさぐれたオッサン役で出ててビックリした。