暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

不確かな世界の中で、確かに「本物」と言えたもの【万引き家族】感想

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98点

 

・はじめに

 是枝裕和監督最新作。公開直前にカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドール賞を受賞したことで話題となりました。また、日本人監督として21年ぶりの快挙であることから、この手のアート作品としては2週連続興行収入第1位という異例の大ヒットを飛ばしています。このような華やかな面がある一方、「万引きでつながっている家族」という題材から批判の声も上がっています。私は、是枝さんの作品ならば基本的に観に行くようにしていますので、パルム・ドール受賞前から楽しみにしていました。

 

 感想を簡潔に書いておくと、本作は、是枝監督の集大成的な作品だと感じました。同時にこれまでの彼の作品とは少し違い、彼の「感情」が見えてくる作品でもあったと思います。

 

 

・『万引き家族』と『誰も知らない』

 本作には、是枝監督の過去作の要素がまんべんなく盛り込まれています。彼がこれまで描いてきた「家族」という共同体の定義を揺さぶることは相変わらずですし、『そして父になる』のような「父親になろうとする男の話」でもあります。さらには、『三度目の殺人』のような「社会そのものへの疑問」の要素も入っていると思います。

 

 ただ、私が本作を観て最も類似していると感じた作品は、2004年公開の『誰も知らない』でした。この作品は親に捨てられた子供たちが自分たちだけで生きていく姿を描いたものでした。この作品を象徴しているシーンとして、「人混みの中を、身なりが汚い子供歩いているのに、誰も気にとめない」というものがあります。『誰も知らない』というタイトルを象徴するシーンです。

 

 本作の家族も、この作品の子供たちのように、「社会から認識されていない」存在なのです。だから住んでいる家もマンションの間にポツンとあるだけなのですね。そしてそれは冒頭から既に示されています。鮮やかな連携プレイで見事万引きを成功させた治と祥太。治は店員の視界を塞ぐために置いたかごを放置して帰っていきます。そしてかごは誰からも気にかけられることなく放置される。このかごこそ、本作の「万引き家族」の象徴なのだと思います。かごの中に入った商品は治が「無作為に選んで」入れたもの。それらが1つの空間に詰め込まれているのは、あの家族とそっくりです。本作は、社会という海の中で、身を寄せ合って生きていた家族の話なのです。

 

 

・絆

 本作は、これまでの是枝作品と同じく、「絆」の物語です。作中の家族は社会的には普通な血縁ではなく、もっと利己的な理由で繋がっています。「祖母」の初枝の家に皆が集まっているのは彼女が持つ年金が目当てだからです。そして治と信代はある犯罪によって繋がっています。そして亜紀は初枝とは関係はありますが、血縁的な繋がりはありません。さらにそこに子どもの祥太とりんが加わっています。

 

 また、彼らはお互いに素性を明かしていません。作中でも何度か言及されるように、「偽物」で彼らの家族はできています。作中に何度か登場する「空っぽの家」が印象的です。では、なぜ彼らが「家族」でいられるかと言えば、利害が一致しているからです。

 

 このように、彼らは世間一般で言うところの「家族」ではありません。でも、観ていると彼らは非常に楽しそうに暮らしています。役者陣が皆さん演技とは思えない自然な演技をされていて、「本物の家族の生活」を観ている感じが増します。そしてそれ故に妙に感情移入してしまいます。

 

 しかし、その一方、彼らと対比されるように映される「血で繋がった」家族にはどこか問題が見えます。ここから、是枝さんが問うてきた「血の繋がりだけが家族を作り得るのか」という疑問が見えます。

 

 ただ、「じゃあ主人公家族は完璧な家族なのか?」と問われれば、「そんなことはない」と言えます。万引きは犯罪ですし、そもそもあの家に人が集まっているのは初枝の年金が目当てだし、その初枝も元夫の家族に対して恐ろしい復讐をしています。しかも上述のように皆が秘密を持っています。彼らも完璧ではないのです。しかし、それは彼らだけではなく、普通の家庭にも言えるのではないでしょうか。上述の家庭のように、どのような家族にも秘密があります。主人公の家族はそれをより「犯罪」という大げさなものにしただけなのです。余談ですが、このような命題は『東京物語』を始めとした小津安二郎作品を彷彿とさせます。

 

 

・是枝監督らしからぬ「怒り」

 これまで是枝監督は、作品の中で己の感情を出すことはあまりなかったと思います。語っているテーマはあれど、あくまでクールに映画を作っていたと思います。ですが、本作には、これまでの是枝作品とは違い、監督の怒りが明確に表れています。それが取り調べのシーンです。あのシーンは、信代と治が観客と対峙されるようにできていて、社会の「良心」代表の刑事たちが投げかける質問も我々「大衆」が考えるものです。それは清々しいほどの「正論」です。何も間違っちゃいない。彼らのような「間違った」存在は、このような「正論」には立ち向かえないのです。だから信代は、「何だろうね?」としか言えないのです。

 

 ここで、我々はどうにも居心地の悪さを覚えます。それもそのはずで、あのシーンで真に監督から責められているのは我々観客なわけです。「何故、ここまで経済的に弱い人をこんなに執拗に叩くのですか?」と。以前にも、貧困家庭の女子高生が、Twitterにちょっと高い定食を撮ってツイートしただけで大炎上しました。世の中にはもっと悪いことをしている人間がいるのに、何故そういう人間は叩かれず、こんな弱い人間ばかりが叩かれるのか。監督は、事前にあの家族に感情移入させることで、「あなた方がやっていることはこういうことですよ」と我々に突き付けてきます。

 

 

罪と罰

 こう書くと、「犯罪を肯定するのか」という意見が出てきます。ですが、本作を観た方なら誰でもわかると思いますが、本作は「生活が貧しければ犯罪してもOK」という映画では断じてありません。その証拠に、本作には万引きの「被害」の結末がきちんと描かれますし、ラストで犯罪に対する罰もきちんと描かれます。

 

 また、上述のように、この家族も理想化された存在ではなく、欠点だらけのダメ人間集団です。特に治ですね。祥太に「学校行くのは家で勉強できない奴ら」と嘘を吹き込み、犯罪に加担させるなど、やっていることは完全に虐待です。ですが、祥太は万引きを「犯罪」だと認識し、治を「ダメな父親」と認識して乗り越えていくのです。祥太が疑問を抱いてから、治や信代が妙に小悪党っぽくなったのは気のせいではず。これによって、きちんと万引きを「犯罪」として描けていると思います。しかも、これによって、本作は「犯罪をしているダメな父親を乗り越える」という「親離れ」の要素も入ってくるのです。

 

 家族が解体された後、りんは虐待していた親の元に戻り、祥太は施設に入ります。そして、罪を犯した者は罰を受けます。最後に映されるのは、祥太と治の別れ、冒頭と同じ場所で遊んでいるりん。そして彼女がどこかを見ているシーンで映画は終わっています。私はここから、この社会に対する希望を感じました。つまり、「血とか決まった繋がりではなくても、外の世界には、それ以外の方法で繋がれる人間がいるのだ」ということです。確かに、本作で描かれた社会は冷たくて、不透明です。ですが、その中にも、スイミーのように身を寄せ合える仲間が確かに存在しているのではないのでしょうか。そんな人たちと出会えれば、この社会を生きていけるのではないか。そう思えました。

 

 

・おわりに

 このように、本作は、社会の中で身を寄せ合って生きていた家族を描いた作品です。決して「万引き推進映画」ではありません。強いて言うなら、上述の人たちの「絆」の物語です。この不透明で灰色な世界の中で、真実として確かにあったと思うのは、彼らの絆だと思うからです。

2018年夏クール視聴予定アニメ一覧

言い訳と新方針

 久しぶりのTVアニメ関連の記事。以前、「1話を見て感想を書き、全部見てからまた総括を書く」と書いていましたが、ご存知の通り全く出来てません。映画の記事を書くのに精一杯で視聴しているアニメ全ての感想を書いていたらそれだけ膨大な時間を費やさねばならないためです。私は記事を書くのが遅い方なので、やはり更新できるのは月に12,3本くらいなんですよね。そうすると、クールの終わりごろには始まるアニメ+終了したアニメの感想があるわけで、合計するとTVアニメの感想だけで20本行くわけです。なので、こりゃあ無理だと諦めたわけです。すいません。

 そして、また考えました。どうすれば効率よくアニメの記事と映画やその他の記事を更新できるのか、と。そしたら他の方のブログで、「視聴予定アニメ一覧」そのものを記事にしている方がいらっしゃるではありませんか。これだ、と思いました。そもそも1話の感想を記事にしていたのは、読者の方に「このアニメを見ていますよ」とアピールする意味もありました。それならば、「視聴予定」として記事にするのは全然ありだなと思ったわけです。というわけで、この記事は生まれたのでした。

 以下、私の来期の視聴予定作品を挙げて、一言コメント(視聴理由、期待することとか)を書いていきたいと思います。順番は私の地域での放送順とさせていただきます。

 

視聴予定作品

 

7月3日

中間管理録トネガワ

 

www.tonegawa-anime.com

 来期の期待作品その①。『カイジ』シリーズのスピン・オフギャグ漫画。原作は本家のトーンをギャグとして扱っていて、それがめちゃくちゃ笑えます。なので、以前(といっても、もう10年も前か)放送されたアニメのテンションで作れば神アニメになると思っていました。だから制作会社が同じなのは嬉しいですね。ただ、ナレーションが立木文彦さんじゃないのが少し残念。

 

7月5日

BANANA FISH

 


バナナフィッシュ新PV

 来期の期待作その②。吉田秋生の名作のアニメ化。放送枠はノイタミナ。スタッフ的にも、放送枠的にも、そして原作的にも期待しかない作品。期待値ではNO.1です。強いて不安な点を挙げるとすれば、尺が足りるのかということ。

 

7月6日

ちおちゃんの通学路

 


2017年 【ちおちゃんの通学路】(TVアニメPV AnimeExpoバージョン) ☆2018年放送予定! HD

 原作未読。「中の下」であろうとする女子高生が通学路で待ち受ける障害を潜り抜け、登校する姿を描く、という設定に惹かれたため視聴決定。

 

はるかなレシーブ

 


『はるかなレシーブ』第2弾PV

 まぁ夏だし。女の子たちがビーチバレーすると聞けばそりゃ見るだろ。

 

7月7日 

はたらく細胞

 


【公式】TVアニメ『はたらく細胞』第2弾PV

 原作未読。でも存在は前から知っていて、「細胞の働きを擬人化して描く」という設定に興味があったので視聴することに。

 

7月8日

銀魂 銀ノ魂篇』

 

www.tv-tokyo.co.jp

 『銀魂』最終シリーズの2シーズン目。ここまで見たら最後まで付き合いますよ。

 

あそびあそばせ

 


TVアニメ「あそびあそばせ」第1弾PV

 女の子がヘンテコな部活を作るコメディらしいので視聴予定。製作はラルケ。気楽に楽しめることを期待して視聴。

 

7月9日

『邪神ちゃんドロップキック』

 


TVアニメ「邪神ちゃんドロップキック」PV第1弾

 こちらもギャグアニメっぽいので視聴。PVしか見てないので、詳しいことは分からないまま見ることになると思います。こちらも気楽に楽しめることを期待。

 

7月10日

『深夜!天才バカボン

 


TVアニメ「深夜!天才バカボン」第1弾PV

 『おそ松さん』の大成功で味を占めたのか、それとも放送周期が来たのか分かりませんが、『天才バカボン』の新作。個人的には『おそ松さん』レベルではなくとも、往年の作品とは違うはっちゃけぶりを見たい。

 

7月11日

『アンゴルモア~元寇合戦紀~』

 


「アンゴルモア元寇合戦記」PV第2弾 TVアニメ2018年7月より放送開始!

 こちらも「存在は知ってたけど読んでない」枠。どうやら「アンゴルモア」とはノストラダムスの大予言に出てくる「恐怖の大王をよみがえらす者」を指すみたい。ということは、元寇がその「アンゴルモア」で、主人公たち「恐怖の大王」を生み出すってことなのかな。違うか。とにかく、見てみます。

 

7月12日

『天狼(シリウス)‐Sirius the jaeger-』

 


TVアニメ『天狼 Sirius the Jaeger』本PV-Main Trailer-

 来期のやや期待枠。理由は監督が安藤真裕さんだから。しかもアクションみたいだし、『ストレンヂアー無皇刃譚ー』で興奮した身としては期待大。製作もP.A.WORKSだし、クオリティ面もそこまで心配はしてない。ただ、諸々の設定がダークなので、そこに乗れるかという不安はある。でも、期待の方が大きいですね。

 

『少女☆歌劇レヴュースタァライト』

 


「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」 トレーラー 第1弾

 CMで見てから興味を持っていた作品。舞台は未見。イントロダクションとPVを見る限り、『ガラスの仮面』的な内容なのか、それともSF要素も入っているのか。情報はなるべく入れず見ます。

 

7月13日

ぐらんぶる

 


TVアニメ「ぐらんぶる」PV第2弾

 「未読だけど存在は知っていた」枠その3。バカ漫画であるとは聞いていました。原作が『バカとテストと召喚獣』の井上堅二ですし。しかも、スタッフ欄をよく読むと、「高松信二」の四文字が・・・。バカ漫画を『男子高校生の日常』『イクシリオンサーガDT』の彼が作る。うん、期待しかない。視聴決定!な感じです。

 

 以上、夏アニメ視聴予定作品でした。今年は冬、春と豊作でしたが、個人的には夏は相対的に地味めな印象ですね。

笑いあり、涙あり、友情あり、メッセージありの超1級の娯楽作。【犬ヶ島】感想

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88点

 

はじめに

 ウェス・アンダーソン監督が、日本への愛を存分に詰め込んだストップ・モーションアニメ。設定からすると大変奇抜な映画かと思うかもしれませんが、その実、内容は笑いあり、涙あり、友情ありの王道の活劇であり、同時に非常に政治的な内容も含んでいる大変面白い作品でした。

 

驚異的なアニメーションクオリティ

 ウェス・アンダーソンの作品は、以前からシンメトリックな構図と直線的な動きのカメラワーク、そして凝りに凝った絵本のような世界観など、どこかアニメーション的な世界観を醸し出していた気がします。そしてその世界を、持ち前の完璧主義で再現していました。そして、この特徴「自分の世界を完璧に再現する」という点において、アニメーションは最適な方法だったと思います。特にカメラワークですね。横に動いているのを観ていると、本当に絵巻物を観ている気分になれます。

 また、背景だけでなく、キャラクターのクオリティも凄まじい。人間は本当に生きている気がしますし、犬も大変リアルにできています。特に体の毛ですね。いちいち風になびいていて、1コマ1コマ地道にとっていくストップ・モーションアニメという手法を考えると、こだわりに対するちょっとした狂気すら感じます。最初はストップモーションとは思えませんでした。

 このように、狂気すら感じるクオリティですが、であるが故に観ているだけで快感を覚えます。つまり、観ているだけでとても楽しいのです。これだけで料金分の価値はあると思います。

 

日本映画のオマージュ

 本作は日本映画、特に黒澤映画からのオマージュが相当引用されています。基本的な内容は『悪い奴ほどよく眠る』ですし、犬ヶ島のデザインはどことなく『どですかでん』を彷彿とさせます。さらに、『酔いどれ天使』で流れていた歌が流れる、三船敏郎、仲代達也、志村喬をモデルにしたと思しきキャラなど、日本の映画ファンには大変嬉しい要素で満ちてます。

 しかも、これらの要素がきちんとストーリーに絡んでくるのだから素晴らしいです。犬を探している少年・アタリを助けるため、これまでゴミと同じく(『どですかでん』の舞台もゴミ捨て場)虐げられていた犬たちが『七人の侍』のBGMと共に立ち上がるシーンには、犬たちの姿が侍と重なり、俄然熱くなります。この「主人公とそのお付き」というメンバー構成は、どことなく『桃太郎』とか、『次郎長三国志』、『水戸黄門』といった時代劇を彷彿とさせます。本作との関係は知らんけど。

 

王道の活劇の中にある、今の世界へ向けたメッセージ

 本作は難しいものではなく、観ていて面白い娯楽活劇です。冒頭の太鼓からめちゃくちゃカッコよく、テンションが上がりまくりです。そして、少年が犬と交流を深め、互いを理解し合い、大きな陰謀を打ち破ります。真面目一辺倒ではなく、頻繁に表れるユーモアにクスッと笑わせられるなど、非常に完成度も高い。「変なニッポン」描写も、本作に限っては、意図的な気がします。これによって、寓話感が出てると思うし。

 しかし、本作の中には、ちゃんとしたメッセージがあります。本作における犬は、現実世界における虐げられている者の象徴です。彼らは人間という強者によって虐げられ、居場所を奪われています。これはまさに今世界で起こっていることと似通っています。そして、それを解決するために、人間側の子どもが、種族も言葉も違う相手を認めることで、互いを尊重し合っていくのです

 

 それを体現した関係がアタリとチーフだと思います。チーフは主人に逆らう「凶暴な犬」と認識されていましたが、それは違い、ただ1匹の犬として誇り持っているだけなのです。だからこそ本作の主張に説得力が出たのかなぁと。後、純粋にカッコいい。これは世界中の人間が持つべき資質だと思います。本作はこうした現代的なメッセージも内包しているのです。

 

おわりに

 このように、本作は普遍的な娯楽要素も含みつつ、今の世界へのメッセージを内包させた極めて完成度の高い作品だと思います。おすすめです。

デッドプールだからできる、極めて真っ当なヒーロー映画。いやマジで。【デッドプール2】感想

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90点

 

 2016年に公開され、大ヒットした『デッドプール』の続篇。前作は「型破りヒーロー」を謳い、メタ発言、パロディ、下ネタ、グロ何でもありな非常に自由な作品でした。ですが、前作はそれらの要素が絶妙なバランスで配され、結果、MCUもびっくりの完成度を誇るヒーロー・オリジン映画となっていました。本作がヒーロー映画に与えた影響は大きく、『LOGAN』はこの作品にインスパイアされたことは有名です。

 

 しかし、本作では前作のバランスは何処へやら。上述のギャグを大幅に増加させ、代わりにストーリーがデッドプールの突っ込み通りご都合主義の穴だらけ脚本となるという、非常にアンバランスな映画になりました。しかし、このアンバランスさは表面的なもので、その中身は前作並みに至極真っ当な主張、デッドプールのキャラの掘り下げ、そしてそれらを包括してヒーロー映画の続篇の鉄板「ヒーローの存在意義」をきちんと語るという、よく観てみると実は大変完成度の高い映画となっていました。

 

 このように考えると、アンバランスな構成になったのも納得がいきます。何故なら、これこそが、デッドプール自身の「型破り」ぶりを体現したものだからです。しかも、少しズルいのはデッドプール自身に突っ込みを入れさせることで脚本の穴を観客に無理やり呑み込ませている点。これはデッドプールならではでしょう。

 

 また、デッドプールが自身の「ヒーロー論」を体現していく過程もとても面白いです。彼は大切な人を亡くし、自暴自棄から自殺願望に憑りつかれますが、少年を助けることで生きることに目覚めていきます。そこから、彼は今、ヒーローになるために考えるのです。彼は言います。「X-MENはマイノリティの象徴」だと。確かに、最初はそうでした。ですが、時代は変わりました。マイノリティの象徴だったX-MENはイケメンばかりで、しかもMEN!女性もいるのに・・・。そこで彼は思います。これはどういうことだ、と。そこで彼はシリーズを10年続けるために「無いなら作ればいい」精神で最強鬼ヤバチーム・Xフォースを結成します。初陣は腹が捩れるくらい笑いました。そして最後に残ったメンバーはデッドプールを始めとし、はみ出し者ばかり。そう、彼は「今のヒーロー」になるために、どんな人間でも受け入れるという、多様性を体現したのです。しかも、この「真面目さ」もデッドプールが言うから全く偽善的に聞こえないという完璧さ。

 

 そして、これは前作の彼の軌跡からきちんと繋がっています。前作は、全てを失った彼が愛する人のために戦い、愛を成就させる物語でした。そして本作で、「家族」を手に入れます。孤独だった彼は、遂に多くの仲間を得たのです。これに関連して、メダルの使い方がとても上手かったなと。

 

 これだけでも泣かせる話ですが、ラストのTake on meのシーンは本当に秀逸。有名なPVを基にしたものですが、ウェイドが「あちら側」に行って顔が元に戻ったところ。あれで泣きました。「あちらの世界」に行って、ようやく彼らが本来望んでいた幸せを手に入れられた気がして。

 

 このように、パロディとかグロとかゲロとか他人の悪口ばっかりな作品のくせして、語っていることは真面目だし最後は泣けるという、反則的な映画した。

 

 と思ったらエンドロールですよ。完全にやられた。これはライアン・レイノルズの映画だったんですね。とりあえず、ライアン・レイノルズの不遇のキャリアは押さえとくと良いと思います。

 

 

 デッドプールつながりで、アメコミの記事です。こちらもデッドプールらしいメタの極致な作品でした。

inosuken.hatenablog.com

 

 

 

一瞬しかない青春のきらめきを切り取った、宝石のように美しい作品【君の名前で僕を呼んで】感想

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78点

 

 今年のアカデミー賞で脚色賞を受賞した作品。題材的にあまり興味がなかったですが、時間的に観れると考えたので、『犬ヶ島』とはしごしてきました。

 

 とても美しい映画でした。夏のイタリアの美しい景色、照らす太陽の光、そして登場人物たちの裸体。それらがすべて美しいのですが、一番美しいのは、主人公2人の燃え上がるような気持ちです。本作は同性愛を扱った映画ですが、決して社会派なものではなく、普遍的な一夏の思い出の話です。上述の美しさと相まって、全体的に大変美しい映画となっています。

 

 本作には、ストーリーらしきものはありません。エリオがオリヴァーと出会い、2人の思いを確認しあってから、後はただひたすらいちゃつくだけ。しかもなぜエリオがそこにいるのかと言えば、夏休みだから。つまり、避暑地で遊んでいるのです。また、エリオの父とオリヴァーの2人は何やら学問的なことを話し合っていますし、エリオの母はただ喋っているだけ。家事全般はメイドがやっています。つまり、彼らは好きなことをして優雅に暮らしているのです。

 

 私はここで、先日聴いたラジオを思い出しました。アトロクの「古代ギリシャ特集」です。あそこで藤村シンさんが語られていたことは、「古代ギリシャ人は働かず、政治のことを考えるか、暇を持て余して雑談していた」「労働は全て奴隷にやらせていた」ということ。・・・奴隷をメイドに置き換えればそのまま本作の内容と合致します。思えば、冒頭で映されていたのは古代ギリシャの彫刻でした。そしてギリシャでは同性愛も普通に行われていました。つまり、本作は、古代ギリシャをイタリアに置き換えた作品なのですね。町山さんも言ってたし。

 

 2人はずっといちゃついているわけですが、それにも終わりが来ます。結ばれなかったけど、あの時の彼らの気持ちは本物だったし、何物にも代えがたい気持ちだったと思います。ラストの驚異的な長回しで語られる、自身の一部ともいえる存在を失ったエリオの悲しみ。そして燃え上がっていた気持ちを象徴するかのような暖炉の火。彼の気持ちを感動的になることなく、しかし、いかに彼にとって大切な夏だったかを実感させる名シーンでした。

 

 このように、本作は一瞬しかない、燃え上がるような人間の気持ちを映した宝石のような作品だと思います。

資本主義というシステムの中で戦う母親【ゲティ家の身代金】感想

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88点

 

 スキャンダル続きだったハリウッドの中で、おそらく最もスキャンダラスだった作品。公開まで1カ月半しかない時期に、主演のケヴィン・スペイシーがセクハラ問題で降板し、急遽クリストファー・プラマーを代役に9日間で22ショットを撮り直したのです。しかも、それに加えてマーク・ウォールバーグが追加撮影分のギャラを要求したことも問題になりました。そのようなニュースで、図らずも公開前から話題になっていた本作。私はこれらのスキャンダルとは関係無しに、単純にリドリー・スコット監督作品ということで楽しみにしていました。

 

 結論として、非常に面白かったです。リドリー・スコットは、映画秘宝のインタビューで「彼は許されないことをしたが、作品まで殺してはならない」と仰っていました。この言葉通り、本作は公開されてよかったと心の底から思いました。

 

 本作は、1973年に起きた「ジャン・ポール・ゲティ三世誘拐事件」を基に、多少の脚色を加えたものです。ただ、普通この手の作品は「被害者VS犯人」の交渉がメインのサスペンスになりますが、本作ではちょっと違います。本作で被害者が戦うのは、犯人と「身内の金持ち」です。この「身内の金持ち」こそジャン・P・ゲティその人です。そしてこの金持ちと犯人の両者と戦うのは、三世の母親・ゲイルです。このように、本作は「強い女性VS強大な敵」といういつものリドリー・スコット作品でした。

 

 本作の最大の見所は、ゲティ氏のケチくささ。金を数えきれないくらい持っているくせに、「ムダ金は使わん」と言い放ち、ホテルでもルーム・サービスを使わず、自分で洗濯したりしてます。当然身代金など払いません。故に、ゲイルが払わせるために奔走するハメになるのです。

 

 この2人の駆け引きを観ているだけで引き付けられます。ですが、本作では、ゲティ氏のこのケチくささと他のシーンでのある描写で、ある種「この世の真理」ともいえるものが見えてきます。それは、「この世のものは全て金に換算できる」ということ。先に書いたとおり、ゲティ氏はルーム・サービスを使いません。その分の金を節約するためにです。これは裏を返せば、ルーム・サービスには、その分の価値があるということです。この世界で生きていくためには金が要ります。食べていくにも、娯楽を楽しむにも。そしてこういった「価値」は人間にも付けられます。それが身代金であり、中盤の売られた三世に付けられた値段なのです。

 

 ここで、我々がよく知る経済システムが浮かび上がってきます。資本主義です。そしてこのシステムを代表する存在として、ゲティ氏がいるのではないでしょうか。パンフレットによれば、1973年時点の彼の年収は、第4次中東戦争の影響もあって2580万ドルだったそうです。現在のレートで日本円に換算すると、約28億円です。繰り返しますが、年収です。冗談抜きで世界中の金を持っていたとしても不思議ではありません。本作はこの「資本主義というシステム」の中で女性が抗う話なのかなぁと思います。

 

 面白いのは、ゲティ氏に対するゲイルは、このシステム的な考えの外で動いている人物という点。金で換算する場面で奇想天外な発想をしたり、動機も「息子を取り戻す」という愛情です。最終的にそんな彼女は味方をつけ、ゲティ氏は孤独に死んでいったことは印象的です。ここまで観ると、彼も金に憑りつかれた人間なのかもしれません。

 

 また、ラストの切れ味も素晴らしかったです。全てが終わったかと思いきや、未だにゲティ氏の胸像がゲイルを見つめている。このシステムは、依然として残っていると感じ、ゾッとしたところでエンディング。いや、素晴らしいっす。

規格外ヒーロー・デッドプールの最大の反逆【デッドプール・キルズ・マーベルユニバース】感想

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著者:カレン・バン(ライター)、ダリバー・タラジッチ(アーティスト)

翻訳:小池顕久

発行所:ヴィレッジブックス

 

 

・前置きという名の言い訳

 2年前、私は「アメコミヒーロー映画」弱者でした。MCUすら何なのか知らなかったくらいです。そんなアメコミ映画に無関心な私の心の琴線に触れた映画。それが『デッドプール』でした。予告を観て、「なんか面白そうだぞ」と思ったので、生まれて初めて映画館でアメコミ映画を観ました。ちなみに、私にとっては本作は初IMAX作品でもあり、同時に初めて「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル(以後タマフル)」に感想メールを投稿した作品でもあります。つまり、本作は私にとって非常に思い出深い作品なのです。

 

 鑑賞して面白かったのは言うまでもありません。面白過ぎたのでBlu-ray買ったくらいです。このように、私はすっかり「デッドプール」の魅力に憑りつかれたわけで、原作の方も少し気になっていました。にもかかわらずここまで手が出なかったのは2つ理由がありました。1つは純粋に値段の問題。日本の漫画を買い慣れている身としては、1冊のページ数がほぼ同じでも値段が何倍もするので、買うのを躊躇していました。2つ目は合うかどうかの不安です。以前パラっと読んでみたときに、日本の漫画との違いに違和感を覚え、少し苦手意識を持ってしまっていました。

 

 しかし、タマフルでの光岡ミツ子さんの解説や、「映画秘宝」に載っているイラストを見ていくうちに徐々に心境が変化。そこへ今回の(アメコミの中では)リーズナブルな作品が出たし、デッドプールだしマーベルヒーローも結構出るみたいだからと、思い切って買ってみた次第です。

 

 

・本文

 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(以下IW)』公開時、デッドプール公式ツイッターは、こんなハッシュタグを付けてツイートしていました。「#俺ちゃん以外ガチ全滅」。見つけた当初はデッドプールらしい『IW』の公開に便乗した弄りだと思っていました。ですが、まさか『IW』公開より6年も前に、コミックでこれを実現していたとは思いませんでした。しかもデッドプール自ら。作品紹介にも載っていますが、本書は不死身の肉体を持つデッドプールが、「ある理由」からマーベル・ヒーロー(アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、スパイダーマンX-MEN、etc,etc...)をターミネーターよろしく追いかけ、殺して殺して殺しまくるというファンからしたら『IW』以上の絶望感に襲われるトラウマ・コミックなのです。

 

 では、私は読んでどう思ったのかというと、めっちゃ面白かった。デッドプールは本当にマーベルヒーローのほとんどと戦うわけですが、ページ数が99Pしかないので、1バトルにつき2,3Pだからテンポがめちゃくちゃ良く、サクサク読めます。各々のヒーローの殺し方もバラエティに富んでいて、デッドプールお得意の銃殺、斬殺はもちろん、爆殺や自らの不死性を活かしたごり押し戦法等々、読者を飽きさせません。

 

 何故、デッドプールはこのようなイカれた行動にでたのか。こういう場合、「復讐」というのが定番な気がしますが、今回は「ヒーローの解放」が目的です。「解放?殺しておいて?死んで心を解放しようとかそんなものか?」なんて考えてしまいます。が、そこはさすがはデッドプール。ココで言う「解放」とは、「会社や原作者の都合からの解放」という、メタ視点の極致みたいな意味です。日本の漫画でも、キャラが人気が出たから出番を増やそうとか、テコ入れのためにキャラを増やしたり死なせたり、かと思ったらやっぱり生きてたり、人気があるから引き延ばしが起こったりと、漫画の中のキャラは作者、そして出版社の都合に振り回されます。それはアメコミでも例外ではないようで、あっちでは時間軸の変更とかもやってるみたいですね。本書のデッドプールの行動は、そんな原作者や出版社の身勝手な都合からのヒーローの解放なのです。故に、彼の魔の手は常識外れすぎる人物にまで伸びます。ちょっと待って、俺、これが初めてのアメコミなんだよね。待ってくれよデップー。

 

 本書を読んで実感したのは、デッドプールというヒーローは、本当に「何でもあり」な規格外な存在なんだということ。上記のように内容(というか動機)はぶっ飛んでいますが、それを許容できるのは彼という存在があってこそだと思います。彼は、本当に何物にも縛られない唯一無二の存在だと強く実感できるコミックでした。そういう意味で、彼の魅力を堪能できる作品です。解説書も参考になります。

 

 

デッドプール・キルズ・マーベルユニバース 【限定生産・新装版】 (MARVEL)

デッドプール・キルズ・マーベルユニバース 【限定生産・新装版】 (MARVEL)