暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

この社会の「上」と「下」【パラサイト 半地下の家族】感想 ※ネタバレあり

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98点

 

 

 最近はちょっと忙しくて、映画は観ているのですが感想を書く時間があまりとれず、昨年分だけで10数本感想、今年に入ってから数えても9本の作品を鑑賞するも、感想が書けていません。ちょっとずつ数を減らしていこうと思っています。というわけで、今年鑑賞した作品の感想を初めて書きたいと思います。感想1本目にしてはやけにカロリーが高いなと思うのですが、作品は『パラサイト 半地下の家族』です。1月は素晴らしい作品が大量に公開されているのですけど、個人的には、本作は頭1つ抜けて素晴らしい作品でした。ちなみに、ポン・ジュノの作品を映画館で観るのはこれが初めてです。

 

 福沢諭吉は「天は人の上に人を作らず」と言いました。これは「学問のすすめ」に出てくる有名な文章です。諭吉は同書の冒頭で、「天は人間を平等に作った。だから人間は本来平等であるはずなのに、何故そうではないのか」と問い、その答えを「勉学をしているかの違い」としました。つまり、学がある人間は良い職に就け、お金を多く稼ぐことができる。しかし、学のない人間は諭吉曰く「心を用い、心配する」必要のない仕事に就くしかなく、そうなればお金を稼ぐことはできず、貧しくなるというのです。要は「勉強しろ。そうすれば良い職に就けてお金を稼ぎ、豊かになれる。人間は本来、平等なのだから」ということです。

 

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 日本では古くからこの考えが浸透し、昔は本当に勉強さえできれば、ワンチャン出世して、豊かになる事ができたそうです。そうですというのは、今はそう単純にはいかないからです。いくら勉強ができてもその家庭が貧乏だったりすれば大学に行くこともできない。大学に行けなければ良い職にも就けない。そうなれば給料ももらえない。貧困の中にいる人間は貧乏のままなのです。奨学金を借りてよしんば行けたとしても、卒業後に待っているのは奨学金の借金地獄ですし、そもそも大学に行っても就職できるかどうかも怪しい時代です。

 

 この流れは日本だけではありません。本作の舞台である、韓国も同じみたいです。昔は上述のような「計画」があれば何とか生活が上手くいったそうですが、アジア通貨危機IMFの介入があってから、韓国は極端な格差社会への道をひた走っているそうです。つまり、富める者は富み、貧困の最中の人間はそこから抜け出せないという、「上と下」の構造がはっきりと出来上がってしまったのです。天ではなく、社会が「人の上に人を」作ってしまっているのです。

 

 本作はこの構造をハッキリと可視化します。その舞台となるのが、「家」であり、「街」です。本作はこの家が本当に素晴らしい。インテリアが凄く凝っていて、それを観ているだけでも楽しめます。また、「金持ちのリアル」もきちんと反映されているそうなので、変な意味で勉強にもなりました。

 

 話が逸れましたが、本作は「家」と「街」で「上と下」をハッキリと描きます。主人公であるキム一家が暮らしているのは、街の下の方にある家の、更に下にある「半地下」です。家族は全員失業中で、ピザのケースを作ったりして日銭を稼ぎ、消毒が来ても「家の中が綺麗になるからいい」とか言って敢えて窓を閉めず、上の階のWi-Fiに勝手に接続したりと、極貧生活を営んでいます。翻って、キム家が「寄生」するパク家はキム家が住む町のさらに上に住んでいます。「人間以下」の位置にいるキム家からすれば、パク家は殿上人です。このキム家がパク家に「寄生」していく下りは一種ケイパーものの様相で、テンポも良くとても面白い。ここでこの家族に対して、「こんなに能力があるなら就職口なんてどっかにあるだろ」と思われるかもしれませんが、金もコネもない家族にこの熾烈な学歴社会で就職できる場所はないと思いますよ。

 

貧困クライシス 国民総「最底辺」社会

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 中盤までは貧乏一家が金持ち一家に寄生するケイパーものですが、中盤以降、パク家にある地下室のさらに下が出てきたことで、急展開、この「家」こそが格差社会の縮図なのだとハッキリします。つまり、「上」では金持ち一家が何にも気付かずに優雅な暮らしを送っていて、その「下」では貧乏人がひしめき合い、互いに互いの足を引っ張っているという構造をハッキリと可視化させます。残酷だなと感じたのはパク家の「下」に住んでいた「リスペクト!」のあのお方で、この社会の構造に慣れ切ってしまい、金持ちを勝手に「リスペクト!」しているのです。しかし悲しいかな、金持ちの人間は下々のことなど(悪意なく)意に介しません。それがあのモールス信号で、死が迫っている時でも何ら変わりません。下々の人間は気付かれずに死に、「上」の人間は普通に暮らしているのです。それをさらに規模を大きくしたのがあの大洪水で、あそこではこの構造がさらに拡大されて描かれます。

 

 苦しんでいる「下」の人間とそれに無頓着な「上」の人間。それはまるで、「別世界」のことのように。残酷な構造ですが、現代は「人の上に人を作っている」のです。それが最悪の形で現れたのが、終盤の凄惨な事件です。あそこでは「下」と「下」が互いに争い合い、「上」の人間は「下」ではなく、同じ「上」の心配しかしません。ラストのソン・ガンホの行動も、それまでの「匂い」の演出の積み重ねのおかげで、なるほどと思えるものです。ただ、ここで大切なのは、パク家はそんなに悪くないという点。あの騒動の最中にいたならば自分の子供を最優先させるのは当然だし、そもそもキム家が家族だということも知らないわけですから、あの対応は責められるべきものではないと思います。

 

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 しかし、それが故に、格差社会の残酷な構造が明らかにされます。それは「誰も悪くないのに互いに互いを憎しみあう」という分断の構造です。そしてそこでは本当の意味での悪である社会の格差という構造には立ち向かってはいかないという点も世の中の縮図だなと思いました。さらに、あの事件はおそらく「狂人の無差別殺人」として処理されるのかと思うと、よりやりきれない気分になります。この辺は昨年の大ヒット作『ジョーカー』を彷彿とさせます(階段が象徴的に使われている点も同じ)。

 

 他にも、全編画面がバシッと決まりまくってるなとか、パク・ソダムが最高に良いとか、凄まじいクオリティの映画であるにも関わらず、気取らずにギャグで外しにかかっている点が好印象とか、ドロップキックがなくて残念とかでも鑑賞後の感触はそんなに悪くないという口当たりの良さとか、色々と凄まじい映画でした。

 

 

1人の青年が、孤独の中で「ジョーカー」になる話。

inosuken.hatenablog.com

 

 イギリス版経済格差告発映画。

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困ったことがあったら、風に向かって寅さんを呼べばいい【男はつらいよ 50 お帰り、寅さん】感想

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75点

 

 

 1969年に第1作目が公開され、1995年まで制作、公開された誇張無しの国民的映画シリーズ、『男はつらいよ』。本作は、その幻に終わった50作目の作品です。私は実は学生時代にこのシリーズにハマったことがありまして、これまでの49作全てを鑑賞済みです。まさかリアルタイムでこのシリーズの最新作を観ることができるとはという驚きと一種の感慨を以て大晦日に鑑賞してきました。

 

 鑑賞してみて感じたことは、本作は山田洋次なりの『男はつらいよ』シリーズ全体の幕引き映画だということです。現在の映像に過去の映像を挿入することで、「寅さんの不在」を我々に印象付け、それと同時にこれまでシリーズを追ってきた観客に対する山田監督のメッセージが込められている作品でした。

 

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 本作を観て覚えるのは「違和感」です。まず冒頭。恒例の夢シークエンスの後にかかるあの主題歌を歌っているのは渥美清・・・ではなく、桑田佳祐。我々にはあの主題歌は渥美清の声で刷り込まれているので、凄まじい違和感なのです。そして続いて変わり果てた柴又。くるま屋はカフェになり、裏のタコ社長の工場はマンションになり、御前様は笹野高史になり、当然おいちゃん、おばちゃんはおらず、いるのは老いたさくらと博のみ。そして本編もシリーズらしくなく、全く笑えません。

 

 そしてその光景に愕然としていると、不意に挿入される過去作の映像。そこには我々が知っている、あの四角い顔が出てきます。寅さんです。やはり渥美清さんの存在感と演技は絶品であり、あの過去の映像シークエンスだけは面白く、笑わせてくれます。「ああ、やっぱり『男はつらいよ』はこうでなきゃ」と思った矢先、映像は現実に戻ります。そこは笑いがない空間です。

 

 本作はこの「違和感」をかなり意図的にやっています。現在は笑いが無く、過去の映像には笑いがあります。この違いは何なのかと言えば、渥美清の存在です。『男はつらいよ』は渥美清で持っているシリーズである、とはよく言われることですが、それは何故なのかというと、山田洋次監督の作家として本質的な点に関わってきます。ぷらすとの「山田洋次を語る」で得た知識なのですが、彼は喜劇の監督と見られていますけど、本当は生真面目で、本質的には暗い作品が多いらしいのです。だから平凡な役者を使うとその平凡さが出てしまい、面白くない作品になってしまいます。その点を一身に補ってくれたのが、渥美清の存在だったのです。『男はつらいよ』は彼が主演をしていたからこそ喜劇になったし、国民的なシリーズになったのだと思います。本作はこの渥美清の不在を逆手に取り、過去作の映像を用いることで「違和感」を作り出しています。

 

 

 この違和感により、我々はこう思い知らされるのです。「もう寅さんはいないんだ」と。だからこそ、あの笑いに満ちた過去が切なく感じられます。そしてそれ故に、満男は観客と気持ちを共有した存在として物語をリードしていきます。「ここに叔父さんがいてくれたら」。満男の、そしておそらくは観客全員の思いに対し、本作はこう答えます。「寅さんは、あなたの心の中にいる」と。今はもういないけど、これまでシリーズを観てきた人には、彼の記憶が生きている。だから困ったことがあったら、風に向かって彼の名を呼べばいいのです。そうして記憶の中に留めておくことで、寅さんは生き続けるし、現実に生きる私たちを助けてくれるのだと、本作は言います。そう考えると、満男が小説を書くというあのラストは、寅さんを世の中に別の形で「生かそう」としたのだと解釈できます。そしてこれは、寅さんを「フィクション」の存在にまで持っていくということで、山田監督が観客を『男はつらいよ』というフィクションから、現実へと帰したともとれると思います。

 

 以上のように本作は、観客を『男はつらいよ』という長いフィクションから現実に帰還させた監督なりの「幕引き映画」であったと思います。良い悪いは別にして、50作という壮大な物語を締めくくったという点で、感慨深くなる作品でした。

 

 

 現代の労働者はこんなにつらいんだよ、寅さん。

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 シリーズ完結作&冬興行を争った仲。

inosuken.hatenablog.com

 

2019年秋アニメ感想④【星合の空】

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 「ヤマノススメ」でお馴染みのエイトビット制作のオリジナルアニメーション。監督は『コードギアス 亡国のアキト』、『天空のエスカフローネ』の赤根和樹さん。実力のある監督が制作するオリジナル作品というのは、まぁ微妙なものもあったりしますが、監督の気合いが感じられる力作が多い印象があったこと、そして制作会社のエイトビットに関しては「ヤマノススメ」を作ったということで実績もあるという2つの理由から視聴を決めました。

 

 視聴してビックリしたのは、本作はただのテニスアニメではなかったこと。全体的なストーリーは「廃部寸前の弱小テニス部が奮起して成長していく」という王道なものですが、他のアニメとは一線を画している点もある作品だったのです。

 

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 衝撃は1話から襲ってきました。本編は全体的にクールな演出と気持ちのいいアニメーションの動き、そして眞紀と柊馬という性格が全く違う2人が信頼を結び、コンビになるという王道のストーリーと、極めて良い出来でした。「ここから彼らの物語が始まるのか」と思っていた矢先のCパート、DV元夫が部屋に押し入り暴力をふるいさらに金を奪っていくという衝撃の展開が起こったのです。そしてこれは眞紀の家庭だけかと思っていれば、何とこの作品、出てくる親が毒親ばかりばかりなのです。その程度は様々で、「自分の思い通りの道に進まなかったが故に息子に辛く当たる」という王道なものから過剰に息子に干渉するモンペア、息子を徹底的に嫌悪する親まで多岐にわたります。本作は作品全体に占めるこの毒親の比重が極めて高いのです。

 

 私はこの点について、アニメ作品の中では中々ない内容だなと思いました。というのは、今日制作されているアニメ作品には、「親」の要素が極めて希薄だからです。この手の青春アニメだと、問題とか葛藤は少年少女の間で生まれるもので、そこに「親」はほとんど関わってきません。仮に関わったとしても、役割は何らかの障害程度で、どのみち本筋とは微妙に逸れた役割でしかありません。しかし本作の場合、そこからさらに踏み込み、現実で起こっている限りの最悪な事例を見せつけてきます。ここで「親」の存在は障害でも人生の指南役でもなく、ただの「逃れられない恐怖」以外の何物でもありません。「家族」なのだから、未成年である彼らは庇護下に置かれるしかないのです。だから逃げようにも逃げられない。まさに、家族という地獄。

 

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 ここまで考えると、本作におけるテニス部の存在理由が明瞭になってきます。それは彼らにとっての安らぎの場所。学校が全体としては安心できない場所であるのは変わらず、未成年にとっての安全地帯である家も恐怖でしかない。そんな彼らにとって、仲間だけの、一種隔絶されたあの部活という空間は、唯一安心できる居場所なのです。

 

 こういう社会派的な側面を持っている本作ですが、青春スポーツものとしてももちろん面白いです。まずはテニス描写です。フォームが非常に正確に描かれ、そこからの動きも(種目は違えど)「はねバド!」とは違い、とても気持ちのいいものです。そして大まかなストーリーは弱小テニス部に眞紀という天賦の才を持つ初心者が加入し、もう諦めているテニス部メンバーと衝突しながら成長を促していくというもの。眞紀の天才っぷりは清々しいほどなので何か納得してしまいますし、諦めていたテニス部メンバーが眞紀に触発されてやる気を取り戻し、結束を強めていく姿は王道のそれです。強くなる過程もトライ&エラーを繰り返すなどの描写を丁寧に入れており、好感が持てます。

 

 そしてこの「諦めている」点も重要なのかなと思っています。5話で眞紀の父親がこんなことを言います。「努力したって無駄だ。お前は俺の子だから俺みたいになる」と。テニス部のメンバーは子どもです。あの父親とは違い、まだまだ可能性があります。「諦めていた」彼らは再起し、強くなり始めています。彼らの姿があの父親と対比されている気がするのです。つまり本作は、テニス部しか居場所のない少年少女達が互いに寄り添いあって諦めずに成長していく物語なのだと思います。続編があれば是非見たいと思っています。

 

 

 バドミントンアニメ。こっちの動きも凄い。

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 最近面白かったスポーツもの。

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この社会から、彼らを失わせたものは何か【家族を想うとき】感想

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95点

 

 

 イギリスの名監督、ケン・ローチが、前作の『私は、ダニエル・ブレイク』での引退宣言を撤回して作り上げた作品。私はケン・ローチ作品を観たことがないので、本作の上映はとてもいい機会だなと思って鑑賞した次第です。

 

 鑑賞後に分かったのですが、ケン・ローチ監督は『私は、ダニエル・ブレイク』のときも引退宣言を撤回していたそうです。つまり今回は2回目の引退撤回。何が彼をここまで動かすのか。それは、社会が労働者にとって悪い方向に変わっていっているからなのだと思います。本作からは、ケン・ローチのそうした想いと同時に、この搾取構造の上に成り立っている社会への、彼自身の怒りが感じられる作品でした。

 

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 本作は言ってしまえば、辛い映画です。かなりエグいと言ってもいい。というのも、本作は現代資本主義社会における搾取の構造と、そしてそれによって翻弄される「普通の人々」が営む家庭がどのようにして崩壊していくのかが克明に描かれている作品だからです。これは本作の英語タイトルからも表れています。「Sorry We Missed You」。これは主人公が働く宅配業者の不在通知書に書かれていることで、同時に「あなたを失ってしまって残念です」という「普通の家族」が失われていくことの意味も含んでいます。

 

 本作はリッキーが宅配事業者、マロニーと契約を結ぶことから始まります。ここでのマロニーの説明がまず酷くて、とにかく「良いこと」ばかりを言うわけです。曰く「頑張れば事業を拡大できる」だの「頑張ればその分だけ稼げる」だの「個人事業契約」だのです。この甘言によってリッキーは契約を結ぶのですが、これは要するに個人事業主として契約して雇用費用を浮かそうとする、いわば搾取のカラクリであって、全くもって夢物語です。そういい方向になど行くはずがない。事実、リッキーは最初こそ「1年働いて慣れてきたら事業を拡大する」とか言っていましたが、実際に働いてみれば過剰すぎる量の宅配物と厳しすぎるノルマにより、毎日長時間労働を強いられています。長時間労働をしても「個人事業契約」なので残業代などもちろんつきません。彼は徐々に精神をすり減らしていきます。

 

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

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 リッキーの妻、アビーは介護の現場で働いています。アビーの介護は献身的で、被介護者にも好かれているのですが、彼女も末端の人間で、現場の訴えを上の人間に聞いてもらえません。時間刻みで酷使され、同じく長時間労働を強いられています。

 

 両親ともども長時間労働なので、子どもの面倒など見られるはずもありません。セブは思春期特有の反抗期と、ロールモデルがいないことから来る未来への絶望感から反抗的で問題を起こし、娘のライザは利発な娘であるが故に色々と察して内に溜め込んでいる気配があります。本作は長時間労働を強いられているが故に彼ら彼女らのことが見えず、擦れ違いが起こり、家族が崩壊していく様を見せていくのです。

 

 ここで描かれていることは何かというと、本来、「家族を養うため」もしくは「自分のため」にするはずの労働で、家族を、そして自分自身を崩壊させてしまうというこの社会の絶望的な搾取構造です。しかし、憤っているばかりはいられません、何故なら、このような状況を作っているのは、我々も同罪だということです。誰しもAmazonのサービスを使ったことがあると思います。私も良く使います。最近は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のBDが届いたばかりです。こうした我々の需要に応える形で本作のようなサービスは作られたわけで、需要を生み出した我々も立派な加害者なのだ、という点を思い起こさせる点も、本作の素晴らしい点だと思います。

 

 さらに絶望的な点は、このような境遇の人々に対して、社会が手を差しのべないということ。それどころか、こういった人々に対し、「自己責任」や「努力不足」という最強の言葉を以て発言を封じ込めようとします。映画を観ればわかると思いますが、リッキーが何故このような状況に陥ったのかと言えば、それはリーマン・ショックが原因。全然彼のせいではないのです。日本でも竹中平蔵とかインフルエンサー共が何か言ってますけど、就職氷河期世代やリーマン・ショック期に就活をした人間、そして今同じような境遇で苦しんでいる人に対してもこの言葉を使うのは無神経というか、ぶっちゃけ、言ってる奴はクズ認定していいと思う。そして、そういう人間に対して「チャンス」と甘い言葉で搾取するのです。この構造をケン・ローチは怒りを以て告発しているのです。私も就活に失敗してこういうことを言われたこともあったので、その時の事を思い出しましたよ(この辺を書いてたら長くなるので割愛)。

 

平成の教訓 改革と愚策の30年 (PHP新書)

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 しかし、ケン・ローチはこのようなことを、重々しいトーンではなく、極めて労働者に近い目線で、軽やかに、ユーモアを交えて語ります。サッカーの下りは爆笑ポイントですし、一家団欒は胸が温かくなります。まぁ、こうした普遍的な家族をユーモラスに描くことで、より普遍性が増し、「他人事」では無くなってしまうというのも、恐ろしい点ではあるのですけど。冒頭の喧嘩しかり、「明日は我が身」なのです。そうではないのは、上層部にいる、搾取構造を作り出している人間だけなのです。

 

 以上のように、本作は社会の搾取構造を暴き出し、同時にその構造が如何にして労働者の生活を崩壊させていくのかを克明に描き出しています。我々も無関係ではありません。いつ切り捨てられるか分からないサラリーマンである我々にとって、本作は必見の作品だと思います。

 

 

パンフで対談もしていた、是枝監督の作品。

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作品テーマは微妙に違うけど。

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2019年秋アニメ感想③【BEASTARS】

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 現在、週刊少年チャンピオンにて連載中の漫画が原作。原作者は板垣巴留先生。名字から分かるとおり、この方は同じくチャンピオンの看板漫画、「刃牙」シリーズの産みの親、板垣恵介先生の娘さんだそう。父親は「人類最強」なほぼ人外格闘漫画を描いているわけですが、娘さんの方はまるで違う、ヒューマン(アニマル?)ドラマを世に送り出してきました。私は原作読んでいて(といっても8巻くらいまでだけど)、制作が「宝石の国」のオレンジということで視聴を決めました。

 

 本作を見てまず目を引くのが3DCGで描かれたセルルックのキャラクターです。オレンジは「宝石の国」でも宝石のキャラクターを質感まで完璧に表現して描いていました。本作でもその力は遺憾なく発揮されていて、「動物のキャラクター」を違和感無く画面に落とし込んでいます。「宝石の国」では宝石の質感が表現されましたが、本作では毛並みの表現がよかったです。本作のように「動物」の中における種族が極めて重要な作品では、その「動物感」をどのように描くかは中々大切な要素だと思います。そして人間にあって動物に特徴的なものが毛並み。手描きではかなりの労力を要するであろうこの毛並みを、オレンジはお得意の3DCGによってクリアしています。

 

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 「動物が人のように生きている」という設定から真っ先に思い出されるのは、2016年に公開された傑作映画『ズートピア』です。あの作品は動物から連想されるイメージを人間社会における偏見や差別の問題と結びつけ、多様な動物が暮らす国、ズートピアを「人種のサラダボウル」アメリカになぞらえ、多様性の大切さをを訴えた作品でした。

 

 本作で描かれていることも、基本的には『ズートピア』と同じです(念のため書いておくと、原作の連載開始は『ズートピア』と同じ時期なのでパクりではないと思います)。ただ、『ズートピア』よりは本作はTVアニメということで尺があるため、そこに暮らす動物の苦悩をより具体的に描いています。「食殺」が起これば肉食は白い目で見られるし、「肉食獣」は「強者」であるが故に偏見にさらされ、生きにくさを感じています。本作の主人公であるレゴシはハイイロオオカミに生まれたばかりに優しい性格であるにも関わらず避けられており、それに諦めがついています。そしてレゴシと対比されるアカシカのルイは圧倒的な才能で学園内で輝く存在でありながら、「被捕食者」という存在であることに強烈なコンプレックスを抱いています。また、ヒロインであるハルも「ウサギ」という「被捕食者」であり、そのイメージから来る面倒事を抱えています。彼らのこうした「違い」が人間社会における人種的、外見的な偏見や差別と直結しているメタファーであるという点は誰もが分かると思います。

 

 

 そしてこの点が『ズートピア』と違う点なのですが、本作の場合、話の軸に「恋愛」があるため、上述のような動物的な偏見、差別の問題がそのまま男女関係の話にまで繋がってくるのです。それが最も象徴的に表れているのがレゴシとハルの関係で、男性であるレゴシが「捕食者」であり、女性であるハルが「被捕食者」なのです。つまり、「男はオオカミなのよ」を地で行く内容なわけであり、非常に印象深いです。ただ、本作はここから2人の関係を発展させ、「草食と肉食が互いに互いのことを理解し合う(=男性と女性が理解し合う)」ことまで描き出しており、2人の関係という非常にミニマムな世界でですが、『ズートピア』と同じようなことを、恋愛を使ってやってのけているのです。この点は1話で提示した問題を最終話で回収したりしていて、まとまりも良かったと思います。

 

 以上のように本作は、動物の世界を用い、『ズートピア』よろしく多様性世界における苦悩や葛藤をあまり隠すことなく描き出した作品であり、3DCGを用いた映像も相まって、とても見応えのある作品でした。2期もあるそうなので、見ようと思います。

 

 

1話だけですが、同じオレンジ制作作品です。

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 3DCGの劇場版作品。制作はグラフィニカ

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2019年新作映画ベスト30&ワースト

 皆様。こんばんは。いーちゃんです。2019年が終わり、2020年が始まりました。昨年も色々とありましたが、たくさん映画を鑑賞することができました。昨年鑑賞した映画は劇場、配信を入れて新作のみで103本。今回はこの中から特によかった作品、つまりベスト作品を発表いたします。本当は去年みたく年始に発表できればよかったのですけど、昨年は大晦日まで新作を鑑賞していたのと、資格取得の勉強の関係でどうにもブログが後回しになってしまい、ここまで発表が遅くなってしまいました。

 

 今年も昨年と同じく、ベスト作品は30本を発表したいと思います。昨年は10本ずつ、3つの記事に分けて発表しましたが、今年は1つの記事にまとめて発表したいと思います。昨年、非常に煩わしいなと感じたので。読んでくださった皆様には煩わしい思いをさせて申し訳ありませんでした。そして今年はベスト以外に、ワースト作品があります。昨年も「相対的なワースト」はあったのですけど、別に「ワースト」っていうほどの作品でもなかったので載せませんでしたが、今年は非常に失望した作品が2つあったので、発表することにしました。

 

 記事の形式としては、ベスト30の中から20本を発表し、その後にベスト10を発表したいと思います。後日、全作品ランキングもアップしたいと思っています。では、行ってみよう!

 

 

30位『ファースト・マン

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  デイミアン・チャゼルの新作が30位です。『ラ・ラ・ランド』は乗れなかった私ですが、本作は他の人が脚本というわけかチャゼルの色が薄く、それでも彼の作家性を感じさせるもので、そのブレなさに感嘆しました。

 

 

29位『失くした体』

 現状未アップ作品その1。「手」が主人公という、水木しげる先生のようなアニメーション作品。クールなタッチで喪失と再生を描いている点に痺れました。感想はなるべく早くアップします。

 

 

28位『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形』

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  京アニの最新作が28位にランクイン。作品の根幹のテーマを別の語り口から語り直した、「外伝」と呼ぶにふさわしい感動作。

 

 

27位『きみと、波にのれたら』

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 湯浅政明の新作が27位にランクイン。湯浅政明らしくない直球のラブコメですが、これまでの彼の変遷を考えれば納得の作品です。

 

 

26位『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』

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  MCUフェイズ4最終作が26位。『エンドゲーム』の後に挿入することで、膨らみきった世界観を元に戻した素晴らしい作品。MCUのシリーズ構成力はさすがです。

 

 

25位『ジョン・ウィック パラベラム』

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 『ジョン・ウィック』シリーズ3作目。前作から話が1歩も進んでいませんが、アクションはかなりバリエーションが増え、楽しませてもらいました。

 

 

24位『バイス

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 アメリカ式政治風刺ブラックコメディ、24位。ハチャメチャな構成ながらも、ブッシュ時代の闇を堂々と抉り出した手腕は見事。

 

 

23位『海獣の子供

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  五十嵐大介先生の画を完全再現し、抽象的なSFである原作をジュブナイルとして描いた手腕に感服。そして美麗なアニメーションの洪水にただただ眼福な映画でした。

 

 

22位『よこがお』

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  深田晃司監督の最新作、22位にランクイン。映像表現が研ぎ澄まされている作品で、筒井真理子さんの力を存分に観られる作品でした。ただ、後味は相変わらず悪い。

 

 

21位『存在のない子供たち』

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  レバノンで起こっている悲劇を克明に描き出した傑作が21位に。ただ、これが対岸の火事とも言えないのが恐ろしい点。

 

 

20位『運び屋』

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  イーストウッドの、自分自身への落とし前をつけた映画が20位。さりげなくこのような映画を作れるイーストウッドは、やっぱり凄い。

 

 

19位『エイス・グレード 最高にクールな私へ』

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  SNS地獄の中で輝こうともがいている女の子の映画が19位。とにかくケイラの「イケてない」感じが最高でした。

 

 

18位『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

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 フランス映画の傑作、18位。往年の冒険活劇を彷彿とさせる映画で、観ている間、最高にワクワクしました。

 

 

17位『凪待ち』

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 白石和彌監督、香取慎吾主演の作品が17位。ダメ人間の再生を復興にのせて描いた作品でした。

 

 

16位『バーニング 劇場版』

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 イ・チャンドン監督作が16位。初めてのイ・チャンドン。世界そのものが曖昧ながら、貧困、格差問題を描いた作品。ラストも含めて好きです。

 

 

15位『トイ・ストーリー4』

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 シリーズ最大の問題作、15位にランクイン。未だに自分の中で結論が出ませんが、シリーズを通してでは必要な作品だったと思います。

 

 

14位『アクアマン』

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 『バーフバリ』と並ぶ、「王」の誕生作、14位。エンターテイメントとして完璧な1本だったと思います。なのでこの順位。

 

 

13位『羅小黒戦記』

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 中国製アニメーションの傑作、13位。日本アニメのルールに則って作られており、アクションシーンは快楽の連続。

 

 

12位『天気の子』

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 2019年No.1ヒット作、12位。本作で新海誠は興行的な意味でネクスト・宮崎となりました。しかし、新海誠監督の素晴らしい点は、自分の色を失わず、時代に即したテーマを描いた点だと思っています。

 

 

11位『宮本から君へ』

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 新井英樹先生原作の、真っ直ぐすぎる男、宮本の物語、11位。「自分に嘘をつかない生き方をする」これは『ロッキー』にも通じることだと思います。

 

 

30位~11位を振り返って

 さて、ここまでランキングを発表してきました。ここまでのランキングは言うなれば「ベスト10には入れなかったけど、ベストとして紹介したい」という作品たちです。このブログを読んでくださっている方で、最も驚くであろう作品は、『トイ・ストーリー4』だと思います。あれだけ「混乱している」とか書いておいて15位(『バーニング 劇場版』より上!)ですからね。やっぱり、シリーズを追ってきた身としてはウッディの門出は祝ってやりたいですから。

 

 そして何よりも、アニメ映画の豊作ぶりです。ここまでで8作品ランクインしています。しかも日本のアニメ映画や、ディズニー、ピクサー作品だけではなく、多種多様な国の作品が公開されたことも特徴かなと思います。そしてそのどれもが素晴らしい。「アニメは日本だけではない」ことを突きつけられた気分でした。日本のアニメ映画は『天気の子』と『プロメア』以外は興行的に上手くいっていないらしく、悲しい限りです。もっと観られても良いと思うんだよなぁ。

 

 後はやはり邦画の底力ですね。興行的には当たらなかったのですけど、質的には素晴らしい作品が多かったと思います。しかもそう言った作品がインディーズでも出てきている。まだまだ課題はあると思いますけど、日本映画の未来が少しだけ明るく感じられました。

 

 さて、長々と書いてしまいました。遂にベスト10の発表です!

 

 

 

10位『蜜蜂と遠雷

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 石川慶監督の最新作が10位にランクイン。あの原作を「映画」にした見事な手腕に感動しました。しかも音楽や俳優、セットなどの気合の入りようが凄まじく、このような作品が東宝という大手が配給したという事実も良いなと思いました。

 

 

9位『家族を想うとき』

 ケン・ローチ監督の怒りの最新作、9位。そしてブログ未アップ。早急にアップします。生きるための労働が、労働者から魂と尊厳を奪い取っている過酷な現実を克明に、しかし軽いタッチで描き出した傑作です。全世界の人間が観るべきだと思います。

 

 

8位『ブラック・クランズマン』

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 スパイク・リー最新作が8位にランクイン。映画が生み出した現実の歪みを、映画の力を以て正す。その精神に感動しました。潜入捜査ものとしても素晴らしかったです。

 

 

7位『アベンジャーズ/エンドゲーム』

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 MCU最新作にして、11年の集大成、7位。これは絶対に入れようと思っていました。1つの「終わり」をここまで綺麗にやってのけた作品は中々ありません。『スター・ウォーズ』の惨劇を見れば、これがどれほど偉大なことかが分かります。

 

 

6位『プロメア』

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 『キルラキル』『天元突破グレンラガン』のスタッフが結集して作り上げた完全燃焼アニメーション。2時間の中で上記2作品の内容をやってしまうという怒涛の展開が続く作品。その超展開が心地よく、中毒性がある作品で、いつの間にかハマっていました。

 

 

5位『マリッジストーリー』

 未アップ作品。キャスト、美術、撮影、全てが素晴らしかった。離婚の話なんだけど、『マリッジストーリー』なのが本当に素晴らしかったです。愛はルールに縛られるものではないのです。なるべく早くアップします。

 

 

4位『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

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 タランティーノ監督第9作、4位にランクイン。ハリウッドの悲劇を塗り替え、さらにハリウッドに生きた映画人全てを「生きた」存在にした作品。タランティーノ作品として総決算的な意味合いを持つ作品でもありました。

 

 

3位『アイリッシュマン』

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 マーティン・スコセッシ監督の最新作にして、ギャング映画の総決算、3位。複雑な構成を持ちながらも見やすい編集と、濃密な画面設計、そして全盛期を過ぎた人間達の落日の物語。この時代にこの作品が観られたことに感謝したいです。

 

 

2位『ジョーカー』

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 2019年を席巻したDC映画、第2位。観た人間を「悪」に共感させるという、本当にジョーカーの企みのような映画でした。個人的な経験上、とても共感できる内容でした。

 

 

1位『スパイダーマン:スパイダーバース』

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 全てにおいて画期的なアニメーション、第1位。その豊穣というか圧倒的な情報量の前にただただ圧倒された作品でしたが、私が感動したのがその内容。「勇気さえあれば、誰でもヒーローになれる」という『スパイダーマン』として、そしてその中にある石ノ森章太郎イズムが最高でした。『ジョーカー』と対になる内容なので1位にしました。

 

 

 ベスト10総括

 ベスト10を並べてみたら、アメリカ映画ばっかになりました。アメリカ映画以外は邦画が2本、イギリス映画が1本だけ。しかも邦画は実写とアニメが1作品ずつ。これは邦画が弱かったというより、アメリカ映画が強すぎた感があります。個人的には凄まじい作品ばかりでした。中でもトップ3は特に素晴らしく、個人的にはどれも1位で良いです。1位と2位の差はせめて前向きな気持ちでいたいという個人的な感情です。

 

 

 

ワースト作品

 何と、今年はワースト作品があります。基本的に観る映画は選んでいるし、「ワースト」というほどダメだなと感じる作品はあまりないのですが、今年は2本失望した作品がありました。では、発表します。

 

 

ワースト2スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

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  ワースト2は、『スター・ウォーズ』の完結篇。『フォースの覚醒』で見せた、「新たな世代の物語を見せる」という志はだいぶ低くなり、ただ「終わらせる」ことだけに終始した作品。その志の低さに失望させられました。

 

 

ワースト1『バースデー・ワンダーランド』

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 ワースト1は、原恵一監督最新作。こちらは純粋に詰まらない。描かれていることも「何じゃそりゃ」って感じですし、「原恵一がこんなものを作るのか」と愕然とし、その点に失望させられました。

 

 

 以上、ベスト30&ワースト作品でした。全作品ランキングも後日アップしたいと思います。今年も、良い映画と会えることを願います。

リアル路線のダーク・ファンタジー【ボーダー 二つの世界】感想

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80点

 

 

 初めてのスウェーデン映画。監督は本作が長篇2作目の監督作となるアリ・アッバシ。公開前から随所で話題だったので気になり、公開初日に有楽町で鑑賞してきました。ちなみに、劇場はかなり埋まっていました。

 

 本作に関する情報はなるべく入れずに観たので、最初の1時間は困惑しました。何の映画か、よく分からなかったからです。税関で働いているティーナは、その容姿故か、孤独を感じて生きているということは何となく分かりましたけど、そんなティーナの日常を淡々と映していくだけなので、物語がどこに向かっているのかがさっぱり分からなかったのです。

 

 しかし、中盤で、ティーナはドワーフであるという衝撃的な真実が明らかになり、視界が一気に開けた気がしました。つまり本作は、超リアル志向のファンタジーであると同時に、今年に世の中を席巻した『ジョーカー』や、その反転的作品『すみっコぐらし』と似たテーマを扱った寓話的な作品なのです。

 

Joker (Original Soundtrack)

Joker (Original Soundtrack)

  • アーティスト:Hildur Guonadottir
  • 出版社/メーカー: Watertower Music
  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: CD
 

 

 寓意性としては、孤独と、ドワーフがたどった歴史に見出すことができます。ティーナは体のつくりが人間とは違い、容姿も醜い。それ故、「自分の居場所がどこにもない」という孤独を抱えています。だからこそ、自分と本当の意味での「同族」を見つけたあの瞬間に彼女は自身のアイデンティティを獲得するのです。

 

 そして歴史。ドワーフは過去に人間に迫害されていた事実があり、今では少数がひっそりと暮らしているのみらしい。彼女は人間に育てられましたから、自身の種族の敵に育てられていたわけです。ここでも、彼女の「孤独」が見えます。余談ですが、この点を考えると、タイトルの「ボーダー」の意味するところが分かってきますし、ティーナが税関という「境界」で働いているという点も示唆的です。

 

 さて、これら2つは、現実世界にも置き換えることができます。1つ目の「孤独」は先にあげた『ジョーカー』や『すみっコぐらし』と同じものです。「自分はこの世界で1人かもしれない」という漠然とした不安に対し、1人でも「仲間」と思える存在がいれば希望になるものです。ティーナにとっては、ヴォーレ、及びどこかにいる同胞がそうだったのだと思います。

 

 2つ目の差別と迫害については言わずもがなです。近世以降、世界各地で起こった歴史とまるで同じです。本作はそれをドワーフという空想上の存在に託し、迫害の被害者がそこで生きる孤独や、生き残りの子孫の復讐といった負の連鎖、葛藤を描き出しているのです。

 

 ラストでは、「人間」を選択したティーナですが、ヴォーレから送られてきたものから、彼女は希望を得たはずです。「この世界には、自分と同じ存在がいる。私は1人じゃない」と、そう思えただろうから。

 

 

似たようなテーマの作品。アーサーにも仲間がいれば・・・。

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 『ジョーカー』ハッピーエンド版。

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