暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

良い点もあるが、致命的な演出の弱さが問題「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(2023年版)」の感想

 

はじめに

 週刊少年ジャンプにて、1994年から1999年にかけて連載されていた原作をTVアニメ化。1996年から放送されたTVアニメ(以後、平成版)の続編ではなく、東京編から仕切り直してアニメ化されており、スタッフ、キャストは総入れ替えとなっている。制作は「はねバド!」や「東京卍リベンジャーズ」のライデンフィルム。監督は「ストレイク・ザ・ブラッド」の山本秀世、キャラクターデザインを「輪るピングドラム」などの西位輝美、シリーズ構成を倉田英之と黒崎薫が務める。尚、原作者の和月伸宏は監修としてガッツリ関わっている。
 
 私はリアルタイム世代ではないが、原作は大好きで、完全版で全巻揃えているし、CSでアニメシリーズは全て見ている(そう、あのとんでもない「新京都篇」も見ている)。そんな私なので、再アニメ化の報を聞いたときは純粋に嬉しかった。スタッフ総入れ替えで、しかも制作をライデンフィルムに変更して「東京編」から作り直すと聞いたときは少し不安にもなった。しかし、和月先生の全面監修があり、アニプレックスもかなり気合を入れてプロモーションしてるし、ライデンフィルムは凡庸な作品も多いけど、「はねバド!」と「よふかしのうた」、「無限の住人-IMMORTAL-」は良かったし、それに最近のジャンプアニメの勢いもあるので、一応期待はしていた。
 
 しかし、全話見終えた私の率直な感想を述べると、「特別酷いわけでもないが、特筆するほど良いわけでもない(微妙とも言う)」であった。原作者自らが監修したという原作の再構成は悪くないし、新キャストも熱演している。アクションも頑張っている。しかし、演出が圧倒的に弱く、実に味気ない出来になってしまっているのだ。この思いを誰かと共有したい・・・と思ってネットを漁ってても誰も話題にしてない。リアルでも見てる人がいない(話題作だけ見てる友人に話を振ったら、「え!?今、るろ剣やってるの!?」って反応で泣いた)。これはもう、私が記事を書くしかない!という使命感に駆られ、本記事を執筆した次第。ということで、本記事では、本作の「るろうに剣心」という作品のなかでの立ち位置を述べたうえで、良かった点、悪かった点を検討したいと考えている。
 

本作の立ち位置

 本作は、原作で言うところの東京編~京都編序盤(第一幕~第五十七幕)に、2012年に週刊少年ジャンプにて掲載された「第零幕」を加えて構成されている。連載と同時並行で放送されていた平成版はアニメオリジナルエピソードが多く、原作のエピソードでも大胆な改変が加えられていたが、本作は基本的に原作に忠実。ただし、本作は前述の通り、和月先生自らが監修して原作の補完、再構成を行っている。
 
 「るろうに剣心」はこれまで様々な媒体で展開されており、当然それぞれに独自のアレンジが加えられている。また、「第零幕」や志々雄の過去編である「裏幕」、セルフリメイク作である「キネマ版」など、和月先生自らが執筆したものもある。これらについて、和月先生は対談で「マルチバース」を例えに出し、全てがパラレルワールドで存在している、としている。この点で、本作は「るろうに剣心」の「2度目のアニメ化」であると同時に、「アニメ るろうに剣心-令和版-」とも言える、また新たな「マルチバース」に位置する作品なのだと思う(だから後年、『スパイダーバース』ならぬ『るろ剣バース』が作られる可能性も微レ存。いや、多分ない)。つまり本作は、厳密に言えば、「原作準拠」のアニメ化ではないのである。
 

良かった点

 本作の良かった点としては、まず、和月先生自らが監修した「原作の再構築」だと思う。原作の補完はもちろん、2-3話(原作二~四幕)のように大胆に構成を変えているところがあり、後年考えた設定なども盛り込まれていて、これまでのメディアミックスの設定を統合しようとしたことが伺える。また、再構成されたことで、週刊連載故にページ数の関係で描けなかった点や和月先生自身が描写不足と感じていた(であろう)点も補完され、逆に不要と感じた点は削られている。この取捨選択により、「るろうに剣心」が持つテーマが見えやすくなっていると思った。
 
 「るろうに剣心」という作品は、緋村剣心が人斬りと流浪人の狭間で揺れ動きながらも、「不殺」の信念のもと目の前に映る人々を護る物語で、その両者の危うさが常に描かれている。剣心が戦うのは、刃衛は自身のあり得たかもしれない未来であり、蒼紫は幕末の亡霊であり、雷十太では「強さ」に焦点が当てられていた。そして、満を持して出てくる斎藤との闘いで、自身の中の人斬りを自覚し、薫のもとを去っていく、という構成は、1つの結末としてとてもよくまとまっているし、よりくっきりしたと思う。
 
 また、アクションも頑張っている。そりゃ「鬼滅」や「呪術」のようなものを期待すると大きな肩透かしをくらうが、これに関してはあちらがおかしいのであり、TVアニメのアクションなどはこのくらいだろう。・・・うん、そう!このくらい!!特に、斬左編と黒笠編のアクションは中々良かったのではないだろうか。斎藤との闘いについては、正直、平成版とは勝負になっていないが・・・。細かいことを書くと、本作では剣戟の音が結構凝っていたりする。
 

悪い点

 以上、2点が本作の良い点。そしてここからは、「悪い点」である。本作に関しては、とにかく演出である。全体的に実に味気ない。ここからは、原作と、京都編の序盤に関しては平成版との比較をしつつ、検証していきたい。尚、ここからは内容が内容なので、個人的な感想がかなり入ってくるので、異論がある人もいると思うが、ご容赦願いたい。
 
 本作を見ていて感じるのは、どこか事務的な感じだ。普通、アニメなり映画なりを見ていれば、キャラに感情移入し、ストーリーに心を揺さぶられたりするもので、演出は視聴者をそう誘導する役割がある。本作に関してはあまりそれがなく、ストーリーだけが淡々と進んでいく。私はこの「誘導」が上手くいっていない印象を受けた。具体的に見ていく。
 

演出の弱さ(「十~十三話」を参考に)

 まず、第十話「動く理由」。終盤の恵を救出に行く直前のやり取り。友人を殺されたことで恵を助けることを拒んでいた左之助が、剣心に諭され彼女の救出を決める重要なシーン。左之助の心境の変化を十分描けていないと感じた。それは単純で、剣心に諭された後の左之助の表情のカット。原作では、背景を飛ばして左之助自身の色を消して表現していたが、本作では1カット、ハッとした表情を入れただけ。これでは「意味」は通じるが、視聴者に納得させるくらいのインパクトは無いと感じた。
 
 また、第十三話の「死闘の果て」で、恵が自死を決意し、左之助に止められる下り。剣心たちが入ってくる→恵が自死を決意の流れも今いち汲み取りづらくなっている。原作ではこの間に恵の表情を1コマ入れて、それによって、恵が安堵しつつも、剣心たちを危険にさらしたことを自覚したということを理解させる構成になっていたが、本作では恵の表情をカット。原作にあったこの流れが消えてしまった。後、同じく十三話の観柳への剣心怒りの一撃も、少し引いたカットでやってしまっていて、迫力がなく、「ちょっと強く殴っただけ」という印象になっている(平成版では背景を飛ばして、「特殊な一撃」を強調していた)。
 
 具体的には上記2点を挙げたが、本作は全体的に、キャラの表情のカットが入ったほうが良いと思われる個所で入っていなかったり、そうでなくても全体的に間が無かったり、もう1つ外連味を加えてもいいのでは?と思われたりして、原作にあった面白さが損なわれている。
 

平成版との比較(二十二話~二十四話)

 極めつけは第二十二話~二十四話。平成版でも傑作と言われているエピソードであるが、こちらに関しては、始めにも書いたが、比較するのも不憫になるレベルの差である。しかし、同じく「原作に準拠している」という点で、両者を比較することで、本作に足りない点が見えてくる。ここでは、剣心と斎藤の激闘を中心にして比較したい。
 
 平成版では、剣心が抜刀斎に戻っていく過程が丁寧に描写されている。髪がほどける、瞳の色が変わるなどの画的な描写を積み重ね、BGMがそれを盛り上げる。そして剣心の「次は貴様の首を飛ばす」という台詞でかかる予告編のBGM。あれで、もう取り返しのつかないところまで来てしまった、という悲壮感と、バトルものの高揚感を同時に感じられる。実に見事である。
 
 本作ではどうか。剣心が抜刀斎に立ち戻っていく過程は描かれはするものの、画的な変更点は剣心の目が微妙に鋭くなったのと、後は斉藤壮馬さんの熱演くらいで、平成版のように濃密な描写はされていない。つまり、また「意味は分かるが、納得はできない」という状態である。
 
 また、二十四話の薫との別れについても、平成版とは雲泥の差がある。平成版はそもそも、原作からアニメにするにあたって、原作から描写を追加し、薫の心情を丁寧に描いている。そしてクラシックをBGMにしたあの美しい別れに繋がり、我々の感情を掻き立てる。何度見ても見事だと思う。平成版は全体的に、漫画からアニメにするにあたり、どのようにすれば原作のエッセンスを表現できるのか、を十分に検討した形跡がある。
 
 しかし、本作は、そもそも原作通りではあるものの、薫の心情の積み重ねがまるでできておらず、しかもBGMに主題歌をかけるという、申し訳ないが、あまりにも愚かしい演出がなされている。馬鹿か。
 
 他にも、平成版で斎藤が神谷道場に入るシーンで「敷居をまたぐ」ことが強調されていたのに対し、本作ではそういうカットがまるで無いから「侵入」感が無いとか、左之助との闘いで斎藤はしゃがんでいるが、仕込み刀を背中に隠してるのにどうやってるんだとか(平成版では中腰)、つーか、斎藤の牙突、柄尻持ってないじゃん!とか、剣心が自分を殴って流浪人に戻るシーンも、合間に薫たちや、拳のカットとかを入れた方がいいのに(平成版では入れていた)、割ってないから今いち伝わりづらいとか、時代考証とかは頑張っているのだろうが、それ以外の、根本的な、演出的なところが全然弱い。
 

悪い点 総括

 演出とは、視聴者を誘導することである。そのために、カットとカットをどう繋げるか、そして、BGMや色彩、カメラワーク、アニメーターによる作画を如何に行うかを計算し、組み立てていくものだと思う。平成版はこの点がかなり周到に行われていた。しかし、本作は、上述のように、漫画をアニメにするにあたり平成版ほど考慮を重ねた様子があまりうかがえず、結果、描かれることが「情報」でしかなくなっている。本来は、そこにキャラクターの感情の変化などを汲み取らせるために、合間にカットを繋ぐ、エフェクトなり音楽なりを加えるなどするものだが、本作は悪い意味で「情報」として必要なカット、演出のみで、それ故に「淡々としている」という印象になってしまうのだと思う。
 
 また、ライデンフィルムの地力の面でもキツかったのだろうと思える箇所がある。本作では監督の方針で日常のシーンではカットをあまり割っていないのだが、レイアウトが凡庸で、キャラも基本的に立って会話してるだけだったり、作画的にも平凡なものが多く、結果、演出の弱さを助長する結果になっている。敢えてラーメンに例えるならば、平成版は様々なトッピングを施した濃厚こってりラーメンで、本作は「るろうに剣心」という商品の名前は分かるが、トッピングはなされておらず、しかも大して味がしない薄味ラーメンという感じである。
 

終わりに

 以上、拙いながら、2023年版の「るろうに剣心」についての考察を行った。既に京都編のアニメ化が決定しているわけだが、過度な期待はしない。東京編でこの程度ならば、京都編もたかが知れている。いちおう見るが、平成版でも傑作である京都編に並ぶのは不可能だろう。というか、京都編は平成版と比べて、「原作準拠」という最大のアドバンテージが無くなってしまうので、より比べられてしまうと思う。この言葉を撤回させてほしいと思っているが、繰り返すが、期待はしない。以上である。
 
参考記事

2023年9月に見た新作映画の感想①

 2023年の新作映画の感想です。『アステロイド・シティ』『春に散る』『アリストテレスまぼろし工場』『PATHAAN/パターン』『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)』の感想です。

 

No.83【アステロイド・シティ】 77点

 本作は、「アステロイド・シティ」という架空の舞台劇の製作舞台裏を取り扱ったドキュメンタリーという、前作『フレンチ・ディスパッチ』同様、非常に複雑な入れ子構造映画になってる。

 ウェス・アンダーソンの映画は、完璧な構図に拘った人工的なつくりの映画で、俳優の演技も非常に人工的。生々しさは排され、アンダーソンの好きな綺麗なものしかない。本作はそこに非常に自覚的な映画で、設定もそうだけど、役者が「演じる」ことに悩む映画でもある。ジェイソン・シュワルツマンスカーレット・ヨハンソンは悩み、シュワルツマンは「演技」について監督に質問をする。話自体はボンヤリとしていて、正直よく分からない点もあったけど、ウェス・アンダーソンが自分の作品の特異性に最近非常に自覚的になってきていて、本作はその最新版なのだという点で面白かった。

 余談。ジェフ・ゴールドブラム、どこに出てるのかわからなかったけど、パンフ見て大いに笑った。そこかよ!

 

No.84【春に散る】 76点

 瀬々敬久監督なので一応見た。脚本はオーソドックスなボクシング映画であり、老いた人間と若者の「生き方」の話で、正直新鮮味はない。ぶっちゃけ、ほとんど「あしたのジョー」。しかし、ひたすらに役者がいい。特に佐藤浩市が最高で、動きの切れや、佇まいが圧巻だった。横浜流星も相変わらず素晴らしい。2人が収まっているショットはどれもいい。弁当食ってるところとか最高だね。ボクシングの描写もかなり研究したんだろうと思える内容だったし、クロスカウンターが冒頭からキーになって、最後の決め技になるとか、ちゃんと作り込まれてる。

 

No.85【アリスとテレスのまぼろし工場】 82点

 岡田磨里の脚本&監督作2作目。制作は前作の『さよならの朝に約束の花をかざろう』から変更になりMAPPAとなったものの、基本的なスタッフは同じ。キャラクターデザインは石井百合子さんだし、美術は東地和生。そして副監督は平松禎史。見る気は最初から満々でしたが、予告から既に「岡田磨里」の成分がムンムンに感じられ、見逃せない作品と思っていました。そしたら予想通り、岡田磨理の成分が非常に濃い、岡田磨里200%映画だったから満足というか驚きですよ。「メジャー配給で作家性を爆発させた」という点では、彼女は宮崎・新海・細田に並びました。

 本作は、「同じ1日を繰り返さなくてはならない」閉鎖された街が舞台。そこでは「変化」することが禁忌とされ、「変化」したものは神機狼に飲み込まれる。これを今の日本の状況とリンクさせることは容易だと思いますが、同時に、この「閉塞感」というのは、岡田磨里作品の中で繰り返し描かれてきたモチーフです。岡田磨里は、閉鎖された舞台で少年少女の恋愛模様を描き、そこからの「脱出」を試みようとする姿を描いてきました。

 また、もう1つのモチーフとして、「異物」があります。岡田磨里の作品では、しばしば閉塞的空間に異物が入り込み、それによって物語が駆動していく、という構造が多い。本作では五実がそれに該当します。五実という異物によって正宗と睦美の関係、そして世界そのものが動いていきます。

 さらに重要なモチーフとして、「恋愛」があります。岡田磨里の作品では必ずと言っていいレベルで登場する要素であり、これがだいたい「痛み」を感じさせる、普通のアニメのそれより生々しいものになることがほとんどです。本作でもそれはもちろん健在です。

 本作は大きく3つの岡田磨里印のモチーフが出てきて、「何故、世界はこうなってしまったのか」という謎を解き明かしていきます。この世界の謎を解き明かす下りは興味が持続され、岡田磨里さんの強烈な台詞(「てめぇ、やっぱ雄かよ!!」など)とキャラの行動も相まって、前のめりになって見てしまいます。ここで、キャラデザや言動から気色悪さを感じる人がいるのもまぁ分かるのですが、本作は所謂「オタク的キモさ」みたいなものが客観的に描かれている点もあります。主に宗司ですね。そもそも、話の構造そのものが「少女を人柱に世界を存続させようとする男から(しかもそれは自身の承認欲求を満たすという利己的な目的のため)、その少女を救い出す」という話でもあるし。

 岡田磨里の作品では、キャラは閉塞的空間からの脱出を試みはしますが、最終的にはその空間に戻ることを選びます。しかしそれは諦めではなく、「生きる」ためです。岡田作品のキャラは、恋愛や不和を通し、「痛み」を知り、それでも、その場所で生きることを選びます。本作でも、正宗たちはあの空間に残ることを選びます。明日いなくなってしまうかもしれない。「変わる」ことで「痛み」があるかもしれない。しかし、その「痛み」があるから、人は生きているのだ、と、そういうことを岡田磨里さんは描いてきたと思うし、本作でも述べていると思います。

 

No.86【PATHAAN/パターン】 70点

 豪快なインド発のアクション映画。一応内容としては特殊工作員ものになるかと思うが、トンデモアクションが続く。『ミッション・インポッシブル』的なケイパーものを壮大なスケールでやったり、『サーホー』にも出てきたジェットウイング的なガジェットで空中戦、列車の中での乱闘からのVSヘリとてんこ盛り。更に、展開も二転三転し、敵との頭脳戦もあり、音楽も盛大になり響いたりと、とにかく観客を楽しませようという気概を感じる。

 しかし同時に、非常に愛国的な内容であり、そこに少しの危うさも感じる。せっかく敵の背景を「祖国に裏切られた」という設定にしているのに、国家の矛盾に切り込めていないのはもったいない。

 同じ監督の『ロボット』、そして同じ会社の『タイガー』と世界観を共有しており、それを知っていればガン上がりする展開がある。私は見ていなかったのだが、いきなりサルマーン・カーンが出てきたのには驚いた。また、ディーピカー・パードゥコさんがまた美人でね。大変よかったですね。

 

No.87【劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)】 70点

 『新宿プライベート・アイズ』で蘇った「シティーハンター」。本作は、アニメではほとんどその存在が無かったことにされていたユニオン・テオーペ及びエンジェル・ダストにフォーカスし、アニメ版「シティーハンター」の最終章の幕開けとされています。本作で初めて海原が登場。

 海原が登場はしますが、原作終盤のアニメ化、というわけではなく、あくまでもアニメオリジナル。なので、現状ではミックが未登場で、代わりに海原をはじめ、4名のゲストキャラが登場します。前作は「シティーハンター」の基本に非常に忠実な出来でしたが、本作では最終章ということもあり、基本は踏まえつつも、リョウの過去にかなり突っ込んでいきます。ついでに超人的なアクションもあります。基本的なところから少しだけずれた内容であるため、前作と比較して楽しむことができました。そしてGet Wildでガン上がり。

 本作はかなり思い切ったことをやっています。事情が事情とは言え、リョウが依頼人の美女を手にかける、という結末を迎えるのです。彼女の犠牲によって、海原との因縁が決定的になり、「最終章」への道が開けたと思います。とりあえず、「話をたたむ」意志は見えたので、最後まで突っ走ってほしいと思います。

 声優的に言えば、キツイところも結構ありました。いちばんキツかったのは香で、かなり無理してんな、と思いながら見てたし、神谷明さんも、ギャグパートの時は気にならなかったけど、意外にもシリアスな場面だと少し老いを感じる場面があった。後、「キャッツアイ」が出てくる割に、俊夫が全然出てこないのは何故なのだろうか・・・。

2023年新作映画部門別ランキング

 皆様。こんにちは。いーちゃんです。先日、2023年に見た新作映画のベスト10を発表しました。続いて、今回は部門別のベストです。「日本映画部門」「外国映画部門」「アニメーション映画部門」「ワースト部門」に加え、今回から「旧作部門」を発表したいと思います。では、いってみよう。

 

【日本映画部門】

2位『窓ぎわのトットちゃん』
3位『北極百貨店のコンシェルジュさん』
4位『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
5位『怪物』
6位『ほつれる』
7位『福田村事件』
8位『響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』
9位『市子』
10位『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
 
 以下、簡単に選考理由を書きます。1位はベスト記事を読んでください。
 2位はトットちゃんという少女から見た戦前の日本の物語で、如何に戦争が子どもたちから教育と正気を奪っていくのか、を描いた傑作。
 3位はアニメーションの動きの楽しさに満ちている快楽アニメ。しかし、愚直なまでに他者のために奮闘する主人公の姿に涙を禁じえませんでした。
 4位は、「ゲゲゲの鬼太郎」という作品を借りて、現在まで形を変えて続いてしまっているこの国の搾取構造を克明に描き出し、尚且つ「鬼太郎」というヒーローの誕生譚に仕上げた手腕が見事。
 5位は、この社会が、如何にマイノリティを無意識のうちに傷つけているのかを描いた佳作。
 6位は、話こそは何てことはないけれど、撮影と編集で見せてしまうその実力に感服した。
 7位は製作されたことに意義がある映画であるが、問題的に終わらず、正気を保てなくなった人間の恐怖を描いた映画として良かった。
 8位は、あの事件の後、再び動き出したシリーズだが、部長として奮闘する久美子と、前に進む部員全員の姿に泣いた。
 9位は、とても力強い映画だと思った。杉咲花が圧倒的。今の日本映画界でも、このような作品が作れるのか、と改めて希望を抱いた。
 10位は、現実ならば、ともすれば「弱い」と切って捨てられそうな若者を描いた作品。こういう若者(というか年齢問わず)はいるはずであり、ようやくこういう映画が出てきたか、という喜びがあった。
 

【外国映画部門】

1位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
2位『スパイダーマン/アクロス・ザ・スパイダーバース』
3位『ザ・キラー』
4位『TAR/ター』
5位『ベネデッタ』
8位『フェイブルマンズ』
9位『SHE SAID その名を暴け』
10位『レッドロケット』
 
 正直、総合ベスト10とほとんど変わりません。ただ、10位だけ変わっています。1~9位は先日挙げたベスト10の記事を読んでください。
 10位は、クズな主人公を描いているだけなのに、映画は妙に面白い。こんな奴にはなりたくないと思うし、こんな奴を安全圏から見て反面教師にできるのも映画の良いところだなぁと思います。
 

【アニメーション部門】

1位『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』

2位『君たちはどう生きるか

3位『窓際のトットちゃん』

4位『北極百貨店のコンシェルジュさん』

5位『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

6位『ミュータントタートルズ ミュータント・パニック』

7位『響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』

8位『アリスとテレスのまぼろし工場』

9位『マイ・エレメント』

10位『BLUE GIANT


 以上になります。1、2位は先日のベスト10記事を、3~5,7位は上述の部門を読んでください。以下、6位、8~10位の感想です。

 6位は、アニメーション新次元。10代の落書きのような自由闊達な筆致のキャラと背景で、それが作品のテーマともきちんと合致している。『スパイダーバース』と合わせて、アニメーションの自由さをもう一度思い出させてくれる。

 8位は、岡田磨里が200%の出力で放つ渾身の映画。岡田磨里的モチーフがふんだんに盛り込まれているだけではなく、それを以て彼女の作家性がさらに爆発している異形の映画。その強烈さに8位。

 9位は、ファンタジー的な見た目と相反し、社会派と順当なロマコメを両立させたピクサー映画。その完成度の高さにピクサーの矜持を見る。久々にヒットしたみたいで何より。「ディズニー」はどうでもいいが、ピクサーが潰れるのはごめんなので、頑張ってほしい。

 10位は、とにかく演奏の熱が半端ない本作がランクイン。CGの使い方に難があれど、「聴いてもらえばわかる」を実践してみせた魂の音楽映画。ラストの演奏には感動した。


【旧作映画部門】

1位『空の大怪獣ラドン

2位『ミツバチのささやき

3位『暗殺の森

4位『悪魔のいけにえ

5位『ツィゴイネルワイゼン

 2023年は劇場、配信、ソフト合わせて、旧作を32本見ました。宮崎駿とヴァーホーベンの新作に合わせ、両監督の過去作を一気に鑑賞したりしました。その中で、特に印象に残ったベスト5を紹介します。ちなみに、ヴァーホーベンの映画はどれも良かったのですが、個人的には、特に『スターシップ・トゥルーパーズ』が良かったです。宮崎駿作品は、『風立ちぬ』の良さを確認できたことが良かったかな。

 

 1位は、「午前十時の映画祭」で鑑賞。4Kとなった映像は驚くほどに鮮明になっており、まずはここに衝撃を受けた。前半と後半で別の話になっているなど瑕疵も多いけれど、クリアになった映像、そして、やっぱり最後のラドンの姿に泣いちゃったので1位です。仕方ない。

 2位は、初のビクトル・エリセ。午前十時の映画祭で鑑賞。その映像表現に圧倒されました。この監督の新作を2024年は見られるのかと思うと、夢のようです。

 3位は、ベルトルッチの傑作。午前十時の映画祭で鑑賞。台詞ではなく、「映像で語る」ことを見せつけられた映画。色彩、立ち位置、光と影・・・。全てが映画のメッセージを雄弁に語る作りに酔いしれる。

 4位は、トビー・フーパーのもはや古典と言っていいホラー映画。配信で鑑賞。映画から熱量を感じることはあるけれど、本作ほどの熱を感じることはない。その迫力にただ圧倒される。レザーフェイスが少し可愛く見えたことも印象深かった。

 5位は、初の鈴木清順リバイバル上映で見ました。終始、口あんぐり、困惑しつつ観ていました。私が知っている「映画」のそれと全く違う時間の使い方、編集の仕方や、観念的なショットの連続なモンタージュなど、こちらの生理を逆撫でしてくる作りが異様で、初めての映画体験でした。

 

【ワースト部門】

 2023年のワースト映画です。ある年と無い年があるのですが、今年は3本あります。こちらは、ベスト部門と被るところもないので、3位から順に発表したいと思います。では、行ってみよう。

3位『BAD LANDS』

 原田眞人の新作がワースト3位。ここ数年、ほぼ毎年映画を公開している原田監督ですが、だんだん仕事が適当になっている気がしていて、本作はその極みみたいな感じだった。原田監督のせっかちな編集や早口の台詞回しが全部悪い方に作用している気がした。脚本もどうかと思うし。『検察側の罪人』はまぐれだったのか?

2位『リボルバー・リリー』

 東映のアクション大作で、実はちょっと期待していた。しかし、あまりに酷くて愕然とした映画。アクションにもたいしたフレッシュさは無いし、脚本もあまりに杜撰。美術は頑張っているなと思うのですけど、肝心のアクションがダメなのはマイナス点です。

1位『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』 

 『クレしん』映画がワースト。とにかくメッセージが酷いなと思った。後、アニメーションとして、3DCGが『クレしん』や内容とマッチしていないように思えた。作り手が今の社会状況に対して、的確なメッセージを出せないのか・・・と残念に思った映画でした。特に『クレしん』シリーズは、『花の天カス学園』が傑作だったのに、この内容を出してくる、という残念さもあったな。

 他にも、『バビロン』『オクス駅お化け』『ハロウィン THE END』あたりがワースト級だったのですが、まぁ怒ったり途中で話に興味が無くなったりしたわけではないので(『バビロン』は結構はてなだった)、ワーストからは外しました。以上です。

 以上が、2023年の部門別のランキングでした。2024年は、年明けから悲惨な状況になってしまいました。被災地の方のご無事をお祈りしております。このような状況でこんなこと言うのも何ですが、良い映画と出会えることを願って。それでは。

2023年8月に見た新作映画の感想②

No.78『タイラー・レイク 命の奪還2』 82点

 クリス・ヘムズワースのフィジカルを活かしまくった最先端長回しアクション映画の続編。本作は序盤で約30分くらいの長回しアクションを見せてくれる。また、その他のアクションも空間の使い方、アクションの組み立て方など見事。アクションという1点では眼福な作品。

 しかし、ドラマ面はよく分からない。いや多分、「有害な男性性」からの脱却の話だと思うんだけど、それにしてはクリヘムは別にケアするわけでもなくまた戦地へ戻っていくため、「これまでのドラマは何だったん・・・?」となる。まぁ、このシリーズは最早どれだけ凄いアクションをやるのか、が全てなので、あんまり気にはしてないけども。

 

No.79『リボルバー・リリー』 30点

 期待はしていた。最近の東映は『孤狼の血』で往年の東映映画を復活させたり、アニメーション映画でも成功を収め、乗りに乗っている。まぁ『レジェンド&バタフライ』はアレだったが、本作も予告見る限りでは頑張ってそうだし。で、見てみたらこれがまた酷い映画でね。ビックリしたよ。

 まずはアクション。本作は主人公がリボルバーを使うので、基本的にガンアクションになるわけだけど、組み立てとかに一切ロジックがない。とにかく綾瀬はるかがバンバン撃てば百発百中で相手が倒れる。「シティーハンター」か!アニメなら許せるけど、実写でそれをやるな。しかも謎の不殺主義。一応、中盤に大きな一対多数の銃撃戦があるわけだけど、それも基本そんな感じだから全く盛り上がらない。しかも、途中、『戦艦ポチョムキン』オマージュだか何だか知らんけど、「赤ん坊が戦地に入ってくる」とかいう目を疑う展開が起こる。思わず俺は笑ってしまった!それで綾瀬はるかは負傷!馬鹿か!そして陸軍は弾も切れて絶好の機会の綾瀬はるかたちを放置して撤退。馬鹿か!?ハリウッドでは『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』、日本でも『ベイビーわるきゅーれ』が作られている今、このクオリティのガンアクションを見せられても困るんだが?終盤の霧の中のアクションもただ見にくいだけで、状況を活かしたアクションができていないので退屈。後、最後の適地の突破もただ突っ込んでいくだけって、もう何度言ったか分からないが言わせてくれ、馬鹿か!!まぁここまでくるとこの映画をまじめに見るだけ損だと分かってるので、もうギャグとして見てた。

 肝心の脚本も酷い。『グロリア』をやりたいんだろうけど、綾瀬はるか羽村仁成の間で絆が深まっていく過程が大して描かれない(というか、羽村君は最初から割と素直)し、彼女からどう影響を受けて成長したかが不明。後、清水尋也の下りとか馬鹿すぎだし、綾瀬はるかたちは羽村君を好きに行動させすぎて攫われまくってる。無能か!ちなみに、陸軍はもっと無能。無能VS無能だから出来の悪いコントを見せられてる気分になる。最後も何か平和がどうのとか言ってたけどさ、結局、軍に金の情報渡してんじゃねーか!しかも結局愚かな開戦をすることは史実として決まってるので、あの頑張りは一体なんだったの?としか思えない。

 まぁ酷い映画だったけど、良かったのは美術と綾瀬はるかかな。特に一番最初のアクションは良かったよ。というかさ、綾瀬はるかは動ける女優なんだから、もっといいアクション映画作ってくれよ。彼女主演の本格アクション映画、本気で見たいんですけど。

 

No.80『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』 87点

 「肉体の変化/進化」を描いてきたボディホラーの巨匠、デヴィッド・クローネンバーグの最新作は、肉体へのフェティシズムが全開になった超ド変態映画でした(歓喜)。

 肉体が進化し、人々が痛みを感じず、感染症も克服した未来。そこで新しい臓器を生成できるヴィゴ・モーテンセンは、レア・セドゥと組んでアート活動をしていた。しかし、そこへ秘密機関の手が忍び寄る・・・。という話らしい。一応、諸々の要素はよく分かるんだけど、話の中身についてはボンヤリしている。正直、私もよく分かってない。しかし、本作にはそれすら気にならなくなるくらいのフェティシズムがある。後、レア・セドゥがとてもセクシー。

 本作は基本設定が設定なので、肉体への破壊行為が結構描かれる。だから絵面はグロい。しかし、そこには官能的な色気が漂っている。肉体への破壊行為が、セックスと同じように描かれているのである。ここだけでもうやられてしまった。ヘンテコガジェットも全開。ビジュアルのインパクトも相当ある。本作から、クローネンバーグの肉体への止まらない賛美と祝福を感じた。こんな映画は唯一無二だと思うし、それだけでだいぶ満足してしまったので、私の負けです。

 

No.81『ミンナのウタ』 78点

 GENERATIONSに欠片も興味は無いけど、評判が良いので鑑賞。そしたら久々に映画館で「ちゃんと怖いJホラー」を見ることができて、大満足でした。

 話自体はオーソドックスで、とある少女の怨念がこもったカセットテープによってGENERATIONSのメンバーが1人ずつ消えていく…というやつ。さらに、映画の中の要素も、清水監督の過去作から惜しげもなく流用し(本作はかなり『呪怨』みたいな話)、それをちゃんと怖く演出してる。偉い。序盤はそうでもないけど、マキタスポーツの語りから徐々に怖さが増していって、「家」が出てきてからのボルテージの上がりっぷりが最高だった。印象に残るのが「繰り返し」の演出。お母さんが迫ってくるシーンは、恐怖と驚きで鳥肌立った。また、ジャンプ・スケアも中々キマッてる。

 また、本作はGENERATIONS全員が本人役で出演しているアイドル映画だけど、自然と複数人集まる理由になってたり、キャラ付けもちゃんとされてるのでそれが見やすさにつながってたりと、それが上手く機能してる。

 唯一の不満点は、マキタスポーツ。かなり記号的な「ガサツな昭和親父」キャラで、探偵役以上のものはない。意図的なんだろうけど、もう少し何とか味付けできなかったのかな。家族の不和設定とか特に要らない気がした。

 

No.82『SAND LAND』 76点

 鳥山明が「ドラゴンボール」終了後に発表した短期集中連載作品の映画化。原作をこの機に読んだうえで鑑賞しました。

 本作は舞台設定は架空だけど、ミリタリー描写はリアル。そしてそこに「悪魔」というファンタジーを入れてる。ただ、この設定はプラスアルファでしかなく、本作で鳥山先生がやりたかったのは老兵が自身の犯した罪に決着をつける西部劇であり、戦車に代表されるミリタリーであることは明白。以前、鳥嶋和彦が鳥山先生のことを「人ではなくずっと車とか戦車とか描いていたい人」と言っていたけど、原作はこの趣味性が炸裂していた。この点で本作を3DCGにしたのは効果的で、鳥山明の描く緻密な戦車を簡略化させることなく動かせている。また、戦車戦は非常に力が入っていて、戦車の戦術が細かく描かれ、勝利のロジックがよく分かるようになっている。

 本作において「悪魔」はプラスアルファだけど、彼らがいることで、この物語に深みが出てる。本作の真の「悪」は人間で、情報統制を敷き、誤った情報を流して偏見を広め、自らの私腹を肥やしている権力者。それを「悪」であるベルゼブブを通して語らせることで、人間の正義と悪がよりはっきりと浮かび上がるようになってる。後、道中のやり取りがとても面白い。これは主にチョーさんの力に依るところが大きい。

 原作と比較すると、本作はかなり上手くアレンジが加えられている。原作は鳥山先生の興味のあることとないことの差がハッキリしてる出来で、最後の虫人間との対決なんて本当に取ってつけたようなバトルだった。しかし、本作ではベルゼブブの物語の中で果たす比重が大きくなっていて、特に最後のバトルは単純に数を増やして大バトルをやっている。また、最後はあっさり決着がついた原作と比べ、本作は最後の展開がかなりアレンジされ、良くなってる。最後なんて、ラスボスとラオのそれこそ西部劇的な一騎打ちもある。

 原作から既に簡単にはいかない善悪、偏見から生まれる意外な展開など、見所が多かったのですが、映画化にあたり、大幅にアレンジを加え、テーマをよりはっきりとさせるだけではなく、作品全体のボリュームも増やした良作だったのではないでしょうか。興行的に爆死したらしいけど、全然良い映画だと思います。

 後、今時、権力者をこうも悪役然として描く映画、珍しいと思う。正直、この映画で似たようなことが現実の政治で起こっていたりするので、直接風刺したのではないにせよ、もっとこういう風に権力を打ち倒す的作品が増えてもいいと思うんだよな。

2023年新作映画ベスト10

 皆さんこんにちは。いーちゃんです。毎年恒例の年間ベスト映画を発表したいと思います。23年は新作を126本見ました。この数字は新記録です。とは言え、結局見られなかった映画も多く、特に『わたしの見ている世界がすべて』を見られなかったのは痛恨の極みでした。また、配信映画も積極的に見られなかったのも大きい。映画館でかかってると上映期間というリミットがあるから見に行くのですが、なまじ配信はすぐに見られるので後に回し、結局見られないケースがありました。『マエストロ』と『フェアプレー』を見れていないというね。来年はもっと積極的に見たいなと思います。・・・ヤバい、これは延々ととりとめもない話を書いてしまうパターンだ。では、いってみましょうか。

 

10位『君たちはどう生きるか』

 宮﨑駿監督作品が10位。『風立ちぬ』でこれ以上ないほど自らのことについて語り終えた後に放つ作品として、私はとても面白く見た。往年の彼の作品に比べると、アニメーションの力が衰えているのは間違いない。しかし、その「力の抜け加減」が、本作があくまでも+αの作品でしかないと示す。イーストウッドの映画で言えば、『クライ・マッチョ』のような立ち位置の映画だと思った。何だかんだと今年ずっと心に残っていたので10位に入れた。

 

9位『SHE SAID その名を暴け』

 「#MeToo」運動の火付け役となった女性記者の映画が9位。原作はそのままルポだったのだけど、それを見事に「映画」にしてみせた手腕がまず見事。内容は劇的なものは少なく、地道な調査報道の積み重ねだが、それ故に、声を上げることが如何に難しいのか、が伝わってくる作りになっている。そしてその調査を基に記事を載せたタイミングで終わる切れ味が素晴らしく、報道映画の新たな傑作が生まれたと感動した。

 

8位『フェイブルマンズ』

 スピルバーグが遂に撮った自伝映画が8位。スピルバーグほどの存在が自伝を撮ったらどうなるのかと言うと、「映画」の持つ恐ろしさを克明に描き出し、しかしそれでもなお映画に囚われ、撮ることをやめられない人間、という自らの業と宿命の物語になった。「映画っていいよね」でも「映画に救われた」ではなく、「映画は恐ろしい」というスピルバーグ自身の映画論であり、彼の客観性に感服。

 

7位『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』

 TRPGの元祖を映画化した本作が7位。見る前は絶対に地雷案件だと思っていたが、見てみたらまさかの傑作だった。ハリウッドのエンタメ作品は、最近はMCUを筆頭にフランチャイズが大半を占め、しかもそれらはハイコンテクスト化している今、ここまでフラットな状態で見られ、しかもめちゃくちゃ面白い映画は逆に新鮮だった。ギャグが全く滑っていないし、キャラも皆ポンコツで魅力的。更に、脚本も精巧と、不満点がない。続編を作ってほしいが、興行収入的に厳しいらしい。おい。

 

6位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』

 皆大好き『ガーディアンズ』の3作目にして完結篇が6位。傷付きながらもお互いに身を寄せ合い、共同体となったガーディアンズたちが、ロケットのためにその身を投げ打つさまは感動的。内容的にもガンのDisneyへの意趣返し的な意図も読み取れて愉快。傷ついた彼らが、きちんと自らの居場所を見つけ、各々旅立つラストには涙を禁じえなかった。

 

5位『ベネデッタ』

 ヴァーホーヴェンの新作が5位。男性が権威を牛耳る社会で、自らの身体と知性(あるいは、本物の神の声)を武器にのし上がっていく女性を描く。その様は痛快極まりない。どんなときでも俗っぽさを失わず、どこまでも下世話に、しかし知性を以て我々の良識に疑義を唱える相変わらずのヴァーホーヴェン節は健在であり、もうニコニコである。

 

4位『TAR/ター』

 トッド・フィールドの16年ぶりの新作が4位。近年、ハラスメントに関する映画は数あれど、ハラスメント加害者からの映画はなかなかないと思う。本作は、ターという人物に焦点を当て、映画そのものが彼女とシンクロし、我々を揺さぶり続ける。本作を見れば、多様な解釈ができる。しかし、それこそが本作が仕掛けた罠。断片を繋ぎ合わせても、本当の真実へ辿り着くことはできない。それこそ、SNSの炎上のように、一片しか見えない。素晴らしい現代批評映画でもある傑作。

 

3位『ザ・キラー』

 デヴィッド・フィンチャーの新作映画が3位。ネットフリックス映画ということで公開規模が小さかったのだが、遠征して頑張って見た。もう少し規模を拡大してください。で、内容は4位と打って変わったスタイリッシュギャグ映画。一応、現代の資本主義に対する批評的な側面は持ち合わせてはいるけれど、基本的には、殺し屋10か条みたいなのを唱えつつも1個も実践できていないプロ(笑)のファスベンダーのポンコツぶりを見る映画。研ぎ澄まされた撮影と演出から繰り出されるズッコケギャグに魅了された。

 

2位『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』

 アニメーションに革命をもたらした『スパイダーバース』の続編が2位。まーたアニメーションの歴史を更新してしまった。前作からわずか4年なんだが。これは凄すぎてもう1位でいいじゃんと思ったが、完結していないのでこの順位。もう開始10分がカッコよすぎて参った。「孤独」なスパイダーマンが「仲間」を得る物語であり、スパイダーマン永遠の課題である「救えない運命」にどう立ち向かうか、という物語。どう回答を出すのか。次作に期待。

 

1位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

 スコセッシ御大の大作が1位。まず、3時間26分の上映時間が全く長く感じないのが凄い。本作を見て、私がスコセッシ映画が好きなのは、「ダメな人間」が出てくるからなのだ、と分かった。本作で言うところのディカプリオだったり、『グッドフェローズ』のレイ・リオッタだったり。私の中にある「ダメな部分」がスクリーンの中で可視化されているようで、見ていて居たたまれなくなるし、直視することで、それを自覚できる。ここはスコセッシにとっても意識的なのだと思う。もちろん、映画としても素晴らしい。搾取の物語であり、これと同じことは世界のどこでも起こっている。そして、我々はいつでもその当事者たりうるし、そこに組み込まれてしまう(そしてそれに抗えない自身の弱さもある)、ということを思い出させてくれる傑作。

 

まとめると・・・。

1位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

2位『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』

3位『ザ・キラー』

4位『TAR/ター』

5位『ベネデッタ』

6位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』

7位『ダンジョンズ&ドラゴンズ

8位『フェイブルマンズ』

9位『SHE SAID その名を暴け』

10位『君たちはどう生きるか

 

 以上です。何と日本映画が1本しかない。良い映画は見ていたのだが、ラインアップした映画が強すぎた。この他にも、『窓ぎわのトットちゃん』『レッドロケット』『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』『聖地には蜘蛛が巣を張る』あたりがギリギリまでベストに入れようか悩んだ映画です。ただ、このブログ執筆時点で8月の前半分までしか感想をあげられていないので、残りの分も頑張ってあげていきたいと思っています。2024年も、良い映画と出会えることを願って。

2023年8月に見た新作映画①

 2023年8月に見た新作映画の感想です。『トランスフォーマー/ビースト覚醒』、『特別篇 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』、『カールじいさんのデート』、『マイ・エレメント』、『バービー』、『しん次元!クレヨンしんちゃん とべとべ手巻き寿司』の感想です。

No.72【トランスフォーマー ビースト覚醒】 70点

 「トランスフォーマー」にはそんなに思入れはないけど「ビーストウォーズ」は直撃世代な私です(とはいえ見てたのは幼児の頃なのでそんな覚えてないけど)。本作で遂にビースト戦士が合流!『バンブルビー』も好きだったし、鑑賞しました。

 基本的に楽しんで見られたので及第点な作品ではあります。特に最終決戦でプライマルが「変形せよ!」と言ったシーンはめっちゃ上がった。アクションもベイじゃないからまだ見やすいし(でもなかなかの残虐ファイトをする)、いい意味でバカバカしさがある。

 しかし、不満点もとても多い。まず、人間ドラマが薄すぎ。主人公たちがプライムたちに着いていく動機が希薄。特に主人公は、難病の弟を放置してまで着いていく理由が今一つ分からない。もう人間要らないのでは?と思うレベルだった。プライムの謎の上から目線も相変わらず。人の星に来てドンパチやってるくせに何なんだよと思うよね。また、ビースト戦士があんまり活躍しないのも気になった。製作上の問題もあるのだと思うけど、もう少し出しても良かったんじゃないの。

 

No.73【特別篇 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト】 80点

 『誓いのフィナーレ』以来、実に4年ぶりの続編。劇場上映してるけど、本作は特別編ということで、別に映画というわけではない。それでも、シリーズを1期からリアルタイムで追ってる人間なので見ないという選択はありません(原作は読んでない)。

 本作のメインは「アンサンブル・コンテスト」。これを通し、現在の吹奏楽部のメンバーの掘り下げや部そのものの状況、各先輩キャラのその後を描き、3期につなげるのがメイン。部長になって苦労している久美子の姿も見られる。57分に過不足なくこれらを描く脚本に脱帽する。終盤のある部員の「成長」の演出には「流石京アニ!」と唸ったし、キャラの見せ方も完璧。久美子と麗奈の距離感が近くてとても良かった。

 次は3期だけど、最後の映像見るに、これ、絶対、あそこで出てきたキャラが久美子よりユーフォが上手くて揉めて麗奈と不仲になる展開じゃん・・・。

 

No.74【カールじいさんのデート】 65点

 カールじいさんがデートをすることになり、その準備に四苦八苦する姿を描くショートアニメ。カールじいさんが前向きに生きてるのを見て、いいなと思った。最後、デートに向かうところで終わってたからよりそう思う。

 また、日本語吹き替えが飯塚昭三さんのままで感動した。声はだいぶおじいちゃんになってたけど、ちゃんと演技をしていたし、本当に亡くなるまで現役だったんだな。

 

No.75【マイ・エレメント】 82点

 ピクサー最新作。監督は『アーロと少年』のピーター・ソーン。コロナ禍以降、興行的に不振だったピクサー作品としては久しぶりのヒット作となっている。いや良かった。

 「エレメント」の世界観がとてもいい。ディズニー、ピクサーは非人間の社会を構築するのがとても上手いけど、本作はエレメントシティの設定がかなり凝ってて、各エレメントの特徴に合わせた街並みの設計に説得力がある。いちばん連想したのは『ズートピア』。また、各エレメントの特徴の表現も流石のアニメーションで描いている。

 『ズートピア』が動物がモチーフでありながら、多文化社会アメリカを描いていたように、本作は移民2世で、差別されているマイノリティの話になってる。しかもそれがエレメントの特徴に起因している、というのも良くできてる。こういう感じで社会問題を自然に入れてくる手腕はやっぱり流石だと思う。

 とはいえ、本作のジャンルは、実はロマコメだったりする。移民2世の女性と、マジョリティの「水」の青年が出会い、恋に落ちる話。そこに女性のキャリア選択の話が入る。だから本作は、ビジュアルとは違い、かなりリアルな内容で、大人こそより楽しめる映画だと思った。

 

No.76【バービー】 80点

 日本と韓国以外で大ヒット中の作品。監督はグレタ・ガーウィグ、脚本はノア・バームバックの夫婦共同作業映画。主演及びプロデューサーはマーゴット・ロビーで、共演はライアン・ゴズリング。この現代ハリウッド最強の布陣の映画を見ないという選択肢は存在しないと思う。また、ハーレイ・クイーン以前は、ステレオタイプなブロンド美女役ばかりをやらされてきたマーゴット・ロビーがバービーを演じる、というのも大きな意味がある。

 とてもよくできた映画です。現実の男女関係を逆転させたバービーランドにケンが現実世界から「有害な男性性」を学んでまい、バービーランドを男性優位社会にしてしまう。それをバービー達が修復する話。バービーとケンを通すことで、コミカルではあるけど、現実のグロテスクな男性社会を描き出し(ウィル・フェレル率いる経営陣は、神奈川県のあれを思い出した)、バービーランドにおけるケンを現実の女性と同じ立場にすることで男性に女性の立場を理解させる構成がよくできてる。ラストも、バービーとケン達が、ようやく互いの苦しみを理解するところで終わるのも、解決されていない問題に対する誠実な態度だと思った。 

 本作はフェミニズム映画であると同時に、グレタ・ガーウィグ作品らしい、アイデンティティについての映画でもあります。劇中でバービーとケンはアイデンティティ・クライシスに陥り、ケンは有害な男性性を学んでしまい、それを正され、バービーは自己を確立し、人間としてこの世界で生きることを決める。そこにバービー人形ネタとフェミニズム的要素を入れ込むのが巧妙。

 上記のように、全体的にとても上手い映画ではあるんだけど、その上手さが少し鼻についたところもある。また、問題は台詞量の多さ。ノア・バームバックはいつもそうだし、「女性が声をあげる」という映画の趣旨的にあっているとは思うけど、何というか、教材を見せられた感が凄いというか。映画で台詞で全て説明されても、少し冷めてしまうので・・・。よくできてはいるけど、ここは気になった。

 

No.77【しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~】 30点

 これは酷かった。映画の出来云々よりも、作り手のメッセージに絶望した。以下、感想を書く。

 本作はシリーズ初の3DCGということで、これまでの作品とは違った味わいがあるのは事実。しかし、これは逆効果な点も結構あって、まずはシリーズお得意のギャグ。いつも通りしんちゃんがゲストの女性にセクハラをするんですけど、2Dだとギャグでギリ見逃せていた点が、3DCGにしたことで生々しさが強調され、見過ごせなくなってしまっています。後、劇中では結構シリアスな現代社会の問題を扱っているのだけど、なまじCGなので、生々しさが勝ってしまい、中盤の立て籠もりとか、冷静に見れなかった。

 話そのものは、所謂社会に絶望した「無敵の人」の話だけど、落としどころが最悪だった。「頑張りなさい」という、自己責任論を強化する結論であり、それをひろしに名言ぽく言わせている。本作のゲストの非理谷は、30歳で派遣で、幼いころからネグレクトをされていたことで現代社会に絶望し、世界を破滅へと追い込もうとしてしまう。これを題材とするのは別にいい。しかし、その結論が「君が頑張りなさい」はあんまりだと思う。さらに言うと、言ってる側のひろし、今35歳なんだよね。つまり、非理谷とそんなに変わらない。でも、彼は連載当時の設定を引き継いでいるので、「35歳で一軒家をもち、商社で係長になっていて、妻と2人の子どもがいる」という、現代では超がつく「勝ち組」になってしまっている(しかも、時期的に就活時はリーマン直撃のはず)。そんな奴から「頑張れ」とか言われても困るだろ。だから、笑顔で「頑張れ」というシーンがホラーにしか見えなかった。というか、非理谷は別に頑張っていないわけじゃない。冒頭ではちゃんと働いているし、推し活できるくらいには収入を得ていた。彼に必要なのは公的な福祉であり、自己責任論ではない。

 以上の点は結構問題だと思う。劇中で何度も「この国はお先真っ暗」と言ってるわけで、つまりは作り手もこの国の行き詰まりを感じていて、それを打開するメッセージを子どもに届けたい、という思いがあるのだと思う。しかし、だからこそ、結論がこれではだめだろう。もはや個人が「頑張る」だけではどうにもならないフェーズにまで進んでいるわけで、本作で糾弾されるべきはこの状況にまでこの国を追いやった存在、国だろう。しかし、本作では個人の問題へと矮小化させる。非常に不誠実。

 良かった点は、後半のしんちゃんと非理谷がいじめっ子に立ち向かうシーン。あそこは「クレヨンしんちゃん」というアニメ作品と共に生きてきた我々世代のこと。「しんちゃん」が人生に寄り添っていたことを示すシーンで、これは上手いな、と思った。しかし、あのシーンも問題でさ、「いじめっ子に立ち向かう」ことが何かの問題の解決になっているかのように描いてて、これも本当の原因から話を逸らす1つになっている。いじめっ子に立ち向かえただけで人生前向きになれたらこんなになってねーっつの。つーか、大人も一緒になって「頑張れ」とか言ってないで、何とか介入してくれよ。状況的に無理なのは分かるけど、あのいじめは親介入した方がいいだろ。ヤバい、全然褒めてないけど、褒めるところがそんなにないので別にいいか。

ゴジラが出てるシーンは100点【ゴジラ‐1.0】感想

 

78点

 

 『シン・ゴジラ』以来、日本製作としては実に7年ぶりとなる実写版ゴジラ。監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』や『アルキメデスの海戦』を手掛け、『シン・ゴジラ』公開時コメントを出していた山崎貴VFXは彼も所属する白組。『ゴジラ』の新作ということならば見ない理由はないため、鑑賞。

 

 今、日本で『ゴジラ』を作る、ということはとても難しい問題です。もちろん、『シン・ゴジラ』の存在が大きすぎるということもありますが、ジャンル映画的な怪獣プロレス映画ということだと、ハリウッドが「モンスターバース」をやってしまっている。しかも、やるからにはヒットさせなければならない。つまり、怪獣プロレスはハリウッドがやっていて、そこを外したエポックなゴジラは『シン・ゴジラ』がやっており、日本製作の『ゴジラ』は進退窮まった状態だったわけです。

 

 結論から述べると、山崎貴監督は、この超無理難題を見事にやってのけました。『シン・ゴジラ』と上手く差別化し、その上で、「モンスターバース」でもできなかったことをやってのけた。何点か疑問符が付く箇所もありますが、この点で、本作は大成功作だと思う。

 

 本作は、『シン・ゴジラ』を明確に意識し、「如何に差別化を図るか」に腐心した映画です。『シン・ゴジラ』が「日本VSゴジラ」だったのに対し、本作では「人間VSゴジラ」であり、意図的に個々のドラマが削ぎ落されていた『シン・ゴジラ』に対して、本作では神木隆之介演じる敷島のドラマがメインとなっている。また、『シン・ゴジラ』では無かった海上戦がメインになっている点もポイントだし、「市井の人々の犠牲」を克明に描いてもいます。以上の点で上手くいっている箇所もあるし、疑問符が付いた個所もありますが、それは後述。

 

 本作の白眉は、ゴジラ。造形はもちろん、出演しているシーンは全て100点なのです。白組のVFXが誇張ではなく、ハリウッドと肩を並べられるレベルなのもありますが、見せ方が凝っていて、ゴジラと相対していることを体感できるのです。例えば、敷島達が新生丸に乗っているときに遭遇したシーン。モロ『ジョーズ』ですが、視線の高さが観客と同じくらいになるように画面の設計がなされていて、本当に追われている感覚を味わえます。また、ゴジラの初上陸シーンでも、ゴジラをあおりで捉えたショット、浜辺美波が電車の中で襲われるショットなど、徹底して観客に体感をさせます。故に、本作は前よりの席で見た方がいいと思います。

 

 また、VFXとは別に音響も素晴らしかった。私はIMAXで鑑賞しましたが、ゴジラの咆哮や、お馴染みのBGMがかかったとき、前進に音が響き渡るあの感じは最高でした。以上2点で、本作は体感型の映画で、「映画館で見る」前提です。山崎監督は「ゴジラ・ザ・ライド」も手掛けているらしく、本作では、この経験が活きたのかな、などと考えます。余談ですが、ゴジラ初上陸のシーンは、「全身」が初めて映るシーンであり、それまでのタメもあり、「ゴジラの猛威」と共に出てきたときは全身の血が沸騰したかというレベルで興奮しました。

 

 怪獣映画だけではなく、ディザスター映画になると、実際に起こっている事態の規模が大きすぎて、人間のドラマがどうでもよくなってしまう、という問題点があります。ハリウッドの「モンスターバース」もそうで、『ゴジラVSコング』では開き直っていました。『シン・ゴジラ』は意図的にドラマを排除することでこの問題点をクリアしていましたが、本作は真逆をいき、直球のドラマ(=敷島の物語)を展開します。

 

 敷島は特攻に行けず、大戸島でゴジラザウルスに襲われた際(ここはまんま『ジュラシック・パーク』)、機関銃を撃てなかった。これがトラウマとなり、この克服がメインのドラマとなります。そしてそれが敗戦直後の日本と繋がり、復員してきた「戦争の生き残り」達が「彼らの戦争」を終わらせるべくゴジラに立ち向かいます。ここには明確なアジア・太平洋戦争に対する反省があり、吉岡秀隆演じる博士の口からも語られます。彼らは戦後の価値観のもと、「誰1人死なない」ことを絶対にして戦いに挑むのです。この接続の仕方は非常にスマートで、違和感がない。更に、敷島とゴジラの一騎打ちにもちゃんとつながる。また、核にも一応の言及はあり、ゴジラが放射熱戦を放った後、焼け野原になった銀座に黒い雨が降るシーンは、神木隆之介の絶叫も相まって、本作の名シーンです。

 

 しかし、この「反省」というのは、少々一面的ではないか、とも思います。先の戦争で、上層部が人命軽視の非人道的な作戦をとったことはその通りですが、アジア諸国への加害行為への言及がまるでなく(『GMK』はその辺にも言及していた)、言葉尻をとるならば、「もっと上手くやってればあの戦争も勝てた」ということになってしまうのではないでしょうか。

 

 また、そこに加え、ゴジラに勝つ、ということが「戦争の決着」になってしまうと、ゴジラの存在意義にも疑問符が付きます。上述の通りなので、本作におけるゴジラとの闘いは、アジア・太平洋戦争のやり直しともとれます。つまり、本作のゴジラは、「敗戦によって不能化した日本」を再び奮い立たせるためにいると捉えることもでき、「ゴジラ」という理不尽の象徴を人間のドラマを描くためのツールにしてしまっているとも思うのです。『シン・ゴジラ』では「政治が変わる」ことで3.11の逆境を乗り越える姿をやや誇張して描き、それがこの国の未来への希望となったわけですが、本作では、「戦争で本当は勝てた」ことの証明にゴジラが使われている気がするのです。

 

 他にも問題点としては、山崎貴映画全体に共通する点で、役者の芝居がクサくて大仰、更に台詞で全てを説明してしまう悪癖は今回も健在。佐々木蔵之介は本当にご愁傷様としか言えない。吉岡秀隆も『ALWAYS』の茶川先生だしなぁ・・・。後、脚本的に明らかにおかしい点も多いし(皆言及してる、敷島が新生丸でゴジラに遭遇した後、のんきに戻ってきて特に何もしない下りとか)。

 

 以上のように、疑問符が付く点もありますが、同時に、ゴジラのCGはハリウッドに負けない(見せ方という点では勝ってるかも)レベルです。映画館で見ることが大前提の映画でもあり、本作からまた次につながるといいなと思います。

 

 

ブログ内にある『ゴジラ』映画の感想達。

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