暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

あの原作をよく見事に「映画」にした!【蜜蜂と遠雷】感想

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95点

 

 

 原作既読。それ故に映画化を知ったときは戸惑いました。「出来るわけがない」と。原作を読んだ方ならば分かると思いますが、本作は非常に映像化しにくい作品であり、ハードルは相当高いのです。普通ならばスルー案件なのですが、監督は2017年に『愚行録』を発表した石川慶。私は『愚行録』は観られなかったのですが、中々に評判がよく、彼の存在は気になっていたため、いいタイミングなので鑑賞した次第です。

 

 原作者の恩田陸先生は、本作について、「小説でしかできないことを書きたい」と思って執筆したそうです。そしてそれは見事に成功しており、原作は「文字で音楽を再現する」というとてつもないことを成し遂げているのです。しかし、だからこそ「映画」にするのは困難を極めることは容易に想像できました。映画にするということは、音楽についても具体的な「音」がついてしまうこと。小説では、確かにとてつもない技量は必要ですが、描写さえキッチリとできていれば、その音楽の素晴らしさは描けます。しかし、実際に映像にし、音楽に音がついてしまうと、原作にあるような「人の心を感動させる音楽」を作ることは至難の業です。

 

 だからこそ、私は本作を鑑賞して、心の底から感心しました。本作は、この「音楽」についての原作をしっかりと「映画」にしているのです。

 

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

 

 本作を映画化するにあたり、最大の問題点は風間塵の存在です。メインの他の3人はまだ何とかなるでしょう。しかし、本作のキーパーソンである風間塵は、「劇薬」と称され、彼の音楽は聴いた人間の反応を、激賞と嫌悪に真っ二つに分けてしまいます。そしてこの音楽の神に愛された少年の演奏を聴き、栄伝亜夜は覚醒していくという作品の構造上、彼の演奏を説得力のあるものにしなければならないのです。

 

 本作はこの難題に対し、役者のリアクションと見事な編集によって原作を「映画」にしています。本作は原作から演奏シーンを抜き取り、大きな見せ場を2つ用意しています。1つは宮沢賢治の「春と修羅」のカデンツァ、もう1つは本選です。そこでの彼の演奏に対し、それを聴いた審査員等は、微動だにせず、恐怖すら感じた表情を見せています。そして、塵の演奏シーンでは、彼だけは変なアングルで捉えたショットを連発し、それをやはり少し変わった編集で映しているため、彼だけが他3人とは異質な存在であると印象付けられています。さらに、風間塵から受け取った「ギフト」により、「覚醒」する亜夜も、松岡茉優さんが彼女の演技力と衣装で完璧に表現していました。つまり、音楽の力に映画的な説得力が加えられているのです。舌を巻きました。

 

 そしてそれ以外の面でも本作は凡百の邦画とは一線を画しています。まずはキャスティング。本作は原作のイメージから連想されるキャラに沿ったピアニストがまず選ばれ、そこからキャスティングがなされていったそう。そして、「春と修羅」のカデンツァはガチな作曲家が「原作通り」に手掛けています。つまり本作は、本当に「音楽ファースト」の映画なのです。

 

『蜜蜂と遠雷』ピアノ全集+1(完全盤)(8CD)

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 また、音楽以外のキャスティングも素晴らしいです。本作で覚醒する栄伝亜夜には、役者として天賦の才を持つ松岡茉優さん、「凡人」代表の明石には松坂桃李、そしてマサルには「俺はガンダムで行く」の森崎ウィン。このマサルのような役には人気や実力はあるもののネイティブな英語は話せない役者さんが無理矢理演じ、そこに違和感を覚えてしまうことが多い中、彼のような本当に日本語も英語もペラペラの方が演じることで、凄く自然に勝るという役を体現していたと思います。そしてやはり一番難易度が高い風間塵も、新星の鈴鹿央士という垢のついてない役者が演じることで、嘘臭さが全くない。

 

 この4人以外にも良かったのは、マサルの師匠。邦画の外国人は何故か安く観えてしまうことが多い中、この方は存在感もあり、これまた嘘臭さが無い。パンフレットを読んだら、どうやらポーランドの有名な役者さんだそうです。

 

 本作は、「音楽の映画」です。4人の才能を持った演奏家たちがそれぞれの想いを持ち、影響し合い、作り上げられています。それがラストの栄伝亜夜の覚醒であり、カタルシスなのです。つまり本作は、全ての要素が絡み合い、映画という芸術を作り上げた協奏曲そのものだと言えると思います。この意味で、私は本作を「音楽の映画」として素晴らしいと感じます。

 

 

森崎ウィン出演映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 松岡茉優さん無双映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 松坂桃李無双映画。

inosuken.hatenablog.com

 

彼の怒りは、遂に世界へ向けられる【ジョン・ウィック:パラベラム】感想

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89点

 

 

 引退した殺し屋が、激情にかられてあらゆる敵を倒していく痛快シリーズ、『ジョン・ウィック』。1作目は単なる「ナメてた相手が殺人マシーンでした」映画であった本作ですが、2作目から急激にフィクションラインが上がり、ジョン・ウィックが所属している裏組織が前面に押し出されて、独特の世界観を持ったシリーズへと変貌を遂げました。私は過去2作は映画館では観ていないのですが、観てはいて、今回は初めて映画館で鑑賞した次第です。ちなみにその際、キルカウンター欲しさに買ったムビチケの存在を忘れて、クーポンで観てしまうという失態を犯してしまったため、都合2回映画館で観ました。

 

 1作目は上述の通り、「ナメてた相手が殺人マシーンでした」映画でした。そして2作目は、ジョンの所属する暗殺組織を前面に押し出し、ジョンの「反撃」を描いていました。3作目となる本作は、言うなれば「逃走」です。前2作では能動的に相手を殺しにかかっていたジョンですが、本作では逆に追われる立場になります。そのせいか、舞台はよく変わり、そこでの戦い方も多種多様になっています。故に、前2作と比べるとやや戦う理由が弱い面はありますが、アクションシーンの進歩ぶりが素晴らしく、2回観ても問題ないくらいには楽しめました。

 

 

 本作が前2作と違う点は大きく2つあると思っています。1つは上述の通り、ジョンが前2作とは正反対に「追われる立場」になっていること。2つ目はアクションシーンです。

 

 まず1つ目についてですが、前2作では限定的な舞台でジョンが無双しまくるという内容でしたが、本作では追われる立場という設定上、世界各国を旅します。そこで数少ない自分が頼れる人を頼り、逃走するのです。この展開により、ジョンの戦い方が、その場にあるものを駆使して戦うというジェイソン・ボーン的なものになっていたりして、その工夫がとても楽しいものになっています。そして超どうでもいいのですが、砂漠のシーンでは『MASTERキートン』を思い出しました。

 

 しかし、これによって、1つ問題が生じているとも思います。それは、ジョンの「戦う理由」が弱く見えてしまうということ。前2作では、ジョンは大切なものを失い、激情にかられて復讐を行います。しかし、本作ではジョンは終始逃げていて、向かってくる敵を返り討ちにするだけです。これには少し、熱量の不足を感じてしまいました。

 

 ただ、この「戦う理由の希薄さ」については、最後まで観ると合点がいきます。本作はつまり、次作へのブリッジ的作品だったのだということが。ジョンは本作の戦いで、コンチネンタルの支配人、ウィンストンに裏切られ(?)、遂に世界そのものから抹消されます。ラストが示す通り、彼の怒りが世界へ向けられます。つまり本作は、ジョンの怒りが、あの世界そのものへ向かうまでの序章だったのです。だから次作は相当スケールの大きい復讐劇になるのではないかと思われます。そうだよね?

 

悪女/AKUJO [Blu-ray]

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 2つ目のアクションシーンについて。前2作の時点で、ガン・フーという戦術を確立していたジョンですが、本作では銃だけではなく、本、馬、刀、そして『悪女』オマージュのバイクチェイスなど、多種多様な戦法を見せてくれます。それら1つ1つが観ていてとても面白い。さらに本作では、アクションのときにカットを割ったりせず、割と長回しで撮られています。それ故に前2作までにあったスタイリッシュさは薄れてしまい、泥臭さが際立ったものの、監督が意図したライブ感は強くなりました。そのため、前2作とは違ったアクションが楽しめます。確かに、よりバカッぽくはなりましたが。

 

 アクションシーンは泥臭く、しかし創意工夫に富んだ愉快なものになり、全てを失くしたジョンはラストで世界への怒りを表明します。どん底まで堕ちた彼が次作でどのような「復讐」を見せてくれるのか。凄いものだ出てきそうで楽しみにしています。

 

 

本作がメチャクチャ意識した映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 シリーズ1作目。

inosuken.hatenablog.com

 

 シリーズ2作目。

inosuken.hatenablog.com

 

「学ぶことの楽しさ」を思い出させてくれる漫画「ほしとんで」の感想

今週のお題「好きな漫画」

 

 久々にはてなブログのお題に参加します。「好きな漫画」と言われれば、私もそれなりには漫画を読んできたし、今もそこそこは読んでいるので、そりゃたくさんありますよ。その中で、今回私が記事にしようと思うのは、「ほしとんで」という作品です。現在、月刊コミックジーンにて連載中で、作者は「ガイコツ書店員本田さん」の本田先生。私は本作の存在を愛聴しているラジオ、アフター6ジャンクションにて知りました。で、読んでみたらこれがものすごく面白かったので、現在も継続して読んでいる次第です。

 

ほしとんで01 (ジーンLINEコミックス)

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 本作の主人公は、大学に入学したばかりの尾崎流星。彼のキャンパスライフを描きます。と書いて想像するのは、個性豊かな仲間と馬鹿やったり、恋愛したりといったものだと思います。しかし、本作はそんなものは描かない。確かに出てくるキャラは個性豊かですが、本作でメインとなるのは、「ゼミ」です。ゼミとは、少人数で特定の分野を教授と共に深く学んでいくアレです。ここで学ぶのは俳句。本作はゼミでの学びを中心にしてキャンパスライフを描くという、極めて真面目な漫画なのです。しかも俳句。

 

 本作の素晴らしい点は、作中のゼミ活動を通して、「学ぶことの楽しさ、豊かさ」が分かるという点です。本作は俳句ゼミですから、俳句について勉強をします。これは坂本十三講師の力量もあるわけですが、この授業がとてもいい。俳句について実践を通して丁寧に教えている。そしてそれに対して、主人公たちも自然な形で(時に突っ込みやボケの形で)質問をして、知識を深めていきます。歳時記とか初めて知りました。

 

合本俳句歳時記 第五版

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 具体的には、例えば2巻の内容で、主人公たちは鎌倉を歩き、そこで感じたことを俳句にするという句会なるものをやります。ここが本当に素晴らしい。まず俳句を作るわけですから、ネタを探さなければなりません。そこで主人公たち俳句ゼミ一行は鎌倉を散策するわけですが、そこで彼ら彼女らは、俳句を通して世界を捉えて、普段とはまた違った視点で世の中を見、そして普段では気付かない「発見」をします。本作は、この瞬間をしっかりと捉えています。

 

 そして自分が感じたことを基に句を作成し、ゼミ生が自分が良いと思った俳句を選出、それを坂本十三講師が講評をするわけです。そこでのゼミ生の感想は作品の出来不出来を競うものではなく、「何故その俳句を良いと思ったのか」を述べるものです。そして坂本十三講師の講評は、「自分の俳句には何が足りなかったのか」を知るためのものです。これを読んで私は、「ゼミってこういうものだったよな」とか、「学ぶってこういう、自分に足りないものを知ったり、世の中を違う角度から捉えて、新たな気付きを得るものだったよな」と思い出しました。この点において、私は本作を、立派な「ゼミ漫画」だと思います。

 

 また、本作はゼミが主体なので、上述の展開のような面白さや、俳句の知識がつきます。しかし、それだけでは地味です。本作のもう1つの魅力は、魅力的なキャラクターです。本作の俳句ゼミの面子は個性派揃いです。流星は感情に乏しいサイボーグですし、友達になる春信はヲタっぽいノリを隠さない奴ですし、非常勤講師の坂本十三は、「機動警察パトレイバー」の後藤隊長似の昼行灯キャラ。このような魅力的なキャラクターがわちゃわちゃしている掛け合いを読むだけでも楽しめます。

 

 魅力的なキャラクターと共に、俳句の知識を身に付け、そして学ぶことの楽しさを思い出させてくれる本作。私はまごうことなく大学生の青春グラフィティだと思うし、だから本作は読んでいてとても楽しいのだと思います。

「未来」をしっかりと示した秀逸なエピローグ【エルカミーノ:ブレイキング・バッドTHE MOVIE】感想

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82点

 

 

 あの傑作TVドラマ「ブレイキング・バッド」の劇場版作品。TVドラマの頃から画面構成、演出と、「映画」と呼んでも差し支えないレベルの作品でしたが、とうとう本当に映画になってしまいました。とは言え、Netflix作品なのですが。私はTVドラマは結構熱中して最後まで見ていたので、直接的な続篇である本作を観ない理由はないだろうと、台風が通過した12日の夜に鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、本作は「ブレイキング・バッド」では描かれずに終わったジェシーの物語をきちんと完結させ、彼の新しい始まりを描いた見事なエピローグでした。

 

 私は、「ブレイキング・バッド」というTVドラマは、「終わり処を見つける」話だったと思っています。ウォルター・ホワイトという平凡な高校教師が、余命を知ることで麻薬製造に手を染める。最初は家族に生きていけるだけの蓄えさえ残せればいいと思っていたのが、事態がどんどん大きくなっていき、果ては麻薬カルテルと戦争を起こすことになる。こういったクライム・サスペンスを軸にしながら、ケイパーものミドルエイジ・クライシスや家族の絆についての物語等々の要素が複雑に絡み合い、それが素晴らしいドラマを生み出していました。

 

 多くの要素を内包している作品ですが、TVドラマ中心にあったのは、ミドルエイジ・クライシスであり、それに伴う「終わり処しか決められない」中年男性の(作中に出てくるのはほぼ男性のため、敢えてこう書かせていただきます)悲哀でした。だから物語は、当然の帰結として、「ウォルターの死」という終わりに向かいました。

 

 

 これはこれで1本の筋が通った、素晴らしい完結でした。しかし、まだジェシーが残っていました。本作は、ジェシーの物語を、ウォルターとはまた違った意味で完結させ、シリーズ全体に仄かな希望を抱かせるものにしていたと思います。

 

 ジェシーとウォルターの違い。それは若さです。TVドラマでは、この年齢差が、2人を師弟関係にも、相棒にも、疑似家族にも見せていました。しかし、ウォルターはそれ故に「終わり」しか決めることができませんでした。翻って、ジェシーには若さがあります。本作では、彼が自分自身で「ジェシー・ピンクマン」という存在に終止符をうち、新しく人生を「始める」までを描きます。これには終始状況に流されるだけだった彼の、確かな成長を感じさせます。

 

 そしてこれは、ウォルター、引いては「ブレイキング・バッド」という作品の帰結とは正反対のものです。つまり本作は、エピローグとして、本筋とは違う「未来」の話を描いたのだと思います。あのシーンでウォルターを追い越したように、ジェシーはこれからもウォルターにはできなかった、彼の人生を送っていくのだろう。そう思いました。これからの彼の人生に、幸多からんことを祈ります。

 

 

メキシコのカルテルと戦う映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらもクライム映画。大分雰囲気違うけど。

inosuken.hatenablog.com

 

確かに映像は凄いけど・・・【ジェミニマン】感想

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57点

 

 

 『アラジン』で青くなってミュージカルをやったと思ったら、今度は若い頃の自分自身と戦うハメになったウィル・スミス。端から見てて、確かに愉快でしたが、私は本作を観るつもりはありませんでした。確かに、ウィル・スミスVSウィル・スミスというネタ的な設定と、アン・リーが監督しているという点で少しだけ興味はありました。けど、自分VS自分なんて、『ターミネーター/新起動』とか、『LOGAN』でやられているわけでそんなに目新しいわけでもなく、貴重な時間とお金を使ってまで観るもんではないかなと思っておりました。

 

 その気持ちが変わったのは、添野知生さんのツイートでした。何分不勉強なもので、私はそこで本作に全く新しい撮影技術が使われていると知り、内容的に興味はなくとも映画の歴史的には観ておいた方が良いと思ったので、鑑賞した次第です。

 

 

 結論から書くと、本作を映画館で観た意味はありました。本作で採用されている3D+in HFRの映像は確かに凄まじく、これまでに体感したことがない映画体験になりました。反面、ストーリーは杜撰であり、ふた昔前の大味アクション映画を観ている気分になりました。

 

 本作を語る上で欠かせないのは、3D+in HFRでしょう。これは通常のフレームである24fpsを大きく越える60fpsで撮影されているものです。簡単に言えば1秒間に挿入されているフレーム数が60枚ということです。アニメを例に出せば分かりやすいと思いますが、あちらは中割を入れれば入れるほど動きがヌルヌルして、俗に「神作画」何て言われたりします。本作はそれを実写に適用しており、1秒間に60枚もフレームを入れているため、細かな動きも再現できるというわけです。お陰で役者全員がヌルヌル動きます。ウィル・スミス(若)は実写版『ライオン・キング』よろしくCGキャラだそうですが、彼の動きとウィル・スミス(現在)の動きにそこまで差がなかったように見えたのは、この技術のお陰なのかもしれないと思ったり。

 

 ただ、本作のベストな状態はこれではなく、さらに倍の120fpsだそうです。これを採用しているのは日本に3館しかないとのこと。私は距離的に行く気力が湧かなかったので、相対的に近く、3D+in HFRを上映できるTOHOシネマズ日比谷にて60fpsで観ました。

 

 しかも本作は全編に亘って4Kで撮影されているため、解像度も尋常ではない高さ。しかもそれが3Dになっているため、立体的にもなっています。何を言いたいのかというと、本作はこれまでの映画を越える「実在感」を有した作品だということです。

 

 この撮影技術により、画面はとにかく美しく、圧倒されます。これだけでも料金分の価値はあります。現実との境界を忘れそうになるくらいの質感を有しているため、アクション・シーンの緊張感も中々のものです。しかも3Dなので、終盤のガトリング・ガンのシーンでは、本当に弾とガラスが飛んできて、怪我するんじゃないかと思いました。後は水の美しさ。息を呑みました。

 

 

 また、アクションシーンも、目を見張るものがありました。中盤のアクションです。屋内での銃撃戦とバイクチェイスで、あまりカットを割らず、長回しで撮っているのです。解像度が高いが故に画面上で誤魔化しが効かないということを考えれば、中々攻めているなぁと思います。アクション自体もダイナミックさもあり、単純に面白い。

 

 このように、映像とアクションはまぁ頑張っているのですが、肝心の内容がお粗末。これに関しては、「本作は映像の映画である」と言われてしまえばそれまでですが、ストーリーには基本的に突っ込み処しかないです。ブダペストを往復するのも回りくどいし、バロンの死に方が雑だし、最後の決着は適当だし、およそ良いところがない。一応、ウィル・スミス(現在)がウィル・スミス(若)に対して自分にはできなかった「普通の人」としての生涯を全うさせようとするという話であり、個人の尊厳の話ではあります。しかし、それにしても看過できないレベルのお粗末さです。

 

 このように、ストーリーはてんでダメです。しかし、映画館でしか観られない映像を作り出したという1点において、本作は記念碑的な作品ではあるし、この映像を体感するだけでも本作を観る意味はあります。私はこの点と、メアリー・エリザベス・ウィンステッドの変わらぬ美しさに対し、この点数を捧げようと思います。

 

 

大味アクション。でもこっちはバカ映画なりに面白かったです。

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 引退願望がある凄腕の殺し屋という共通点がある作品。

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 ポケモンですが、CG技術の向上に目を見張った作品。

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心からワクワクできる、傑作冒険活劇【ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん】感想 

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95点

 

 

 存在を知ったのは、アフター6ジャンクションのコーナーにて。名アニメーターである井上俊之さんが本作を絶賛していたので興味が湧き、9月の末に頭が痛いのと疲労がたまっている体を押して恵比寿まで鑑賞してきました。

 

 結果、鑑賞して本当に良かったと思いました。話の内容はもう何度見たか分からないくらいのベタベタな冒険活劇なのですが、とにかくアニメーションが素晴らしすぎて、眼福なのはもちろんのこと、キャラクター1人1人がしっかりと生きた存在になっている点が特に素晴らしいと思いました。

 

 素晴らしい点だらけなのですが、まずはアニメーションです。本作のものは非常にシンプルなもので、私たちが慣れ親しんでいるアニメとはまた違った雰囲気のものです。私は詳しくは語れないのですが、本作は実線がキャラになく、色面だけで描かれ、背景も同じく色面だけで描かれています。日本のアニメーションだと背景とキャラは、キャラの埋没を防ぐために区別されて描かれているそうなのですが、本作では埋没など全くせずに、キャラクターが背景からしっかりを実体を持って生きています。また、日本のアニメによくある、ディティールに拘りまくった作画もありません。とにかくシンプルです。

 

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 また、基本的なストーリーも、「行方不明になった祖父を追い、少女が冒険に出る」という、「少女」という点を除けば、もう何百回聞いたか分からないレベルの「ベタベタ」なもの。しかし、本作はそのベタベタ展開を卓越したアニメーションと、軽快なテンポでしっかりと描きます。色彩と動きが全編に亘って素晴らしいのですが、白眉は北極に着いてから。大自然の無慈悲さと雄大さをしっかりとしたリアリティを以て描き出します。この時のスペクタクルと、フッと浮き出てくる人間のどうしようもない悪感情の描写が素晴らしく、人間のちっぽけさを痛感させます。

 

 また、何より素晴らしいのは主人公のサーシャですね。彼女はシンプルなデザインで、日本のアニメ的な「可愛さ」は皆無です。しかし、何故か動いている彼女は超かわいい。世間知らずだった彼女が成長し、船員たちに認められながら極北の地を目指す姿は、応援したくなります。

 

 つまり本作は、シンプルな画面の中で、同じくシンプルなキャラクターが冒険に出るという、昔の東映動画作品のような映画なのです。そしてそれを卓越したアニメーション、レイアウトで描き出すというもので、アニメーションの素晴らしさを再認識させてくれる作品でした。とにかく画を見ているだけで眼福なので、時間があったら多くの方に観てほしいと思っています。

 

 

ディティールに拘りまくった、本作と正反対の作品。

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 同じくシンプルなアニメ。

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2019年春アニメ感想⑤【鬼滅の刃】

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 現在、週刊少年ジャンプで大好評連載中の五峠呼世晴先生の原作をアニメ化した作品。単行本は17巻まで発行され、累計の売上部数は1200万部を突破(2019年10月現在)しているという今のジャンプを代表する作品の1つです。私は例によって原作は読んだことはなく、存在だけ知っていました。視聴理由はファンだからとかではなく、制作会社があのufotableだったからです。内容は見てみないと分かりませんが、アニメーションのクオリティならば折り紙つきということで、視聴しました。

 

 視聴してみると、なるほどこれは人気が出るはずだと納得しました。王道の展開を踏まえ、魅力的なキャラとしっかりした敵対構図、そしてそれをufotableがこれまで培ってきた技術を注ぎ込んで作り上げており、確かに面白かったです。

 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 本作は「炭治郎立志篇」として、とても上手くまとまっています。内容は妹以外の家族を亡くした炭治郎が、鬼殺隊に入り、善逸や猪之助等と出会い、家族に代わる「仲間」を獲得するものでした。だからこそ、最後の敵が支配的な、偽りの「家族」だったのでしょう。最後で自分とは全く相容れない、ダークサイド的な存在に、支配的でない「絆」の力で打ち克ち、「家族の物語」として上手くまとめていたなぁと思います。他にも細かいところで感心した箇所がありました。

 

 まずポイント高いのは、炭治郎にきちんと修行をさせている点。しかも1ヶ月とかではなく、年単位の。炭治郎は、元々能力を持っていたり、そんなことしなくても強かったりするアニメ、漫画作品の中では、結構珍しい努力型の主人公でした。だから戦闘になって、しっかりと戦えているのにも説得力があります。

 

 また、修行をさせているからといって、妙に主人公補正を入れていないのも好感持てました。最後の敵には思想的には勝ちましたが、最後は結局追い詰められましたし。「強いけど、まだ幹部には勝てない」という点をしっかりとやっていだと思います。

 

 本作は、「敵」の描き方も良かった。本作の敵である鬼は、人間を喰らう存在で、確かに危険です。しかし、彼らは生まれたときから鬼なのではなく、鬼無辻無惨により、「鬼にさせられた」もしくは「なった」存在なのです。炭治郎と戦った鬼は、死ぬ間際に人間だった頃の記憶を思い出し、それが彼らをただの「悪」としてではなく、奥行きのある存在にしていたと思います。そしてここから、もう1つの見方ができます。それは、鬼達は、鬼殺隊の会わせ鏡的な存在だということです。ひょっとしたら、鬼殺隊の人間も出会ったのが鬼無辻だったら、鬼になっていたかもしれません。元々は同じ人間だったのに、ひょっとしたら友達にだってなれたかもしれないのに、鬼無辻のせいで敵味方に別れさせられ、殺し合いをしている。この辺は『仁義なき戦い』を思い出しました。

 

仁義なき戦い [DVD]

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 最後に素晴らしいのは、アニメーションのクオリティ。やはりufotable。素晴らしい。縦横無尽、スピード感のあるバトルをカットを割らずに魅せるカメラワークのように、お得意のダイナミックな演出はもちろんです。しかし本作はそれに加え、日常芝居もレベルが高い。ここは「衛宮さんちの今日のご飯」で培った技術がしっかりと発揮されています。

 

 このように、本作は魅力的な原作を、しっかりとアニメ化した理想的なアニメ化作品だったと思います。劇場版を決まってるので、とりあえず観に行こうかなと思います。

 

 

ufotable制作の最強飯テロアニメ。卓越した日常芝居が素晴らしかった。

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 同時期に放送されていたジャンプのラブコメ作品。

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