暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

全体的に緩いけど、語られていることはとても大事【記憶にございません!】感想

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53点

 

 

 三谷幸喜監督最新作。私は三谷監督の作品は映画を本格的に好きになる前からよく観ていて、おかげで評判が最悪だった『ギャラクシー街道』以外は観ています。脚本を担当したTVドラマも新作をやれば必ず見るくらいにはファンです。ただ、映画をよく観るようになって知ってビックリしたのですが、この方の監督作は映画ファンからは相当酷評されている模様。全方位的に評判が悪い『ギャラクシー街道』はともかく、私が割と面白いと思った『清須会議』とか『ステキな金縛り』もそうなのですから驚きですよ。果たして映画をよく観るようになった私は彼の作品をどう評価するのか、自分でも興味があったので鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、なるほどと思いました。確かに、これは色々言われるのも納得の作品だなと。密室劇、長回、役者の演技と、見所が無いわけではないのです。しかし、如何せん全体的に笑いがTVドラマ的で、しかもストーリーも全体的に緩み切っているのです。

 

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 まず良い点を書くと、本作は、題材が面白いと感じました。政治家がよく言う「記憶にございません」という名文句をそのまま使って、「記憶を失くした総理大臣」を主人公にするという点です。記憶を失くしたときから始まり、記憶を失う前の自分をTVで見ることで、客観的に以前の自分がどれほど酷いかが分かるという冒頭が秀逸でした。そして記憶を失くすことで、彼が以前に行った悪行について「何でこんなことしたの?」と至極最もな疑問にしてぶつけるのも、現政権とやってることが被っているため、中々上手いなぁと思います。

 

 そしてこの「記憶を失くす」ことが政治家として「生まれ変わる」事とイコールになっています。覚悟を持って、しっかりと勉強をし、志を持てば、「理想の政治はできるよ」というメッセージにしているのです。本作で語られる政治や政策は、本当に今の日本に必要な政策であるし、最後の戦術も、「しっかりと謝る」であるため、三谷監督の現政権への思いが滲み出ている気がします。

 

 また、役者の演技もとても良かったです。芸達者の方々が揃っており、彼らが必死の形相で可笑しなことをしているシーンのいくつかは笑いを誘います。個人的なお気に入りは吉田羊と中井貴一のシーンと、同じく中井貴一梶原善の車内での、「そんなの必要なんですか?」→「みんなそう思っているよ!」のやり取り。

 

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 ここまでは良いです。しかし問題は、最初にも触れましたが、色々と緩い点。笑いはいくつかのシーンを除けは、役者が非常に分かりやすいおどけ方をして笑わせるものですし、ストーリーは「そんな上手くいくかい!」の連続。コメディとはいえ政治劇なので、もう少しだけシビアにしても良かったのではないかと思います。

 

 ただ、ストーリーの緩さについては、本作があまりにもひどい現政権への揶揄であり、その反対をやればこんなにも良い政治ができるのに、というメッセージを内包していることを考えれば少しは許容できます。でも、総理が元々良い人だったっていうあのオチはもう少し捻った方がいいような気がしましたけどね。勉強して、知識をつけたからこそ変わった、みたいな感じにした方が良かったと思う。

 

 しかし、それ以上に本作に対して鼻白んでしまったのは、現実よりも本作の方がマシだからです。何故なら、ひどいことをしているから、政権支持率が2.3%まで下がり、「歴代で最低の総理」と堂々と言われていて、国民もそれを共有しているから。現実はどうですか。消費税増税、法案強行採決法人税の軽減、日米FTA、モリ・カケ問題、閣僚の性差別発言、公文書の破棄、公費の私費化etc,etc、書いてて嫌になってきた、これだけのことをやってるのに、未だに国民の40%超が現政権を支持しているのです。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。このため、劇中でいくら「ひどい、ひどい、」と言われても、「まぁ、現実よりましだしなぁ」としか思えないし、そこで語られている「理想の姿」も、「そんなこと起こらないんだよなぁ」と思ってしまいます。ハッキリ言って心が汚れている。

 

 ただ、三谷幸喜のような、劇場で大規模上映をかけられる監督が本作のような作品を発表したというのはとても重要ですし、語られていることは理想的だけど、とても大切です。なので、この点数とします。 

 

 

政権批判映画。言いたいことはある。

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 アメリカの政治風刺映画。出来が違う。

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超絶アクションシーンの連続。中国アニメもここまで来た!【羅小黒戦記】感想

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96点

 

 

 中国産アクションアニメ。MTJJ木頭先生が原作で、同時に本作の監督も務めています。公開してしばらくは私は存在すら知らず、初めて知ったのは例によって名アニメーター、井上俊之さんの絶賛ツイートでした。そこから高評価の声が続々と聞こえてきてがぜん興味が湧き、池袋HUMAXシネマにて、3週間前からチケットを購入して鑑賞してきました。

 

 本作は、妖精のシャオヘイと人類のムゲン、2人が共に行動し、理解し合い、絆を深め合っていくロード・ムービーです。そしてそこに、現代的なメッセージも内包されています。それは言うなれば、「人間と妖精の共存」で、シャオヘイとムゲンの2人に託されています。中身は言ってしまえば「ゲゲゲの鬼太郎」のような話で、「元々妖精が住んでいた土地に人間が土地開発を進め、そのせいで妖精の住む場所がなくなってしまった」というもの。中国は開発がどんどん進んでいる国で、環境汚染もひどいという点を考えれば、映画のこの点にはタイムリーなものを感じます。そして同時に、日本でも同じような話が山ほどある点を考えれば、「どこの国も根本的には変わらないんだなぁ」と思わせられます。そしてこの点をさらに深掘りしていくと、現在の分断が進む世界や、中国がやっているようなことに対するアンチ・テーゼ的な点も見えてきます。

 

ゲゲゲの鬼太郎(1) (コミッククリエイトコミック)

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 そしてこのメッセージの提示の仕方も上手いなと思いました。まだ子どもであるシャオヘイの視点を使っているのです。彼の視点は、基本的に観客の視点であり、観客はシャオヘイと共にこの世界について知っていきます。だからこそ、作品のメッセージをきちんと受け取ることができるのです。

 

 本作は、森の中で休んでいたシャオヘイが、(おそらく)人間による森林伐採で目覚め、猛スピードで森の中を駆けるシーンから始まります。ここで観客は、アクションに感嘆すると共に、シャオヘイが人間を憎む気持ちを理解できてしまうのです。そして同じく人間のせいで土地を追われたフー・シーと出会い、ようやく仲間ができた、と思ったらムゲンが来るのです。この時点ではシャオヘイにとって、そして観客にとってはムゲンは完全に「敵」であり、このマイナスからのスタート地点故に、ストーリーが進むにつれて彼を理解することで印象がひっくり返るのが面白いし、人間と直に触れ合うことで、「人間にも良い奴はいる」と知ります。そして同時に、最初に感情移入させたことで、「人間憎し」の主張にも共感できる作りになっているのです。つまり本作は、極めて自然なストーリー運びで、相互理解と、勧善懲悪ではない敵対関係を描いているのです。

 

ドラゴンボール超 ブロリー [Blu-ray]

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 そしてもう1つ特筆すべきなのが、キャラの魅力です。主人公のシャオヘイは所謂ツンデレショタであり、所作が一々可愛いんですよね。そしてもう1人の主人公であるムゲン。最強で天然でイケメンという文字通りチートキャラで、普段は反応が薄いのですが、バトルになると有無を言わせぬ強さで敵を一蹴したり、かと思ったら天然を発揮するなど、カッコよさと笑い、圧倒的存在感を出しています。私は彼にやられてしまいました。

 

 そして何と言っても、アクションシーンです。日本アニメのいいとこどりで、観ているだけで気持ちのいいものなのです。まず、純粋なアクションとしてクオリティが高く、キャラの動きが躍動感あふれるものになっており、ハイスピードなバトルが次々に展開されます。私が連想したのは「NARUTO」と『ドラゴンボール超 ブロリー』です。キャラが縦横無尽に動き回るスピード感溢れるバトルを、カメラワークと迫力あるエフェクト、そして気持ちよく再現された体術を以て描いているのです。また、勢いだけではなく、一瞬のタメも多用しており、1つ1つが洗練されていて、快楽です。公式が動画を挙げているのでリンクを貼っておきますね。

 


《羅小黑戰記》電影版 無限登場 THE LEGEND OF HEI

 

 このリンク動画の内容ですら序の口でしかなく、本編ではこれを超えるアクションが矢継ぎ早に繰り出されます。それこそ、『ドラゴンボール超 ブロリー』クラスものものあります。これを観ているだけで気持ちよく、快楽の中に浸ることができます。

 

 また、もう1つ特筆すべき点として、能力バトルものとしての面白さがあります。「HUNTER×HUNTER」のようにルールがあり、キャラはそれに則って、きちんと戦っているのです。しかも能力者は後半になるにつれて『ジョン・ウィック』における殺し屋張りにどんどん出てくるため、世界観がより奥行きのあるものとして観れたと思います。

 

 以上のように、本作は、凄まじいアクションに目が行きがちですが、細かな演出やギャグ、そして全体のストーリーもかなり良くできている作品でした。劇場で是非観てほしい作品です。

 

 

同じくアクションがすさまじいクオリティの作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくアクションが半端ない作品。ちなみにTVアニメです。

inosuken.hatenablog.com

 

誰かに手を差しのべ、寄り添うことの大切さ【映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ】感想

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80点

 

 

 11月8日。映画ファン的には、今年の注目作の1つ『ターミネーター/ニューフェイト』が公開されました。楽しみにしていたのは映画ファンだけではなかったようで、普段あまり映画を観ない層の観客も動員し、その週の興行収入ランキングで見事1位を獲得しました。

 

 しかし、その週末の話題は別の作品が完全に持っていきました。それが本作です。作中のすみっコ達のようにひっそりと公開されてみれば、その外見からは想像もできなかったメッセージ性を含んだ作品としてTwitterで感想が出回り、「奈須きのこが脚本やってる」とか「子ども向け作品を観に行ったかと思ったら『攻殻機動隊』だった」とか大層な言われようをされました。私はすみっコぐらしについてはまるで知らなかったので、当然本作の存在も話題になるまで知りませんでした。

 

 

 しかし、話題になれば観たくなるのが人間。子どもの邪魔になっては悪いので、仕事帰りに鑑賞してきました。ちなみに、このときの劇場内は親子連れと私のような映画ファンらしき1人客(男)とで二極化されており、それはとても異様な光景でした。

 

 鑑賞してみると、なるほどと思いました。純度100%の子ども向け作品でした。しかし、それはつまらないこととイコールではありません。誰かが言いましたが、子ども向けと子供騙しは違います。本作は「すみっコぐらし」の設定を上手く使い、人間にとって、とても大切なことを真摯に訴えた作品です。ここを子供騙しにしていないから、大人にも十分響くメッセージを含んでいるのだと思います。

 

 本作は子ども向けであるため、全体的に分かりやすく作ってあります。井ノ原快彦さんのナレーションで進み、キャラ紹介、キャラの考えていること、今何を目指しているのか、を説明してくれます。このイノッチの声が凄く良くて、何かこう、とても安心できます。

 

 また、すみっコ達もイノッチのナレーション以外に結構個性的な動きをしています。台詞がない彼ら彼女らですが、こうした動きから「何を考えているのか」という深読みをすることが出来ますし、それが各々のキャラの差別化になっています。

 

 本作で重要なのは、すみっコという点。彼ら彼女らは所謂「余り物」であり、社会的、存在意義的にはあまり必要とされていない存在です。だから隅っこが落ち着くんですね。本作の肝は、このすみっコ達が、自分が何者か分からないひよこと出会い、寄り添うことです。

 

 

 本作を観て、現在大ヒット中の映画『ジョーカー』を思い出した方も多いと思います。私もそうでした。あの作品は、社会の隅にいるアーサーが、全てから見捨てられて「悪」になる作品でした。本作のひよこは、終盤に明かされる正体により、『ジョーカー』におけるアーサーと言える存在だということが分かります。ただ、アーサーと違うのは、ひよこには自分に寄り添ってくれるすみっコ達がいたこと。すみっコ達と絵本の世界を冒険し、鬼とか狼とか色々な存在に出会い、友情を育みました。「自分は誰かから必要とされている」ことさえ分かれば、人は前向きに生きていけるのです。場所があれば、こんなに嬉しいことはないのです。

 

 また、ラストでこれまで出会ってきたキャラが総出で助けてくれるのも素晴らしいなと思います。私はここに、「他者と交流を持てば、助けてくれる」というメッセージを観ました。しかも鬼に関しては、「桃太郎」の世界なのに倒さないで話し合いで説得した上で結んだ関係性だったので、より素晴らしいなと。

 

 人が人に対して、手を差し伸べることを忘れかけている現在。「誰からも必要とされていない」存在にも手を差し伸べ、寄り添うことの大切さを描いた本作は、今だからこそ子どもに、そして観客に伝えるべき作品であると思います。

 

 

本作とは根底は同じながらも、結果は全く違うという作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じく「子供向け」作品。こっちも素晴らしいぞ。

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女優への畏敬の念【真実】感想

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79点

 

 

 昨年、『万引き家族』で日本人としては21年振りにカンヌ国際映画祭最高賞、パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督。映画も大ヒットを記録し、質的、興行的にも大成功を収めた彼が次に放った作品は、カトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュイーサン・ホークという名優と共に撮った、フランス映画でした。私としても是枝監督の作品は必ず観るようにしていますし、何と言ってもガラパゴス化が著しい日本映画界で、自ら海外に打って出て、海外の名優と共に映画を作る。これを聞いただけで俄然期待値は高まりますし、応援したくなります。なので、台風が迫ってきている公開初日に鑑賞してきました。

 

 ・・・のはいいのですが、劇場に行って愕然としました。観客が全然入っていなかったのです。私が観たのは台風が迫っている日だったので、その時はそのせいかなと思ったのですが、週末の興行ランキングにも入っていない始末。オイオイオイオイオイオイオイオイと、「密漁海岸」の岸辺露伴ばりに突っ込みたくなります。皆『万引き家族』観たんじゃねーのかよ。やっぱ賞効果だったのかと悲しくなりました。しかし、そんなことは気にせず、私個人の感想を書きたいと思います。

 

岸辺露伴は動かない (ジャンプコミックス)

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 鑑賞前はその座組から、いくら是枝監督でもどうなるか全く予想ができなかった本作。予告を観ていると、自伝を出したのを機に、大女優一家の隠された「真実」が明らかになる、みたいな、サスペンスを想像していました。観てみると、だいたいは合っていました。ストーリーが進むにつれて、家族の仲にある確執が浮き出てくるという『歩いても 歩いても』的な恐ろしさは健在です。しかし、本作は基本的にはコメディ映画であり、ちょっとだけライトな、いつもの是枝作品でした。だから観ていると、カトリーヌ・ドヌーヴ樹木希林に見えてくるし、イーサン・ホーク阿部寛に見えてきます。

 

 本作を観ていて面白いなと思った点は、映画の中にいくつかの層がある点。それらが本作をより深く、重層的なものにしているなぁと思いました。

 

 1つ目の層は、本編と、ファビエンヌが出演している劇中劇。宇宙に行って歳をとらない母親と、地球に残り、歳をとっていく娘という、『インターステラー』のような話なのですが、ここで描かれることが、ファビエンヌと娘のリュミールの関係を表すものになっています。「歳をとらない母親」と「歳をとる娘」という設定はずっと子供のように我儘ばっかり言ってるファビエンヌと、それに振り回されているリュミールに重なり、立ち位置が逆転していくところ、そして2人が和解する点も劇中劇と重ね合わされて語られています。

 

 

 もう1つの層は、ファビエンヌと、演じているカトリーヌ・ドヌーヴです。ファビエンヌは、観れば観るほど生き様がカトリーヌ・ドヌーヴそのものです。最近BSで放送されていた本作の制作ドキュメンタリーを見てみると、よりそれが分かります。そして是枝監督のインタビューを聴いたり読んだりすると、あの劇中劇の様子にはかなり本作の撮影状況が反映されている模様。つまり本作は、家族の物語であると同時に、カトリーヌ・ドヌーヴという女優そのものを撮った作品でもあるのです。この2つを同時にこなしてしまう監督の手腕には脱帽しました。

 

 いつも通りの「家族の物語」でありながら、女優への畏敬の念まで見事に映像化してみせた是枝監督。日本での興行は不振ですが、評価は高い模様。このまま突っ走ってくれることを期待しています。

 

 

監督前作。パルム・ドール受賞作。

inosuken.hatenablog.com

 

 監督作。

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ギャング達の栄光と落日、そして懺悔の物語【アイリッシュマン】感想

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96点

 

 

 巨匠、マーティン・スコセッシが、共にハリウッドをのし上がったロバート・デ・ニーロと『カジノ』以来、24年振りにタッグを組んだギャング映画。本作のトピックはそれだけではなく、共演にはデ・ニーロと同じくスコセッシ組のジョー・ペシハーヴェイ・カイテル、そしてスコセッシ組初参加の名優、アル・パチーノが参戦と、まるで70年代~80年代のギャング映画のような顔ぶれであることです。NETFLIX独占配信とのことでしたが、この度映画館で上映が決定したということで、鑑賞してきました。

 

 本作の上映時間は209分と大変長く、これが鑑賞の際のハードルを上げてしまっていると思います。私もかなり気合いを入れて臨みました。しかし、実際に鑑賞してみると、1シーン毎の画面の密度が半端ではなく、退屈することなく観ることが出来ました。こんなシーンを何てことないように撮れてしまうスコセッシの職人技にただただ感服です。

 

 本作のストーリーには、大きく2つの側面があると思っています。1つはギャング映画としての側面。2つ目はフランク・シーランという人物が、裏世界から見たアメリカ現代史の側面です。そしてその2つの側面から、個人の人生と懺悔についての物語を描き出した作品でした。

 

アイリッシュマン(下) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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 本作がギャング映画の総決算的作品と言われるのはよく分かります。まず座組がそうですよね。ストーリーも一介の人間が裏世界でのし上がっていくという、王道のもの。一番連想されるのは1990年の『グッドフェローズ』です。それ以外にも、劇中のレストランでの暗殺は『ゴッドファーザー』を連想させます。しかも暗殺シーンについても、プロフェッショナルなものなので画的には地味になってしまいがちなものをカメラワークでカットを割らずに見せていたり、工夫もされています。

 

 そしてそのようなギャング映画としての形式を借りながら、裏世界から見たアメリカ現代史を描き出していきます。なので、一種の大河ドラマ的な内容になっています。この辺も『グッドフェローズ』っぽいです。

 

 ただ、『グッドフェローズ』とは決定的に違う点があります。それは映画のテンポです。『グッドフェローズ』は約30年間のマフィアの抗争を超スピードで描いた作品でしたが、こちらはほぼ同じ年月の出来事を『グッドフェローズ』より1時間超長い時間で描いています。しかも役者も皆老人。CGI処理しているけど、動きまでは若者になれませんでした。それ故に、若干スローテンポになっています。ただ、それでも映画そのものが弛緩しているとかはなく、シーランがのし上がっていく大半のパートは躍動感に満ちています。これはスコセッシの力もそうですが、やはり役者の存在感と演技力のなせる業なのかなぁと思います。

 

 

 この若干のスローテンポこそが大切だと思っていて、本作は、要は「老人の映画」なのだと思います。もう全盛期は過ぎ、人生の終わりを迎えようとしている人間の物語です。だからこそのキャストなのです。ロバート・デ・ニーロアル・パチーノジョー・ペシハーヴェイ・カイテル。彼らはスコセッシと同じ時代を駆け抜け、もう人生の終わりが近づいてきています。そんな彼らを、スコセッシが撮るという、彼らの役者人生と被る内容の作品なのです。そしてそれはストーリーにも表れていて、躍動感に満ちていた前半(=全盛期)と比べ、シーランが逮捕されてからは停滞気味になります。まるで、「終わりを迎えるだけ」な人生そのもののように。

 

 シーランは暗殺者としての仕事を請け負い、裏世界でのし上がりました。しかし、ギャングに身を任せた結果、人生の終わりを迎える年齢になった時には、家族を失い、友人も失い、頼れる兄貴分にも先立たれ、1人になってしまいました。序盤でシーランがモノローグで言っていた「自分で進んで墓穴を掘る人間の気持ちは分からんな」という台詞がラスト、人生の終焉を迎えたころになって自身に跳ね返ってくるのです。これが彼の人生の結果なのです。ラストのわずかに開いたドアの間から見えるシーランの姿は、これまでの人生全てが虚しく感じられるような、寂寥感がありました。

 

 激動の時代を駆け抜けた者たちを躍動感を以て描く前半と、人生の終焉に差し掛かり、停滞する後半に分けて、流されるまま罪を重ねてきた人間を描いた本作は、スコセッシにとって、ギャング映画として、そして彼のもう1つのテーマである「信仰と懺悔」の映画であると思います。それを同じ世代の役者と共に制作したという点で、本作は彼の1つの集大成なのかもしれないなと思いました。

 

 

こちらも人生の終焉についての映画。

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 こっちも老人の映画。

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ラストで台無し【スペシャルアクターズ】感想 ※ネタバレあり

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53点

 

 

 昨年、『カメラを止めるな!』の大ヒットにより、一躍時の人となった上田慎一郎監督。おそらく、今映画界で最も次の作品が待ち望まれている彼の最新作です。私も突如として現れたこの監督の作品は、同じ時代を生きている者として出来るだけ追っていこうと思っており、この度鑑賞した次第です。

 

 しかし、鑑賞してみると、少しイマイチに感じてしまう作品でした。確かに、前半に感じたつまらなさは中盤のどんでん返しでチャラになりましたし、『スティング』のようなケイパーものの作りも良い。しかし、ラストの大どんでん返しで全てが茶番に思えてしまうという作品でした。

 

スティング [Blu-ray]

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 本作について調べてみると、前作『カメラを止めるな!』と非常に近い作品であることが分かります。役者はほとんどの方が無名、若しくは初挑戦である点、そして役者を魅力的に撮っている点、おそらく低予算である点、どちらも「フィクションの力」を扱っている点、最初がつまらない点、そしてどちらも大どんでん返しがウリである点。こうなると二番煎じ感が出てきそうなものですが、本作はそれに陥っていません。それは本作が『カメラを止めるな!』とはジャンルが少し違うためだと思います。

 

 本作は、『スティング』のようなケイパーものと言えます。「スペシャルアクターズ」の業務内容や、あっと驚くどんでん返し、そして圧倒的な力を持っている相手をこちらのチームワークと知恵で騙して壊滅させる、というストーリーはそのまま当てはまります。

 

 監督の前作『カメラを止めるな!』と本作が違う点はまさしくここだと思います。どちらもどんでん返しを作品の重要な要素としていましたが、あちらは映画製作の裏側を描くことで作品そのものの内容をがらりと変えてしまう作品だったのに対し、本作は(少なくとも中盤までは)ケイパーものというジャンルの範疇のどんでん返しだったと思います。

 

 本作は、主人公、和人の自己実現とちょっとした成長の話です。彼は子どもの頃に見ていた「レスキューマン」という特撮ヒーローものの大ファンで、その影響で役者をしています。だからこそ最後でレスキューマンになって大立ち回りをする(と言う大芝居)展開は彼の自己実現がなされた瞬間であり、同時に、「信じる」ことで過去のトラウマを取り払った瞬間でもあるので、感動的なのです。

 

 

 そしてここで重要なのが、この大芝居で崩壊させるのが、「信仰」をビジネスにしている悪徳新興宗教である点。そう、本作は、芝居という人々に「本物である」と思わせるもので、「信仰」を食い物にしている連中を打ち倒すという話なのです。このあたりの「フィクションについての物語」については、『カメラを止めるな!』と同じものを感じます。つまり本作は、「フィクションで救われた人」の話なのです。

 

 ここまでは良いんです。最初こそはつまらないなと思いましたが、中盤の展開で盛り返しましたし、痛快な内容でした。ただ、だからこそラストはいただけません。ラストはこれまでの話が全て弟が和人のためにやった「大芝居」だったことが判明します。これは作品の構造そのものを覆すまさに「大どんでん返し」ですが、これにより私には、本作そのものが茶番に思えてしまいました。これが弟が和人のいない場所で暴露するとかならまだ良かったのですが、発見するのが和人なので、これまでのことが全て無駄になってしまう気がします。

 

 また、あのラストを観て思い出したのが、映画秘宝柳下毅一郎さんが言っていた「どんでん返しをされるたびに、映画の独自の飛躍がなくなっていく」という『カメ止め』評。私は『カメ止め』ではそこまで感じなかったのですが、本作ではこの言葉がしっくりきました。せっかく「悪徳新興宗教を打ち倒す」という痛快な、フィクションでしかできないようなことをやったのに、それを全て「嘘でした」と言ってしまうというのは、映画そのものが矮小化されてしまった気がします。

 

 以上のように、ラストまでは楽しめました。次作、待ってます。

 

 

 監督前作。こっちは好き。

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 ダメダメケイパーもの。

inosuken.hatenablog.com

 

真実を伝える姿を描き出す【プライベート・ウォー】感想

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78点

 

 

 実在した戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンの生涯を映画化した本作。監督は『カルテル・ランド』『ラッカは静かに虐殺されている』などのドキュメンタリーで知られるマシュー・ハイネマン町山智浩さんがたまむすびで紹介していたので興味が湧き、鑑賞しました。

 

 現在、世の中のジャーナリズムは変革を迫られています。インターネット、そしてSNSが誕生し、誰でも情報を発信でき、世界中の情報を瞬時に手に入れることができるようになりました。情報にもスピードが必要になってきたのです。これに打撃を受けたのは新聞各社。スピードだけではネットには適わないので、どんどん部数を落としています。しかし、ネットの情報には信憑性が薄いというのも事実。誰でも情報を発信できるようになってしまったため、新聞各社のように裏取りをしないでそのまま情報を流してしまい、嘘の情報、つまりフェイクニュースが拡散されてしまう事態も生み出しています。

 

 戦場という世界でも最も危険な場所に行き、取材をして、そこに確かにある真実を伝えようとしたメリーコルヴィン。本作は、彼女を描くということは、このジャーナリズム、そして情報というものが軽くなってしまった現代においては、必然だったのだろうと思わせる内容の作品でした。

 

 

 監督は前2作で異なる戦場をドキュメンタリーとして制作しましたが、本作では、新聞記者の立場の変遷を、時代を順番に見せて映していきます。メリーが目を失ったときは「アメリカ人記者だ」と言っても爆撃を食らい、最後の戦場では「記者が狙われている」とまで言われます。メリーは、そしてジャーナリストは時代が変わるにつれて、どんどん追い込まれていくのです。

 

 本作はそのようなジャーナリストの変遷とともに、メリーの人生を描きます。戦場シーンもかなりの緊迫感。それはさながらドキュメンタリーのようで、彼女が何に苦しみ、戦い、戦場に行っていたのかを丁寧に映し出していきます。そこでの彼女は英雄ではなく、アル中でPTSDに苦しむ1人の女性です。この「彼女の真実の姿を伝える」ことそのものが、フェイクニュースが蔓延する現代において、「真実を伝える」事と重なり、本作の目指そうとしているところが分かります。

 

 何故彼女は戦場に行くのか。その理由は名誉でも金でもなく、伝えなければならないことがそこにあるから。だから彼女は戦場に行き、取材をし、声にならない人の声を届けるのです。そんなジャーナリズムの矜持を見せつけてくる作品でした。「自己責任」とか「マスゴミ」とか軽々しく言う人間は(マスゴミに関しては言いたくなる気持ちは分からないでもない)、須らく観るべきだと思います。

 

 

一応、ジャーナリズム繋がりということで。言いたいことがないわけじゃない。

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 こちらもジャーナリズム。こっちは素晴らしかった。

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