暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2019年新作TVアニメベスト10

 皆様。こんばんは。2019年も終わり、早1ケ月が経ちました。今回は、ようやく全ての作品を視聴し終えたというわけで、2019年のTVアニメベスト10を発表したいと思います。対象作品は例によって、「2019年内に終了し、私が全話見た新作アニメ」とします。

 

対象作品

2018年秋アニメ

ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風

「風が強く吹いている」

 

冬アニメ

「リヴィジョンズ」

ブギーポップは笑わない

「モブサイコ100Ⅱ」

かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」

「荒野のコトブキ飛行隊」

「臨死!!江古田ちゃん」

「ケムリクサ」

どろろ

 

春アニメ

「さらざんまい」

ぼくたちは勉強ができない

ワンパンマン

「キャロル&チューズデイ」

鬼滅の刃

 

夏アニメ

からかい上手の高木さん2」

ダンベル何キロ持てる?」

「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿-魔眼蒐集列車 Grace note-」

コップクラフト

「荒ぶる季節の乙女どもよ」

ヴィンランド・サガ

 

秋アニメ

PSYCHO-PASS サイコパス3」

ぼくたちは勉強ができない!」

BEASTARS

「星合の空」

 

動画配信

ULTRAMAN

 

来年度に持ち越し予定

無限の住人-IMMORTAL-」

Fate/Grand Order-絶対魔獣戦線バビロニア-」

「バビロン」

 

 以上の26作品が対象です。この中より、私のベスト10を発表したいと思います。では、行ってみよう!

 

 

10位「ケムリクサ」

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 「けもフレ2」降板のときはどうなるかと思ったものの、たつき監督は同じく独特の世界観を持ちながらも決して二番煎じになっていない良作を送り出してきました。設定はややキッチュながらも、描いていることは「好き」という普遍的な感情についての物語。作品の完成度としては今年随一かもしれん。

 

 

9位「からかい上手の高木さん2」

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 からかい上手の高木さんと純朴な男子中学生、西片のからかい勝負という名のイチャイチャを眺める素晴らしい作品。今期は恋愛に全振りしていました。そしてそれだけではなく、2人の「距離」の物語として上手くまとまっているこれまた良作でした。

 

 

8位「ダンベル何キロ持てる?」

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 女子高生が筋トレしているだけなのに面白いという謎のアニメ。キャラ、テンポ全てがよく、見た後は筋トレ知識がついて筋トレしたくなるという作品でした。「見るプロテイン」は伊達じゃない。

 

 

7位「revisions リヴィジョンズ」

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 谷口吾郎監督が+Ultra、そしてNETFLIXと手を組んだサバイバル作品。「無限のリヴァイアス」を彷彿とさせる設定でしたが、あそこまでドロドロしておらず、「本当の意味でのヒーローの誕生」を描いた作品でした。後ルゥ可愛すぎ。

 

 

6位「ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風

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 もはや安定のコンテンツとなったシリーズ。今回もスタッフの「覚悟」と「愛」を感じることができました。往年の名作が次々と微妙な出来でアニメ化され贈り出されている中、本シリーズのように常に安定した出来で続いているということはそれだけで評価に値します。

 

 

5位「モブサイコ100Ⅱ」

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 ボンズがまたまた本気を出したアクションの見本市。技巧を凝らしたアクション・シーンのつるべ打ちで、見ている間は本当に楽しい。ストーリー的にもモブの成長と自立の話であり、続篇としての意義も完璧であるいう作品。

 

 

4位「鬼滅の刃

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  2019年というより、漫画界ではここ10年で最高の超ヒット作であり、未だに本屋では品薄が続いています。原作は部数も4000万部を超え、驚異的な伸びを見せています。そのヒットの最大の要因はこの素晴らしすぎるアニメ化にあります。ufotableが本気を出し、原作の良さを120%引き出して見せました。「良いアニメを作ればヒットする」ことを証明してみせた作品です。後半に行くにつれて尻上がり的に面白くなっていく展開が素晴らしかったです。

 

 

3位「風が強く吹いている」

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  「駅伝」というおよそアニメ映えしない競技を見せてしまった力量に感服。小説は1冊の身なのですが、2クールかけて個々のキャラクターのドラマを紡いでいき、最後の箱根駅伝を「想いを繋ぐ」モノとして描いていました。人間ドラマとしても素晴らしかったです。

 

 

2位「ヴィンランド・サガ

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 幸村誠先生の傑作である原作をそのまま傑作として映像化してみせた作品。クヌート覚醒のシーンは完璧で鳥肌もの。これだけで本作は映像化した意味があります。元からファンということもありこの順位。

 

 

1位「どろろ

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  約半世紀前の作品を現代に蘇らせるというのは、こういうことです。原作にあった「隙」を上手く使い、現代的なメッセージを持たせ、その上で原作の肝は外していなかったという再構成能力に感動。昨今、「往年の名作」が乱発され、それらが微妙な出来なものが多いので、もっと頑張ってほしいなと思います。

 

2019年新作TVアニメベスト10

 

1位「どろろ

2位「ヴィンランド・サガ

3位「風が強く吹いている」

4位「鬼滅の刃

5位「モブサイコ100Ⅱ」

6位「ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風

7位「revisions リヴィジョンズ」

8位「ダンベル何キロ持てる?」

9位「からかい上手の高木さん2」

10位「ケムリクサ」

 

まとめ

 以上がベスト10です。ぶっちゃけ、今年はそこまで突出して良かった作品はなく、若干地味目な印象でした。まぁ昨年が凄すぎたってのもありますが。2020年は何だか凄そうなので、楽しみですね。

 

 

昨年のベストランキングです。

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2019年夏アニメ感想⑥【ヴィンランド・サガ】

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 「プラネテス」で知られる幸村誠先生原作の、中世の北欧を舞台にした漫画「ヴィンランド・サガ」のアニメ化作品。原作は既読。原作は本当に素晴らしい作品で傑作なので、アニメ化するということは相当なハードルです。普通ならば期待と不安が入り混じるのですけど、本作に関しては実はそこまで不安には思っていませんでした。というのも、制作会社が高いクオリティの作品を多々送り出しているWIT studioだったから。実力のある制作会社が漫画界の傑作を作る。これだけで見る理由としては十分でした。

 

 視聴してみると、原作の良さを十二分に映像化してくれた素晴らしい作品で、個人的には文句なしの出来です。

 

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンコミックス)

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

 「ヴィンランド・サガ」は全体から見ればトルフィンの人生の物語で、彼が「本当の戦士」になるまでを描くものだと思っています。TVアニメ版で描かれたのは全体の前半で、言うなれば「アシェラッド篇」です。話の軸はどちらかと言えばアシェラッドで、トルフィンは彼に父の復讐を誓い、付け狙っている存在です。ここでの彼は、とにかく人生を間違えまくっているのです。父・トールズの復讐を誓い、アシェラッドを付け狙ううちに、彼は確かに強くなりました。それこそ一騎当千のトルケルに(奇策ではありますが)勝てるほどに。しかし、幼少期から戦いに身を投じていたため、彼の中身は戦いと憎しみしかなく、それ以外は空っぽと言ってもいい。だからいくら強くとも、トールズのような「本当の戦士」にはなれないのです。

 

 そんなトルフィンと対比される存在として出てくるのがクヌート。彼は最初こそ神を「父」として絶対的な敬意を払っていたものの、覚醒後は一転し、神を憎み、この地上に理想郷を作るべく、覇道の道を突き進みます。彼は覚醒後はトールズと同じ目を持っていました。ですが、とった手段は暴力であり、トールズと全く違うものです。余談ですが、本作の最重要シーンであるクヌート覚醒の下りは、演出、美術、全てが完璧でした。私はぶっちゃけ、このシーンで本作の評価が決まると思っていたため、その予想を大きく上回ってくれたスタッフの方々には感謝しかありません。

 

 復讐心の塊であったトルフィンは、その対象であるアシェラッドを失い、人生の意味を失います。あの最後の演出は見事でした。これから彼の本当の意味での人生が始まり、クヌートとは違う方法でヴィンランドを目指す旅が始まります。

 

「ヴィンランド・サガ」オリジナル・サウンドトラック

「ヴィンランド・サガ」オリジナル・サウンドトラック

 

 

 本作の中で重要な要素の1つがこのヴィンランド。本作では地獄で苦しみしかない地上から逃れられる理想郷です。劇中で出てくるキリスト教徒が皆、神に召されるのを待っていたり、ヴァルハラに行くことを切望しているのも、そこがヴィンランドだからというのは理由としてあると思います。クヌートは暴力によってそれを成し遂げようとしている存在と言えます。そしてトルフィンは、自身の人生の目的が、ここに行き着くことになってくるのです。この点から、本作は人間が自らの手で理想郷を手に入れようとする話ともとれます。

 

 最後に、アクションと美術について。本作ではクヌート覚醒で明らかになったように、世界の美しさが非常に重要になっています。本作ではそこを見事にクリアしています。そしてアクションについても、トルフィンの短刀を使った接近戦をWIT STUDIOお得意のアクションで見せてくれます。この美しさと動きも本作の完成度を高いものにしています。

 

 以上のように、本作は傑作である原作を高いクオリティで見事にアニメ化してみせた作品でした。最終話のサブタイトルの通り、本作で描かれたのはプロローグです。ここから、トルフィンの人生が、そして「ヴィンランド・サガ」という物語が動き出します。しかしそれはこれから制作されるであろう2期を待つ必要があります。ということで、NHK、スタッフの皆様、よろしくお願い致します。

 

 

WIT STUDIO制作の劇場アニメ。無名が殺人的に可愛い。

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 感情の演出に振り切ったWIT STUDIO。原作の圧縮も素晴らしい。

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「大人」になってしまった全ての元「井の中の蛙」へ【空の青さを知る人よ】感想

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86点

 

 

 「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」『心が叫びたがっているんだ』を生み出した、長井龍雪×岡田磨里×田中将賀のチーム「超平和バスターズ」最新作。制作はA-1picturesの子会社のClover Works。私は『あの花』はリアルタイムで視聴していましたし、『ここさけ』も劇場まで観に行きました。なので、同じチームによる最新作ということならば観に行かない理由はなく、鑑賞した次第です。ちなみに、鑑賞したのは10月です。3カ月も経ってしまいました。

 

 本作は『あの花』『ここさけ』に続く、「秩父3部作」として位置づけられています。しかし、本作には過去2作とは異なる点があります。それは、本作は過去2作以上に「秩父」という場所に焦点を当てている点です。本作の主要人物である慎之介、あかね、あおいの3人は、秩父という場所に対して、3者3様の思いを抱いています。

 

心が叫びたがってるんだ。 [Blu-ray]

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 あおいは山の中にある地元を「牢獄」に例え、そこから早く出ていきたいと願い、対する姉のあかねは逆に「そこにいる」と決め市役所に勤務しています。そして、同じくあおいとは違い、本当に「夢が叶う場所」に行った慎之介は、現実の世知辛さに打ちのめされ、すっかりやさぐれて戻ってきます。

 

 こんな3人の存在に風穴を開けるのが、突如現れた13年前の慎之介の地縛霊(?)、「しんの」です。彼は13年前の存在なので、あの頃、つまり皆が夢を持っていて、未来に希望を抱いていた頃と同じ気持ちを抱いています。このしんのが登場することで、13年後の「現在」で、全く思い通りにいっていない彼ら彼女らの姿がどうしようもなく切なく感じられます。また、彼があのお堂から出ていけないというのも、おそらくは秩父というあの場所から出ていけないあおいやあかね、そして本心を伝えることができないでいる慎之介のメタファーになっているのだとも思います。

 

 「大人になる」ということは、「現実を知る」ということです。井の中の蛙だった少年時代から、大海に出ることで己の無力さに打ちひしがれ、次第に情熱を失い、「つまらない」人間になってしまう。少年少女の青臭さを皆忘れてしまうのです。

 

 しかし本作は、その少年少女の「青臭さ」こそ大切なものだと説きます。それが本作のタイトルであり、「井の中の蛙大海を知らず」の先に続く言葉、「空の青さを知る」なのです。終盤、それまで地に足ついた演出をしていた本作が、一気に「飛躍」するのです。それは誇張ではなく、まさしく文字通り「空を駆け」るのです。それはそれまでお堂から出ることができなかったしんのが自らの強い意志で殻を打ち破り起こしたものなので、それまでの「出ていけない」点で悶々としていた描写の積み重ねもあり、カタルシスが半端ではないものになっています。ここで本作は、あおいが「牢獄」とまでいった場所から抜け出し、「夢が叶う場所」に行くことができるのは、少年少女の持つ「青臭さ」なんだと言うのです。そしてそれは一度忘れて「つまらない」大人になってしまっても、もう一度持つことができるんだと我々に教えてくれます。だから本作は「クソエモい」のです。

 

ガンダーラ

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 後はやっぱり本作は「女の子」の映画なんだということです。岡田磨里作品はいつもそうですが、基本的に「女の子」の話で、男は狂言回しというか、「女の子」の葛藤を生む存在でしかありません、本作は端正な脚本と演出で突出した出来になっていると思いますけど、この点は全くブレていないなと思いました。

 

 以上のように、私は本作については絶賛派なのですけど、1つだけ看過できない点があります。EDのアレです。彼らの「その後」は想像の中に留めておくだけで充分だったのに、わざわざ「その後」を見せてしまうのは余白を失くしてしまう行為だと思っていて、映画の余韻が冷めてしまいました。この点だけは惜しかったなぁと思います。しかし本作は、間違いなく超平和バスターズ最高傑作だと思いました。

 

 

岡田磨里、まさかの監督作。

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 こちらも「女の子」アニメ。

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 田中将賀参加作品。

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ジョン・ドゥの告発【ザ・ランドロマット-パナマ文書流出-】感想

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80点

 

 

 『オーシャンズ』シリーズ、『チェ・ゲバラ』2部作のスティーヴン・ソダーバーグ監督による、NETFLIX映画。私はソダーバーグ監督の作品は考えてみればそんなに観たことはなかったので、NETFLIXならば気軽に観られるということで鑑賞した次第です。

 

 本作で扱われているのは2016年に世界を震撼させたパナマ文書流出事件です。本作はこの事件を2016年に日本で公開されたアダム・マッケイ監督作品『マネー・ショート』を彷彿とさせるというか、ほぼそのまんまの手法で描き出します。まぁ『マネー・ショート』も言ってしまえば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の応用版のような作品なのですけど。

 

ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]

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 話が逸れましたが、本作は基本的に『マネー・ショート』で、違う点があるとすれば、本作は「一般市民視点」がある点。メリル・ストリープ演じるエレン・マーティンが夫の死亡事故を機に詐欺取引を調べ始め、それが世界の中ではほんの一部であることを描きます。この視点があることで、『マネー・ショート』では断片的にしか描かれなかったこの詐欺取引による「市井の人々への影響」がはっきりと可視化されます。そしてそれらは一部の資本家の資産運用のために行われていたことであり、富の一極集中がもたらす、資本主義の限界と問題が浮かび上がります。さらにこれによって、アントニオ・バンデラスゲイリー・オールドマンの2人のにやけ面が本当にムカついてくるという効果もあります。

 

 驚いたのはラストシーンで、語り手2人が去り、メリル・ストリープの演説が始まる長回しです(本作は長回しが多い)。あそこの彼女の演技は圧巻で、ワンカットの中で役がどんどん変わっていき、それをシームレスに見せています。そこで「映画の登場人物」であったエレンがある場面でメリル・ストリープ本人になり、露骨にこのシステムの批判を始めます。この点は露骨で少し興ざめだったのですけど、本作の「ジョン・ドゥの告発」がそのまま我々「一般人の告発」と重なり、一般人の怒りを表明していたと思います。

 

 以上のように、私は楽しめました。上映時間も95分と短いし、スイスイ観られます。たまにはこういう気軽な気持ちで観られる映画があってもいいです。

 

 

似た感じの映画。

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 アダム・マッケイ監督作。

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愛は制度ではなく、互いを想う合う心【マリッジ・ストーリー】感想

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95点

 

 

 初ノア・バームバック。そしてスカーレット・ヨハンソンアダム・ドライバーのW主演作。存在を知ったのは、例によって町山智浩さん経由。劇場でも公開された作品ですが、タイミング的に合わず、私はNETFLIXで鑑賞しました。

 

 鑑賞してみて、これは参ったと思いましたね。ストーリーはもちろんのこと、撮影、美術、そして主演2人の演技、その全てが素晴らしい作品だったのです。総合的な出来ならば、私のような未熟な人間ですら分かるほどに、今年ベストレベルでした。

 

 本作は仲睦まじかった夫婦が離婚調停をするさまを描いた作品です。しかし鑑賞してみれば、立派な『マリッジストーリー(=結婚の話)』であることが分かります。それは「結婚」という制度に縛られるのではなく、真の意味で互いを理解し合い、思いやり合うことを意味します。本作は2人(と言うか、チャーリー(アダム・ドライバー))がこの地点に至るまでをあくまでコミカルに描きます。

 

 本作は役者が素晴らしいです。まずはニコール役のスカーレット・ヨハンソン。近年は『アベンジャーズ』ばっかり出ていた彼女ですが、元々は演技派であり、その実力を遺憾なく見せてくれます。圧巻なのは劇中何回かある長回しローラ・ダーンとのやり取りですが、感情の起伏を表情豊かに演じていて、もう画面に引き付けられましたよ。また、彼女が纏う「自立した女優」っぷりも堂々たるものでした。

 

 

 そして何と言ってもアダム・ドライバーです。本作は基本コメディで、そのコメディ要素を一身に引き受けているのも素晴らしいのですが、何よりも彼の「分かってない感」が本当に素晴らしい。これは脚本の上手さにも関係していると思うのですけど、本作は奥さんの離婚の理由を本編のかなり早い段階で明かしてしまうのです。この手の映画は離婚理由は終盤で明かされて、それで2人は仲睦まじい関係に戻るor離婚を受け入れる、みたいな話が多いと思うのですが、本作はそうせず、早い段階で明かしてしまうことで、旦那の方の「分かってない感」をよりはっきりと描いています。しかもそれは、「意思を尊重しているようでいて、結局は軽視している」という世の中の男性の問題点そのものの内容なので、説得力が凄い。

 

 この「分かってない感」がきちんと説得力を持って描かれることで、本編の多くの部分である、2人のすれ違いに関して、より切なくもおかしい気持ちで観ることができます。ニコールは、ただ自分の意思を尊重してほしいだけなのに、チャーリーは無自覚にニコールの意思を無視している。この点こそが最大の問題なのに、チャーリーは尊重している「つもり」で、問題を問題として自覚していないのが観てて辛い、というか、ちょっと可笑しくすらあります。これは本作が基本的にコメディだからでしょう。

 

 「結婚」というのは、制度によって成り立っているものです。法律で決められているからこそ、2人は結婚していて、夫婦として認められます。しかし、本作はこの常識に対して、疑問符を突きつけます。「別に制度に縛られていなくてもいいじゃないか」と。たとえ制度に縛られずとも、真の意味で相手の意思を尊重することができてさえいれば、それは「愛」だし、そうしてこそ、真の意味での「結婚」なのだろうと本作は訴えます。本作は離婚の話ですが、すれ違っていた夫婦(と言うか、チャーリー)がこの点に気付くまでの物語であり、だからこそ、『マリッジストーリー』なのだと思います。

 

 

 アダム・ドライバー主演映画。こちらも素晴らしい。

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 これもある意味で結婚の話、なのか?

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2019年新作映画全ランキング

 2020年も始まって、もう1カ月がたちました。もう2019年も遠くに行ってしまった感がありますが、私にはまだ昨年のことで決着をつけなければならないことがあります。そう、昨年鑑賞した映画の全ランキングです。昨年は書かなかったのですが、今年は鑑賞記録の一覧をつけたいという気持ちもあり、全作品をランキング形式で書こうと思いました。昨年劇場で鑑賞した映画は全部で103本。そのうち、ランキングに入れるのが難しいと考えている『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を除外して、102本の新作映画のランキングを発表しようと思います。では、行ってみよう。

 

 

全ランキング一覧

1位『スパイダーマン:スパイダーバース』

2位『ジョーカー』

3位『アイリッシュマン』

4位『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

5位『マリッジ・ストーリー』

6位『プロメア』

7位『アベンジャーズ/エンドゲーム』

8位『ブラック・クランズマン』

9位『家族を想うとき』

10位『蜜蜂と遠雷

11位『宮本から君へ』

12位『天気の子』

13位『羅小黒戦記』

14位『アクアマン』

15位『トイ・ストーリー4』

16位『バーニング 劇場版』

17位『凪待ち』

18位『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

19位『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

20位『運び屋』

21位『存在のない子供たち』

22位『よこがお』

23位『海獣の子供

24位『バイス

25位『ジョン・ウィック:パラベラム』

26位『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』

27位『きみと、波にのれたら』

28位『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形』

29位『失くした体』

30位『ファースト・マン

31位『アス』

32位『愛がなんだ』

33位『隣の影』

34位『シャザム!』

35位『HELLO WORLD

36位『空の青さを知る人よ』

37位『工作 黒金星と呼ばれた男』

38位『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』

39位『ひとよ』

40位『アメリカン・アニマルズ』

41位『女王陛下のお気に入り

42位『グリーンブック』

43位『旅のおわり 世界のはじまり』

44位『僕達は希望という名の列車に乗った』

45位『クリード 炎の宿敵』

46位『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』

47位『ディリリとパリの時間旅行』

48位『ザ・ランドロマット-パナマ文書流出-』

49位『キャプテン・マーベル

50位『ONE PIECE STAMPEDE』

51位『男はつらいよ 50 お帰り、寅さん』

52位『メランコリック』

53位『楽園』

54位『さらば愛しきアウトロー

55位『IT THE END "それ”が見えたら終わり』

56位『誰もがそれを知っている』

57位『アイネクライネナハトムジーク

58位『ビール・ストリートの恋人たち』

59位『ボーダー 2つの世界』

60位『真実』

61位『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』

62位『ゴジラ キング・オブ・モンスター』

63位『この素晴らしい世界に祝福を! 紅伝説』

64位『エルカミーノ ブレイキング・バッド THE MOVIE』

65位『ゾンビランド ダブルタップ』

66位『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』

67位『ちいさな独裁者』

68位『コードギアス 復活のルルーシュ

69位『GUILTY/ギルティ』

70位『僕はイエス様が嫌い』

71位『レゴ(R)ムービー2』

72位『プライベート・ウォー』

73位『クロース』

74位『天才作家の妻 40年目の真実』

75位『オーヴァーロード』

76位『劇場版シティーハンター 新宿PRIVATE EYES』

77位『ドクター・スリープ』

78位『蜘蛛の巣を払う女

79位『ザ・テキサスレンジャーズ』

80位『カツベン!』

81位『アド・アストラ』

82位『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

83位『ワイルド・スピードスーパーコンボ

84位『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』

85位『COLD WAR あの歌、2つの心』

86位『SHADOW/影武者』

87位『私は光をにぎっている』

88位『サスペリア

89位『ミスター・ガラス』

90位『名探偵ピカチュウ

91位『ダンス・ウィズ・ミー』

92位『バンブルビー

93位『ターミネーター ニュー・フェイト』

94位『ジェミニマン』

95位『新聞記者』

96位『麻雀放浪記2020』

97位『記憶にございません!』

98位『シュガー・ラッシュ オンライン』

99位『スペシャル・アクターズ』

100位『ルパン三世 THE FIRST』

101位『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

102位『バースデー・ワンダーランド』

 

番外『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

 

 今年は映画館で観た本数が初めて100を越えました。今年はやはりアニメ映画が多かったことが印象的です。つい10年前なんてオリジナルの目作品は都内の数館でしか公開しないのが当たり前だったことを考えると、ここまで大規模で公開された作品が多いということは、アニメ作品が市民権を得たということで、何だかとても嬉しい気分。でも反面、ヒット作があまりないのが気になるのも事実です。この勢いを絶やさないようにするにはどうすればいいのでしょうね。

 

 また、ランキングに関しては、順位はつけましたけど、ワースト3以外はワースト感は無くて、あくまでも相対的な順位です。ここに列挙した作品はブログ内に感想がありますので、気になって時間がある方はお手数ですけど検索してみてください。まだ書いてない作品については頑張ってアップしたいと思います。それでは!

時代に取り残された者が見たアメリカ【ザ・テキサスレンジャーズ】感想

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75点

 

 

 NETFLIX制作の映画。鑑賞したのは昨年の11月。色々と後回しにしていたらこんなにも書くのが遅くなってしまいました。鑑賞したのは本作の監督が『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』のジョン・リー・ハンコックが監督してたから。また、キャスト的にもケヴィン・コスナーウディ・ハレルソンで、ジャンルも西部劇とくれば俄然鑑賞意欲が湧いてきますよ。

 

 本作の主人公はもう現役を退いたフランク(ケヴィン・コスナー)とメイニー(ウディ・ハレルソン)のコンビ。彼らが追うのはあの『俺たちに明日はない』のボニー&クライド。本作は『俺たちに明日はない』を追跡者側から描いた作品なのです。そして同時に、「時代に取り残されてしまった」老人の物語でもあります。

 

 本作は『俺たちに明日はない』を別角度から切り取った作品ですが、それ故に当時のアメリカの様子すら別角度から切り取ることができています。メイニーは土地を差し押さえられ、フランク達は行く先で国民の窮状を知ります。それは彼らが知っていた「アメリカ」とは違うものだったと思います。

 

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 そして、「追う側」の物語を描くことで、あの作品への批評的な要素も劇中に入ってきます。ボニーとクライドは『俺たちに明日はない』で、そして当時でも英雄として扱われていました。しかし、やっていることは凶悪な犯罪者です。終盤まで顔が出てこないのが余計に不気味な感じを出しています。そして、犯罪者を元本作はこの点を浮かび上がらせ、同時にこんな状況になってしまったアメリカという国を描き出します。要は本作は、もはや「過去の人」となった人間が自国の変わりようを目の当たりにしてしまうという作品なのだと思います。そう考えると、ジョン・リー・ハンコックという監督は、『ファウンダー』でも「アメリカ」について描いていたと思います。この辺が作家性なのかな。ラストの運転交代も、「もう俺は休むよ」的な意味なのだと思います。

 

 アメリカ映画史に残る傑作『俺たちに明日はない』を批評的な視点で描き、同時に「アメリカ」という国についての映画でもある本作。問題はストーリーが淡々とし過ぎていてそこまで面白くないってことなんですけど、ジョン・リー・ハンコック監督の描きたいことが何となく分かった気がしました。

 

 

同じくジョン・リー・ハンコック監督作。こっちは傑作。

inosuken.hatenablog.com

 

 こっちもある意味西部劇。

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