暇人の感想日記

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【ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ】感想:サクセスストーリーの皮を被った経済残酷物語

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90点

 

 「スーパー・サイズ・ミー」という映画があります。「マクドナルドは肥満の原因なのか」ということを検証したドキュメンタリーで、ある肥満女子2人が太ったのはマクドナルドの責任である、と訴訟を起こしたことがきっかけで作られたそうです。この映画が示すように、今やマクドナルドは、真っ先に肥満の原因と結び付けられるほどにアメリカにとっても、また、日本にとっても国民的ファーストフード店となっています。本作はマクドナルドをここまでの大企業にした「ファウンダー=創業者」レイ・クロックを描いています。しかしその道のりは輝かしいものではなく、むしろ逆の、血みどろの道です。

 劇中で、「勝者が歴史を作る」という台詞があります。本作のレイ・クロックはまさにその「勝者」で、アメリカン・ドリームの体現者です。そしてアメリカはまさに競争に勝ってきた「勝者」によって作られてきた歴史があります(というか、どこの国でも経済はそうか)。今作は、映画を通して、アメリカ社会の批評にもなっていると思います。

 映画はまず、レイがマクドナルド兄弟とコンタクトを取るところから始まります。そこで聞かされる兄弟の物語は、とても面白いです。紆余曲折の末に、マクドナルドのスピード・サービス・システムを完成させるシーンはダイナミックで、とても気持ちの良いものでした。そして兄弟は画期的なファーストフード店として成功を納めます。ここまでは、清々しいまでのサクセスストーリーです。観ていて心地いいです。ですが、後半はそれと対比するかのような、ドロドロの展開になっていきます。

 フランチャイズ権を獲得したレイは、どんどん事業を拡大していきます。最初はまだ良かったと思います。ですが、後半に行くにつれて、どんどん利益追求に走っていき、経費を節減していきます。そのためにはシェイクの元を粉にすることも厭わないし、自らの収入を増やすために自分の取り分を増やそうとします。要は加盟者から搾取しようというわけです。ですが、そこで邪魔なのが兄弟との契約。兄弟は「質のいい商品を作りたい」という気持ちがまだあったため、頑なに反対します。これでは上手くいかないと、レイは徐々にマクドナルドを乗っ取っていくわけです。

 一方は、利益を追求するものの、質のいい商品を提供することが目的。かたや、もう一方は事業をどんどん拡大し、利益を追求することが目的。本作には、この2つの考え方があります。どちらが人間として誠実か、と問われたら、おそらく前者でしょう。ですが、結果は後者のような利益を追求する人物が強大になり、前者を飲み込んでいきます。これが経済競争というやつなのでしょう。思えば、映画は、前半は田舎の風景が多かったと思いますが、後半になるにつれて、つまりレイがマクドナルドを乗っ取るにつれて、都会の風景が多くなっていきます。アメリカの時代の流れを象徴しているような気もします。

 しかし、彼はマクドナルドの「創業者」となりましたが、真の意味での「創業者」とはなれないのです。何故なら、「始まり」を話せないから。「始まり」を語れなければ、「創業者」とは言えません。

 本作は、このような経済競争を、観客にまざまざと見せつけてきます。そして、それは今の社会でも平然と行われていることです。世間的に「ブラック」と言われているユニ〇ロとか、ワ〇ミ、その他多くの企業で、経費削減を目的として、人件費は削られています。そうしないと利益が上がらないからです。上の人間は儲かりますけど、下の人間はどうなんでしょうね。

 「自分はそれだけの努力をしたからそれを受ける権利がある」とレイは言います。それそうです。マクドナルドがここまでになったのは、レイなくしてはあり得なかったでしょう。もしレイが兄弟と出会わなければ、マクドナルドは片田舎の「美味いし早い」ファーストフード店として終わっていたかもしれないし、フォード社のように、GMみたいな新興勢力が出てきて潰れていたかもしれません。ですが、そのやり方には疑問を持たずにはいられません。

 アメリカは、特に経済は、こういう「勝者」によって作られてきました。そして、そんな経済競争を戦ってきたトランプが大統領になりました。このままアメリカは、マクドナルド兄弟のように飲み込まれるのか、抗うのか、どうなるのでしょうね。