暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2019年夏アニメ感想⑥【ヴィンランド・サガ】

f:id:inosuken:20200205221429j:plain

 

 

 

 「プラネテス」で知られる幸村誠先生原作の、中世の北欧を舞台にした漫画「ヴィンランド・サガ」のアニメ化作品。原作は既読。原作は本当に素晴らしい作品で傑作なので、アニメ化するということは相当なハードルです。普通ならば期待と不安が入り混じるのですけど、本作に関しては実はそこまで不安には思っていませんでした。というのも、制作会社が高いクオリティの作品を多々送り出しているWIT studioだったから。実力のある制作会社が漫画界の傑作を作る。これだけで見る理由としては十分でした。

 

 視聴してみると、原作の良さを十二分に映像化してくれた素晴らしい作品で、個人的には文句なしの出来です。

 

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンコミックス)

ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

 「ヴィンランド・サガ」は全体から見ればトルフィンの人生の物語で、彼が「本当の戦士」になるまでを描くものだと思っています。TVアニメ版で描かれたのは全体の前半で、言うなれば「アシェラッド篇」です。話の軸はどちらかと言えばアシェラッドで、トルフィンは彼に父の復讐を誓い、付け狙っている存在です。ここでの彼は、とにかく人生を間違えまくっているのです。父・トールズの復讐を誓い、アシェラッドを付け狙ううちに、彼は確かに強くなりました。それこそ一騎当千のトルケルに(奇策ではありますが)勝てるほどに。しかし、幼少期から戦いに身を投じていたため、彼の中身は戦いと憎しみしかなく、それ以外は空っぽと言ってもいい。だからいくら強くとも、トールズのような「本当の戦士」にはなれないのです。

 

 そんなトルフィンと対比される存在として出てくるのがクヌート。彼は最初こそ神を「父」として絶対的な敬意を払っていたものの、覚醒後は一転し、神を憎み、この地上に理想郷を作るべく、覇道の道を突き進みます。彼は覚醒後はトールズと同じ目を持っていました。ですが、とった手段は暴力であり、トールズと全く違うものです。余談ですが、本作の最重要シーンであるクヌート覚醒の下りは、演出、美術、全てが完璧でした。私はぶっちゃけ、このシーンで本作の評価が決まると思っていたため、その予想を大きく上回ってくれたスタッフの方々には感謝しかありません。

 

 復讐心の塊であったトルフィンは、その対象であるアシェラッドを失い、人生の意味を失います。あの最後の演出は見事でした。これから彼の本当の意味での人生が始まり、クヌートとは違う方法でヴィンランドを目指す旅が始まります。

 

「ヴィンランド・サガ」オリジナル・サウンドトラック

「ヴィンランド・サガ」オリジナル・サウンドトラック

 

 

 本作の中で重要な要素の1つがこのヴィンランド。本作では地獄で苦しみしかない地上から逃れられる理想郷です。劇中で出てくるキリスト教徒が皆、神に召されるのを待っていたり、ヴァルハラに行くことを切望しているのも、そこがヴィンランドだからというのは理由としてあると思います。クヌートは暴力によってそれを成し遂げようとしている存在と言えます。そしてトルフィンは、自身の人生の目的が、ここに行き着くことになってくるのです。この点から、本作は人間が自らの手で理想郷を手に入れようとする話ともとれます。

 

 最後に、アクションと美術について。本作ではクヌート覚醒で明らかになったように、世界の美しさが非常に重要になっています。本作ではそこを見事にクリアしています。そしてアクションについても、トルフィンの短刀を使った接近戦をWIT STUDIOお得意のアクションで見せてくれます。この美しさと動きも本作の完成度を高いものにしています。

 

 以上のように、本作は傑作である原作を高いクオリティで見事にアニメ化してみせた作品でした。最終話のサブタイトルの通り、本作で描かれたのはプロローグです。ここから、トルフィンの人生が、そして「ヴィンランド・サガ」という物語が動き出します。しかしそれはこれから制作されるであろう2期を待つ必要があります。ということで、NHK、スタッフの皆様、よろしくお願い致します。

 

 

WIT STUDIO制作の劇場アニメ。無名が殺人的に可愛い。

inosuken.hatenablog.com

 

 感情の演出に振り切ったWIT STUDIO。原作の圧縮も素晴らしい。

inosuken.hatenablog.com