暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「大人」になってしまった全ての元「井の中の蛙」へ【空の青さを知る人よ】感想

f:id:inosuken:20200202121145j:plain

 

86点

 

 

 「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」『心が叫びたがっているんだ』を生み出した、長井龍雪×岡田磨里×田中将賀のチーム「超平和バスターズ」最新作。制作はA-1picturesの子会社のClover Works。私は『あの花』はリアルタイムで視聴していましたし、『ここさけ』も劇場まで観に行きました。なので、同じチームによる最新作ということならば観に行かない理由はなく、鑑賞した次第です。ちなみに、鑑賞したのは10月です。3カ月も経ってしまいました。

 

 本作は『あの花』『ここさけ』に続く、「秩父3部作」として位置づけられています。しかし、本作には過去2作とは異なる点があります。それは、本作は過去2作以上に「秩父」という場所に焦点を当てている点です。本作の主要人物である慎之介、あかね、あおいの3人は、秩父という場所に対して、3者3様の思いを抱いています。

 

心が叫びたがってるんだ。 [Blu-ray]

心が叫びたがってるんだ。 [Blu-ray]

 

 

 あおいは山の中にある地元を「牢獄」に例え、そこから早く出ていきたいと願い、対する姉のあかねは逆に「そこにいる」と決め市役所に勤務しています。そして、同じくあおいとは違い、本当に「夢が叶う場所」に行った慎之介は、現実の世知辛さに打ちのめされ、すっかりやさぐれて戻ってきます。

 

 こんな3人の存在に風穴を開けるのが、突如現れた13年前の慎之介の地縛霊(?)、「しんの」です。彼は13年前の存在なので、あの頃、つまり皆が夢を持っていて、未来に希望を抱いていた頃と同じ気持ちを抱いています。このしんのが登場することで、13年後の「現在」で、全く思い通りにいっていない彼ら彼女らの姿がどうしようもなく切なく感じられます。また、彼があのお堂から出ていけないというのも、おそらくは秩父というあの場所から出ていけないあおいやあかね、そして本心を伝えることができないでいる慎之介のメタファーになっているのだとも思います。

 

 「大人になる」ということは、「現実を知る」ということです。井の中の蛙だった少年時代から、大海に出ることで己の無力さに打ちひしがれ、次第に情熱を失い、「つまらない」人間になってしまう。少年少女の青臭さを皆忘れてしまうのです。

 

 しかし本作は、その少年少女の「青臭さ」こそ大切なものだと説きます。それが本作のタイトルであり、「井の中の蛙大海を知らず」の先に続く言葉、「空の青さを知る」なのです。終盤、それまで地に足ついた演出をしていた本作が、一気に「飛躍」するのです。それは誇張ではなく、まさしく文字通り「空を駆け」るのです。それはそれまでお堂から出ることができなかったしんのが自らの強い意志で殻を打ち破り起こしたものなので、それまでの「出ていけない」点で悶々としていた描写の積み重ねもあり、カタルシスが半端ではないものになっています。ここで本作は、あおいが「牢獄」とまでいった場所から抜け出し、「夢が叶う場所」に行くことができるのは、少年少女の持つ「青臭さ」なんだと言うのです。そしてそれは一度忘れて「つまらない」大人になってしまっても、もう一度持つことができるんだと我々に教えてくれます。だから本作は「クソエモい」のです。

 

ガンダーラ

ガンダーラ

  • アーティスト:Godiego
  • 出版社/メーカー: COLUMBIA
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 後はやっぱり本作は「女の子」の映画なんだということです。岡田磨里作品はいつもそうですが、基本的に「女の子」の話で、男は狂言回しというか、「女の子」の葛藤を生む存在でしかありません、本作は端正な脚本と演出で突出した出来になっていると思いますけど、この点は全くブレていないなと思いました。

 

 以上のように、私は本作については絶賛派なのですけど、1つだけ看過できない点があります。EDのアレです。彼らの「その後」は想像の中に留めておくだけで充分だったのに、わざわざ「その後」を見せてしまうのは余白を失くしてしまう行為だと思っていて、映画の余韻が冷めてしまいました。この点だけは惜しかったなぁと思います。しかし本作は、間違いなく超平和バスターズ最高傑作だと思いました。

 

 

岡田磨里、まさかの監督作。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらも「女の子」アニメ。

inosuken.hatenablog.com

 

 田中将賀参加作品。

inosuken.hatenablog.com