暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

私が遊戯王OCGに如何にしてハマり、卒業したか

 先日、通勤時に偶然「遊戯王ヒストリートレイン」に乗りました。どうやら遊戯王OCGは10000種類を突破したらしく、それを記念してのものとのこと。電車は「遊戯王」一色であり、車体には歴代のキャラクターとエースモンスターのラッピングが施され、車内には「遊戯王OCG」の歴史を彩ったカードが写っている中吊り広告、ドア上のビジョン広告にはこれまでのパックが流れていました。

 

 そんな「遊戯王まみれ」な空間にいたせいで、私の中にある遊戯王OCGの思い出が甦ってきまして、今回このブログにしたためることにしました。今回は何か特別な思い出を語るというよりも、私がどのように遊戯王に出会い、ハマり、そして卒業していったのかを書いていこうと思います。では、行きます。

 

 私が遊戯王OCGと出会ったのは小学1年生でした。きっかけは忘れましたが、おそらく周りの友達がやっていたので始めたのだと思います。初めて手に入れたレアカードは「深淵の冥王」でした。当時は小学生ですので、デッキを組むというよりはパックを購入して手に入れたカードを適当に集めた、それこそ寄せ集めのデッキでした。

 

 「寄せ集めのデッキ」から比較的戦える「まともなデッキ」になったのはEX-Rを購入してからでした。この商品は構築済みデッキ(少なくとも40枚の束は揃っている)が2つ+「クロスソウル」「手札抹殺」、そしてルール説明のVHSがついているもので、親に頼んで買ってもらったのです。VHSは何回も繰り返して見てルールを覚えました。以後はカードカタログであるザ・ヴァリュアブルブックを購入したりしてデッキの組み方を自分なりに学び、パックやストラクチャーデッキを購入したりしてもらったりして、学校の友達と遊んでいました。欲しいカードと言えば「実用的なカード」ではなく、TVアニメで主人公たちが使っていたカードでした。「遊戯が使っているようにカードを使えば強いんじゃね」と考えていた時期で、今思えば、非常に純粋な時期だったと言えます。

 

遊戯王 EX-R デッキセット ビデオ付き

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  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

 もちろん楽しい事ばかりではありませんでした。カードですから、原作漫画並みとは言わないまでも、それなりにトラブルになったりはしました。友達と遊んでいたらいつの間にかカードが消えていたり(以降、そいつとは気まずくなって疎遠)、カード・トレードで揉めるくらいは可愛いものでしたが、一番ヤバかったのは同じ公園にいた中学生でした。彼らは表面上は仲よく遊んでくれていたのですが、カードの巻き上げ方が後から考えると大分えげつなかったのです。私(当時小学校低学年)が持っていた比較的希少なレアカードを見つけるや、こちらの情報アドバンテージが無いのを良いことに、(アニメで活躍した)プレミアムパックとかに入っているかなり手に入りやすいレアカード(若しくはカスレア)を提示し、交換させたのです。もちろん私はバカだったので無邪気に喜びましたが、これは要するに詐欺行為であり、今思い返してもはらわた煮えくりかえります。書いててムカついてきたので金銭も盗られそうになって縁切ったとだけ言っておきます。以降、交換はやめました。

 

 小学校高学年になると、コロコロコミックの影響でデュエルマスターズが流行り、一時期そちらに移行したりはしましたが(当時の環境はカオス一色だったらしいですが、小学生に手に入るものではなく、平穏なデュエルをしていました)、TVアニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX」の放送を機にブームが再燃。中学時代は遊戯王の時代でした。中学になっても、今のように誰もがスマホを持っている時代ではなかったのと資金力もないので、この辺から情報力に差が出始めます。もちろん私は遅れている方。漫画版E-HERO登場前なのにHEROデッキを組もうと思っていたほどですから。案の定ボコボコにされてました。ただ、さすがにストラクチャーデッキの問題点には気づき、「ストラクチャーデッキを3箱買う」のはこの頃から始めましたが。

 

遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX DVDシリーズ DUEL BOX 1

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 そして時代はシンクロになりましたが、高校進学と共に周りに決闘者がいなくなりました。それでもTVアニメは見ていたので、1人でちびちびとパックを買ってはデッキを作っていました。「近場のカードショップ行けよ」と思われるかもしれませんが、知らない人間とデュエルするのは過去の事もあるので憚られ、よくやっていたのは1人デュエルでした。1人デュエルでした・・・。この頃は対人戦は主にゲームばっかりでした(尚、CPU)。

 

 このように細々と買い続けていたのですが、大学に進学し、周りに決闘者がいなくなってことで、一時期完全に離れました。ある時期までは。それは最近行われている、「過去テーマの強化」です。「青眼龍轟臨」で過去の思い出が刺激され、思わず3箱買い。その後の「HERO'S STRIKE」も3箱買い。大学で偶然決闘者を見つけたこともあり、再び遊戯王OCGの道に入っていきました。しかも大学生で、流石に情報を多く持ち、資金もあったので、ただ道に戻ったというより、新しくKONAMIの奴隷になったと言った方が良いかもしれない。とはいえ、その友人とデュエルをやり、最初こそ常に現役だった彼にボコボコにされたりしましたけど、徐々に善戦できるようになっていきました(勝てるとは言っていない)。

 

 

 思えば、卒業前のデュエルが、遊戯王OCGに触れた最後でした。TVアニメは「ZEXAL」で見るのをやめていたし、もちろん社会人になってデュエルする相手もいない。そして決定的だったのがリンク召喚の登場。ルールがかなり変更になり、いい引き時だなと感じました。

 

 以来、私の部屋には、埃の積もったカードケースに、大量のカードたちが入っています。この前久しぶりに引っ張り出してみたのですが、よくここまで集めたものだと思い、同時にカードを見ると当時の事が思い出されます。今回のヒストリートレインで、カードの思い出とともに、私の少年時代が思い起こされ、私の少年時代は、遊戯王OCGと共にあったのだと、やや感傷的な気持ちになりました。遊戯王OCGは、まだまだ作られ続けると思います。そして、その時代毎の少年に思い出を作っていくのだろうなと、そう思った次第です。かつての私のように。

完璧と言う他ない実写化【シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション】感想

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82点

 

 

 北条司先生原作で、80年代の週刊少年ジャンプを代表する漫画、「シティーハンター」。まさかの実写化作品。遥か昔にジャッキー・チェン後藤久美子と共に出演した作品がありましたが、それとは全く関係がない作品です。制作国はフランスで、監督・主演は『世界の果てまでヒャッハー!』のフィリップ・ラショー。以前よりそのビジュアルの再現度の高さから噂になっていた作品で、私もイチ「シティーハンター」ファンとして怖いもの見たさで鑑賞しました。

 

 鑑賞してみて驚きました。予想をはるかに上回るレベルで「シティーハンター」でした。ビジュアルの再現度の高さだけではありません。作品全体の雰囲気が「シティーハンター」なのです。しかも本作が素晴らしいのはそれだけではなく、1本の「フランス製娯楽コメディ映画」としても申し分ない面白さであるという点です。

 

世界の果てまでヒャッハー!(字幕版)

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  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: Prime Video
 

 

 漫画、アニメの実写化において、最も難しい点は、二次元の存在をどのように三次元に落とし込むのかということです。これが失敗すると「学芸会」と言われます。また、作品全体のノリも実写とは違う自由なものであるため、これの再現についても難しさがあります。また、世界観の問題もあります。昨今はCGが発達してきたとはいえ、日本のそれはまだまだな点が多く、どこかチープな感じが漂ってしまいます。ちなみに、このチープ感を逆手にとってファンから受け入れられたのが『銀魂』だと思っています。

 

 本作では、この「二次元から三次元」への置き換えがとても良くできています。ビジュアル面ではリョウのトレードマークである腕まくりジャケット(ラストで「シティーハンター3」仕様になっているというファンサービスあり)、ミニクーパー伝言板コルト・パイソン、BGM、海坊主、等々が完璧に再現されています。三次元では難しい100tハンマーやカラスなどはきちんと妄想の中で処理しています。唯一舞台が新宿でないという問題はありますが、観ているとあまり気にはなりません。

 

 何故かというと、本作は表面的な再現以上に、内面の再現が完璧だから。「シティーハンター」という作品の骨子をきちんと捉えています。ストーリーは依頼人から依頼を受けたリョウと香が敵対する組織と何やかんやあって最後には解決するっていつものパターンですし、その中にある「リョウと香の関係」にもきちんとフィーチャーしています。リョウの気持ちが分かる下りも直接ではなくあくまで間接的である点もツボを完ぺきに抑えているなと思いました。そしてそこから2人の追いかけっこが始まって止めて、引く!からの「Get Wild」の最強コンボです。

 

 

 それ故に他の映画オリジナルの要素にも違和感が生まれません。本作ではギャグ要素は結構監督や、フランスのおバカ映画的な味が入っていると思いましたが(どれも下らなくて最高)、気にせず楽しむことができました。アクションにも力が入っており、普通に1本の「映画」としても楽しむことができます。

 

 そして何より、最も感心したのが、北条先生も絶賛している「リョウが男に惚れる」というストーリー。リョウの存在意義を無理やり奪い取るもので、気のせいかもしれませんが、昨今のポリコレに対する自然な配慮になっていた、のか?さらにこの手の話は原作、アニメではやっていないので新鮮味もあります。

 

 以上のように、監督の原作への愛が炸裂し、かなりしっかりと「映画」になっているという、実写化のお手本のような作品でした。他の実写化作品も、本作を見習ってほしいと切に願います。

 

 

今年の2月に公開された20年ぶりの映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 フランス映画。是枝監督の作品。

inosuken.hatenablog.com

 

モンキー・パンチ先生の悲願が達成されただけでも価値がある【ルパン三世 THE FIRST】感想

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47点

 

 

 今年の4月に逝去された、モンキー・パンチ先生原作による説明不要の国民的アニメ「ルパン三世」。本作は『ルパン三世』単独作としては1996年の『DEAD OR ALIVE』以来、実に23年振りとなる劇場版作品です。本作のトピックについてはそれだけではなく、モンキー・パンチ先生の悲願であった3DCG作品として発表した点。監督には『ALWAYS 三丁目の夕日』や『STAND BY ME ドラえもん』で、現在日本映画をリードするヒットメーカー、山崎貴を迎えています。

 

 私の「ルパン三世」に対する思い入れはまぁそこそこであり、だいたいの作品は見ています。今でも新作のTVシリーズ、SPが放送されれば見るくらいにはファンです。現在はTVSPは相変わらずの出来なのですが(直近の「プリズン・オブ・ザ・パスト」も本当に酷かった)、2015年と2018年に放送されたTVシリーズ2作は素晴らしい出来でした。そこに来て全編3DCGで制作された本作の公開です。TVシリーズも素晴らしかったし、この手の長篇をやるならばTVSPでいいはず。そんな中で映画にするくらいなのだから、ひょっとしたらひょっとするかも、と思い鑑賞しました。

 

ALWAYS 三丁目の夕日

ALWAYS 三丁目の夕日

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 鑑賞してみれば、本作は良くも悪くもパブリックイメージ通りの『ルパン三世』でした。ストーリーは『カリオストロの城』を臆面もなく模倣し、全体的なトーンはパブリックイメージであるPartⅡです。それは別にかまいません。「ルパン三世」という作品を東宝のブロックバスター作品として世に送り出す以上、このスタイルになるのは致し方ないでしょうし、私だってこのルパンは好きです。それに「渋いルパン」ならば『LUPIN THE ⅢRD』シリーズがあるため、それを観ればいいだけの話です。

 

 ちなみに、この点が功を奏したのか、私が観た回は劇場には親子連れが多く、私の後ろに座っていた子どももだいぶ楽しんでいました。「ルパン三世」がまだまだファミリー向けコンテンツとして現役なのだと知れただけでも収穫でした。

 

 ただ、私個人の感想を書くと、良い点もいくつかあるも、全体としては非常に大きな不満が残る作品となってしまいました。

 

 まずは良い点から書きます。OPは素晴らしかったです。そして、全体的にはアクションまわりが中々良かったです。先日の金曜ロードSHOWにて公開されたルパンを逃がすためのシークエンスです。次元と五エ門の強みを存分に活かしたアニメらしいケレン味に溢れたものでしたし、近年のTVSPでもなかなか見られなかった迫力もあり、素直に感心し、楽しめました。また、中盤の「第三の試練」におけるルパンの動きと、その後にやるティザーポスターのポーズもカッコよかったです。後は最低限の話になりますが、ルパンがきちんと頭を使って行動している点。一時期は勢いだけの男だったので、この辺をきちんとやっていたのも良かったです。要はレギュラーキャラクター周りは問題なかったってことです。

 


映画『ルパン三世 THE FIRST』本編オープニング【大ヒット上映中】

 

 しかし、本作には脚本に突っ込みどころが多すぎです。山崎貴監督はインタビューで自身が「ルパン好き」と公言しており、「ルパンのお約束を大事にして」脚本作りに臨んだと答えています。そしてその成果か、ストーリーはきちんと「王道」な「ルパン三世」になっていたと思います。問題なのは、その「王道」な展開にするための話の組み立て方が下手くそすぎるということです。

 

 突っ込みだせばキリがないのですが、まずは冒頭です。レティシアがルパンの正体を見破り、ルパンが一時退散するってやつ。劇中であれほどスリテクを見せつけたのに、あそこで諦めますかね。しかもその後にしてもレティシアが屋上にいると分かった理由も不明だし。次は敵の飛行艇から脱出する下り。不二子は別にいいです。でも何で次元と五エ門はルパンがあそこにいるって分かったのでしょうか。特に説明も無いので分かりませんでした。さらに銭形との「共闘」ですが、正直、あまり意味がありません。銭形が活躍したのって、終盤のアレくらいですし。しかもその下りも結末をまず見せて、その後にルパンファミリー+銭形のほんのちょっぴりだけのアクションだけで終わらせるとか、見せ方的にもどうなんだと。というか、こんなことしてるくらいならレティシアを助けに行けよ。別に彼女がカギってわけでもないんだから、殺されてたかもしれないんだぞ。

 

 最後に、一番のひっくり返しであった「レティシアブレッソンの孫でした」です。私の見間違いでなければ、あのシーンは「衝撃の真実が発覚」という風になっていました。しかし、そんなこと、冒頭の映像を観れば誰だって分かります。なのであのシーンは、「え?知らなかったの?」と違う意味でビックリしました。正直言ってこれだけでは足らないのですが、1つ1つ書いていたら長文になるので、この辺で終わります。

 

LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘 通常版 [Blu-ray]

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 でも、本作はこれだけに終わらず、全体的に極めて「説明的」なのです。例えば、割と重要な点だと思われるレティシアとルパンの縁を「ひょっとしたら俺たちが出会うのも、爺様たちの計画の1つだったのかもなぁ」だけで済まされてしまいます。なので、レティシアがいる意味にも説得力が生まれません。映画なんだからそこは映像で説明しなよ。

 

 さらに、ゲストキャラクターにも問題ありです。まずはレティシア。正直、何がしたいんだかよく分からないヒロインでした。「考古学を学びたい」って言ってるけど、今は正規で何をやっているのか分からないし、「ルパンのヒロイン」以外の存在理由がありません。

 

 そして、特に酷いのがランベールです。おそらく山崎貴監督は「ブレッソンにコンプレックスを持ち、自分の過去の栄光にすがることしかできない男。レティシアを拾ったのは道具として利用するためでしかなかったけど次第に情がわいてしまった」という奥行きがあるキャラとして描きたかったのだと思います。でも、その描き方が下手すぎ。「良い人」のときはレティシアを心配し、「悪人」のときはレティシアを「道具」とか言いきってしまいます。彼はそのシーン毎に「そういうキャラ」としてしか描かれていないため、奥行きのあるキャラというよりは、ただの情緒不安定な人にしか見えませんでした。しかも彼が乱心する下りも、得意げになってるけどゲラルトは銃を持っています。ランベールしか兵器を操作できないなら、乱心も分かります。でも、後にゲラルトも普通に兵器を操作しているので、余計に疑問がわきます。「銃で撃たれたら終わりじゃん」って。

 

 そしてゲラルトといえば、彼はランベール以上に「型どおり」なキャラで、「悪役」しかアイデンティティがない薄っぺらな存在です。しかも小物っていう。だからカタルシスがない。後、作品全体のメッセージについても、「ああそうですか」くらいにしか思えませんでした。というか、『天空の城ラピュタ』の非常に浅いパクリじゃん。

 

天空の城ラピュタ [Blu-ray]

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 要素だけ見れば面白くなりそうなのに、何故こうまで下手くそな作りになったのか、甚だ疑問です。パンフレットを読んだら、何と12稿まで書き直したそう。12回も書き直してこれかよ。つまり本作は、脚本は穴だらけで、キャラは薄っぺらなのです。もう少し何とかならなかったのか。山崎監督が映画ファンから敬遠されている理由が分かりました。

 

 最後に、3DCGについて。割と好評のようですが、『トイ・ストーリー4』などディズニー・ピクサー作品がバンバン公開されている中でこのクオリティを見せられても、「やっぱり、頑張ってもこのレベルなんだなぁ」としか思えませんでした(比べるのが酷だってのは分かります)。動きが固く、「こんぴゅーたーで作ってるんだなぁ」と分かってしまい、実在感があまりありません。これでストーリーが面白ければいいのですけど、上述の通りなので。

 

 以上のように書きましたが、ぴあの満足度ランキングでも1位を獲得したそうですし、劇場を出るときも「面白かったね」という声が聞こえたので、これでいいのだと思います。何より、モンキー・パンチ先生の悲願が達成されたという点だけでも、本作には価値があります。そう思うことにしました。

 

 

『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの感想です。

inosuken.hatenablog.com

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 PARTⅤの感想です。素晴らしかった。

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拗らせた青春の、見事な大団円【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑭】感想

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著:渡航

イラスト:ぽんかん⑧

出版社:小学館

 

 渡航先生原作、ぽんかん⑧先生がイラストを担当しているガガガ文庫を代表するライトノベルシリーズ。めでたく最終巻となります。本作は、2011年に①巻が発行され、2013年にアニメ化されると瞬く間に大ヒットし、「このライトノベルがすごい!」で前人未到の3回連続1位を達成して殿堂入りを達成。名実ともに2010年代を代表するライトノベルとなりました。

 

 私が本作と出会ったのは大学1年生のときで、Amazonで偶然見つけたのがきっかけでした。今でも主流である長文タイトルながら、主人公、比企谷八幡の絶妙な拗らせぶりと軽妙な語り口、高校の時に経験した「ぼっちあるある」の共感度の高さなどからハマり、購入を続け、「フルメタル・パニック!」以来、久しぶりに完結まで付き合ったライトノベルになりました。

 

 

 このブログでは、昨年に⑬巻の感想を挙げています。私はそこで本作について、「明らかにギアが変わった点がある」と書きました。この記事では、この「ギアが変わった」点について書き、そこからこの「俺ガイル」という作品が他のライトノベル、青春ラブコメとどのように違っているのかについて、自分なりの意見を書いていきたいと思います。そしてそのために、①巻から最終巻までの「変貌」を書いていきます。

 

 本シリーズは、①巻の時点では、当時流行っていた「ライトノベル」のパロディ的な作品だったと思います。この「当時流行っていた」ものとは、「涼宮ハルヒ」以降爆発的に増えた「エキセントリックな美少女がやれやれ系主人公(文章はだいたいコイツの一人称形式)を引っ張りまわして謎の部活を作り、そこでのドタバタやラブコメを描く」というもの。だいたいの場合、主人公は「やれやれ」と言いつつもヒロインたちに起こる問題を解決してやり、ハーレムを建設していきます。そして基本的にこの主人公は鈍感です。

 

 ①巻について見てみると、比企谷八幡というぼっち(語り部)が、先生に半ば強制的に「奉仕部」に入れさせられ、学年1レベルの美少女と部活動するというもの。そしてもう1人ヒロイン(主人公に惚れてる)がいると、形だけ見ればテンプレです。しかし問題なのは、タイトルの通り、テンプレを装っておきながら、内容はどこかが「間違っている」のです。部室にいたヒロインとは毒舌を吐き合ってばかりでフラグが全然立たないし、代わりに八幡にとっての大本命は戸塚彩加(男)で、こっちにフラグが立ちまくります。しかも主人公はずっとぼっちだしと、①巻は、テンプレをパロッた内容でした。もう忘れている方もいるかもしれませんが、①巻の帯に推薦文を寄せていたのは当時、一瞬だけ覇権をとったラノベ僕は友達が少ない」の平坂読先生でした。この点からも、作品の作りとしては確信的だったのではないかと思います。

 

僕は友達が少ない (11) (MF文庫J)

僕は友達が少ない (11) (MF文庫J)

 

 

 そしてシリーズが続くようになり、内容は八幡さんが自らの「ぼっち」の経験を活かして、斜め下の方法で問題を解決するという「八幡さんぼっち無双ラノベ」になりました。ちなみにヒロインとのしっかりとフラグを立てている。②~⑥巻はそうで、基本的に他愛のない話が多い印象です。ただ、この頃にも後の内容にもつながる片鱗が見えてきて、「他愛のない話」も伏線だったのだと分かります。

 

 この他愛のない内容が変わるのが⑦巻です。ここから、本シリーズは「ライトノベル」の形態は保ったまま、「ライトノベル的」ではない作品へと変貌していくのです。具体的には、従来のラブコメよりも、より「人間関係」に焦点を当てたドラマになっていくのです。そして変貌にしたがって、文章も一般文学的な表現が多くなっていき、「ライトノベル」的なものがどんどん排されていきます。

 

 まず変貌するのは⑦巻。海老名さんに告白したい戸部と、戸部の気持ちに気付きつつ、関係を壊したくないからと告白を回避したい海老名さんの依頼を受けた奉仕部は、八幡さんのいつも通りの「斜め下」の解決方法で問題を処理します。しかし、その方法が良くなかった。八幡さんは「俺は「ぼっちだから」どうなってもいい」という「自己犠牲」の精神で事を処理してしまいました。「大切に想っている」2人の気持ちから目を逸らして。それは不誠実な行為です。葉山達のように、「普通」の奴らならば、件の通り、この辺は折り合いがつきます。しかし、それができないのが八幡さんであり、雪ノ下雪乃なのです。ここから、話は一気に面倒くさい方向へ向かっていきます。⑧巻で選択を間違え、⑨巻で「本物が欲しい」と言うもやはり本質的には変わらず、「気持ちから目を逸らした」慣れ合いになります。

 

 奉仕部3人(というより、八幡さんと雪乃)の2人が何を恐れているのかというと、「関係が変わる」ことです。八幡さんがどっちを選ぶにしても、このままではいられない。だから迷っているのです。そしてその対極にいるのが葉山達で、関係を継続させたいからこそ、気持ちを察して、押し殺しているのです。しかし、八幡さんはそれができない。「紛い物」と断じ、「本物」の関係を手にしようとします。この「本物」とは、気持ちから目を逸らさない関係です。

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

 

 

 だいぶ回りくどいことをやっていますが、目指している点はラブコメらしく、「どちらのヒロインを選ぶか」です。本作が特異な点は、これを「人間関係」の話まで持って行っている事。よくあるラブコメならば、「主人公の鈍感さ」として処理される点を、本作は「関係から目を逸らした」不誠実な行為だと断罪し、ヒロインを選ぶことで変わるであろう関係性に八幡さんと雪乃、そして由衣は悩みます。何故なら、関係が変われば、序盤のような「他愛のない話」はもうやってこないかもしれないから。これが大人ならば、まだ「そういうもんだ」と割り切れると思います。しかし、彼と彼女は高校生です。しかもどちらも人間関係に関してはかなり拗らせており、非常に不器用。まだ未熟で、人間関係を捨ててきた2人がそれでも気持ちに向き合おうとする姿は非常に青臭く、だからこそ八幡さんの非常に面倒くさい告白はグッとくるわけです。そしてその後の雪乃の告白にも。

 

 八幡さんのような「俺はぼっちでいい」という考え方は、ライトノベルの中ではかなり肯定的に扱われ、しばしば「カッコいい」とさえ言われます。八幡さんが圧倒的な人気を誇っているのもこの点が原因の1つだと思います。しかし、上述のように、本シリーズでは⑦巻以降、こうした「高二病的な」思考、態度からの脱却物語になっているのです。この点でも本シリーズには、「ライトノベル」というものに対する批評的な視点があると言えます。

 

 この2人をほとんど保護者的な目線で見ていたのが由比ヶ浜結衣。2人と比べればまだ人間関係の経験値がある彼女が間に立ち、2人の関係を(結果的に)上手くとりなしました。そしてさらに新たな関係性を築くのも彼女。八幡さんはよく「人間関係はリセットできる」と言っています。由比ヶ浜との関係もリセット(=関係を断つ)するつもりだったのでしょう。しかし、1つの終わりは、また新たな始まりでもあります。人間関係はリセットできますが、同時に新たにやり直すこともできるのです。それが示されたのがラストで、①巻と同じく、八幡さん達にとって、新たな関係が築かれることを示唆していました。故に本作は、ラブコメと同時に、人間関係を拗らせ、目を背けていた八幡さんが、初めてそれに向き合い、関係を獲得したという、成長の話としても上手くまとまっているのです。

 

 本作は、シリーズを通して、やっていることの表面上は「青春ラブコメ」です。ラブコメといえば、だいたいは「どのヒロインを選ぶか」が焦点です。しかし本シリーズは、そこに「拗らせた奴の面倒くさい葛藤」を盛り込み、話に独自の厚みをつけた作品だったと思います。故に「文学」とか言われるし、タイトルにある通り、青春ラブコメとして「まちがっている」のだと思います。抽象的な内容をやり切った渡航先生、お疲れさまでした。続巻も待っております。

 

 

前巻の感想です。

inosuken.hatenablog.com

 

 ライトノベル作品。

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これは現代の『ロッキー』だ【宮本から君へ】感想

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95点

 

 

 新井英樹先生原作の漫画、「宮本から君へ」の映画化作品。監督は『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也。2018年には同監督でTVドラマ化もされており、本作はTVドラマの続篇になります。だからこそ、最初は観るのを躊躇しました。鑑賞前は、私はTVドラマを1話も見ていなかったからです。「TVドラマを見ていなければ、十分に楽しめないのでは?」そう思っていました。しかし、よくよく考えてみれば、あの真利子哲也監督が「TVドラマを見ていなければ楽しめないボーナストラック作品」を作るはずもなく、仮にもしそうだとしても、動画配信サービスで見ることができるしと思い、鑑賞する日までにTVドラマを4話まで見て鑑賞した次第です。

 

 本作はTVドラマとは大きく趣が異なり、靖子と宮本の2人に焦点が当てられ、2人が結婚するまでを描いています。そのため、TVドラマ版のようなマルキタ文具の仕事描写は基本的になく、TVドラマ版の登場人物もほとんど本筋に絡んできません。なので、TVドラマを見ていなくても結構問題なく楽しめます。他にTVドラマ版との違いとしては、ドラマ版にはあった宮本のモノローグの排除ですかね。

 

ディストラクション・ベイビーズ 特別版(2枚組)[Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2016/12/07
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 現実世界では、ほとんどの人間が「負け組」です。就活で苦労して入社したとしてもそこからは苦労の連続ですし、自分の努力が報われることは少ない。でもそのくせ、たとえ尊敬していなくても、上の人間には頭を下げなければならない。理不尽なことをされても倍返ししてくれる半沢直樹はいないのです。TVドラマ版はこの点をかなりしっかりとやっていて、宮本は恋愛ではふられるし取引先とのコンペでは自分の自己満足を押し通して周りに迷惑をかけまくり、相手の不正を暴くもそれはスルーされ憎きライバルに負けるしで散々で、最終的には「負けて」終わってしまいます。

 

 本作でもそれは同じで、宮本にしても靖子にしても、徹底して「自己満足」のために動きます。宮本の「戦い」は確かに観ていてスッキリするものでした。しかし、靖子からすればそれは頼んだわけでもないのに勝手に喧嘩してボロボロで帰ってきて「さぁどうだ」ですからね。そりゃ「ふざけるな」って思います。私も思いました。でも、靖子も靖子で、自分の意志を貫き通します。本作は、宮本と靖子の「自己満足」のぶつかり合いなのです。

 

 それは演技に表れていると思っていて、本作ではとにかく主演の池松壮亮蒼井優が凄まじい演技を見せています。唾、ご飯粒、鼻水をこれでもかと垂らし、自分たちの意志をぶつけ合うのです。この絶叫に次ぐ絶叫の応酬は、2人の意志の強さの表れですし、彼らがスクリーンの中で「生きている」ことを実感させる大きな要因になっています。

 

定本 宮本から君へ 全4巻 完結セット [コミックセット]

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 そして、こうした激しい意志と意志のぶつかり合いの果てに2人は結婚へと至るのです。それは互いの意志と意志、そして人生を全部受け入れるということで、結婚して2人で人生を共にするというのは、こういうことなのか?と思ったりしました。少なくとも、私は本作を観て以降、街中の夫婦を見る目が変わりました。「背負ってんだなぁ」って。

 

 また、こうした「自己満足」を完遂することは、「生きる」事と繋がってくると思います。TVドラマでもそうでしたが、宮本が何故これだけ自己満足としか思えないことをするのかというと、「自分が納得したいから」なのです。これはつまり、「自分に恥じないように生きたい」ということであり、ここで私はある映画を思い出しました。『ロッキー』です。あの作品も、場末で燻ぶっていたボクサー、ロッキーが勝ち負けではなく、「自分に恥じないため」リングに上がり、全力を以てアポロと戦うのです。これと宮本は同じだと思います。

 

 ラスト、寄り添って歩く宮本と靖子を観て、彼らなら、共に荒波を乗り越えていけるだろうと思いました。タイトルの通り、私も宮本から何か大切なものを受け取れたと思います。

 

 

池松壮亮蒼井優主演作。

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全体的に緩いけど、語られていることはとても大事【記憶にございません!】感想

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53点

 

 

 三谷幸喜監督最新作。私は三谷監督の作品は映画を本格的に好きになる前からよく観ていて、おかげで評判が最悪だった『ギャラクシー街道』以外は観ています。脚本を担当したTVドラマも新作をやれば必ず見るくらいにはファンです。ただ、映画をよく観るようになって知ってビックリしたのですが、この方の監督作は映画ファンからは相当酷評されている模様。全方位的に評判が悪い『ギャラクシー街道』はともかく、私が割と面白いと思った『清須会議』とか『ステキな金縛り』もそうなのですから驚きですよ。果たして映画をよく観るようになった私は彼の作品をどう評価するのか、自分でも興味があったので鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、なるほどと思いました。確かに、これは色々言われるのも納得の作品だなと。密室劇、長回、役者の演技と、見所が無いわけではないのです。しかし、如何せん全体的に笑いがTVドラマ的で、しかもストーリーも全体的に緩み切っているのです。

 

ステキな金縛り スタンダード・エディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: DVD
 

 

 まず良い点を書くと、本作は、題材が面白いと感じました。政治家がよく言う「記憶にございません」という名文句をそのまま使って、「記憶を失くした総理大臣」を主人公にするという点です。記憶を失くしたときから始まり、記憶を失う前の自分をTVで見ることで、客観的に以前の自分がどれほど酷いかが分かるという冒頭が秀逸でした。そして記憶を失くすことで、彼が以前に行った悪行について「何でこんなことしたの?」と至極最もな疑問にしてぶつけるのも、現政権とやってることが被っているため、中々上手いなぁと思います。

 

 そしてこの「記憶を失くす」ことが政治家として「生まれ変わる」事とイコールになっています。覚悟を持って、しっかりと勉強をし、志を持てば、「理想の政治はできるよ」というメッセージにしているのです。本作で語られる政治や政策は、本当に今の日本に必要な政策であるし、最後の戦術も、「しっかりと謝る」であるため、三谷監督の現政権への思いが滲み出ている気がします。

 

 また、役者の演技もとても良かったです。芸達者の方々が揃っており、彼らが必死の形相で可笑しなことをしているシーンのいくつかは笑いを誘います。個人的なお気に入りは吉田羊と中井貴一のシーンと、同じく中井貴一梶原善の車内での、「そんなの必要なんですか?」→「みんなそう思っているよ!」のやり取り。

 

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 ここまでは良いです。しかし問題は、最初にも触れましたが、色々と緩い点。笑いはいくつかのシーンを除けは、役者が非常に分かりやすいおどけ方をして笑わせるものですし、ストーリーは「そんな上手くいくかい!」の連続。コメディとはいえ政治劇なので、もう少しだけシビアにしても良かったのではないかと思います。

 

 ただ、ストーリーの緩さについては、本作があまりにもひどい現政権への揶揄であり、その反対をやればこんなにも良い政治ができるのに、というメッセージを内包していることを考えれば少しは許容できます。でも、総理が元々良い人だったっていうあのオチはもう少し捻った方がいいような気がしましたけどね。勉強して、知識をつけたからこそ変わった、みたいな感じにした方が良かったと思う。

 

 しかし、それ以上に本作に対して鼻白んでしまったのは、現実よりも本作の方がマシだからです。何故なら、ひどいことをしているから、政権支持率が2.3%まで下がり、「歴代で最低の総理」と堂々と言われていて、国民もそれを共有しているから。現実はどうですか。消費税増税、法案強行採決法人税の軽減、日米FTA、モリ・カケ問題、閣僚の性差別発言、公文書の破棄、公費の私費化etc,etc、書いてて嫌になってきた、これだけのことをやってるのに、未だに国民の40%超が現政権を支持しているのです。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。このため、劇中でいくら「ひどい、ひどい、」と言われても、「まぁ、現実よりましだしなぁ」としか思えないし、そこで語られている「理想の姿」も、「そんなこと起こらないんだよなぁ」と思ってしまいます。ハッキリ言って心が汚れている。

 

 ただ、三谷幸喜のような、劇場で大規模上映をかけられる監督が本作のような作品を発表したというのはとても重要ですし、語られていることは理想的だけど、とても大切です。なので、この点数とします。 

 

 

政権批判映画。言いたいことはある。

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 アメリカの政治風刺映画。出来が違う。

inosuken.hatenablog.com

 

超絶アクションシーンの連続。中国アニメもここまで来た!【羅小黒戦記】感想

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96点

 

 

 中国産アクションアニメ。MTJJ木頭先生が原作で、同時に本作の監督も務めています。公開してしばらくは私は存在すら知らず、初めて知ったのは例によって名アニメーター、井上俊之さんの絶賛ツイートでした。そこから高評価の声が続々と聞こえてきてがぜん興味が湧き、池袋HUMAXシネマにて、3週間前からチケットを購入して鑑賞してきました。

 

 本作は、妖精のシャオヘイと人類のムゲン、2人が共に行動し、理解し合い、絆を深め合っていくロード・ムービーです。そしてそこに、現代的なメッセージも内包されています。それは言うなれば、「人間と妖精の共存」で、シャオヘイとムゲンの2人に託されています。中身は言ってしまえば「ゲゲゲの鬼太郎」のような話で、「元々妖精が住んでいた土地に人間が土地開発を進め、そのせいで妖精の住む場所がなくなってしまった」というもの。中国は開発がどんどん進んでいる国で、環境汚染もひどいという点を考えれば、映画のこの点にはタイムリーなものを感じます。そして同時に、日本でも同じような話が山ほどある点を考えれば、「どこの国も根本的には変わらないんだなぁ」と思わせられます。そしてこの点をさらに深掘りしていくと、現在の分断が進む世界や、中国がやっているようなことに対するアンチ・テーゼ的な点も見えてきます。

 

ゲゲゲの鬼太郎(1) (コミッククリエイトコミック)

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 そしてこのメッセージの提示の仕方も上手いなと思いました。まだ子どもであるシャオヘイの視点を使っているのです。彼の視点は、基本的に観客の視点であり、観客はシャオヘイと共にこの世界について知っていきます。だからこそ、作品のメッセージをきちんと受け取ることができるのです。

 

 本作は、森の中で休んでいたシャオヘイが、(おそらく)人間による森林伐採で目覚め、猛スピードで森の中を駆けるシーンから始まります。ここで観客は、アクションに感嘆すると共に、シャオヘイが人間を憎む気持ちを理解できてしまうのです。そして同じく人間のせいで土地を追われたフー・シーと出会い、ようやく仲間ができた、と思ったらムゲンが来るのです。この時点ではシャオヘイにとって、そして観客にとってはムゲンは完全に「敵」であり、このマイナスからのスタート地点故に、ストーリーが進むにつれて彼を理解することで印象がひっくり返るのが面白いし、人間と直に触れ合うことで、「人間にも良い奴はいる」と知ります。そして同時に、最初に感情移入させたことで、「人間憎し」の主張にも共感できる作りになっているのです。つまり本作は、極めて自然なストーリー運びで、相互理解と、勧善懲悪ではない敵対関係を描いているのです。

 

ドラゴンボール超 ブロリー [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2019/06/05
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 そしてもう1つ特筆すべきなのが、キャラの魅力です。主人公のシャオヘイは所謂ツンデレショタであり、所作が一々可愛いんですよね。そしてもう1人の主人公であるムゲン。最強で天然でイケメンという文字通りチートキャラで、普段は反応が薄いのですが、バトルになると有無を言わせぬ強さで敵を一蹴したり、かと思ったら天然を発揮するなど、カッコよさと笑い、圧倒的存在感を出しています。私は彼にやられてしまいました。

 

 そして何と言っても、アクションシーンです。日本アニメのいいとこどりで、観ているだけで気持ちのいいものなのです。まず、純粋なアクションとしてクオリティが高く、キャラの動きが躍動感あふれるものになっており、ハイスピードなバトルが次々に展開されます。私が連想したのは「NARUTO」と『ドラゴンボール超 ブロリー』です。キャラが縦横無尽に動き回るスピード感溢れるバトルを、カメラワークと迫力あるエフェクト、そして気持ちよく再現された体術を以て描いているのです。また、勢いだけではなく、一瞬のタメも多用しており、1つ1つが洗練されていて、快楽です。公式が動画を挙げているのでリンクを貼っておきますね。

 


《羅小黑戰記》電影版 無限登場 THE LEGEND OF HEI

 

 このリンク動画の内容ですら序の口でしかなく、本編ではこれを超えるアクションが矢継ぎ早に繰り出されます。それこそ、『ドラゴンボール超 ブロリー』クラスものものあります。これを観ているだけで気持ちよく、快楽の中に浸ることができます。

 

 また、もう1つ特筆すべき点として、能力バトルものとしての面白さがあります。「HUNTER×HUNTER」のようにルールがあり、キャラはそれに則って、きちんと戦っているのです。しかも能力者は後半になるにつれて『ジョン・ウィック』における殺し屋張りにどんどん出てくるため、世界観がより奥行きのあるものとして観れたと思います。

 

 以上のように、本作は、凄まじいアクションに目が行きがちですが、細かな演出やギャグ、そして全体のストーリーもかなり良くできている作品でした。劇場で是非観てほしい作品です。

 

 

同じくアクションがすさまじいクオリティの作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくアクションが半端ない作品。ちなみにTVアニメです。

inosuken.hatenablog.com