暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

女優への畏敬の念【真実】感想

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79点

 

 

 昨年、『万引き家族』で日本人としては21年振りにカンヌ国際映画祭最高賞、パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督。映画も大ヒットを記録し、質的、興行的にも大成功を収めた彼が次に放った作品は、カトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュイーサン・ホークという名優と共に撮った、フランス映画でした。私としても是枝監督の作品は必ず観るようにしていますし、何と言ってもガラパゴス化が著しい日本映画界で、自ら海外に打って出て、海外の名優と共に映画を作る。これを聞いただけで俄然期待値は高まりますし、応援したくなります。なので、台風が迫ってきている公開初日に鑑賞してきました。

 

 ・・・のはいいのですが、劇場に行って愕然としました。観客が全然入っていなかったのです。私が観たのは台風が迫っている日だったので、その時はそのせいかなと思ったのですが、週末の興行ランキングにも入っていない始末。オイオイオイオイオイオイオイオイと、「密漁海岸」の岸辺露伴ばりに突っ込みたくなります。皆『万引き家族』観たんじゃねーのかよ。やっぱ賞効果だったのかと悲しくなりました。しかし、そんなことは気にせず、私個人の感想を書きたいと思います。

 

岸辺露伴は動かない (ジャンプコミックス)

岸辺露伴は動かない (ジャンプコミックス)

 

 

 鑑賞前はその座組から、いくら是枝監督でもどうなるか全く予想ができなかった本作。予告を観ていると、自伝を出したのを機に、大女優一家の隠された「真実」が明らかになる、みたいな、サスペンスを想像していました。観てみると、だいたいは合っていました。ストーリーが進むにつれて、家族の仲にある確執が浮き出てくるという『歩いても 歩いても』的な恐ろしさは健在です。しかし、本作は基本的にはコメディ映画であり、ちょっとだけライトな、いつもの是枝作品でした。だから観ていると、カトリーヌ・ドヌーヴ樹木希林に見えてくるし、イーサン・ホーク阿部寛に見えてきます。

 

 本作を観ていて面白いなと思った点は、映画の中にいくつかの層がある点。それらが本作をより深く、重層的なものにしているなぁと思いました。

 

 1つ目の層は、本編と、ファビエンヌが出演している劇中劇。宇宙に行って歳をとらない母親と、地球に残り、歳をとっていく娘という、『インターステラー』のような話なのですが、ここで描かれることが、ファビエンヌと娘のリュミールの関係を表すものになっています。「歳をとらない母親」と「歳をとる娘」という設定はずっと子供のように我儘ばっかり言ってるファビエンヌと、それに振り回されているリュミールに重なり、立ち位置が逆転していくところ、そして2人が和解する点も劇中劇と重ね合わされて語られています。

 

 

 もう1つの層は、ファビエンヌと、演じているカトリーヌ・ドヌーヴです。ファビエンヌは、観れば観るほど生き様がカトリーヌ・ドヌーヴそのものです。最近BSで放送されていた本作の制作ドキュメンタリーを見てみると、よりそれが分かります。そして是枝監督のインタビューを聴いたり読んだりすると、あの劇中劇の様子にはかなり本作の撮影状況が反映されている模様。つまり本作は、家族の物語であると同時に、カトリーヌ・ドヌーヴという女優そのものを撮った作品でもあるのです。この2つを同時にこなしてしまう監督の手腕には脱帽しました。

 

 いつも通りの「家族の物語」でありながら、女優への畏敬の念まで見事に映像化してみせた是枝監督。日本での興行は不振ですが、評価は高い模様。このまま突っ走ってくれることを期待しています。

 

 

監督前作。パルム・ドール受賞作。

inosuken.hatenablog.com

 

 監督作。

inosuken.hatenablog.com